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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

198 聞き入れた願い

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「カズさんには、子供達が使ってる部屋で寝てもらいましょう。ちょっと狭いけど、キウイはワタシ達と五人で寝ましょうか」

「お構いなく、俺はここ(居間)で良いですから」

「お客さんを、普段使ってる部屋で寝かせるわけには」

「気にしないでください。冒険者をしてると、このように座って寝る方が落ち着くので(と、言っておこう)」

「でも……」

「カズにゃんが良いって言ってるから、ここで休んでもらうにゃ。にゃちきは子供達の部屋で寝るにゃ」

「狭い家ですまねぇカズさん」

「いえ、とんでもない」

 リブロコとクランベリは、自室に寝かせてあるナツメとグレープの部屋に行く。
 キウイは、ナツメとグレープが使っている部屋に向かう。

「カズにゃんもこっちで、一緒に寝るかにゃ?」

「誤解されるようなこと言ってないで、キウイも早く寝てゆっくり休みなよ」

「にゃはは。そうするにゃ(やっぱり来ないかにゃ。カズにゃんは何もしないから、一緒に寝ても良いのににゃ。恥ずかしがりやにゃ)」

 それぞれが部屋に行き、カズは椅子の背にもたれかかり、身体の力を抜いて大きなあくびをした。

「ふぁ~……(リブロコさんの怪我を治してやれれば良いけど、古傷は回復魔法で治せるかなぁ? 俺に何が出来るか、少し考えてみるか)」


 ◇◆◇◆◇


 カズはリブロコの治療することを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。

「カズにゃん起きてるのかにゃ?」

「……ぁ、おはようキウイ。実家に帰って来たんだから、もっとゆっくり寝てれば良いのに?」

「そのつもりだったけど、目が覚めちゃったにゃ。カズにゃんは寝れたかにゃ? にゃちき達に気を使って、ここで寝なくても良かったのににゃ」

「いいのいいの。そうだ、キウイに聞きたいんだけど、リブロコさんの古傷って、どんな感じなの?」

「急にどうしたにゃ? もしかして、治すことができるのかにゃ?」

「回復薬か回復魔法で治ればだけど」

「古傷だと難しいと思うにゃ。怪我したときに回復薬を使ったけど、完全には治らなかったにゃ。村に高価な回復薬を持ってる人は、誰も居なかったしにゃ」

「そうか……(だとしてら、あれを使って見るのも手だな。試しているようで悪いけど)」

「今の義父さんは、畑で野菜を作ってるだけだけどにゃ、怪我をする前は狩りもしてたにゃ。昨日畑で、怪我した足を見てタメ息ついてたにゃ。もしカズにゃんが義父さんの足を治すことが出来るなら……」

「怪我した足を見ないと、何とも言えないよ」

「駄目元でもいいにゃ! にゃちきの勝手なお願いで、カズにゃんに頼んでばかりで、ごめんにゃ」

 キウイはうつむいて耳は垂れ下がり、話す声はだんだんと小さくなる。
 その姿を見ていたカズは、以前に効果を確認していたトレカを、使うことに決めた。

「やるだけやってみるけど、あまり期待はしないで。それにキウイには、いつも明るく元気でいてくれないと。顔を上げて、キウイには笑顔の方が似合うよ」

「……にゃ…にゃははッ! カズにゃんも言うようになったにゃ。やっぱりにゃちきには、こっちの方があってるかにゃ」

「そうそう。そんな感じ(本当だよ! 言っている自分が恥ずかしい。でもそれでキウイが元気になるなら)」

 カズとキウイはお互いに、少し顔を赤くしていた。

「朝からキウイは元気ねぇ」

「義母さん、おはようだにゃ」

「はい、おはよう」

「おはようございます」

「おはようカズさん。こんな所で眠れたかしら? ごめんなさいね」

「いえ、全然大丈夫です」

「それじゃあ朝食の支度をするから、少し待ってて。キウイは手伝ってね」

「分かったにゃ」

「俺は馬車の所に行って、馬の様子と出発の準備をしてます」

「分かったわ。朝食が出来たら、キウイに呼びに行かせるわね」

「はい」

 クランベリとキウイはキッチンに、カズは家を出て馬車に行き、馬に水と餌を与えた。
 村人が居ないのを確認して、王都でナツメとグレープが選んだお土産を【アイテムボックス】から出し、持って行く用意をした。

「今日もまた頼むよ」

「『また疲れず早く走れるのか?』」

「身体強化すればね。それとちょっと近道をする予定だから」

「『まぁいい。あんたとの旅は悪くないから』」

「そいつは、どーも(まさか【異世界言語】のスキルで、馬とも話せるとは思ってなかった。さすがに人前で馬と話すのは、ちょっとあれだけど。まあそう思って、キウイ達の前では馬と話さなかったんだけど)」

