人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

217 休養 5 安らいだ場所 と 人達

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 街の中央広場に着くまでの間に、カズはアヴァランチェで再会したカイトのことを、クリスパに話した。

「良いわ。そのダメなひよっこを、びしばし鍛えてあげる」

「逃げ出さない程度に、お手柔らかに(盗賊の脅しなんて、クリスパが笑顔でしてくる威圧に比べれば……この恐怖に耐えろよカイト)」

「その代わりに、この後買う物の代金は……」

「分かってる。俺が全部出すよ」

「やったわ! キッシュも好きなだけ買ってもらいなさい」

「でも……」

「大丈夫よ。王都の冒険者は、そこそこ稼げるから。だから遠慮なく買いなさい」

「良いのカズ兄ぃ……?」

 実際に相当の額を持っていたカズは、キッシュに向かって頷き、買った物の代金を支払った。
 最初はキッシュも、申し訳なさそうにしていたが、次第に遠慮がなくなり、ココット亭に戻るときには、両手一杯に買った物を持っていた。
 さすがに買ってもらった物を、カズに全部運ばせるのは悪いと二人は思ったらしい。
 あれこれと大量に買ったキッシュとクリスパは、カズとアレナリアと共に、ココット亭へと戻っていった。
 お昼は女将ココットも交えて、五人で少し遅めの昼食を取ることにした。

「おやまぁ。さっき買い出しを頼んだばかりなのに、なんだいその量は!? お金はどうしたのさ」

「義母さん大丈夫よ。全部カズさんのおごりだから。さぁ昼食にしましょう。義母さんはもう食べた?」

「まだだけど」

「じゃあ皆で食べましょう。すぐ食べれる物も買ってきたから」

「良いのかいカズ?」

「ええ。それに買い物のときキッシュが、あれが無かった、これが少なくなってきたとか言って選んでましたから、宿で使う物も買ったんでしょう」

「宿で使うものまで、カズに買わせたのかい?」

「つい安いのを見つけたもんだから。カズ兄も良いって言って買ってくれたし」

「そうなのかい?」

「え、ええ。まぁ(良いって言ったっけか? まぁ良いけど)」

「悪いねぇ」

「気にしないでください。最近は依頼で、結構稼いでますから」

「ありがとよ。前にも増して、よく食べる娘が居るから助かるよ」

「やっぱりキッシュの食いしん坊は、健在じゃない」

「そ、そうよ。もう食いしん坊でいいもん。でもクリ姉だって……」

「私がなぁに?」

「クリ姉だって……お酒」

 クリスパに言い返される思って、キッシュは小声になり黙ってしまった。
 カズはなんとかフォローしようと、買ってきた物を見てクリスパにつっこんだ。 

「クリスパも自分のお酒を、大量に買い込んだんだから、キッシュとおあいこだと思うけど」

「なんで分かっ…じゃなくて、私のことは……」

「代金を払ったのはカズなんだし、見てたんだからそりゃあ分かるわよ」

「で、でも、宿の食堂で出すお酒かもよ」

「かもよって、あれだけ自分の好みで選んでおきながら、それはないでしょう」

「ぅ……」

「キッシュもいっぱい買ったけど、宿で使う物も選んでたから、クリスパよりはましね」

「……そ、そうよ。私が飲みたいから買ったの。新年のお祭りなんだから良いでしょう。最終日の今日、やっと仕事が休みになったんだから。それに宿のお客さんもお祭りに出掛けて居ないんだし」

「そうね。でも私は、自分の食べれる分しか、買ってもらってないわ」

「全部カズさんと同じ物じゃないのよ。そこまで媚びたいの? いろんな意味で、これ以上重い女になると、さすがのカズさんも嫌になるわよ」

「私のどこが太ったのよ!」

「あら、太ったなんて一言も言ってないわ。自覚があるんじゃないのアレナリア」

「なんですって!」

「なによぉ!」

「ちょ、ちょっと、なんで急に喧嘩になるのさ」

「カズ兄、これ殆ど空だよ」

 殆ど入ってない果実酒のビンを二本見つけ、キッシュがカズに見せた。

「あっ! いつの間に飲んでたんだ!」

「クリスパがちょっとだけって言って、広場から戻る前に飲みだしたのよ」

「アレナリアにも一本あげたでしょう」

「飲み干してビンを置いてくれば見つからなかったのに」

「歩いて酔いが回ってくれば、結局分かるよ(だからアレナリアは広場から戻って来るとき、おとなしかったのか)」

「私だって買い食いしないで我慢したのに、クリ姉とアレナリアさんばっかりズルい!」

「キッシュはたまたま我慢できただけでしょ」

「キッシュに当たらないでよ。かわいそうじゃない」

「なによぉ! ペッタンこのアレナリア」

「なんですってぇ!」

「ちょっと二人とも、別にクリスパがお酒を買ったって良いし、アレナリアだって俺と同じの買ったって、二人が既に飲んでたって良いんだからさぁ(キッシュが我慢してたんだから、本当は良くないんだけど)」

