人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

233 不可思議な揺らぎ

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 カズ達がマナの揺らぎを感じた日から一ヶ月が経過し、あれからマナの揺らぎは数度起きただけで、それも全て弱いものばかりだった。
 貴族区で感じたような強いマナの揺らぎは、あれから一度も起きていなかった。

 唯一あった事といえば、カズにお酒をご馳走になる約束していたキウイが、仕事の休みをもらいカズの家に来た事くらいだ。
 昼間からは飲まないと言っていたのにも関わらず、前日アキレアに怒られたとカズに愚痴をこぼしながら、グビグビと酒ビンを抱えながら飲んでいた。(抱えていたのは、既に飲み終えた果実酒のビン)
 横では『キウイに付き合わないと悪いでしょ』などと言いながら、レラも調子にのり昼間っから二人で飲んだくれていた。
 日が暮れるまで飲み続けた二人は、いつの間にかソファーで横になり、ぐうすかと寝ていた。
 カズはレラを部屋に連れていき、仕方なしにキウイを自分のベッドに寝かた。
 カズはちょっとだけだと自分に言い聞かせ、寝ているキウイの耳をつまんだり、尻尾にさわったりしていた。(はたから見ると、変態だろうか)
 さすがにまずいと思ったカズは、飲み食べ散らかした後の片付けをして、さっきまで二人が横になっていたソファーで寝ることにした。
 翌朝キウイの二日酔いを見越し、朝の仕事を終えたアキレアが、キウイの迎えにやって来た。
 二日酔いのキウイを連れて、アキレアは屋敷へと戻っていった。
 騒がしいようではあるが、変わらず平和な日々であった……これまでは…………



 アキレアが二日酔いのキウイを迎えに来てから数日後の深夜……これまでとは違うマナの揺らぎを感じ、カズは目を覚ました。
 今までに何度か起きたマナの揺らぎは一時的なものだったが、今回は強弱をつけた波のように周囲のマナが揺らいでいた。
 それは障壁が張ってある家の中でも感じとれる程に。
 しかし今回起きた揺らぎは不快と感じる事はなく、どことなく心地よい不思議なものだった。
 波のようなマナの揺らぎは治まることなく、明け方まで続いた。


 ◇◆◇◆◇


「おはよう……カズ」

「おはようレラ。まだ眠そうだな」

「夜中に変な感じがして、少し目が覚めちゃったの。でもすぐに寝ちゃったけど」

「俺これからギルドに行って、フローラさんに会ってくるよ。レラはどうする?」

「あちしは……もう少し寝る。そんなにお腹空いてないから、ごはんはお昼からで良いよ」

「分かった。じゃあ行ってくるよ」

「いってらっしゃい。ふぁ~……もうちょっと寝よ」

 カズか出掛けると、レラは部屋に戻り寝直した。
 ギルドに向かい朝の大通りを歩くカズは、行き交う人々を様子を伺う。
 しかしこれといって、特に変わった様子はなかった。
 ギルドに来ている冒険者を見るが、やはり変わった感じはしなかった。
 カズは受付に居るトレニアに話し掛ける。

