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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

206 甘え と 怒り と 迎えの前日!?

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「ところでキウイさんの迎えはいいの?」

「新年になって三日は家族と過ごすと言ってました。迎えは四日の朝ですから、まだ大丈夫です(約束は三日後だから、全然大丈夫)」

「カズさん、今日が何日か知ってる?」

「? 新年になった一日目です」

「三日目よ」

「……は? 俺がダンジョンに入ったのは、新年の一日前の朝です。中で一日も経ってませんし、出てきたのが昨日の事ですか、今日から新年であってるはずですが」

「転移魔法で、ダンジョンから出られなかったと言ってたわね」

「はい」

「おそらくダンジョンに結界があって、内と外では時間の流れが違ったのよ。カズさんには数時間しか経ってないけど、外では三日経過してたの」

「えぇ!」

「そういうダンジョンも希にあるのよ」

「三日……本当に本当ですか?」

「本当よ。カズさんが迎えに行くって言ってた前日に現れたから、ちょっと変だと思ったの」

「そういえばトレニアさんも、不思議そうな顔してたなぁ……じゃなくて、そんなダンジョンがあるなら、先に教えてくださいよ!」

「報告書を見ただけでは分からないわ。それにあのダンジョンの情報元の一つが、アヴァランチェで捕らえられた盗賊だったから、真偽は怪しかったの」

「それならそうと一言あっても……(アヴァランチェの盗賊……?)」

「なんでも『猛毒サソリの短剣』を所持していたとかで、入手場所を聞き出したら、今回のダンジョンだと思われたの(カズさんなら大丈夫だと思って、不確定の情報だったけど行かせちゃったのよね)」

「アヴァランチェ……! (あの時の盗賊か! 猛毒サソリの名前は、その時見た短剣で知ったんだ!)」

「それより、こんなにのんびり話していて良いの? 約束した迎えは明日の朝なんでしょ」

「今から馬か馬車を貸してくれる所ありませんか?」

「新年のお祭りで、しかもこの時間じゃないわよ」

「うわ~どうしよう。迎えに行くって言った手前、キウイを歩かせるのも悪いしなぁ」

「テイムしたマイヒメだったかしら。それに王都の近くまで運んでもらったら? さすがに人の多い街中はちょっと」

「そうしたら、俺がAランクのモンスターをテイムしたって、バレちゃうじゃないですか」

「カズさんはBランクなんだから、別におかしくないわよ。雛鳥を捕まえて、言うこと聞かせたとかにすれば? それにライジングホークを知ってる人は、多くはないと思うから大丈夫よ」

「俺がものスゴく、あくどいみたいじゃないですか」

「そうやって捕まえて、強いモンスターをテイムする人もいるわよ。まぁ隙を見せると襲ってくるでしょうけど」

「……それだったら、俺がテイムした事がバレても良いです。そんなあくどいやり方で捕まえたなんて噂になったら、知り合った人達にも、ギルドにも迷惑になりますから」

「そう。じゃあ今度マイヒメを見せてね」

「……それが目的じゃないですよね?」

 「まさか。ただね」

「ただ、なんですか?」

「カズさんの話を聞いてたら、さすがに大きなモンスターを誤魔化すのは難しいと思ってきちゃって、だったらもういいかなぁーって(もう疲れちゃった)」

「さっきは、なんとかしてくれるって…」

「隠すのが大変ことを、カズさんが持ち込むからでしょ!」

 温厚なフローラが、珍しく声を荒立てて怒る。

「うッ……す、すいません(反論できない。マイヒメをテイムする事になったのも、俺の不注意だし)」

「……ちょっと言い過ぎたわ。カズさんにダンジョンの場所を教えた後から働き詰めで、私もちょっとイライラしてたの。ごめんなさい(何やってるのかしら)」

「そんな俺の方こそ、フローラさんに頼って迷惑かけてばかりで……すみません」

「良いのよ」

「こんなときこそ、サブマスのイキシアさんが仕事を手伝うべきじゃないんですか?」

「カズさんも知っての通り、最近イキシアは気持ちの抑制がね……だから今回の年越しは休みを与えて、王都から離れるように言ったの」

「だから居なかったんですか」

「ええ。それで私が一人で仕事を。年末年始は書類が溜まって大変なのよ」

「そうとは露知らず、面倒ばかりお掛けしてごめんなさい」

 カズは深々と頭を下げる。

「もう良いわよ。カズさんの事情も知ってるから。テイムしたモンスターの登録準備はしておくから」

「分かりました。ありがとうございます。マイヒメの登録は、後日お願いします(目立つ事にはなるけど、まぁ良いか)」

「そう、分かったわ。私もまだまだ力不足だから、カズさんも私を手伝ってね」

「俺に出来る事であれば。これからもよろしくお願いします」

「ええ。よろしくお願いね。私もカズさんを頼りにしてるから」

「え、あ、はい。それじゃあ俺は、キウイの迎えがありますから失礼します。フローラさんも少しは休んでください」

「ええ。これが終わったらそうするわ(今日は途中で切り上げて、ゆっくり寝ましょう)」

 お互いに少しぎこちない雰囲気のまま、カズはギルドマスターの部屋を出る。
 ダンジョンで三日が経っている事を教えられたカズは、約束の日時が翌日だと知り、キウイの居る村に急いで向かい、村の近くで一晩過ごすことに決めた。

