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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

207 初めての狩り と 怯えるキウイ

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 カズが戻るまでの間に、マイヒメは狩りを教えるため、子供の鳥を背に乗せて空に舞い上がり、近場で獲物を探す。
 数匹のイノボアを見つけたマイヒメは、背に乗る子供の鳥に狩りの方法を教え、ひとりで行かせる。

「『坊や。あそこに見える獲物を、どれでもいいから狩っておいで』」

「『ひとりで?』」

「『そう。ワタシはここで、見ていてあげるから、教えた通りにやってみなさい。森の中に逃げやれたら厄介だから、その前に仕留めるのよ』」

「『分かった。ひとりで行く』」

 上空からイノボア目掛けて降下していくと、子供の鳥に気付いたイノボアが、四方に別れて一斉に走って逃げだす。
 子供の鳥は、一匹のイノボアに狙いを定めて追い掛けるが、寸前のところで森に入られ、仕留めることができなかった。

「『お母さん。逃げられちゃったよ』」

「『惜しかったわね坊や。もう一度やってみなさい』」

「『次は仕留める!』」

 森から離れた所に居た一匹のイノボアを見つけ、子供の鳥は真上から急降下する。
 子供の鳥が放つ殺気に気付き、またもや近づく前に逃げるイノボア。
 先程と同じく森に入られると思えた瞬間、イノボアが急に方向を変えて、森から遠ざかった。
 子供の鳥は急旋回して一気に近づき、小さいながらも鋭い鉤爪で、イノボアを捕らえ仕留める。
 その様子を見ていたマイヒメが、子供の鳥が居る所に降りる。

「『良くやったわね坊や』」

「『お母さん、さっき何かした?』」

「『何もしてないわ。坊やがひとりで仕留めたのよ(手助けしたけど、坊やが自信をつけるのためナイショ)』」

 森に逃げ込もうとしていたイノボアに対して、マイヒメが上空から威圧ていた。

「『ふ~んそうか』」

「『さぁ自分で仕留めたんだから、お腹いっぱい食べなさい』」

「『お母さんにも半分あげる』」

「『ありがとう。食べ終わったら、カズの元に戻るわよ』」

「『は~い』」


 子供の鳥が一度目の狩りを始める頃、カズは村の入口に着きキウイが来るのを待っていた。

「カズにゃん、早かったにゃ」

「昨日の夜には、森から出た辺りまで来ていたから」

「新年そうそう、こんな所まで迎えに来てもらってごめんにゃ。王都から来たなら、一日くらいしか休む暇がなかったかにゃ?」

「約束したから別に気にしなくていいよ。それに新年だからって、必ず休むとは限らないから。お祭りで露店を出してる人だっているんだしさ」

「それもそうだにゃ」

「じゃあ出発しようか。荷物は預かるよ」

 カズはキウイから荷物を預かり【アイテムボックス】に入れる。
 荷物をカズに渡したキウイは、キョロキョロと周りを見る。

「馬か馬車はないのかにゃ?」

「それが急いで来たもんで、借りることができなかったんだ(大きな鳥なら居るんだけど、あとで説明するか)」

「別に歩きでも構わないにゃ。荷物を持たなくていいから、王都まで行く日数が、馬車で村に来たときと変わらないと思うにゃ」

「じゃあ行こうか」

「街道に出れば、馬車に乗った行商の人もいると思うにゃ。その人に頼んで、乗せてもらえば良いにゃ」

「そうだね(キウイが急いでいなければ、のんびり行くさ。それと寒くないようにしておかないと)」

 二人は村からの道を歩み、カズが昨夜野宿した場所まで来た。
 マイヒメの姿がなかったが、カズは気にせず森へと入っていく。

「村に帰るときは、この森に入った所で野宿したにゃ。カズにゃんが居たから、ナツメとグレープも安心して寝てたにゃ」

「俺はキウイにからかわれたな(添い寝の誘いしてきたし)」

「にゃはは、そんな事ともあったにゃ。カズにゃんには断られちゃったけどにゃ」

「未婚の若い娘が、冗談でもやる事じゃないと思うけど(あれ、前にも言ったっけかな?)」

「あの時はナツメとグレープも居たから、皆で寝ようとして言っただけにゃ。カズにゃんなら断ると思って言った冗談にゃ」

 二人は村に向かう時の事を思いだし、たわいない話をしながら森の中の道を歩いていく。
 視線の先に森の出口が見えた頃、お腹の鳴る音が、カズの横から聞こえてきた。

「にゃはは。聞こえたかにゃ? 恥ずかしいにゃ」

「もうすぐ森を抜けるから、そうしたら休憩にして、昼食を取ろう」

「朝食が少なかったから、お腹すいたにゃ」

「食べる時間なかったの? そんなに急がなくても待ってたのに」

「昨夜は義父さんに付き合って、義母さんもお酒を飲んでたから、二人共ぐっすり寝て起きなかったにゃ。だからにゃちきは、ナツメとグレープの朝食を作ってから、カズにゃんの所に行ったのにゃ」