「トレニアさん、フローラさんは来ていますか? 少し聞きたい事があるんですが」

「……」

「トレニアさん?」

「あ、はい。なんですか?」

「いえですから、ギルドマスターは居ますかと(冒険者の多い所で、ギルマスを名前呼びはまずかったか? 今更だけど)」

「お部屋に居ると思いますから、行ってみてください」

「そうですか。分かりました(ボーっとして、疲れてるんじゃないか?)」

 トレニアの元を離れたカズは、ギルドマスターの部屋に向かった。
 いつもの様に、ノックをして返事を待ってから部屋へと入る。

「あら、今日はどうしたのカズさん?」

「深夜から明け方にあった事について、何か分かるかと思って来たんですが」

「正直よく分からないわ。魔法を使ったような感じはしなかったのだけど。それに今回は、頭痛や目眩をした人も居なかったみたいなのよね」

「何かの自然現象ですか?」

「自然現象ではないと思うわ。もしそうなら、あんな不自然なマナの乱れはしないと思うの」

「じゃあいったい……」

「……あるとしたら、アーティファクト(遺物)かしらね」

「アーティファクトですか!?」

「ええ。誰かが見つけた物を、どういう物か分からないのに、使用してしまったとか。あとは……」

「あとは……?」

「国が保管してる物だけど、あそこには簡単に入れないから、それはないと思うわ。まして使用するなんて」

「でももし誰かが、そこから持ち出して使ってたら」 

「そうね。重要機密保管所には、一度私が確かめに行ってみるわ。手続きに少し時間が掛かるのだけど」

「確か今までに見つかったりしたアーティファクトや、召喚された勇者に関係する物がある場所ですよね?」

「ええ。カズさんが元の世界に戻る方法が、見つかるかも知れない場所でもあるわね」

「俺も行ってみたいんですが、無理なんですよね」

「そうね。ギルドランクを上げれば。でもそうすると」

「俺のステータスや、他の世界から来た者だとばれる可能性が……ですか」

「ええ」

「でしたら、何か異世界に転移できたり、そういった情報を得られそうな物がありましたら教えてください」

「機密事項だから難しいわね。でもそういった物があるかどうかは見ておくわ」

「お願いします」

 取り急ぎの用件を済ませたカズは家に戻る。

「レラ起きてる?」

「……なぁ~に?」

「まだ寝てたのか? もうすぐお昼になるぞ」

「なんか、今日はやたら眠いのよね。でももう起きるわ。お腹も空いてきたから」

「なら昼食の用意しておくよ」

「うん。すぐ行く」

 どうせプリンは食べるだろうから、あとはパスタよりは、タマゴサンドの方が良いか。(タマゴばっかりだな)
 あの揺らぎがあってから、アレナリアの所や、キッシュとクリスパの住むリアーデに行ってなかったっけ。
 アレナリア怒ってるかな? 飯食べたら行ってみるか。

「おお! タマゴサンドだ。お昼だからパスタ系かと思ったけど、カズ分かってるぅ」

「何を言ってるのさ。食の好みがアレナリアみたいだよな」

「アレナリアとは親友だから!」

「あっそ。そのアレナリアの所にこの後行くけど、レラはどうする?」

「行く! でもマイヒメ戻ってきてないよ」

「ゲートで行くさ」

「ゲートって、カズが使う転移でしょ?」

「ああ」

「フローラに言われて、使わないんじゃなかったの?」

「アレナリアとクリスパの家になら、見られることないだろうから大丈夫(アレナリアには言ってあるし、クリスパの家はあの状態だから、キッシュかココットさんしか入らないだろうし)」

「ふ~ん。じゃあ食べたら行こう。あ、プリンは後で食べるからしまっておいて」

「後で! 分かった(目の前のプリンを食べないなんて、珍しい事もあるもんだ)」

 昼食を済ませた二人は、アレナリアの家へと〈ゲート〉で転移した。

「ギルドに行くから、レラはまた隠れてて」

「いつもカズの上着に隠れるのもねぇ。他に良い方法ないの?」

「そう言われても、じゃあどこかで鞄やバッグ、リュックなんかを買ってその中に入る?」

「荷物みたいで少し嫌ね」

「じゃあここで留守番してる?」

 レラはすっと、カズの上着に隠れる。

「アレナリアの所に行く前に、あちしが隠れられそうなバッグを見に行こう」

 アレナリアの家を出たカズは、レラが入れる手頃な大きさの物を探しに、店が多い噴水のある中央広場付近に行く。
 鞄やバッグを売っている店に入ると、カズの上着の隙間から品定めをし、レラがカズに小声で自分の好みの物を進める。

「あれが良いかな? でもこれもかわいいから、あ! あっちの色も良いかも」

「もうちょっと静かに。それに俺があんなの持ってたら、おかしいだろ」

「えぇ。かわいいのに」

「俺が持ってても変じゃなくて、もっと地味な方が良いって。例えばあれとか」

 レラが選んでいたバッグは、女性用の小柄な物や、カラフルな色をした物ばかり。
 かたやカズが選んだ物は、肩から下げるショルダーバッグ的な物や、背負うリュックだった。

「かわいくない」

「なら今までに通りに、そこに隠れて出掛けるか?」

「……分かったわよ」

「実際に使って嫌だったらやめればいいから」

 店で肩から下げる布製の鞄を買ったカズは、人に見られないようにして、レラをその中に移動させた。
 そのまま少し街をぶらつき、レラの様子を伺う。

「どう? 揺れで酔ったりしない?」

 鞄の上部に被さるふたの隙間から、カズに見えるよう顔を覗かせるレラ。

「そうやって揺れないように押さえてくれてれば大丈夫。それに上着に隠れてるより広いから良い感じ。けど……」

「不満がある?」

「かわいくない」

「贅沢言うなよ。それにこの鞄ならそうやって少し顔を出しても、被さった布ふたが多少盛り上がるだけで、怪しまれないだろ。布ふたもボタンで留まってるから、急に開けられる心配もないし、それに外の様子も見れる」

「分かってるわよ。もういいから、早くアレナリアの所に行こう」

「そうだな(これはこれで、常に独り言をしてるみたいだ。鞄のひもをもう少し短くして、人の多い所では念話で話してもらえばいいか)」

 外に出掛けるのが快適? になったレラと、常に鞄を持ち歩くことになったカズは、アレナリアの勤めるギルドへと向かう。

「ねぇねぇカズ、アレナリア元気かな? 少しは背が大きくなったかなぁ?」

「元気だろうけど、身長は伸びてないでしょ」

「だよねぇ! あはははッ」

「言ったらアレナリア怒るぞ」

「大丈夫よ。アレナリアとは仲良しだから」

「とばっちりが俺にきそうだよ。そろそろギルドだから静かに」

「は~い」

 レラは鞄の隙間から静かに外を見る。
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