「『カズどこ行くの?』」

「とりあえずマイヒメと合流して、王都から離れることを知らせないと」

「『お母さんの所に行くの』」

「そうだけど、どこに居るか分かる?」

「『う~ん……あっちの方に居ると思う』」

「あっちか(王都に入る前に、合図した方だな。そこに行ってから、マップで確認してみるかな)」

 カズは人目を避けて〈ゲート〉で王都の外に移動し【マップ】を見て、マイヒメの位置を確かめる。

「この旋回してるモンスター反応がそうかな? どう思う?」

「『お母さんの感じする』」

「こっちに来たことを、気付いてるかな?」

「『分かんない』」

「じゃあ行ってみるか」

 雛鳥を抱えたカズは、マップに反応があった場所の上空に向かい〈フライ〉で、夜の暗い空に飛んでいく。

「『カズも飛べるの! 人なのに』」

「速くは飛べないけどね(暗くても《暗視》のスキルを使えば見えるから大丈夫)」

「『お母さんどこ?』」

「おっ! 見えた。やっぱりあれそうだな。おーいマイヒメ」

「『! カズ? どうして人が飛べるの?』」

「魔法でね」

「『急に坊やとカズを感じとれなくなったから、どうしたのかと驚いたわ』」

「とりあえず人の居ない所に下りて話そう」

「『分かったわ。ワタシの背中に乗って。ゆっくり下りるわ』」

 カズは雛鳥を抱えたまま、マイヒメの背中に乗り、王都から離れた暗い広野(こうや)に下りた。

「『それでどうしたの? 急に別の場所に現れたり、ワタシの所に来たりして』」

「ちょっと予定が変わってね」

 カズはマイヒメに、ゲートを使って転移した事と、キウイの迎えに行かないとならないことを話した。
 急だったのはダンジョンに入っている間に、三日経っていた事を知って、予定が変わってことを伝えた。

「『そう。急に場所が変わったのは、転移の魔法で移動したからなのね。そんなことも出来るなんて、スゴいわねカズ』」

「それで悪いんだけど、その迎えに行く相手を、乗せて運ぶことできる?」

「『主であるカズの頼みなら良いわよ。というか、主なのだから命令すればいいでしょ』」

「主だからって、無理矢理は好きじゃないんだよ」

「『変わってるわね』」

「……とりあえずこのまま目的地の近くに行って、一晩過ごすから」

「『分かったわ。ワタシの背に乗って場所を教えて』」

「いや、いいよ〈ゲート〉」

 カズが右手を前に出し魔法名を唱えると、マイヒメが通れる程の大きな空間の歪みが出来た。

「ここを通れば目的地の近くだから」

 カズに言われた所をマイヒメは通り抜け、景色が一変した事に驚く。

「『……さっきとはまるで違う場所』」

「少し行けば森を抜けるから、そこで今夜は休もう(明日キウイになんて言おう……)」

「『まだ砂漠で会ってから、一日もたってないのに、驚く事ばかりだわ』」

 森を抜けた所でマイヒメと子供の鳥は、楽な体勢になり休み、カズは焚き火を起こして遅い夕食を取る。

「マイヒメ達は、寝るのか? お腹減ってないのか?」

「『今日はもう疲れたから寝るわ。大した気配も感じ取れないから、ここで寝ていても、坊やにも危険はないでしょう』」

「ああ。イノボアが居るくらいだから、ゆっくり休んでも問題ないよ(一応〈アラーム〉を使って警戒しておくか。マイヒメ達が居るから、俺も今日は野宿だな)」

 夕食を済ませたカズは【アイテムボックス】から毛布を出してくるまり、マイヒメに寄り掛かって寝た。


 ◇◆◇◆◇


「朝…か……今日がキウイを迎えに行く日……(知らないうちに三日も経ってるなんて、変な感じだなぁ)」

「『カズも起きたの』」

「おはようマイヒメ」

「『ええ。おはよう』」

「もう少ししたら、俺はあの低い山を越えた所にある村まで行ってくるから、少し時間を潰していてよ」

「『それじゃあ、近くにいる獲物を狩って食べてるわ。坊やに狩りのやり方を教えるにも、ちょうどいいから』」

「人を襲ったりしないようにな。この辺はそんなに居ないと思うけど」

「『分かってるわ。こちらから手を出して、坊やを危険な目にあわせたくないから』」

「じゃあ行ってくる。またこの道を戻ってくるから」

 焚き火の後始末をしたカズは、キウイと待ち合わせの約束をした、村の入口まで歩いて向かった。
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