上 下
217 / 784
三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

208 大空からの眺め

しおりを挟む
 覚悟を決めたキウイをマイヒメの背中に乗り、王都の近くまで飛んでいくことに決まった。

「マイヒメゆっくりだから。ゆっくり飛んでくれ」

「『分かったわ。じゃあ行くわよ』」

 マイヒメが翼を広げ、大空へと飛び上がった。
 キウイは目を閉じ、カズの腕に強く抱きつき震える。
 マイヒメの上昇が止まると、風の流れに乗り空を滑るように飛ぶ。

「『カズ。どこまで行けば?』」

「とりあえず王都から少し離れた、人気のない所を見つけて降りよう。街道近くや街中でなければ、人はあまり居ないと思うから」

「『どこか探しましょう』」

「頼むよマイヒメ」

 マイヒメは王都の方面へ、ゆっくりと飛んでいく。

「か、風が強いけど大丈夫かにゃ」

「無理そうなら、すぐに降りようか(目をずっと閉じてるから、こりゃあダメかな)」

「だ、大丈夫だにゃ。カズにゃんを信じてるにゃ」

「やっぱやめとけば……あ! ほらキウイ、王都が見えた」

「そう言われても、目が開けられないにゃ」

 キウイが震えてるのを見て、子供の鳥がキウイに寄り添う。

「にャ! なんにゃ?」

「『どうしたの、おねぇさん?』」

「飛んだことないから、高い所がちょっと苦手なんだよ」

「なんにゃ? さっきのこ(子供の鳥)かにゃ?」

「そう。キウイが震えてるから、心配してるんだよ」

「そ、そうかにゃ……(怖くない、怖くないにゃ)」

 キウイが薄目を開けて、寄り添ってる子供の鳥を見る。
 子供の鳥も、キウイの顔を覗き込む。

「『おねぇさん大丈夫?』」

「大丈夫かってさ」

「にゃ、にゃちきは大丈夫にゃ」

 キウイはしっかりと目を開け、子供の鳥を見て気持ちを落ち着かせようとする。
 次に自分がしがみついている腕の人物(カズ)を見る。

「目、開けられた?」

「にゃ、にゃんとか……」

「あっちを見れそう?」

 カズが進行方向に顔を向けると、キウイも恐る恐る同じ方に顔を向ける。

「に、にゃかい……」

「にゃかい? (あ、高いって言ったのか)」

 眼下に広がる王都に目を奪われ、いつの間にかキウイの震えは止まっていた。

「スゴいにゃ~! 王都を上から見れるなんて」

「少しは落ち着いた?」

「落ち着いたけどにゃ、これ(カズの腕)離さなくてもいいかにゃ? 高い所は好きだけど、ここまで高いと……」

「良いけど、そこまでぴったりとくっつかなくても。もう少し離れても大丈夫だから」

 キウイは自分の状態を、しっかりと確認する。

「……嫌にゃ。怖いからカズにゃんが恥ずかしくても、降りるまで離れないにゃ」

 キウイはカズの腕に自分の腕を強く絡ませ、離れようとしない。
 毎度の事ながら、カズの腕にはキウイの柔らかい胸の感触が伝わる。
 腕に伝わる感触から気を紛らすため、カズは【マップ】を見て人の少ない場所を探す。
 王都の少し外、街道から離れた場所をマイヒメに伝えて、そこへと降下する。
 地上に着くと、カズの腕をしっかりと掴みながら、マイヒメから降りるキウイ。

「街道から少しそれたとはいえ、こうも人が居ないなんて」

「お祭りは盛大だからにゃ、王都の中央街じゃなくても賑やかにゃ。新年のお祭りの間に王都にから出る人は、行商人か冒険者くらいだと思うにゃ」

「行商人は稼ぎ時だからね。ああ! だからキウイは迎えに馬がなくても、街道で王都へ向かう行商人の馬車が通ったら、乗せてもらおうって言ったのか」

「そうだにゃ。お祭りの時は、行商人の馬車が多く通るにゃ。よく売れるから何度も品物を運ぶのにゃ」

「そうなんだ。よく知ってるね」

「村に来る行商人のおっちゃんに聞いたにゃ」

「ねぇキウイ、落ち着いたように話してるけど、なんで俺の腕を掴んだままなの? もうマイヒメから降りて地上に居るんだから、離れても大丈夫でしょ」

「今カズにゃんから離れると、倒れるにゃ」

「少し座って休もう(足ガクガクしてるし、腰が抜けたか?)」

「そうするにゃ」

「王都はすぐそこだから、日が暮れる前に宿屋を見つけて一泊すれば、明日には第2ギルトまで行けるよ」

「『カズ。人が来るから、ワタシは離れるわね』」

「ああ、分かった」

「『坊やを任せたわ』」

 マイヒメは子供の鳥をカズに預け、空高くへと飛んでいった。

「このこ(子供の鳥)を置いて、どこか行っちゃったけどいいのかにゃ?」

「マイヒメを街中に連れていけないからね。俺の居場所がはっきり分かるように、子供の鳥を置いて行ったんだよ。マイヒメはまだテイムしたモンスターとして、ギルトに登録してないから、見つかったら騒ぎになるだろうしね」