 この時のカズを端から見ると、独り言を言う、明らかに変質者とも思える行動だ。
 だが魔法がある世界なら、それほどでもないのかも知れない。
 カズは一人そう思い、馬と話していた。

「カズー!」

「カズカズー!」

「ん? ナツメとグレープ?」

「おはよう」

「おはようなの」

「おはよう」

「朝食が出来たよ」

「朝ごはんなの」

「キウイじゃなくて、二人が呼びに来てくれたのか。それはちょうど良かった。王都で買ったお土産を、持って行きな」

「忘れてた。ぼくお父さんに持ってく」

「お土産渡すなの! あたしは、お母さんにあげるなの」

「落とさないようにね」

 ナツメはリブロコに渡すお酒を、グレープはクランベリに渡すスカーフを持って、家に走って行った。
 カズは王都の雑貨屋で見た、室内で遊ぶ『反転コイン』と、生活用のソーサリーカードを数種複数枚買っておいた。
 何か言われても、実際にナツメとグレープが採掘場で働いた分だと言えばいいと、カズが勝手に決めて出したお金だ。
 家に戻ったナツメとグレープは、すぐリブロコとクランベリにお土産を渡していた。
 お金を持っている訳ないと知っている二人に、カズが理由を話して受け取ってもらった。
 もちろんカズが持っていった反転コインと、ソーサリーカードも渡した。
 その後皆で朝食をとった。

「それじゃあ、そろそろ俺は出発しようと思います」

「カズにゃん、さっきのこと」

「分かってる。あと最後に、一ついいですかリブロコさん?」

「オレか? なんだい」

「すいませんが、足の古傷を見せてくれませんか?」

「それは良いが……?」

 椅子に座ったままのリブロコは靴を脱ぎ、カズに怪我した足を見せてきた。
 カズが見たリブロコの足は、指が一本無かった。

「この指は、切り落としたんですか?」

「ああ。回復薬を使うのが遅くて、そこだけ治らなかったんだ。だから指が腐る前に、切り落としたんだ。そのせいで、もう狩りはできなくなっちまった。それに今でも力を入れると、少し痛くてな」

「辛い事を思い出させてすいません」

「もうかなり前の事だから構わないさ」

「実はキウイに頼まれて、ちょっと失礼します」

 カズは先ほどアイテムボックスからお土産を出したときに、以前効果を調べたトレカ『大地の祝福』を一緒に出していた。
 カズはトレカに魔力を流して、三つある効果の内、一つを選び使用した。
 それは欠損した一ヶ所を、再生させることができるというものだ。
 ただトレカを分析して調べたが、一度も使用したことがないので、実際に成功するか不明であった。
 カズの手からトレカが消滅すると、リブロコの失っていた足の指が、嘘のように再生されていた。
 カズは念のために《分析》して、リブロコを状態を調べた。

「異常はないな」(ボソッ)

「う…そ……あなた」

「オレの足が……」

「リブロコさん、指動きますか?」

 カズの言葉にリブロコは、再生した足の指をゆっくりと動かす。

「大丈夫みたいですね。痛みはありますか?」

 リブロコはゆっくりと立ち上り、怪我をしていた足だけで立つ。

「痛くない……なんともない……治ってる。治ってるぞ!」

「ありがとうカズにゃん! やっぱりカズにゃんにゃぁ~!」

「ありがとうカズさん。ありがとう」

「カズさん……ありがとう……ありがとう。これでまた狩りができる。家族に苦労かけずに済む。ありがとう……」

 カズの後ろからキウイが抱き付き、前からはリブロコが強くカズの手を握ってきた。
 クランベリは泣きながら喜び、ナツメとグレープは、三人の周りを喜びながら走り回っていた。

「実際に完治するか分からなかったんですが、無事治って良かったです。リブロコさんで試すことになって申し訳ない(よく抱き付かれるなぁ)」

「とんでもない……ありがとう……ありがとう」

「ありがとうカズにゃん」

 離れようとしない二人を見て、クランベリが気をきかせた。

「さぁ二人とも、いつまでもそうしていたら、カズさんが出発できないわよ」

「すまねぇカズさん。子供だけじゃなく、オレまでも救ってもらって」

「俺の出来ることを、しただけですから。……キウイ?」

 キウイは、離れようとしなかった。







≪トレーディングカード説明≫

 ・今回使用したトレカ。
 ・実際に書かれているレア度と名前と効果。
 ・コストは《》内に表示。
 ・モンスター又はクリーチャーは、攻撃力と耐久力を表示。
 ・主人公の持つトレカの種類は複数あるため、コストや効果の表示が違う物もある。



 R【大地の祝福】: このカードをプレイする際に、以下の3つから1つを選ぶ。
 ・対象のモンスター1体が受けたダメージを無効にして、このターンの間ダメージを受けない。
 ・対象のモンスター1体の破壊無効にして再生する。
 ・このターンあなたの場にいるモンスターは、2点以下のダメージを受けない。
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