243 / 789
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
232 私だって、かわいい方が……
しおりを挟む
ギルドの一階は、依頼を探す冒険者達でごった返していた。
カズは上着でレラを隠し、受付に居るトレニアの所に行く。
昨夜ギルド職員に、フローラと面会の約束を取り付けていたので、カズはその事をトレニアに訪ねた。
「伺ってますので、そのままギルドマスターの部屋へどうぞ」
「あちしが居るんだから、ワザワザ許可取ることないじゃないの?」
懐にから小声でカズに話し掛けるレラ。
カズは自分の上着を少し広げ、懐に向かって小声で話す。
「黙ってて! 人が多いんだから、見つかったら騒ぎになるよ」
「これだけいろんな人の話し声がしてれば、誰も気付かないわよ」
「一人で何を言ってるんですか? ……あ!」
「え? あ……」
変に思ったトレニアが、上着に作った隙間を覗き込み、レラが居ることに気付いた。
「その子が例のフェアリーですか!」
「トレニアさん静かに」
「す、すみません。でもどうしてこんな所に、連れてきたんですか?」
「フローラさんに会うので、連れてきたんです。他の人に見つかると大変ですから、トレニアさんも黙っていてください」
「分かりました。その代わりに、今度会わせてください」
「それなら家の方に来てください。いいレラ?」
「いいよ~」
「だそうです」
「なら今度行きますね。約束ですよ」
「はい。おっと、今日はまだ居ないようですが、こんなところをイキシアさんに見られたら、また何か言われるかも知れないので、もう行きます」
受付でぼそぼそと小声で話すトレニアとカズを見て、どういう関係だと思う冒険者が何人も居た。
大抵はトレニア狙いだろうと思われる。
込み合う人達の間をすり抜けて、カズに階段を上がりフローラの居る部屋に向かった。
ギルドマスターの部屋に入ると、今日はイキシアも居た。
「来たようねカズ」
「一階に居ないと思ったら、こちらに居たんですか。今日は若手の冒険者達と、話はしないんですか?」
「今はまだ混雑してるからね。少し空いてからに行くのよ」
カズがイキシアと話をしていると、上着をはね除けてレラが飛び出してきた。
「ぷはぁ。やっと出られた」
「あら、今日はレラも来たの」
「そうだよ。フローラがなかなか来てくれないんだもん」
「へぇ。この子が例のフェアリーなのね」
「イキシアさんは、レラと会った事なかったんですか?」
「ええ。話には聞いてたけど、フローラが会わせてくれなかったの」
「以前のイキシアを見てたらね。それに人の多い王都にフェアリーが居るのを知られたら、大変な事になるから。レラを守る為に、私以外の人と接触しないようにしてたの」
「でもカズには会わせたのね」
「すねないでねイキシア。私達にはギルドでの仕事があるから、ずっと一緒に居て守るのは無理なのよ」
「分かってるわ。だからワタシにも黙ってたんでしょ」
「ごめんなさい。でも現れたのがカズさんでなくても、レラを付きっきりで守れる人だったら、頼もうとしてたのよ」
「確かにカズなら実力もあるし、それにBランクから上がろうとしないから打って付けね」
「ええ。Aランク以上になると、国からの要請を断るのは難しいからね。カズさんはそれもあって、Aランクに上がろうとしないんだったわよね」
「はい。国もそうですが、貴族との付き合いも俺には難しいですから」
「でもカズは、貴族との付き合いはあるんでしょ?」
「まあ。あの人達は、穏和で良かったんですけど。やっぱり礼儀だとかはどうも疎くて」
「それも慣れだと思うけど、カズさんはそのままで良いと思うわよ。私は」
「ねぇねぇカズ、そんなことよりフローラに話す事があるんでしょ」
「そうそう。昨日の事なんですけど、フローラさんは気付きましたか?」
「マナが不自然に揺らいだことね。ええ、気付いたわ。その事でカズさんが話があるって、イキシアから聞いたわ」
カズは昨日感じた、マナが揺らいだ事をフローラに話した。
「そう。やっぱり三回あったのね。私も同じ時間に感じたわ」
「今までで、こういった事は?」
「初めてよ。誰か他に感じた人は居た?」
「えっーと……」
カズはイキシアの方を見る。
「イキシア、席を外してもらえるかしら」
「分かったわ」
「ごめんなさい。一応個人の事を聞くわけだから、私が聞いて話しても大丈夫そうなら、後で教えるわ」
「ええそれで良いわ。その前に、フェアリーのレラね。ワタシはイキシア。自己紹介がまだだったわね。これからよろしくね」
「よろしく。あちしレラ」
イキシアが手を差し出し、レラと握手をした。
「……?」
「それじゃあワタシは、一階で冒険者達と交流を深めてくるわ」
部屋を出たイキシアは一階に下りていった。
「どうしたのレラ?」
「な、なんでもない。それより話の続きをするんでしょ」
「ああ」
カズは自分とレラが感じた事と、クリスパとビワの反応をフローラに話し、三回目に貴族区で感じた揺らぎが大きかった事も話した。
「そう……」
「何かあるとしたら、貴族区じゃないですか?」
