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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

220 カズ家を買う!?

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「疲れる原因は、家が住人の魔力を吸収するんです」

「住んでる人の魔力を吸う家? それは家に擬装したモンスターじゃ?」

「それはないです。それに王都でそのようなモンスターが現れたら、すぐ討伐されます」

「それはそうですよね。じゃあいったい?」

「推測ですが、家を建てたときに、何らかの付与をほどこしたか、のちに入った住人が作り替えた」

「ハッキリとは分かってないんですか?」

「はい。家に住まない限り無害ですから、放置されてきたようなんです」

「でも住んだら、魔力を吸収されるんですよねぇ」

「言われてきた事を聞く限りでは、吸収されると言っても、魔力量の多い方なら、さほど影響はないかと思われます」

「それなら今までに、魔力量の多い人が購入して、住んだりしなかったんですか?」

「やはりいわく付きだと、どうも売れなかったようです」

「解体しようとはしなかったんですか? 三十年も前に建てられたんですよねぇ?」

「実際に建てられたのは、五十年以上前のようです。ただ誰の指示で建てたのか、最初に誰が住んでたのかは、分かりませんでした。それに先程も言ったように、このような事が起きたのは、三十年ほど前からなのです」

「五十年……(それ完全に廃屋じゃないの?)」

「それと解体ですが、何かあったら大変だと言われて、人が住まなくなってから、十年以上ほったらかしにされてるようです。ギルドの方に依頼もきてないので、結局我々も関与せず」

「う~ん……住むかどうかはともかく、見るだけ見てみます(ダメ元で一応調べて見るかな。一軒家に住めれば、気兼ねもいらないし)」

「ええ構いませんよ。もし良ければ、これから案内しますが」

「じゃあ、お願いします」

 カズはモルトの案内でギルドを出て、いわく付きの一軒家に向かった。
 目的の一軒家までは、第2ギルドから歩いて小一時間掛かると言うので、目的地に着くまで、休養中にアレナリアやクリスパと過ごした事を話した。

「そうですか。アレナリアも元気が出たようですね」

「ええ。マイヒメが居るんだから、ちょくちょく来てくれなんて言われましたよ(モルトさんに、ゲートで転移できることは話してないから、マイヒメでってことにしておかないと)」

「しかし王都とアヴァランチェの距離を、一日も掛からず行き来できるのはスゴい事です。これはカズ君に指名依頼が増えそうですな」

「非常時以外には、受けないようにしてもらいたいです。さすがにマイヒメを配達のために、あっちこっちに飛んでもらうのは悪いですから」

「テイムモンスターに遠慮ですか。そんなとこも、カズ君らしいですな」

「ハハハ……」

「おっと、話はここまでにしましょう。そろそろ目的の建物が見えてきます」

 倉庫が建ち並ぶ場所の一角に、雑草が生い茂った土地の中に、薄汚れた建物があった。
 しっかりと管理され、場所が倉庫街でなければ、大きな店の商人が住んでいても、おかしくないと思える建物だ。

「……モルトさん。ここですか?」

「はい。そうです」

「廃墟にしか見えないんですけど(やっぱり)」

「長い間買い手が見つからなかったので、管理していた方も、手入れするのを諦めてしまったようです。庭の雑草は刈れば良いとして、建物の方は入ってみないと分かりませんな」

「……中に入ったら崩れるんじゃないんですか? (これはダメだろ)」

「さぁどうでしょうか。とりあえず入ってみましょう。許可はいただいてありますから」

「え!? あ、はい……(入るのなんか、やだなぁ)」

 雑草をかき分けて、二人は先に見える建物に向う。
 近くで見ると薄汚れてはいるが、建物そのものに、大きな亀裂や穴などはなかった。
 モルトは扉を開け、カズと共に中に入っていく。
 建物内にある家具や床には、ほこりが厚く積もり、何年も踏み入ってないのが分かる。
 建物内部も外部と同じく、汚れと傷はあるものの、大きく破損しているところはなかった。
 一通り各部屋を確認した二人は、一度外へと出た。

「ゴホッゴホッ。スゴいほこりでしたね」

「長い間手入れをされてませんから、仕方ありませんな。それで中を見てどうでしたか?」

「部屋も多いですし、贅沢な家だと思います。ただ違和感と言いますか、何かが……」

「違和感ですか?」

「ええ。長年手入れをしてないのに、建物が殆ど老朽化してないのが不思議で(あと何か居るような?)」

「そうですか。……実はこの物件、フローラ様から薦められたものなのです」

「フローラさんが?」

「はい。カズ君なら、住めるのではと言ってました」

「ならフローラさんは、この魔力を吸う建物の正体を、知ってるってことですか?」

「儂はそこまで聞かされてません。ただあの方はカズ君相手に、悪いようにはしないと思います」

「とりあえず建物と敷地内を調べてみます。それからどうするか返事します(フローラさん、俺に面倒な物件を押し付けるつもりか?)」

「分かりました。儂は一足先にギルドへ戻り、フローラ様に報告します」

「モルトさん戻っちゃうんですか!」

「カズ君が住む家ですから、横で儂がとやかく言うより、一人で見て考えた方が良いでしょう」

「は、はあ」

「良い返事を期待してますよ」

「ぇ……(良い返事をって、断りづらいじゃん)」

 モルトはカズを置いて、ギルドに戻っていった。
 カズは再度建物に入り、二階の一室で【万物ノ眼】を使い、窓を開け雑草だらけの庭を見た。
 すると微かな魔力の反応があるのを見つけ、その場合を覚えた。
 次にカズは、気になっていた地下室へと向かった。

