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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

209 ぽっちゃりキウイ!?

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 宿屋に着くと、既にキウイが入口で待っていた。

「お待たせキウイ。遅かった?」

「今ちょうど出てきたとこにゃ」

「さっと軽く何か食べてから行こうか」

「そうするにゃ。昨日は食べ過ぎて、少しお腹が重いにゃ」

「両手に串焼きを持っては、次から次へと食べていたし、お腹一杯と言っておきながら、甘いのは別腹だって」

「にゃはは。お屋敷に居たら、そんな事できないにゃ。少し寝苦しかったけど、にゃちきは満足にゃ」

「お屋敷の皆に会ったら、太ったって言われるんじゃないか」

「にゃ! だ、大丈夫にゃ。今日はずっと歩くからにゃ、全然まったくこれっぽっちも問題ないにゃ」

 キウイは自分のお腹をつまみ、少し食べ過ぎたことを後悔していた。

「朝は果物一個だけにするにゃ」

「それだと昼まで持たないよ」

「太ってお屋敷に戻ったら、アキレアとミカンに何か言われそうにゃ」

「そんな事は……(ミカンなら言いそうな気がする)」

「さぁ早く行くにゃ」

 キウイはお腹を気にしながら、大通りを一人先に早足で行く。

「大して変わってないと思うけど、一言余計だったか」

「『どうしたのカズ?』」

「いや、なんでもない。俺達も行こう」

 カズと子供の鳥は、先に行ったキウイを追い掛け、一緒に早足で王都の中心街に向かって行く。
 早く歩くと疲れるからと忠告をするが、キウイは平気だと歩く速度を緩めなかった。
 さすがに疲れてきたようで、一時間程するとキウイの歩く速度が落ち、見るからにへばっていた。

「『おねぇさん大丈夫?』」

「にゃ、にゃんだにゃ?」

「キウイが疲れてるのを見て、心配してるんだよ(忠告したのに)」

「心配してくれるのかにゃ。優しいにゃ。にゃちきにも言葉が分かれば良いのにゃ」

「無理してこのまま行くより、少し休憩した方が早いから」

「そうだにゃ。……これで少しは、お腹が引っ込んだかにゃ」

 子供の鳥がキウイのお腹を突っつく。

「にゃははッ! 何するにゃ」

「『ぷよぷよ』」

「引っ込んだって言ってるんだよ」

「……本当かにゃ? そう言ってるとは思えないにゃ」

「朝と比べるとって事だよ(なんでこういう事だけは、分かるんだ)」

 休憩を済ませた二人と一体は、人で込み合う大通りを歩いて行く。
 ときには路地裏に入り、迂回しながら目的地へと進み行く。
 途中昼食を取っていると、街の子供達が、カズが連れている子供の鳥を見に集まって来た。
 子供が多く集まる前に、今居る子供達に子供の鳥を見せてから出発した。
 寄ってきた子供の相手をして疲れたようで、出発時に子供の鳥はカズの背中に乗った。

「『ぺたぺた触られて疲れた』」

「お疲れさん」

「子供にあんな触られたのに、怒らないなんてえらいにゃ。嫌がって突っつくと思ったにゃ」

「『……なぁにぃ?』」

「怒らなかったから、えらいってさ」

「『……』」

「あれ?」

「寝てるにゃ。こうしてると、大きな鳥ってだけで、モンスターだってこと忘れるにゃ」

「そうだね。でもマイヒメくらい大きくなるんだよ」

「大きくなっても、にゃちきのこと忘れないでくれると嬉しいにゃ」

「それならキウイも、大きいマイヒメに慣れないと」

「そ、そうだにゃ……」

 キウイの尻尾は動きを止め、顔は少し引きつっていた。

「ま、まあ、今すぐじゃなくても(マイヒメに乗ってた時の事を思い出してるな)」

 二人と一体のモンスターは、賑わいでいる王都の大通りを、寄り道しないように行く。
 しかし所々で大道芸をしている人達に、目を奪われたキウイが足を止め、思ってたよりも移動に時間が掛かった。
 もうすっかり日が暮れ暗くなり、辺りには朝から呑んでいると思われる、泥酔した酔っ払いが多くなっていた。

「見物しながら来たから、遅くなったにゃ」

「キウイがちょくちょく、足を止めてたから」

「カズにゃんだって見てたにゃ!」

「分かったてる。別にキウイが悪いとは言ってないよ。だからそう膨れないで」

「『おねぇさん面白い顔』」

「なんか笑われてるみたいにゃ」

「膨れっ面が面白いらしいよ」

「もう!」

 キウイは更に頬を膨らます。

「『面白い』」

「ほら、酔っ払いに絡まれる前に、一度ギルトに行こう。空いてる宿屋は見つからないだろうから、ギルトに泊まれるか聞いてみるよ」

「分かったにゃ。今からお屋敷に戻ると、皆に迷惑にゃ」

「『おねぇさん、面白い顔もう終わり?』」

 子供の鳥はキウイを突っつく。

「こらこら、ギルトに行くからもう終わり」

「にゃ?」

「キウイが膨れっ面が、まだ見たかったらしいよ」

「もうしないのにゃ」

 と言いつつ、頬を膨らませたキウイ。

「『面白いから、おねぇさん好き』」

 子供の鳥がキウイに飛びつき、キウイも優しく抱き抱えた。
 拠点登録してある第2ギルトに入ったカズは、受付に居るであろうトレニアを探した。
 しかしトレニアの姿はなかった。