「憶測での判断はよくないわ。しかも場所が場所だけに」
「すいません」
「でも確かに気になるわね。こちらより、あちら側の方が強く感じたなんて。この事は私が調べてみるから、また何か分かったら報告して」
「分かりました」
「気のせいならいいのだけど、少し嫌な予感がするわ。カズさんも十分に気を付けて」
「はい」
「話し終わった? ねぇフローラ見て」
「どうしたのそれ? リボンなんて付けて可愛いわね」
「カズが新しく変えてくれたの」
「カズさんにそんなに趣味があったのね」
「そうじゃないですよ。ただ人に見せるわけじゃないにしろ、女の娘が付けるにしては少し地味かなって思ったんで、調整がてら少し変えたんです」
「私のこれは、可愛くならないの?」
「フローラさんのは、付けてても別に変じゃないと思いますが」
「私も女なんだけど」
「それは分かってますけど……(すねた?)」
「まぁ良いわ。ところで、レラが付けてるそれを調整したって言ったけど、何かあったの?」
「何かって言うか、最近また監視する連中が居るみたいなので(すねてなかったなみたい)」
「そういう事なら十分に気を付けて」
「ええ。そのつもりです」
「それでなんだけど、私にくれたブレスレットは、もうエンチャ…付与できないの?」
「そう言いましても、もう十分だと思いますが」
「できるなら、もっと色々と使えるようにしてくれても良いのよ」
「既にレラと同じ、念話と魔力自動回復(微量)を付与してありますし、それに以前使ったバリア・フィールドと浄化が一回ずつ使えるんですから」
「一回しか使えないんでしょ?」
「バリア・フィールドと浄化はそうです」
「使える回数を増やすとか、他の魔法を追加するとかできない?」
「無理して付与しようとすると、それ壊れますよ。それに作るの結構大変なんですから」
「そうよね。好意で貰ったんだから、贅沢はいけないわね」
フローラは左手首にあるブレスレットに触れて、ちらりとカズを見る。
「好意って……あんなに欲しがったじゃないですか」
「そうだったかしら?」
「そうです」
「そうね。でもレラにあれを自慢されたら、欲しくなるわよ。好きな形に作れて、魔法やスキルを付与出来るなんて聞いたら」
「だから口止め料として、フローラさんの分も作ったんじゃないですか(そういえば、原因はレラだった。念話の使い方を教えたらフジを連れて、フローラさんに見せに行ったんだ)」
「そうね。なら緊急用に、転移だけでも付けてくれないかしら? カズさんなら、すぐに出来るでしょ?」
「分かりました。ただしこれも一回しか使えませんよ。場所はどこがいいか、指定してください」
「そうね……すぐに見つかったり、追ってこられない場所なら……そうだ! 白真さんの所なんてどうかしら?」
「白真ですか……じゃあ住み処の山に転移先を設定して付与します。頼るにしても、白真が必ず居るわけではないですから」
「ええ、それで良いわ。ありがとう」
「じゃあ、ブレスレットを貸してください」
「はい。あとお花が欲しいなぁ。色付きで」
「はいはい(まぁ、お世話になってるから良いけど、結構要求してくるんだよなぁ)」
フローラから受け取ったブレスレットに《錬金術》と《加工》のスキルで形を少し変え、追加でゲートを《付与》した。
慣れたもので、十分程度で作業を終わらせ、ブレスレットをフローラに返した。
「これは何の花かしら?」
「桜ですよ」
「サクラ?」
「俺の故郷の花です」
「ピンク色をして可愛いわね」
「ねぇカズ。用事が終わったらな、そろそろ行こう」
「ん、ああ。そうだな」
「このあとレラを連れてお出掛け?」
「食材を買いに行くだけですよ」
「くれぐれもレラを連れ去られたりしないようにね」
カズとレラはフローラと別れ、ギルドを出て食材の買い出しへと向かう。
食べ物のいい匂いが漂ってくると、懐から顔を出そうとするレラを引っ込ませ、必要な食材を買い揃える。
家に戻った二人は、さっそくプリンとタマゴサンドを大量に作りだす。
他にも色々なものを作くると、本日食べる分を残し、カズは他を全て【アイテムボックス】にしまった。
「作り溜めたなぁ。これだけあれば二十日は持つだろ」
「ちょっとカズ! ふわふわのクリームまでしまっちゃダメでしょ。プリンに乗っけて食べるんだから」
「覚えてたの?」
「忘れないわよ」
「分かった分かった。ほらよ(この甘党めが)」
砂糖が多く入ったホイップクリームを、たっぷりとプリンに乗っけて食べるレラを、じっとみるカズ。
「なによ?」
「妖精って、皆甘いのが好きなのかと思って」
「知らな~い」
「結局レラは、どこから来たのか覚えてないんだよね?」
「うん」
「依頼で色んな所に行ったけど、レラがどこから来たか分からないんだよ。レラみたいな妖精を見た人も居ないしさ」
「あちし達は、殆ど人前に現れないからね」
「この国じゃないかも」
「そうかもね」
「あっさりしてるな。レラは故郷に帰りたいと思わないの?」
「フローラに会った頃までは、そう思ってたわ。でも今はここがあちしの家だから。カズとフジとマイヒメも居るし、キウイ達だって来るから寂しくないしね。こうやって好きな物も、お腹一杯食べれて幸せよ。それに故郷へ戻ったとしても……」
