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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

216 休養 4 空への憧れ

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「この事(空間転移魔法)を知ってるのは、王都で俺が所属している第2ギルドのギルマスと、第1ギルドのAランク冒険者が一人。それとテイムしたモンスター。あとは……白真だけかな」

「所属してるギルドマスターは分かるけど、他のギルドに所属してる冒険者はどうして? それに白真って誰なの?」

 クリスパはもっともな疑問を、カズに投げ掛ける。

「ギルマスと、そのAランク冒険者とは、依頼で一緒になって、その時に白真ってのが口を滑らせて、二人に知られちゃったんだ。まあ、二人とも悪い人じゃなかったから、良かったんだけど」

「何その白真って。考えも無しに喋るなんてバカなの? その調子じゃあ、他にも話してるかも知れないわよ」

「それは大丈夫よ」

「どうしてアレナリア?」

「クリスパも白い災害って知ってるわよね?」

「アヴァランチェの北にある山を住みかにしてるっていう、噂のフロストドラゴンでしょ」

「ええ。そのフロストドラゴンの名前が白真で、カズが従えてるみたいなのよ。白き災害に自分から会いに行く、命知らずなんて居ないでしょ」

「……はぁ? 何よそれ。本当なのカズさん!?」

 クリスパは椅子から立上がり、テーブルを叩いて身を乗りだし、カズに詰め寄る。

「ま、まぁ」

「ハァー……驚きを通り越して、呆れるわね」

 クリスパはため息をつきながら椅子に座り、テーブルに肘をついて、その手に顎を乗せ、目を細めてカズを見る。
 カズはクリスパから目を反らし、アレナリアの方を見て、無言で助けを求める。
 しかしアレナリアはそれに気付かず、頬を赤くして照れるだけ。

「私の前で、なにイチャついてるのよ。キッシュに言うわよ」

「別にイチャついてなんて。そうだろアレナリア」

「え、ええ。そんなこと……」

「アレナリアは満更でもないみたいよ」

「……あれぇ、キッシュどうしたのかなぁ?(早く戻って来て)」

 カズはクリスパに凝視され、アレナリアは隣で赤い顔をしてニヤついていた。
 三人が黙ったままでいると、そこにキッシュが嬉しそうに戻って来た。

「今日のお客さんは、お昼も夕食も外で取るから、行って来ても良いって。あれ、皆黙ってどうしたの?」

「なんでもないわ。さぁ、義母さんが良いって言ったなら、行きましょうか」

 クリスパが席を立ち、それに続きカズとアレナリアも椅子から立ち上り、四人でココット亭を出る。
 人混みを避けるため路地裏を通り、四人は門を抜けて街の外に出る。
 カズが先頭を歩き、来るときにマイヒメから降りた草原に向かった。
 カズは念話でマイヒメに話し掛け、降り立った場所に来るように連絡した。

「ねぇカズ兄、テイムしたモンスターってどこに居るの?」

「大抵はテイマーと共に居るはずだけど、テイムしたモンスターが大きかったりする場合は別よ。例えば他に、水中でしか生きられないモンスターだったりとかね」

「へぇーそうなんだ。さすがクリ姉ぇ」

「へぇーそうなんだ。さすがクリスパだ」

「テイムしたカズさんが驚いてどうするんですか」

「アハハは。すいません」

「ハァ……それでテイムしたモンスターは、どこから来るの? キッシュがお待ちかねよ」

「そろそろ来る……あ、来たよ」

 カズは上空を見て指差すと、三人はその方向を向いた。

「何かが飛んでくるわね」

「カズ兄がテイムしたのって、鳥さんなの?」

「二人とも驚くから、覚悟しておいた方がいいわよ」

「えっ」

 アレナリアの言葉に、息を呑んだキッシュは、そっとカズの後ろに隠れる。
 するとそこへ、マイヒメがフジと共に降りてきた。

「『どうしたのカズ。またどこかに移動するの?』」

「いや、そうじゃないんだ。この街にも紹介する人が居たから、連れてきたんだ。二人がマイヒメに会いたいって言ったもんでさ。何度も悪いな」

「『そう。別にいいわよ』」

「カズさん。これがテイムしたモンスターなの?」

「カズ兄怖いよ」

 クリスパは驚き、キッシュは怯えていた。

「だから言ったでしょ。覚悟しておきなさいって」

「アレナリアさんは、怖くないの?」

「まだ少し怖いけど、テイムしてるのがカズだから平気よ」

「フジ、こっち来てキッシュに挨拶してあげて(フジならキッシュも大丈夫だろ)」

 カズが呼ぶと、フジがキッシュ所に寄って来る。

「じゃあ、紹介するよ。こっちの大きい方がマイヒメで、小さい方が子供のフジ。それで、俺の後ろに隠れてるのがキッシュで、もう一人がクリスパ」

「『キッシュとクリスパね』」

「キッシュはただの女の娘だから、マイヒメは冗談でも、つついたりしないように」

「『弱いのね』」

「まぁそうだね」

「カズ兄……触っても、大丈夫かな?」

「さっきまでの威勢はどうしたの? キッシュ」

「だって、あんな大きな生き物見たことないんだもん。怖いよ」

「マイヒメは怖くても、フジなら平気でしょ」

「う、うん。大丈夫だと思う」

「フジ。つついたりしちゃ駄目だからね」

「『優しそうなお姉さんだから、そんなことしないもん』」

「うん。良い子だ(……ん? 優しくなさそうだったら、つつくのか?)」

 最初は少し怯えていたが、フジとじゃれあってる内に、キッシュの表情もやわらいできた。
 つくづくフジが居て良かったと、カズは思っていた。
 キッシュとフジが遊んでいるのを、カズが見ている時、クリスパはマイヒメをじっと見ていた。