「トレニアさん休みかな? それとも、もう帰っちゃったのか? 他の女性職員とは、殆ど面識がないから頼みづらいし」

「何が頼みづらいんですか?」

 ギルトの入口から声を掛けてきたのは、私服のトレニアだった。

「トレニアさん! 受付に居ないから休みだと」

「今日はもう上がったんですけど、忘れ物したので、取りに戻ってきたんです」

「そうなんですか」

「それで、私に何か頼みとか聞こえましたけど」

「いやぁそれが、ここまで戻って来るのに時間が掛かってしまって、泊まる所がなかったもので、一晩ギルドに泊めてもらえないかと」

「カズさんは冒険者で男性なんですから、一晩くらい外で過ごしても平気でしょ。それにお祭りで、夜通し開いてるお店もありますから」

「俺だけならいいんですけど、ただキウイは……」

「にゃちきなら大丈夫にゃ」

「そういうことですか……分かりました」

「頼んでギルドに泊めてもらえますか!?」

「いいえ。キウイさんは、うちに泊まってください」

「そんな、悪いにゃ」

「女同士ですし、一晩くらいなら構いませんわ」

「しかしにゃ……」

「俺はこいつ(子供の鳥)と居るから、キウイは泊めてもらいなよ」

「遠慮しないでどうぞ」

「そうかにゃ。それじゃあ、一晩よろしくにゃ」

「はい荷物。明日は貴族区の門まで送ってくから」

 カズは【アイテムボックス】からキウイの荷物を取り出し渡した。 

「明日は朝から仕事がありますから、キウイさんと一緒に来ます」

「それじゃあ、俺も朝にはギルトに居るようにします。一晩キウイをお願いします」

「カズにゃん。また明日にゃ」

「また明日」

 キウイはトレニアと共に、ギルトを出て行った。
 キウイが抱えていた子供の鳥は、今はカズの背中へと移っている。

「カズ君」

 トレニアとキウイを見送ったカズに、声を掛けてきたのはモルトだった。

「モルトさん。なんですか?」

「少々お時間よろしいですか」

「ええ。構いませんが」

「では上の部屋に行きましょう」

 カズはモルトの後に付いて、三階の部屋に移動した。

「その背に居るのが、カズ君がテイムしたモンスターですか」

「正確には、こいつの親なんですけど。それで話とは? (テイムしたモンスターの事なのか?)」

「ロウカスクから儂の所に、定期的に手紙が来るんです」

「はあ(それが俺と関係が?)」

「大した事ではないのですが、そこにアレナリアに関する事が書かれてましてな」

「アレナリアが何か?」

「最近少し元気がないそうで」

「様子を見に行って来たら?」

 不意に部屋にフローラが入って、話に割り込んできた。 

「フローラさん!」

「あのアレナリアが皆と打ち解ける様になったのは、カズさんのお陰なんでしょ。だったら新年に顔くらいは見せないと」

「そんなもんですか」

「そうよ」

「モルトさんも、そう思いますか」

「まぁそうですね。人と距離をおいていた彼女(アレナリア)が、今ではギルトの女性職員と、仲良くやってると聞いていますから。その立て役者であるカズ君に、新年から挨拶はしたいと思いますよ」

「そうですね。じゃあ行ってみます。明日の朝にキウイを送ったら、用事が終わりますから(こちらの世界でも、新年の挨拶回りみたいなものがあるのか?)」

「そうしてあげてください。せっかく明るくなった彼女が、元に戻っては悲しいですから」

「カズさんは、もっと女性の気持ちを分かった方が良いわよ」

「女性の気持ち……ですか(女心かぁ……)」

「まぁ男性に言うのも酷ね。とりあえず休養がてら会ってきなさい。他にもお世話になった人とかにも」

「そうします」

「それとテイムモンスターの事だけど、母鳥の方は戻って来たら登録するとして、子供の方は出発前に登録済ませましょう。仮登録のままで他の街や村に行くと、入る時に確認事項が増えて面倒になるから」

「分かりました。お願いします」

「それじゃあ、名前を教えて。考えてあるでしょ」

「……! (まだ考えてなかった! どうしよう。何か縁起が良さそうな……ライジングホーク…新年…鷹…えーと……)」

「決まってないの?」

「……富士…(二鷹、三茄子とかあるから、ニタカは……まんまか。他に……)」

「『フジ』? それが名前ね。分かったわ」

「……ぇ!? (フジ?)」

 カズが不意に口走ったのが聞こえたらしく、フローラは子供の鳥の名前だと思ってしまった。

「明日出発前に、仮登録から本登録にするから。それとモルトは、カズさんを倉庫へ案内して。貴重な素材を採取してきたから」

「貴重な素材ですか?」

「ええ。魔鉄鉱石よ」

「魔鉄鉱……承知しました」

「フゥ……それじゃあ、あとはよろしく。私は仮眠するわ」

 話を終えたフローラは眉間を押さえ、大きく息を吐きながら部屋を出ていった。
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