「そうか。レラがそれで良いなら俺は……一応これからも、レラの故郷は探し続けるよ」
「うん。それでいいよ。気長にね」
「気楽だな。それとレラ、口のまわりクリームだらけ(レラの帰る所はここか。俺は……)」
近くに置いてあったタオルで、顔を拭くレラ。
「クリームとれた?」
「とれた」
ここで俺はふと、元居た世界のことを思い出した。
そして未だに帰る方法も、その手掛かりさえも見つからない事を、どことなくレラと重ねていた自分がいたことに気づく。
カズは上着でレラを隠し、受付に居るトレニアの所に行く。
昨夜ギルド職員に、フローラと面会の約束を取り付けていたので、カズはその事をトレニアに訪ねた。
「伺ってますので、そのままギルドマスターの部屋へどうぞ」
「あちしが居るんだから、ワザワザ許可取ることないじゃないの?」
懐にから小声でカズに話し掛けるレラ。
カズは自分の上着を少し広げ、懐に向かって小声で話す。
「黙ってて! 人が多いんだから、見つかったら騒ぎになるよ」
「これだけいろんな人の話し声がしてれば、誰も気付かないわよ」
「一人で何を言ってるんですか? ……あ!」
「え? あ……」
変に思ったトレニアが、上着に作った隙間を覗き込み、レラが居ることに気付いた。
「その子が例のフェアリーですか!」
「トレニアさん静かに」
「す、すみません。でもどうしてこんな所に、連れてきたんですか?」
「フローラさんに会うので、連れてきたんです。他の人に見つかると大変ですから、トレニアさんも黙っていてください」
「分かりました。その代わりに、今度会わせてください」
「それなら家の方に来てください。いいレラ?」
「いいよ~」
「だそうです」
「なら今度行きますね。約束ですよ」
「はい。おっと、今日はまだ居ないようですが、こんなところをイキシアさんに見られたら、また何か言われるかも知れないので、もう行きます」
受付でぼそぼそと小声で話すトレニアとカズを見て、どういう関係だと思う冒険者が何人も居た。
大抵はトレニア狙いだろうと思われる。
込み合う人達の間をすり抜けて、カズに階段を上がりフローラの居る部屋に向かった。
ギルドマスターの部屋に入ると、今日はイキシアも居た。
「来たようねカズ」
「一階に居ないと思ったら、こちらに居たんですか。今日は若手の冒険者達と、話はしないんですか?」
「今はまだ混雑してるからね。少し空いてからに行くのよ」
カズがイキシアと話をしていると、上着をはね除けてレラが飛び出してきた。
「ぷはぁ。やっと出られた」
「あら、今日はレラも来たの」
「そうだよ。フローラがなかなか来てくれないんだもん」
「へぇ。この子が例のフェアリーなのね」
「イキシアさんは、レラと会った事なかったんですか?」
「ええ。話には聞いてたけど、フローラが会わせてくれなかったの」
「以前のイキシアを見てたらね。それに人の多い王都にフェアリーが居るのを知られたら、大変な事になるから。レラを守る為に、私以外の人と接触しないようにしてたの」
「でもカズには会わせたのね」
「すねないでねイキシア。私達にはギルドでの仕事があるから、ずっと一緒に居て守るのは無理なのよ」
「分かってるわ。だからワタシにも黙ってたんでしょ」
「ごめんなさい。でも現れたのがカズさんでなくても、レラを付きっきりで守れる人だったら、頼もうとしてたのよ」
「確かにカズなら実力もあるし、それにBランクから上がろうとしないから打って付けね」
「ええ。Aランク以上になると、国からの要請を断るのは難しいからね。カズさんはそれもあって、Aランクに上がろうとしないんだったわよね」
「はい。国もそうですが、貴族との付き合いも俺には難しいですから」
「でもカズは、貴族との付き合いはあるんでしょ?」
「まあ。あの人達は、穏和で良かったんですけど。やっぱり礼儀だとかはどうも疎くて」
「それも慣れだと思うけど、カズさんはそのままで良いと思うわよ。私は」
「ねぇねぇカズ、そんなことよりフローラに話す事があるんでしょ」
「そうそう。昨日の事なんですけど、フローラさんは気付きましたか?」
「マナが不自然に揺らいだことね。ええ、気付いたわ。その事でカズさんが話があるって、イキシアから聞いたわ」
カズは昨日感じた、マナが揺らいだ事をフローラに話した。
「そう。やっぱり三回あったのね。私も同じ時間に感じたわ」
「今までで、こういった事は?」
「初めてよ。誰か他に感じた人は居た?」
「えっーと……」
カズはイキシアの方を見る。
「イキシア、席を外してもらえるかしら」
「分かったわ」
「ごめんなさい。一応個人の事を聞くわけだから、私が聞いて話しても大丈夫そうなら、後で教えるわ」
「ええそれで良いわ。その前に、フェアリーのレラね。ワタシはイキシア。自己紹介がまだだったわね。これからよろしくね」
「よろしく。あちしレラ」
イキシアが手を差し出し、レラと握手をした。
「……?」
「それじゃあワタシは、一階で冒険者達と交流を深めてくるわ」
部屋を出たイキシアは一階に下りていった。
「どうしたのレラ?」
