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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

224 続く平穏な日々

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 カズが家を購入してから、一年と半年が過ぎた。


「ちょっとカズ、フジをなんとかしてよ!」

「どうしたのレラ?」

 レラがカズの居る部屋に入ってくると、フジがその後を追っかけてくる。

「『レラともっと遊ぶ』」

「もう終わり。あちし疲れたの!」

「『えぇー、もっと遊ぼうよ』」

「レラ疲れたってさ。マイヒメが戻って来るかも知れないから、フジは庭で待ってな」

「『はぁーい……』」

 フジはとぼとぼと歩いて、庭に出ていった。

「大きくなっても、中身はまだまだ子供なんだから、レラもそう怒らないでやってよ」

 この頃になるとフジは、カズより少し低い程度の大きさに育っていた。
 立っていると、160㎝くらいはある。(尻尾までだと、もう少し長い)

「初めて会った時と比べると、倍以上になってるんだから、そうそう相手もできないわよ。結構前から、アレナリアの身長を越してるんだから」

「モンスターだから成長が早いんだよ」

「それは分かってるけど」

「あと一年もすれば、家に入れなくなるから、それまでは相手してあげてよ」

「もう、分かったわよ! その代わり、ふわふわのクリームと果物を、あの薄いパンに、入れて巻いたの作ってよ」

「もう生クリームが無いから、できないよ。また村に買いに行かないと(この甘党め。俺の周りは、食いしん坊ばっかりか!)」

「なら早く買いに行ってきてよ」

「ルータさんから連絡ないと行けないよ。仕入れの依頼で行った時に、少し譲ってもらえることになってるんだから」

「あのサボりメイド(キウイ)が来るのを、待ってないといけないの?」

 生クリームの仕入れは、オリーブ・モチヅキ家の当主、ルータから依頼で行くことになっいた。
 今ではルータが資金を出して、生クリームの生産を増やすようにしていた。
 その運搬をするのはカズと、契約で決められている。
 今では少量ながら、王都各地で生クリームが使われるようになっていた。

「キウイが連絡に来るとは限らないけど。でもまあ、最近行ってなかったから、そろそろ頼まれるかな。預かってる在庫は、もう無いから(状態が維持されるアイテムボックスが使えるのって、やっぱり便利だよねぇ。豪商や貴族が、破格の待遇で囲い込むはずだよなぁ)」