「調べるとは言ったものの、少し気味悪いんだよなぁ。声を出してないと、何かが出てきそうだ」

 嫌々ながら、カズは地下室に下りていった。

「聞いた話しによると、今までの所有者は、ひんやりとした地下室を食料保存庫にしてたって。そうモルトさんが言ってたっけ。でもこれは、地下室がある建物なら、どこも同じ様に使ってるらしいけど」

 地下室に下りたカズは、暗く何もない室内調べた。

「ん!? 微量の魔力? 空間があるのか?」

 カズは壁の向こう側に、部屋があることに気付いた。
 
「隠し扉みたいなのはないか……上に戻って探してみよう」

 地下室から一階に戻ったカズは、他に下る階段があるか探した。
 しかし謎の空間があると思われる上の部屋には、地下へと下る階段はなかった。
 二階も含め、他の部屋も調べてはみたが、やはり地下にある空間に下りる階段や通路はなかった。
 不思議に思いながら建物を出たカズは、庭にあった微かな魔力反応を、先に調べることにした。

「確か庭の隅の方だったな。とりあえず雑草をなんとかしないと」

 微かな魔力反応があった場所の草を刈り、辺りを調べるが何もない。

「ここも地下……いや、埋まってるのか。これじゃあ、魔力を感知するのは難しいな(フローラさんが来て詳しく調べたら、気付きそうだけど来なかったのか?)」

 カズはふと視界の端に見える【マップ】に眼を向けた。
 するとそこには、建物内を動く一つの反応があるのに気付いた。
 その反応は奇妙な動きをしていた。
 人や獣でもなく、かと言ってモンスターの反応でもなかった。
 カズは《隠蔽》のスキルを発動させ建物に入り、反応のある部屋向かった。
 ほこりが厚く積もった床には、カズとモルト以外の足跡はなかった。
 反応のある部屋の扉を、静かにゆっくりと開けて中を覗くが、動くものはなかった。
 そこは大きな本棚と、一つの椅子があり、窓から外の光が射し込むだけの部屋だった。

「……居ない?」

 部屋に入り中を見渡すが、特に変わった様子はなかった。
 再度【マップ】で確認をすると、間違いなく反応はこの部屋の中にあった。
 その場所は、本棚に並べてある本の後ろだと分かった。

「このへんか」

 反応のあった場所の本を、本棚から数冊抜き取っていると、奥から急に何かが飛び出してきた。
 驚いて持っていた本を床には落とし、ほこりが舞い上がる。

「ゴホッゴホッ……虫か?」

 飛び出してきたそれは、身長30㎝ほどの半透明な二枚の羽が背中にある、人の姿をした生き物だった。

「虫じゃないもん。あちしはレラだもん」

「なんだこれ? 喋るフィギュア……なわけないよな」

「何よそれ。そんなの知らないもん。レラは歴としたフェアリーだもん」

 『レラ』と名乗る生き物は、自らを『フェアリー』だと言った。

「それより、あんた誰なの?」

「俺は…」

「何でここに来たの? どうしてあちしが隠れてる場所に気付いたの? あちしを捕まえるつもりなの? 早く出て行かないと、フローラに言うわよ! あんたなんか、全然怖くないんだから!」

 レラと名乗ったフェアリーは、カズの話を聞こうとせずまくし立て、睨み付けるその目には、涙を浮かべているようだった。

「やっぱりフローラさんは、この物件のこと知ってるんだ」

「あっ!」

 レラはまずいと、両手で口を押え黙った。
 しかし既に口にした言葉は、元には戻らない。
 レラは宙に浮いたまま、カズを見て小刻みに震えていた。

「えーっと、妖精のレラさんだったね。俺はカズ。今、言ったフローラさんがギルドマスターをしている、ギルドに登録してる冒険者なんだけど、話を聞いてもいいかな?」

 レラは口を押さえたまま、黙って動かない。

「じゃあとりあえず、レラさんが言った質問に答えるよ。それを聞いて、話しても良いと思うなら答えてよ」

 レラは両手で口を押さえたまま、黙って頷いた。
 カズはレラが言った質問に全て答えた。
 この建物に来た理由、レラが隠れてる場所を正確に見つけたこと。
 それと捕まえるようなことはしないと。
 レラは口を塞いでいた両手をどけて、話し出した。

「信用した訳じゃないけど、話だけしてあげてもいいわ」

「そう。ありがとう」

 その後レラと話をしたカズは、ギルドに戻りフローラに話を聞くことにした。 
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