人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
226 / 807
三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

217 休養 5 安らいだ場所 と 人達

しおりを挟む
 街の中央広場に着くまでの間に、カズはアヴァランチェで再会したカイトのことを、クリスパに話した。

「良いわ。そのダメなひよっこを、びしばし鍛えてあげる」

「逃げ出さない程度に、お手柔らかに(盗賊の脅しなんて、クリスパが笑顔でしてくる威圧に比べれば……この恐怖に耐えろよカイト)」

「その代わりに、この後買う物の代金は……」

「分かってる。俺が全部出すよ」

「やったわ! キッシュも好きなだけ買ってもらいなさい」

「でも……」

「大丈夫よ。王都の冒険者は、そこそこ稼げるから。だから遠慮なく買いなさい」

「良いのカズ兄ぃ……?」

 実際に相当の額を持っていたカズは、キッシュに向かって頷き、買った物の代金を支払った。
 最初はキッシュも、申し訳なさそうにしていたが、次第に遠慮がなくなり、ココット亭に戻るときには、両手一杯に買った物を持っていた。
 さすがに買ってもらった物を、カズに全部運ばせるのは悪いと二人は思ったらしい。
 あれこれと大量に買ったキッシュとクリスパは、カズとアレナリアと共に、ココット亭へと戻っていった。
 お昼は女将ココットも交えて、五人で少し遅めの昼食を取ることにした。

「おやまぁ。さっき買い出しを頼んだばかりなのに、なんだいその量は!? お金はどうしたのさ」

「義母さん大丈夫よ。全部カズさんのおごりだから。さぁ昼食にしましょう。義母さんはもう食べた?」

「まだだけど」

「じゃあ皆で食べましょう。すぐ食べれる物も買ってきたから」

「良いのかいカズ?」

「ええ。それに買い物のときキッシュが、あれが無かった、これが少なくなってきたとか言って選んでましたから、宿で使う物も買ったんでしょう」

「宿で使うものまで、カズに買わせたのかい?」

「つい安いのを見つけたもんだから。カズ兄も良いって言って買ってくれたし」

「そうなのかい?」

「え、ええ。まぁ(良いって言ったっけか? まぁ良いけど)」

「悪いねぇ」

「気にしないでください。最近は依頼で、結構稼いでますから」

「ありがとよ。前にも増して、よく食べる娘が居るから助かるよ」

「やっぱりキッシュの食いしん坊は、健在じゃない」

「そ、そうよ。もう食いしん坊でいいもん。でもクリ姉だって……」

「私がなぁに?」

「クリ姉だって……お酒」

 クリスパに言い返される思って、キッシュは小声になり黙ってしまった。
 カズはなんとかフォローしようと、買ってきた物を見てクリスパにつっこんだ。 

「クリスパも自分のお酒を、大量に買い込んだんだから、キッシュとおあいこだと思うけど」

「なんで分かっ…じゃなくて、私のことは……」

「代金を払ったのはカズなんだし、見てたんだからそりゃあ分かるわよ」

「で、でも、宿の食堂で出すお酒かもよ」

「かもよって、あれだけ自分の好みで選んでおきながら、それはないでしょう」

「ぅ……」

「キッシュもいっぱい買ったけど、宿で使う物も選んでたから、クリスパよりはましね」

「……そ、そうよ。私が飲みたいから買ったの。新年のお祭りなんだから良いでしょう。最終日の今日、やっと仕事が休みになったんだから。それに宿のお客さんもお祭りに出掛けて居ないんだし」

「そうね。でも私は、自分の食べれる分しか、買ってもらってないわ」

「全部カズさんと同じ物じゃないのよ。そこまで媚びたいの? いろんな意味で、これ以上重い女になると、さすがのカズさんも嫌になるわよ」

「私のどこが太ったのよ!」

「あら、太ったなんて一言も言ってないわ。自覚があるんじゃないのアレナリア」

「なんですって!」

「なによぉ!」

「ちょ、ちょっと、なんで急に喧嘩になるのさ」

「カズ兄、これ殆ど空だよ」

 殆ど入ってない果実酒のビンを二本見つけ、キッシュがカズに見せた。

「あっ! いつの間に飲んでたんだ!」

「クリスパがちょっとだけって言って、広場から戻る前に飲みだしたのよ」

「アレナリアにも一本あげたでしょう」

「飲み干してビンを置いてくれば見つからなかったのに」

「歩いて酔いが回ってくれば、結局分かるよ(だからアレナリアは広場から戻って来るとき、おとなしかったのか)」

「私だって買い食いしないで我慢したのに、クリ姉とアレナリアさんばっかりズルい!」

「キッシュはたまたま我慢できただけでしょ」

「キッシュに当たらないでよ。かわいそうじゃない」

「なによぉ! ペッタンこのアレナリア」

「なんですってぇ!」

「ちょっと二人とも、別にクリスパがお酒を買ったって良いし、アレナリアだって俺と同じの買ったって、二人が既に飲んでたって良いんだからさぁ(キッシュが我慢してたんだから、本当は良くないんだけど)」

