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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

210 テイムモンスターの名前

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「魔鉄鉱石を採取されたのですか?」

「え、ええ。砂漠のダンジョンで偶然入手しまして(マイヒメに変な名前だと言われないかなぁ?)」

「そうですか。では明日、カズ君の用事が終わりましたら、倉庫へ案内します」

「あ、はい。お願いします(フジ……まぁ良いか。どうせ俺に、ネーミングセンスは無い)」

「テイムモンスターの登録もあるようですから、儂は朝一に連絡と、倉庫の手配をしておくとしましょう」

 モルトは懐から手帳を出し、翌朝やる事を忘れずに書き留める。

「さっきの様子を見ると、まだ疲れが溜まってる様ですが、フローラさんは大丈夫なんですか?」

「ある程度仕事は片付いたと言ってましたから、休めば大丈夫かと思います」

「そうですか。フローラさんこそ、休養した方が良いと思うんですけど」

「儂もそう思い、休養するように言ったのですが、仕事を遅らせる訳にはいかないと」

「頭が下がります(俺が気軽にテイムなんてしてこなければ、フローラさんの仕事を増やす事なかったのに)」

「それとカズ君」

「なんですか?」

「今はどこに泊まっておられますかな? 急な連絡をするときの為に、教えてもらえますか?」

「宿ですか……それが今夜泊まる所も決まってなくて、以前モルトさんに紹介してもらった宿屋は、依頼に出てる間に期限が過ぎてしまって」

「ラヴィオリ亭ですね」

「はい。それに今はどこも満室で、空いてないんです。それに今回は……」

 カズは寝ている子供の鳥を見る。

「テイムしたモンスターですか」

「ええ」

「う~ん……まぁ数日もすれば、街も平常に戻るでしょう。そうすれば宿も空くでしょうから、また儂がどこか探しておくとします」

「ありがとございます。いつもすいません。お願いします」

「構いません。とりあえず、今夜はここを使ってください」

「良いんですか? 今回依頼を受けてる訳ではないのに、ギルトの部屋を使って」

「ギルドに貴重な素材を卸すため待っている。そういう事にしておけば大丈夫です」

「助かりますモルトさん。フローラさんが来たので直接頼もうかと思いましたが、かなり疲れている様だったので、言い出しづらくて(先日怒らせたからなぁ)」

「あまり特別扱いもどうかと思いますが、カズ君はそれなりの実績がありますから、少しくらい大丈夫ですよ」

「そうですか?」

「ええ。それにここはただの会議部屋です。今使用する予定はないですから、好きに使って休んでください。一晩だけなら問題ないです」

「はい。ありがとございます」

 モルトは部屋を出ていき、カズは今夜泊まる所を確保できた事に安堵した。


 ◇◆◇◆◇


「『カズ、カズ』」

「……起きてのか」

「『お腹空いた』」

「何か食べさせても良さそうなのは……(味付けした物は、マイヒメに言われてるから……)」

「『お腹空いた! お肉お肉!』」

「肉か……とりあえずこれで(残り少ないけど、買い出しに行けば良いだけだしな)」

 カズは【アイテムボックス】から、イノボアの生肉を出して、横で騒ぐ子供の鳥に与えた。
 よほど空腹だったのか、生肉をがっついて食べている。

「『もっと欲しい』」

「今はそれで終わり。あとで王都を出るから、そうしたらマイヒメと合流して、狩りに行けば良い」

「『早く狩りしたい』」

「用事が終わるまで待っててくれ(朝から疲れそうだ)」

「『え~、つまんない』」

「ハァ……少しだけ辛抱して。ほら行くよ(未婚なのに子持ち。しかも人ですら……いやいや、俺の子供じゃなかった!)」

 カズは子供の鳥を連れてギルドの一階に下り、キウイが来るのを待つ。
 退屈そうにしていた子供の鳥は、キョロキョロと辺りを見回していた。
 何かに気付いた子供の鳥が、急にギルトの外へと向かって行く。
 子供の鳥が向かった先に、キウイが居たことにカズは気付いた。
 近づいてきた子供の鳥を、キウイが抱き抱える。

「『おねぇさん来た!』」

「にゃは! カズにゃんより先に、出迎えたくれたのかにゃ」

「ごめんキウイ。大丈夫」

「大丈夫だにゃ」

「キウイはそのこ(子供の鳥)と、仲が良いのね」

「にゃはは! トレニアも抱くかにゃ?」

「私はもう仕事に行かないと」

「トレニアさん、キウイがお世話になりました」

「大した事はしてませんよ。じゃねキウイ、またいつでも泊まりに来て」

「そうするにゃ」

 トレニアは受付の奥へと入っていった。

「昨日とは違って、トレニアさんと親しげに話す様になったね」

「もうトレニアとは友達にゃ。さぁ行くかにゃ」

「門に着く前に、何か食べてく?」

「朝食はトレニアが作ってくれて食べたにゃ。だから大丈夫にゃ」

「そう……(一晩で何があったんだ?)」

「皆と会うとも久しぶりにゃ。こんなにお屋敷を空けるのは、働くようになってから初めてだからにゃ」

 キウイはウキウキと楽しそうにして、足早に門へと向かう。
 貴族区に入る門が見えると、警備をしている衛兵の近くに、女性らしき姿が見えた。
 そこに居たのは、オリーブ・モチヅキ家に仕えるメイドの一人アキレアだった。