「もう少し多く分けてもらえないの? あちし毎日でも食べたいのに」

「例え多く譲ってもらえても、毎日なんてダメ」

「なんでよ!」

「重くなって飛べなくなるぞ」

「……」

「フジに太ったって、笑われてもいいなら」

「それはイヤァー!」

「『僕のこと呼んだぁ?』」

 庭に出ていたフジが、急にカズとレラが居るリビングに戻ってきた。

「フジなんて呼んでないもん!」

「『えぇー』」

「レラ、その言い方はあんまりだよ」

「フンッ! それにあちし太ってなんかないもん!」

「『レラ太ったの? お腹ぷよぷよ!?』」

「太ってないって言ってるもん! ぷよぷよもしてないもん! しっかりと聞きなさい」

「『カズ、レラが怒ってる』」

「レラ……。それでフジは、どうしたの?」

「『そうだ! キウイおねぇさん達が来た』」

「噂をすればか」

「カ~ズにゃん。にゃちきが来たにゃ!」

「もしかして依頼? 依頼よね! 生クリームを買いに行く!」

「にゃにゃ! そうだけど、なんでレラにゃんが知ってるにゃ?」

「よしッ!」

「知ってるわけじゃなくて、生クリームの仕入れを頼みに、誰か来ないかって言ってたとこだったんだよ。そこにちょうどキウイが来たから」

「ほらカズ行く支度して、早く早く」

「支度しても、マイヒメが戻って来ないと行けないよ」

「レラにゃんは本当に好きだにゃ。にゃちきも好きだけどにゃ。特にふわふわにしたあれ(ホイップクリーム)を、プリンに乗せて食べると最高にゃ」

「それも良いわよねぇ~」

 レラとキウイは口元が緩み、よだれを垂らしそうになっていた。

「あ、あのカズさん」

「どうしたのビワ? こっちに入って、適当な所に座って良いよ」

「お邪魔します」

「遠慮しなくて良いから」

「キウイ…どうしたの?」

「甘い食べ物のこと考えて、妄想してるだけだから。気にしなくて良いよ」

 妄想してる二人を放っておいて、カズは椅子に座ったビワと話をする。
 それから十分程るすと、部屋の入口で知った人の声が聞こえた。

「相変わらずレラとフジのおもり……だけじゃなくて、今日はメイドまで居るのか」

 部屋に入ってきたのは、第1ギルド所属のAランク冒険者アイガーだった。

「アイガーさん」

「声が聞こえたもんで、悪いが勝手に入らせてもらったぞ」

「久しぶりです。それで今日は、どうしたんですか?」

「なぁに、ちょっと依頼で疲れたもんでな、今日はカズと飲もうかと来たんだが、邪魔だったか?」

「大丈夫です。予定はありますが、マイヒメが戻って来ないと出掛けられないので」

「そうか。そいつぁ良かった。まぁ飲むと言っても、軽くにするつもりだ。せっかくだ、メイドの嬢ちゃん達も飲まねぇか?」

「い、いえ……私は…あの……」

 ビワは下を向き、もじもじとしている。

「ん? どうした」

「ビワはちょっと、人見知りでして」

「そうか。カズと話すのは、平気なんだな」

「ええ、まあ。知り合ってから、それなりになりますから」

「まぁいい。オレのおごりだから飲んでけよ」

「い、いえ……私…は……カズさん」

 ビワはカズに助けを求める。

「ビワもキウイも、まだ仕事中ですか…」

「にゃ! 今、お酒をタダで飲めるって言ったかにゃ!? やったにゃ! どれにするかにゃ~」

 妄想にふけていた二人が、いつの間にか我に返っていた。
 キウイはタダで飲めると聞いて、テーブルに並べてある酒に手を伸ばす。

「あぁー! なんであんたが居るのよ!」

「今頃気付いたのかよ」

「またあちしのおやつを奪いに来たのね」

「たった一回だろ。それもたまたまあったのを少し食っただけだろーよ。それをまだ言うのか。もう取らねぇって」

「あちしはまだ許してないもん! べぇ~だ」

 レラはアイガーに向かってベロを出し、あっかんべぇをした。

「カズにゃん、レラにゃんはどうしたにゃ?」

「ん、ああ。アイガーさんが以前来たとき、置いてあったお菓子を一つ食べたんだよ。レラのおやつと知らずに」

「レラにゃんは、その時の事をまだ怒ってるのかにゃ? 一つくらい良いじゃにゃいか」

「そんなこと言うなら、今日出そうとしたキウイのおやつは、あちしがもらうもんね。確かプリンがあったのよねぇカズ」

「あるけど(いつ出すことにしたんだ? まぁ良いけど)」

「にゃにィ! にゃちきだけプリン抜きだなんて、あんまりだにゃ」

「キウイは一つくらいで、文句言わないんでしょ」

「プリンとなったら話は別だにゃ。レラのおやつを勝手に食べた、アイガーさんが悪いにゃ」

 手のひらを返すように、アイガーに責任があると言うキウイ。
 やれやれと頭をかくアイガーと、呆れるカズ。

「キウイが持ってるそれ(果実酒)」

「これかにゃ?」

「そう。それは、アイガーさんが持ってきたんだよ」

 手に持った果実酒をしっかりと抱え込み、レラとアイガーを見るキウイ。

「……レラにゃん、もう過ぎた事だから許してあげるにゃ」

「ちょっとキウイ、その抱えてるのを離してから言いなさいよ!」

「な、なんのことかにゃ?」

「没収!」

 キウイがよそ見をした隙に、抱えていた果実酒をカズが取り上げた。

「にゃ! カズにゃん、何をするにゃ!」

「依頼の伝言に来たんでしょう。だったら仕事中なんだから、お酒はダメ」

「ねぇキウイ、そろそろお屋敷に戻らないと、アキレアに怒られちゃうよ」

「ほら、ビワも言ってる」

「うぅ……せっかくのただ酒だったのににゃ」

「行こう…キウイ」

「分かったにゃ」

「まぁ今度来たときに、カズに飲ませてもらえ。なっ、カズ」

「え、あ、まあ」

 頭を下げがっかりしていたキウイが、カズに向き直る。

「本当かにゃ!?」

「う、うん」

「約束だにゃ! 絶対だにゃ!」

「分かったから、落ち着けキウイ」

「休暇をもらったら、朝から来るにゃ!」

「分かっ……朝から飲むのかよ!」

「そんなわけないにゃ」

「だよね。ビワも遠慮しないで、いつでも遊びに来て良いから」

「はい。ありが…とう」

「今日、明日には仕入れに行ってくるから、また誰か確認によこして」

「分かったにゃ」

「旦那様に伝えておきます」

 次回ただ酒を飲める約束を取り付けたキウイは、ビワと共にカズの家を出て、屋敷のある貴族区に入る門へと向かって歩いていった。

「さて、じゃあ飲むか! カズ」

「そうですね。何か軽くつまめるもの持ってきます」

「あちしも呑む! つまみは燻製チーズにしてねぇ」

「レラは程々にしとけよ。じゃないと、昼過ぎまで寝る事になるんだから」

「分かってるもん」

 夕食をとりながら、三人はゆっくりとお酒を飲み、他愛ない話をする。
 お酒を五本空けたところでレラが寝たため、この日はここまでにした。
 アイガーが帰ってあと、カズはレラを部屋に寝かせた。
 後片付けをして、カズ自身も寝るため部屋にいく。
 フジは三人が飲んでいたリビングの隅で、ひとり寝ている。
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