「でもカズ…」

「でもカズさん…」

「お金を出した俺が、良いって言ってるんだから。さぁ早く食べよう。そうでないと、キッシュがお腹空き過ぎて倒れちゃうよ。ずっと我慢してるみたいだからさ」

「そんなこと…」

 キッシュが否定しようとしたとき、お腹が大きく鳴った。
 それを聞いたアレナリアとクリスパは、一瞬の間をおくと、二人一緒になって吹き出して笑った。
 するとキッシュの顔は、みるみる赤くなった。

「さぁ、娘の腹の虫が騒いでるから、早く食べるとしましょう。クリスパもアレナリアさんも笑ったら、喧嘩なんかバカらしくなったろ」

「そうね。ごめんなさいキッシュ。義母さん」

「私もごめんなさい。ココットさんの前でみっともない」

「あたしゃあ気にしないよ。さぁお茶は出してやるから、四人は先に食べてな」

 五人はお祭りの露店で買ってきた物を、テーブルの上に広げて皆で食べる。
 クリスパは新しいお酒のビンを開けて、アレナリアと飲み始めていた。
 普段なら昼まっからお酒を飲もうとしたら、クリスパを止めていたであろうが、新年のお祭り期間という事で、ココットは大目に見て好きにさせていた。
 静かだったキッシュをカズが見ると、テーブルに出てる何種類もの食べ物を全て集め、自分の目の前に取り置いて、一人で黙々と食べていた。

「さぁ、食べ終わったら片付けるよ」

「あ、義母さん。私達は自分でやるからいいわ。もう少し飲みたいしね」

「休みだからって程々にしなよ」

「は~い」

「アレナリアもな。また二日酔いになるよ」

「大丈夫よ。そこまで飲まないから」

「それならいいけど。宿のお客さんが戻る前に終わりにしなよ」

「分かってるわよ。って、なんでカズは飲んでないの? 一緒に飲みましょうよ」

「そうよ。カズさんも一緒に飲みましょ」

「俺はいいよ(不安だ。既に出来上がってきてる)」

 食事の後片付けをしているキッシュとココットをカズは手伝う。
 後片付けが終わると、アレナリアとクリスパを置き、カズは一人ココット亭を出て、街の西門方向にある一軒の店に向かった。
 そこは以前リアーデにいた頃、キッシュに頼まれて、ココット亭で使っている鍋を修理にいったドワーフの鍛冶屋だ。
 店まで行くと、どうやら営業しているようだったので、カズは中に入り店主のドワーフにある物を見せて話をした。
 それはここで買った、ドワーフが見よう見まねで作った刀だ。
 ロックバードとの戦闘で、刃こぼれしてしまった刀を渡し修理を頼んだ。
 しかし見よう見まねで作ったため、修理できるか分からないと言われた。
 初めてこちらの世界で使った武器なので、できれば作った人に修理してもらい、持っていたかったとカズは思っていたが、残念ながらそれが叶わなかった。
 自分の打った刀を見た店主のドワーフが、刃こぼれした状況を聞きくと、ロックバードの戦闘でとカズは話した。
 すると今後の参考にしたいと言い、刃こぼれした刀を引き取らせてほしいと言われたので、役にたつならとカズは刃こぼれした刀を店主のドワーフに渡して店を出た。

 人の目がない路地裏に入り〈ゲート〉で、初めてこの世界に来た森に移動した。
 そこから最初に行った村の、近くの高台にある祠に向かった。
 カズはその祠に向かい、管理神と話せるか試しに祈って話し掛けた。
 しかしなんの反応もなかった。
 諦めたカズは、村にある食堂兼酒場の宿屋に行き、女将のポトフと旦那のガンボに挨拶をして、たあいない話をした後に村を出た。
 その後は、人気の無い場所で〈ゲート〉を使い、リアーデの街に戻った。

 日が傾く頃に、リアーデの中央広場を通ると、昼間に比べて人は少なくなっていた。
 新年のお祭り最終日とあって、近くの村から来ていたであろう人達は、殆ど村に帰っていた。
 早じまいした何軒かの露店の人達は、酒場で互いの労をねぎらっていた。
 カズは中央広場を抜けてココット亭に戻る。
 食堂ではクリスパとアレナリアが、手にお酒の入ったコップを持ったまま、ボケーッと一点を見つめていた。

「あ、カズ兄。どこ行ってたの?」

「ちょっと色々と。それより二人はどうしたの?」

「分からないけど、お酒の呑み過ぎじゃないかなぁ?」

「あれからずっと?」

「うん。あ、そう言えばさっき、お母さんが二人に何か言ってたっけ」

「女将さんが? (もう終わりにするように、とでも言ったのかな?)」

「気付いたら、いつの間にか話し声がしなくなって、来てみたらこうなってたの。呼んでも返事しないし、どうしちゃったのか」

「とりあえず、全部片付けちゃうおう。二人の持ってるコップも」

「じゃあ私が洗うから、カズ兄が持ってきて」

「分かった」

 カズはそーっと二人からコップを取り、他の洗い物と一緒にキッシュの所に持っていった。
 それでも二人は動かずに、一点を見つめていた。
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