「アキレアじゃにゃいか。どうしてここに居るにゃ?」

「モルトさんからジルバさんに連絡が入って、キウイが今日の朝に帰るので、門まで迎えに行ってあげるように言われたのよ」

「そうだったのかにゃ」

「カズさん。キウイを送り迎えしてくれて、ありがとうございます」

「このくらいの事なんでもないですから、気にしないでください。じゃあねキウイ」

「ありがとにゃ。また買い出しの時にでも会うにゃ。そのこ(子供の鳥)にも会いたいしにゃ」

「フジもそう思ってるよ」

「フジ……にゃん?」

「『フジ? 僕の名前?』」

「そう(やっぱり嫌か?)」

「『名前フジ。僕はフジ!』」

「嫌じゃなさそうで良かった。じゃあフジ、キウイにお別れの挨拶して」

「『おねぇさんとは、もう会えないの?』」

「また会えるよ。ただ今は一旦お別れ」

「『おねぇさん。今度会ったらまた遊ぼう』」

 フジがキウイの胸に飛び込み、キウイもフジを抱きしめ別れを言う。

「フジにゃん、また一緒にご飯食べるにゃ」

 それを見ていたアキレアが、カズに近寄り尋ねる。

「カズさん。あの大きな鳥はなんですか?」

「俺がテイムしたモンスターです。キウイとは仲良くなったようで」

「テイムしたモンスター!? カズさんには、会う度に驚かされます」

「そうですか……(アキレアさんだけに、『呆れられた』……なんてな)」

 別れを済ませたフジは、キウイからカズの背中に移る。
 キウイはアキレアに付いて門を通り、貴族区へと入って行った。

「いにゃ~、行きも帰りも道中楽しかったにゃ。怖い事もあったけど、良い思いでにゃ」

「キウイ。その話し方直しなさいよ」

「大丈夫にゃ。お屋敷に戻ったら直すにゃ」

「それより怖い事があったと言ってたけど、盗賊でも出たの?」

「違うにゃ。今思い出しただけでも、足が震える事を経験したにゃ。この話はお屋敷に戻ったら、皆に聞かせてあげるにゃ。楽しみにしてるにゃ」

「一人だけ楽しそうにしちゃって」

「にゃはは。楽しかったにゃ。また村に帰る時は、送り迎えをカズにゃんに頼むにゃ」 

 キウイとアキレアを門の向こうへと見送ったカズは、フジを連れてギルトに戻って行く。
 ギルト入ると、モルトが受付に居る職員と話をして、カズが戻るのを待っていた。

「戻られましたか」

「お待たせしてすいません。モルトさん」

「構いませんよ。貴族区の門まで送ると言っていたので、すぐに戻るのは分かりましたから」

「それじゃあ倉庫への案内お願いします」

「その前に、テイムモンスターの正式な登録を済ませましょう。今付けている物を、別な物に変更しますか?」

「変えます。物はこれで」

 カズは【アイテムボックス】から、魔鉄鉱石から作り出した『バードリング』をモルトに渡した。

「ではそれは預かります。登録しますので、倉庫から戻ってきたら付け替えてください」

「分かりました」

 モルトは今まで話していた職員にそれを渡し、手続きをするようにと頼んだ。

「それでは倉庫の方に行きましょう」

「はい」

 モルトに付いてギルドを出て行き、十数分程で目的の倉庫に着いた。
 外から見るとなんの変哲もないただの倉庫だが、中には入ると更に倉庫があり、そこの扉には何重にも施錠がしてあった。
 魔力の気配も感じたので、魔法での施錠もしてあるようだった。
 カズはモルトに解錠するとこは見ないように言われ、少し離れた所で待つ。

「お待たせました。開きましたので、もうこちらに来ていただいて構いません」

「分かりました」

 倉庫の中にはモンスターの魔核(魔石)や、魔鉄鉱石が少量置いてあった。

「ではこちらに出してください。選別はギルト職員がしますので、適当に置いてもらって構いません」

「そうですか。では」

 カズは【アイテムボックス】から、ダンジョンから回収してきた魔鉄鉱石を、全て出した。

「これで全部です」

「……もの凄い量ですね。よくこれだけの量を見つけられたものです」

「元はストーンゴーレムだったんですよ」

「ストーンゴーレム……ですか?」

「ええ。ダンジョンで倒したんです。そうしたら、ただの石だったのが魔鉄鉱石に変わったんで、回収してきたんです」

「ほう。これだけあれば、加工する職人は大いに喜ぶでしょう。ギルトとしても魔鉄鉱石の在庫が増えて、喜ばしい限りです」

「それは良かったです」

「買い取り額の方は、すぐには分かりませんので、決まりましたらお知らせします」

「分かりました。お願いします」

「儂は施錠してからギルトに戻りますので、カズ君は戻っていただいて大丈夫ですよ」

「そうですか。それじゃあ、俺はこれで」

 モルトと別れ、カズは一人でギルドへと戻った。
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