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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

218 休養 6 呑み過ぎた二人

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「アレナリア。クリスパ。どうしたの? 大丈夫か?」

 声を掛けるが返事はないので、二人の顔の前で、手を動かし意識があるかを確かめた。
 
「ふァれカズ。ろこ行ってはの」

呂律ろれつが回ってない。呑み過ぎだよアレナリア」

「らいりょうぶよ」

 カズがアレナリアと話していると、突如後からクリスパが飛び付いてきた。

「ちょっとカスさん。わたひのお酒を、のこに持ってたのよぉ!」

「も、もう片付けた」

「まらはいってはれひょ」

「クリスパまで呂律が回らなくなるまで、呑んでたのか」

「いいりゃないよ。ひんねんなのひょ。せっかくの休みなんらから、ひるまっから呑んれも」

「分かった。分かったから、耳元で話さないで、くすぐったいから。それに背中に当たってる(かなり酒臭し、胸が背中に柔らかい感触が……)」

「うふふふ。ほ~れ、何があたってふのかなぁ? ほんほうは嬉いんれしょ」

「ちょっとクリ姉ぇ、何やってるのよ。カズ兄から離れて」

「クリふは! あらひのカズに、なにひへるのよぉ!」

「そんなに怒らないれよキッシュ。じょうらんよ、じょうらん。アレナリはもほんなに怒らないれよ。自分のが、ちいはいからっへ」

「いいんらもん。ちいはくへも、カズはあいひてくれるもの」

 クリスパがカズから離れると、アレナリアがべったりとカズにくっついた。
 三人の騒ぎ声を聞き付けた女将のココットが、様子を見に食堂に入って来る。

「お客さんがもうすぐ戻ってくるから、終わりにするように言ったのに、今度はなんだい! さすがに呑み過ぎだよクリスパ。アレナリアさんも」

「うぅ……ご、ごめんらはい。義母さん」

「すびません。女将はん」

「もうクリスパは家に帰って休みな」

「そうふるわ。アレナリはも停めてあげるから、行きまひょう。きょふ宿は、いっぱひだはら」

「……」

「はれ? アレナリア」

「アレナリアさん、カズ兄に寄り掛かったまま寝てるよ」

「まっはく、しょうがないはね」

「クリスパもふらついてて危ないね。カズ、悪いけど家まで頼むよ」

「分かりました。アレナリアはおぶって連れて行きます」

「お母さん。私も付いて行くね。カズ兄一人じゃ大変だから」

「ああ、そうしてやりな。まったく、年に一度くらいはと、大目にみてやったのに。酔っ払いには困ったもんだね」

「明日になったら二日酔いになってるでしょうから、勘弁してやってください。クリスパも去年、急にギルドのサブマスになって大変だったんですよ。それに今年はキッシュや女将さんと一緒に新年を迎えられて、嬉しかったんじゃないんですか」

「分かってるよ。でも羽目を外し過ぎたんだから、少しは言わないとね」

 眠ってしまったアレナリアをカズが背負い、千鳥足のクリスパをキッシュが支えて、ココット亭を出てクリスパの家に向かった。
 歩くこと十数分、クリスパの家に着くと、今にも寝そうなクリスパからキッシュが鍵を受け取り、扉を開けて四人は中へと入った。
 クリスパは上着を脱ぎ捨てると、そのまま寝室へと行き、ベットに飛び込み眠ってしまった。
 カズはアレナリアをクリスパの横に寝かすと、部屋の様子を見て少し驚いた。
 部屋の隅には、空いた酒ビンが何本もあり、衣服は脱ぎっぱなしで、床やソファーにほっぽってあった。

「カズ兄驚いた。クリ姉は自分の家だと、結構だらしないんだ」

「ま、まあ、一人暮らしだと皆こんなもんだよ」

 キッシュが脱ぎ散らかしてある服を拾い集める。

「手伝うよ。キッシュ」

「脱ぎっぱなしの服は持って帰って、私達のと一緒に洗っちゃうよ」

「その方が良さそう……あ」

 カズが持った服から、クリスパの下着が出てきた。
 それを見たキッシュが、慌てて下着を回収する。

「服は私が集めるから、カズ兄は空の酒ビンをお願い。それは帰りに酒屋さんに寄って、置いてっちゃうから」

「わ、分かった(クリスパ、だらしなさ過ぎ)」

 カズは持っていた服をキッシュに渡し、部屋中にある酒ビンやゴミを集めた。
 キッシュも洗濯物を集めて終わったので、カズが全てを【アイテムボックス】に入れた。(クリスパの下着だけは、キッシュが手提げ袋に入れて、自分で持ち帰った)
 キッシュがクリスパの家の鍵を持ち帰ったと書き置きし、二人はココット亭に戻る。
 途中にある酒屋に寄り、回収してきた空の酒ビンを全て置いていった。
 ココット亭に戻るとキッシュに言われ、しまってあった洗濯物を、全て大きなかごの中に出した。
 その様子を見ていたココットが、またかと呆れていた。