「あんな大きなモンスターをテイムしてる人なんて、王都でも見たことないにゃ」

「……こっち(子供の鳥)なら連れていても変じゃないでしょ。仮の登録はしてあるから、街中で連れていても大丈夫だし」

「カズにゃんと一緒だと変わった事ばかりで、飽きなくていいにゃ」

「ハハ……。どう、もう立てそう?」

「大丈夫にゃ。足に力が戻ったにゃ」

「じゃあ行こう。空いてる宿屋を見つけないと、王都で野宿になっちゃうから」

「そうなったらお祭りなんだし、夜通し遊べば良いにゃ」

「夜通し遊ぶなんて、若い頃にゲームで徹夜してたくらいだよ」(ボソッ)

「何か言ったかにゃ?」

「ん、あ、いや、なんでもない」

 二人は街道に出て、王都に向かい歩いて行く。
 子供の鳥は、二人の前をパタパタと飛び、疲れるとカズに背負われ楽しそうにしていた。
 カズ達が王都に入ると、先ずは宿屋を探した。
 しかし手頃な宿はどこも満室で全然見つからない。
 唯一空いていたのは、一泊金貨三枚(30,000GL)もする高級な所だった。
 さすがに王都の街中で、キウイを野宿させるわけにはいかないと、カズは部屋を借りることにした。

「キウイはここに泊まって」

「ねぇカズにゃん。ここは豪商とかお金持ちの人が泊まる高級な宿だにゃ。にゃちき達には合わないにゃ」

「と言っても、他に空いてる宿屋が無かったから。それに泊まるのはキウイ一人だよ」

「なんでにゃちきだけにゃ? 広い部屋なら、カズにゃんも一緒に泊まったっていいにゃ」

「ここの宿は、このこ(子供の鳥)を泊められないんだって。まぁ俺はなんとでもなるから」

「だったらにゃちきも、野宿するからにゃ」

「夜通し騒いでる酔っ払いもいて危ないから、キウイは宿屋に泊まってよ。怖い思い(マイヒメに乗せた事)させたお詫びだと思って」

「……分かったにゃ。なんかにゃちきだけ贅沢して悪いにゃ(でっかい鳥に乗るって言ったの、にゃちきなのににゃ)」

「気にしない気にしない。宿代払った俺が良いって言ってるからさ。夕食は露店で色々買って食べようよ」

「それは良いにゃ! さっき美味しそうなのを見つけたにゃ。早くから行くにゃ」

「現金だな(キウイらしくて良いけど)」

 キウイと子供の鳥が露店で好きなものを選び、お腹一杯になるまで食べてお祭りを満喫した。
 キウイを宿屋まで送ると、カズは子供の鳥を連れて王都から出る。
 人の来なそうな場所まで行き、マイヒメと合流して野宿をすることにした。

「『あの獣人の娘はどうしたの?』」

「空いてる宿屋を見つけたから、そこに泊まってもらってる」

「『カズは一緒じゃなくて良かったのでは?』」

「テイムしてても、モンスターお断りの宿屋だったから。まぁ高級な宿屋だから仕方ないのかな」

「『面倒ね』」

「テイムしたモンスターと一緒でも大丈夫って宿屋でも、マイヒメは無理だろうね。大きいから」

「『人の宿屋なんて、泊まりたいと思わないわ。それよりあの娘は、カズとつがいになるの? だったら子作りしなくていいの?』」

「つが……こ、子作りなんてしないよ。つがいじゃないんだから!」

「『そんなに驚く事かしら? 雄と雌が一緒に居れば子作りはするでしょ』」

「ま、まぁ……でもキウイは、そういうのと違うから」

「『そう。強い雄の子を産みたいと思うのは、当然だと思うのだけど。カズには居ないの?』」

「べ、別にいいじゃないか。さぁ話は終わり。俺ちょっとやることあるから」

 カズは【アイテムボックス】から、砂漠のダンジョンで入手した魔鉄鉱石を取り出し、スキルを使ってある物に加工した。


 ◇◆◇◆◇


「朝か……(昨夜はマイヒメに、つがいだ子作りだと変なこと言われたなぁ。まぁ野生動物と人の違いみたいなもんか。気にしてもしょうがない)」

「『カズ起きた。おねぇさんとこに行く?』」

「ああ。キウイの所に行くよ」

「『また何か食べる!』」

「露店で売ってる食べ物が気に入ったのか?」

「『カズ。あまり人が作った食べ物を、坊やに与えないで』」

「そうだね。モンスターといえども、子供のうちから味が濃い物を、食べさせない方がいいか」

「『ええ。それにまだ狩りを覚え始めたばかりだから、簡単に食べ物を与えてたら、狩りの感覚が鈍るだけじゃなくて、危険な目にだって』」

「分かった。でも街中で狩りはできないから、与える食事を少なくするよ」

「『坊やも分かったわね』」

「『えぇー』」

「『坊や!』」

「『……はい』」

 カズはしょんぼりした子供の鳥を連れて、キウイが泊まっている宿屋へと向かった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...