「どうしたのクリスパ?」

「ねぇアレナリア。カズさんがテイムしたマイヒメに乗って、ここまで来たって言ったでしょ」

「ええ。それがどうしたの?」

「私も乗って、空高く飛んでみたいわ。ねぇマイヒメ、一度私も乗せてくれない?」

「『ワタシに乗りたいの?』」

「クリスパは怖くないの? 山よりも高く上がるのよ」

「それは怖いわよ。でもこんな機会は滅多にないでしょ。空を飛べる魔法なんて使えないんだから」

「『やっぱりカズじゃないと、言葉は通じないわね』」

「それはそうだけど。私もマイヒメの言葉は分からないから、カズに聞いてみましょう」

「そうね。カズさ~ん」

 クリスパは少し離れた所に居るカズを呼ぶと、キッシュとフジを連れて、マイヒメの近くにやってきた。

「どうしたの?」

「お願いがあるんだけど。一度でいいから、私もマイヒメに乗せてくれない?」

「クリスパも空高く飛んでみたいんだって」

「そう言ってるけど、マイヒメはどう?」

「『聞いていたわ。カズの友人なんでしょ。なら良いわよ』」

「マイヒメが良いってさ」

「やったぁ! キッシュも行こう」

「私は怖いからいいよ。フジと遊んでるから、クリ姉は行ってきなよ」

「そう。じゃあそうするわ。よろしくねマイヒメ」

「『ええ』」

「クリ姉気を付けて。怪我しないようにね」

「大丈夫よ。怪我した時は、カズさんに責任とって、一生面倒見てもらうから」

「なんですと!?」

「一生なんて冗談よ」

「冗談か……(ん? 一生じゃないけど責任は取れと?)」

 クリスパの笑顔が、何かを企んでるのではと、冗談ながらにカズは思っていた。

「それじゃあアレナリアは、キッシュとフジを見てて。ちょっとクリスパと行ってくるから」

「カズも行くの?」

「そりゃあ、マイヒメの言葉が分かるの俺だけだから(怪我でもされたら後が怖いからな)」

「そ、そうよね。分かったわ。キッシュとフジは、私が面倒見ておくわ」

「よろしく(上空は寒いから、クリスパにも耐性を)」

 カズはマイヒメに乗るときクリスパの手を引き、そっと寒冷耐性を与えた。
 背中に乗ったのを確認すると、マイヒメは大空高く飛び立った。

「きゃ!」

 飛び立った時の勢いで、驚き目を閉じたクリスパは、落ちないようにカズの腕をにしっかりと掴む。
 少ししてカズがクリスパを呼ぶと、ゆっくり目を開けた。 

「スゴ…い。こんな景色初めて。リアーデの街があんなに小さく」

「喜んでもらえた?」

「ええ、最高の気分。ありがとうカズさん。ありがとうマイヒメ」

「『こんな事で喜んでもらえるなんて』」

「飛べる人なんて居ないから、大空に憧れるんだよ」

「『でもカズは飛べるでしょ』」

「まぁ、俺はね(探せば他にも、フライの魔法を使える人が居るだろうよ)」

 十分程の遊覧飛行を終え、カズとクリスパを乗せたマイヒメは、地上へと降りる。
 クリスパは満足そうな顔をしていた。

「クリ姉、怖くなかった?」

「気持ち良かったわ」

「クリスパは相変わらず度胸あるのね」

「アレナリアとは違うわよ」

「でも最初に、きゃ、ってかわいい声出してたけどね」

「へぇ。クリスパがねぇ」

「ちょ、カズさん」

 珍しくクリスパが顔を赤くして、恥ずかしがっていた。

「ごめんごめん」

「もういいわよ。カズさんのテイムしたモンスターも見れたんだし、街に戻りましょうか。お昼もまだだったから、お腹空いたわ」

「そうね。そうしましょう」

「わ~い。皆でご飯だ!」

「キッシュの食いしん坊は健在だな」

「カズ兄ひど~い。もうそんなに、食いしん坊じゃないも~んだ」

「よく言うわねキッシュ。昨日だってつまみ食いして、義母さんに怒られてたでしょ」

「クリ姉ぇ、それは言わないでよ」

「『カズ。ワタシ達も狩りに行くわ』」

「分かった。アヴァランチェには、ゲートあれで戻るから」

「『分かったわ。白真の所にでも行ってるわね。フジが話したがってたから』」

「分かった。今日は何度も乗せてもらって、悪かったな。ありがと」

「『別に構わないわよ。しかし主人が仕える……いいえ、なんでもないわ』」

「ん? そうか」

 主であるカズに対して、変わっていると発言しようとしたマイヒメだったが、機嫌を損ねてはと言葉を飲み込んだ。
 出会ってから数日しか経ってないが、そんな事でカズが怒ったりはしないと思ってはいたが、せめて主の知り合いの前では、敬意をもって接した方が良いのではと考えた。
 カズ達四人が街に戻って行くと、マイヒメはフジを乗せて飛び立っていった。
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