「お母さん。クリ姉がまた部屋中を散らかしてたよ」

「ギルドの仕事が忙しいのは分かるんだけど、あんまり家を散らかしてばかりいると、本当に嫁の貰い手が無くなっちまうね。カズも見て驚いたろ」

「まぁ少し。でも一人暮らしなら、そんなもんですよ(汚部屋女子。それは言い過ぎか)」

「ふ~んそうかい。それでカズはうちに泊まってくだろ。ちょうどさっき、一部屋空いたんだよ。もちろん料金はいらないよ。二日分残ってるからさ」

「そうですか。なんかすいません。じゃあ、お願いします(それ覚えててくれたんだ)」

「なに言ってるんだい。店で使う物まで買ってもらったんだから、構やぁしないよ。そういう事だから、キッシュは部屋の掃除をしてきておくれ。部屋は前にカズが泊まった所だよ」

「は~い」

「それじゃあ夕食の支度をするから、カズは食堂で少し待ってておくれ。私達三人分だけだから、すぐに出来るよ」

「分かりました」

 ココットは厨房で夕食を作り始め、キッシュは客室の掃除をして、カズは夕食が出来るのをのんびりと待っていた。
 香辛料の匂いが漂ってくる頃、掃除を終えたキッシュが食堂にやって来た。

「あーお腹空いた。ん~良い匂い、お母さんごはんなぁ~に?」

「あんたが干し魚を五枚も買ってきたから、それを焼いたのと、イノボアの香辛料焼きだよ。魚は使っちまわないと傷んじまうから、あんたが責任もってた食べなよ」

「えぇ~。私もイノボアの香辛料焼き食べたい。お母さんとカズ兄も魚食べて」

「まったくこの娘は。食い意地が張ってるから、そういう事になるんだよ」

「だってクリ姉とアレナリアさんも、食べると思ったんだもん」

「俺は魚を貰うよ」

「しょうがないねぇ。私ゃあ一枚で十分だからね」

「ありがとう」

 干し魚はココットが一枚で、キッシュとカズが二枚ずつ食べた。
 そのおかげでキッシュは、イノボアの香辛料焼きを食べる事ができ喜んでいた。

「満腹。満腹。私は幸せだよ」

「この調子じゃあ、次に会う時には、横に大きくなってそうだな」

「そ、そんなことは……」

 キッシュは自らの膨らんだお腹を見て、言葉に詰まった。
 食事を終えたカズは、前回泊まった部屋に行き、当時を懐かしく思い出しながら就寝した。


 ◇◆◇◆◇


「カズ兄起きてる? もう朝だよ!」

 キッシュが部屋に入り、ベッドのすぐ横までくる。

「……今…起きた」

「おはよう。カズ兄」

「おはよう。ねぇキッシュ、一応部屋に入る前に一声掛けて。もし俺が寝ボケてたら、急に抱き付くともかぎらないから」

「そうなの? 私は嬉しいけど(今度からは、静かに入ってきて、もっと近くで起こそう)」

 少し寝ボケたカズに、抱き付かれてみたいと、内心で思っていたキッシュだった。
 カズは部屋を出て一階に下り、食堂に向かった。

「おはようカズ」

「あ、おはようございます。女将さん」

「悪いんだけど、クリスパとアレナリアさんを連れてきてくれるかい? キッシュは宿の仕事があるから、迎えに行けないんだ」

「良いですよ」

「頼むよ。どうせ二日酔いになってるだろうから、二人用に軽めの朝食を用意しておくから」

「分かりました」

「じゃあこれねカズ兄。クリ姉の家の鍵。たぶん二人とも起きてないと思うから」

 キッシュからクリスパの家の鍵を預かったカズは、ココット亭を出てクリスパの家に向かった。
 クリスパの家に着き扉を叩き呼ぶが、返事はなかった。
 キッシュから預かった鍵を使い、クリスパの家に入るカズ。
 昨日二人が寝た寝室に行き、部屋の外から声を掛けるが、やはり返事はない。
 仕方なく部屋の中に入ると、ベッドで唸っている二人が居た。

「二人もと大丈夫?」

「カ…ズ……?」

「カズ…さん……」

「み、みず……」

「お願い……」

 カズはキッチンに行き、コップに水を入れて二人の所に持っていった。
 辛そうにベッドから起き上がった二人は、カズから水の入ったコップを受け取り口に運んだ。

「ぅう……頭痛い」

「私も……」

「二人とも完全に二日酔いだね。呑み過ぎだよ。動けそう? ココットさんが、軽い朝食を用意してくれるって」

「食欲ないわ」

「少し気分が……」

「空腹だと余計に気持ち悪くなるよ。向こうの部屋で少し休んだら行こう(アレナリアは二日続けてか)」

「わ、分かったから、連れてってカズ」

「しょうがないなぁ」

「カズさん。私も」

「クリスパまで。分かったから、とりあえずその乱れた服を直しといて。目のやり場に困るから」

「見えても別に良いわ。直すの面倒だから」

「あのねぇ」

「じゃあ、カズさんが直して。少しくらいなら、触っても怒らないから」

「ハァー……もういい。とりあえずアレナリアを先に連れてくから(本当に触ったろか)」

 カズはアレナリアを抱えて、寝室を出て隣の部屋に行く。
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