「な、なんでもない。それより話の続きをするんでしょ」
「ああ」
カズは自分とレラが感じた事と、クリスパとビワの反応をフローラに話し、三回目に貴族区で感じた揺らぎが大きかった事も話した。
「そう……」
「何かあるとしたら、貴族区じゃないですか?」
「憶測での判断はよくないわ。しかも場所が場所だけに」
「すいません」
「でも確かに気になるわね。こちらより、あちら側の方が強く感じたなんて。この事は私が調べてみるから、また何か分かったら報告して」
「分かりました」
「気のせいならいいのだけど、少し嫌な予感がするわ。カズさんも十分に気を付けて」
「はい」
「話し終わった? ねぇフローラ見て」
「どうしたのそれ? リボンなんて付けて可愛いわね」
「カズが新しく変えてくれたの」
「カズさんにそんなに趣味があったのね」
「そうじゃないですよ。ただ人に見せるわけじゃないにしろ、女の娘が付けるにしては少し地味かなって思ったんで、調整がてら少し変えたんです」
「私のこれは、可愛くならないの?」
「フローラさんのは、付けてても別に変じゃないと思いますが」
「私も女なんだけど」
「それは分かってますけど……(すねた?)」
「まぁ良いわ。ところで、レラが付けてるそれを調整したって言ったけど、何かあったの?」
「何かって言うか、最近また監視する連中が居るみたいなので(すねてなかったなみたい)」
「そういう事なら十分に気を付けて」
「ええ。そのつもりです」
「それでなんだけど、私にくれたブレスレットは、もうエンチャ…付与できないの?」
「そう言いましても、もう十分だと思いますが」
「できるなら、もっと色々と使えるようにしてくれても良いのよ」
「既にレラと同じ、念話と魔力自動回復(微量)を付与してありますし、それに以前使ったバリア・フィールドと浄化が一回ずつ使えるんですから」
「一回しか使えないんでしょ?」
「バリア・フィールドと浄化はそうです」
「使える回数を増やすとか、他の魔法を追加するとかできない?」
「無理して付与しようとすると、それ壊れますよ。それに作るの結構大変なんですから」
「そうよね。好意で貰ったんだから、贅沢はいけないわね」
フローラは左手首にあるブレスレットに触れて、ちらりとカズを見る。
「好意って……あんなに欲しがったじゃないですか」
「そうだったかしら?」
「そうです」
「そうね。でもレラにあれを自慢されたら、欲しくなるわよ。好きな形に作れて、魔法やスキルを付与出来るなんて聞いたら」
「だから口止め料として、フローラさんの分も作ったんじゃないですか(そういえば、原因はレラだった。念話の使い方を教えたらフジを連れて、フローラさんに見せに行ったんだ)」
「そうね。なら緊急用に、転移だけでも付けてくれないかしら? カズさんなら、すぐに出来るでしょ?」
「分かりました。ただしこれも一回しか使えませんよ。場所はどこがいいか、指定してください」
「そうね……すぐに見つかったり、追ってこられない場所なら……そうだ! 白真さんの所なんてどうかしら?」
「白真ですか……じゃあ住み処の山に転移先を設定して付与します。頼るにしても、白真が必ず居るわけではないですから」
「ええ、それで良いわ。ありがとう」
「じゃあ、ブレスレットを貸してください」
「はい。あとお花が欲しいなぁ。色付きで」
「はいはい(まぁ、お世話になってるから良いけど、結構要求してくるんだよなぁ)」
フローラから受け取ったブレスレットに《錬金術》と《加工》のスキルで形を少し変え、追加でゲートを《付与》した。
慣れたもので、十分程度で作業を終わらせ、ブレスレットをフローラに返した。
「これは何の花かしら?」
「桜ですよ」
「サクラ?」
「俺の故郷の花です」
「ピンク色をして可愛いわね」
「ねぇカズ。用事が終わったらな、そろそろ行こう」
「ん、ああ。そうだな」
「このあとレラを連れてお出掛け?」
「食材を買いに行くだけですよ」
「くれぐれもレラを連れ去られたりしないようにね」
カズとレラはフローラと別れ、ギルドを出て食材の買い出しへと向かう。
食べ物のいい匂いが漂ってくると、懐から顔を出そうとするレラを引っ込ませ、必要な食材を買い揃える。
家に戻った二人は、さっそくプリンとタマゴサンドを大量に作りだす。
他にも色々なものを作くると、本日食べる分を残し、カズは他を全て【アイテムボックス】にしまった。
「作り溜めたなぁ。これだけあれば二十日は持つだろ」
「ちょっとカズ! ふわふわのクリームまでしまっちゃダメでしょ。プリンに乗っけて食べるんだから」
「覚えてたの?」
「忘れないわよ」
「分かった分かった。ほらよ(この甘党めが)」
砂糖が多く入ったホイップクリームを、たっぷりとプリンに乗っけて食べるレラを、じっとみるカズ。
「なによ?」
「妖精って、皆甘いのが好きなのかと思って」
「知らな~い」
「結局レラは、どこから来たのか覚えてないんだよね?」
「うん」
「依頼で色んな所に行ったけど、レラがどこから来たか分からないんだよ。レラみたいな妖精を見た人も居ないしさ」
「あちし達は、殆ど人前に現れないからね」
「この国じゃないかも」