「でもカズ…」

「でもカズさん…」

「お金を出した俺が、良いって言ってるんだから。さぁ早く食べよう。そうでないと、キッシュがお腹空き過ぎて倒れちゃうよ。ずっと我慢してるみたいだからさ」

「そんなこと…」

 キッシュが否定しようとしたとき、お腹が大きく鳴った。
 それを聞いたアレナリアとクリスパは、一瞬の間をおくと、二人一緒になって吹き出して笑った。
 するとキッシュの顔は、みるみる赤くなった。

「さぁ、娘の腹の虫が騒いでるから、早く食べるとしましょう。クリスパもアレナリアさんも笑ったら、喧嘩なんかバカらしくなったろ」

「そうね。ごめんなさいキッシュ。義母さん」

「私もごめんなさい。ココットさんの前でみっともない」

「あたしゃあ気にしないよ。さぁお茶は出してやるから、四人は先に食べてな」

 五人はお祭りの露店で買ってきた物を、テーブルの上に広げて皆で食べる。
 クリスパは新しいお酒のビンを開けて、アレナリアと飲み始めていた。
 普段なら昼まっからお酒を飲もうとしたら、クリスパを止めていたであろうが、新年のお祭り期間という事で、ココットは大目に見て好きにさせていた。
 静かだったキッシュをカズが見ると、テーブルに出てる何種類もの食べ物を全て集め、自分の目の前に取り置いて、一人で黙々と食べていた。

「さぁ、食べ終わったら片付けるよ」

「あ、義母さん。私達は自分でやるからいいわ。もう少し飲みたいしね」

「休みだからって程々にしなよ」

「は~い」

「アレナリアもな。また二日酔いになるよ」

「大丈夫よ。そこまで飲まないから」

「それならいいけど。宿のお客さんが戻る前に終わりにしなよ」

「分かってるわよ。って、なんでカズは飲んでないの? 一緒に飲みましょうよ」

「そうよ。カズさんも一緒に飲みましょ」

「俺はいいよ(不安だ。既に出来上がってきてる)」

 食事の後片付けをしているキッシュとココットをカズは手伝う。
 後片付けが終わると、アレナリアとクリスパを置き、カズは一人ココット亭を出て、街の西門方向にある一軒の店に向かった。
 そこは以前リアーデにいた頃、キッシュに頼まれて、ココット亭で使っている鍋を修理にいったドワーフの鍛冶屋だ。
 店まで行くと、どうやら営業しているようだったので、カズは中に入り店主のドワーフにある物を見せて話をした。
 それはここで買った、ドワーフが見よう見まねで作った刀だ。
 ロックバードとの戦闘で、刃こぼれしてしまった刀を渡し修理を頼んだ。
 しかし見よう見まねで作ったため、修理できるか分からないと言われた。
 初めてこちらの世界で使った武器なので、できれば作った人に修理してもらい、持っていたかったとカズは思っていたが、残念ながらそれが叶わなかった。
 自分の打った刀を見た店主のドワーフが、刃こぼれした状況を聞きくと、ロックバードの戦闘でとカズは話した。
 すると今後の参考にしたいと言い、刃こぼれした刀を引き取らせてほしいと言われたので、役にたつならとカズは刃こぼれした刀を店主のドワーフに渡して店を出た。

 人の目がない路地裏に入り〈ゲート〉で、初めてこの世界に来た森に移動した。
 そこから最初に行った村の、近くの高台にある祠に向かった。
 カズはその祠に向かい、管理神と話せるか試しに祈って話し掛けた。
 しかしなんの反応もなかった。
 諦めたカズは、村にある食堂兼酒場の宿屋に行き、女将のポトフと旦那のガンボに挨拶をして、たあいない話をした後に村を出た。
 その後は、人気の無い場所で〈ゲート〉を使い、リアーデの街に戻った。

 日が傾く頃に、リアーデの中央広場を通ると、昼間に比べて人は少なくなっていた。
 新年のお祭り最終日とあって、近くの村から来ていたであろう人達は、殆ど村に帰っていた。
 早じまいした何軒かの露店の人達は、酒場で互いの労をねぎらっていた。
 カズは中央広場を抜けてココット亭に戻る。
 食堂ではクリスパとアレナリアが、手にお酒の入ったコップを持ったまま、ボケーッと一点を見つめていた。

「あ、カズ兄。どこ行ってたの?」

「ちょっと色々と。それより二人はどうしたの?」

「分からないけど、お酒の呑み過ぎじゃないかなぁ?」

「あれからずっと?」

「うん。あ、そう言えばさっき、お母さんが二人に何か言ってたっけ」

「女将さんが? (もう終わりにするように、とでも言ったのかな?)」

「気付いたら、いつの間にか話し声がしなくなって、来てみたらこうなってたの。呼んでも返事しないし、どうしちゃったのか」

「とりあえず、全部片付けちゃうおう。二人の持ってるコップも」

「じゃあ私が洗うから、カズ兄が持ってきて」

「分かった」

 カズはそーっと二人からコップを取り、他の洗い物と一緒にキッシュの所に持っていった。
 それでも二人は動かずに、一点を見つめていた。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

処理中です...