「ナツメとグレープの二人と一緒に、食べれば良かったのにさ」

「作りながら少しつまんで食べてたら、それでよくなっちゃったにゃ」

「ああ。作りながらつまむと、そういうことあるね。結局はそんなに食べてないから、あとでお腹が空くんだよ」

「にゃちきのお腹は、お昼までもたないにゃ」

「買い出ししてなかったから、大した物はないけど、好きなだけ食べると良いよ(あるのは、パンとチーズと焼いて味付けした肉に、野菜が少しだけだったかな)」

 森を抜けた所で休憩をして、昼食を取るカズとキウイ。
 ナツメとグレープの四人で村に向かう時とは違い、天気も良く、のどかで気持ちの良い日だった。
 ただ気温は低く歩みを止めると、体が冷えて寒くなる。
 カズはそれを見越して、村を出てからすぐキウイにプロテクションで、寒冷耐性を与えていた。

「にゃはぁ~。よく食べたにゃ」

「ちょっと食べ過ぎじゃないか?」

「大丈夫にゃ。歩いてれば、すぐに消化するにゃ。しかしカズにゃんと居ると、やっぱり便利だにゃ。荷物は持たなくていいし、パンは出来立ての物を食べれるんだからにゃ」

「アイテムボックスが使える人なら、だいたい同じことできるよ」

「カズにゃんは、タダだからいいにゃ。他の人だと、そうはならないにゃ」

「まぁそうだね。アイテムボックスが使える殆どの人は、専属契約してるって聞くから」

「ならカズにゃんも、奥様に頼んで契約するかにゃ! そうすればにゃちき達の買い出しは、いつも楽になるにゃ」

「それはキウイが楽したいだけでしょ。それに買い出しなら、空間収納できるバックがあるでしょ」

「にゃはは! それもそうだにゃ」

「相変わらずだな。さぁ休憩もしたから、そろそろ行くよ」

「行くにゃ!」

 二人は森を出た先にある、草原の中にある道を歩いていく。
 王都へ続く街道に出る頃には日が落ちて、辺りは完全に暗くなっているだろうと、キウイが思っていたそのとき、二人の上空に大きな影が現れた。

「『お待たせカズ』」

「戻っ…」

「にゃアァァー!! カ、カズにゃん…カズにゃん、でっかいモンスターにゃ! 早くここから逃げるにゃ! 森の中に戻るにゃ!」

「キウイ、キウイ! 大丈夫、襲ってこないから」

 マイヒメがキウイを覗き込むように見る。
 キウイは震えながらカズの後ろに隠れる。

「にゃ、にゃにを言ってるのにゃ! モンスターに食べられるにゃ! 早く逃げるにゃ!」

「キウイ大丈夫だから。マイヒメもうちょっと離れてくれる」

「『? ええ、分かったわ』」

 マイヒメがカズとキウイから離れる。

「にゃ、にゃんだにゃ?」

「この大きな鳥はマイヒメって言って、俺がテイムしたモンスターなんだよ」

「にゃ? カズにゃんがテイムしたモンスター……?」

「そう。マイヒメが朝居た場所に戻ってなかったから、キウイに説明するの忘れちゃって。襲ってこないから、そんなに怖がらなくても大丈夫だから(と言っても無理かな)」

「こんな大きなモンスターが急に現れたら、誰だって驚くし怖いに決まってるにゃ!」

「ごめんキウイ。子供の方なら平気でしょ。お~い」

 カズが呼ぶと、マイヒメの影に隠れていた子供の鳥が、ちょこちょこと近寄ってくる。

「ほらキウイ、こっちが子供の鳥。名前はまだ無いんだけどね」

「……触っても怒らないかにゃ?」

「大丈夫」

 キウイが涙目になりながら、近寄ってきた子供の鳥にゆっくりと触れた。
 すると青ざめて引きつっていた顔が、少し和らいだ。(ただマイヒメを見ると、まだ少しビクついていた)

「休憩してる時に説明すればよかったね。ごめんキウイ」

「も、もう大丈夫にゃ」

「実は迎えの馬を借りれなくて、王都の近くまで、マイヒメに乗って運んでもらおうかと考えたんだけど……どうかなキウイ」

「あ、あれに乗るのかにゃ?」

 キウイはカズの後ろから、マイヒメを見る。

「急いでなければ、このまま歩いて王都に向かってもいいんだけど。ただ迎えに来ると言ったから、なんとか移動手段を確保しようかと。キウイが大丈夫ならマイヒメに乗って行こうかと思って」

「『私に乗るのが嫌なのかしら?』」

 マイヒメがキウイを見る。

「ひィ!」

「マイヒメ睨まないの」

「『睨んでないわよ』」

「やっぱり、歩いて行こう(その方が無難だな)」

「カズにゃんも一緒になら。の、乗ってみるにゃ」

「そんなに無理しなくても」

「落ちる時はカズにゃんと一緒にゃ」

「落ちる時はって、落ちないし落とさないから(なんで落ちるのが前提でなのさ?)」
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