「そうかもね」
「あっさりしてるな。レラは故郷に帰りたいと思わないの?」
「フローラに会った頃までは、そう思ってたわ。でも今はここがあちしの家だから。カズとフジとマイヒメも居るし、キウイ達だって来るから寂しくないしね。こうやって好きな物も、お腹一杯食べれて幸せよ。それに故郷へ戻ったとしても……」
「そうか。レラがそれで良いなら俺は……一応これからも、レラの故郷は探し続けるよ」
「うん。それでいいよ。気長にね」
「気楽だな。それとレラ、口のまわりクリームだらけ(レラの帰る所はここか。俺は……)」
近くに置いてあったタオルで、顔を拭くレラ。
「クリームとれた?」
「とれた」
ここで俺はふと、元居た世界のことを思い出した。
そして未だに帰る方法も、その手掛かりさえも見つからない事を、どことなくレラと重ねていた自分がいたことに気づく。
25
お気に入りに追加
634
あなたにおすすめの小説
碧天のノアズアーク
世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。
あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。
かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。
病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。
幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。
両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。
一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。
Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。
自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。
俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。
強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。
性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして……
※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。
※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。
※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。
※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。
虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました
オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、
【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。
互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、
戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。
そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。
暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、
不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。
凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。
異世界で『魔法使い』になった私は一人自由気ままに生きていきたい
哀村圭一
ファンタジー
人や社会のしがらみが嫌になって命を絶ったOL、天音美亜(25歳)。薄れゆく意識の中で、謎の声の問いかけに答える。
「魔法使いになりたい」と。
そして目を覚ますと、そこは異世界。美亜は、13歳くらいの少女になっていた。
魔法があれば、なんでもできる! だから、今度の人生は誰にもかかわらず一人で生きていく!!
異世界で一人自由気ままに生きていくことを決意する美亜。だけど、そんな美亜をこの世界はなかなか一人にしてくれない。そして、美亜の魔法はこの世界にあるまじき、とんでもなく無茶苦茶なものであった。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる