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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

193 興奮する二人 と 知っている場所

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「この馬車が通れるなら良かった。本当はもっと早く走らせて行きたいけど、そうするとナツメとグレープが馬車酔いしそうだし、馬にも無理をさせるのもどうかと思って(馬車を引いてる間は、馬に身体強化すればいいんだろうけど)」

「焦らず行くにゃ。二日後には村に着くから、新年には間に合うにゃ」

「そうだね。ただナツメとグレープを、早く家族に会わせて安心させてやりたいと思ってさ。家の場所さえ分かれば、先に手紙でも送って連絡できたんだけど、キウイに会うまでは、二人がどこに住んでいたか分からなかったから」

「気にすることないにゃ。それににゃちきがカズにゃんと知り合ってたから、ナツメとグレープがこんなに早く村に帰れるんだにゃ。もしカズにゃんと知り合ってなかったら、村に戻れるまで何年も経ってたかも知れないにゃ。だからカズにゃんには感謝してるにゃ」

「さすがに何年もはないでしょ」

「あるにゃ! 連れ去られた二人が助け出されても、王都に連れてこられるとは限らないにゃ。他の街かも知れないにゃ」

「まあ、それもそうだね…」

「それににゃ、王都に連れてこられて保護されたとしても、王都は広いから、にゃちきと繋がりがある人や、同じ村の人と会うとは限らないにゃ。カズにゃんは何か恩返しをしにゃいと」

「分かったから落ち着いてキウイ。近いから」

 キウイが急に熱く語りだし、カズにどんどんと迫り、カズが馬車の隅に追い詰められ落ちそうになる。

「はっ! つい話してたら、熱くなってしまったにゃ。カズにゃんごめんだにゃ」

「べ、別に謝られるような事はされてないから(急にせまられたから驚いたよ。いつもは明るく、のほほんとしてるのに)」

「ふぁ~……お腹はいっぱいになったら、ぼく眠くなってきた」

「ふぁ~……お姉ちゃん、あたしも眠いなの」

「そうかにゃ。なら一緒に寝るにゃ。カズにゃんも一緒に寝るかにゃ? 恩返しに添い寝して、ぎゅっとしてあげるにゃ」

「そういう冗談はいいから。俺は後片付けしたら、焚き火が消えないようにしてるから。三人は馬車でゆっくり寝ると良いよ。一応寒くないように、また魔法で寒冷の耐性をかけておくから」

「分かったにゃ。さぁ二人とも寝るにゃ(カズにゃんも一緒に寝てくれても良いのにゃ。恥ずかしいのかにゃ?)」

 カズは〈プロテクション〉を使い、三人に寒冷耐性を与えて、次に〈アラーム〉を使って周囲の警戒をした。
 焚き火が消えないように注意しながら、カズは木に寄りかかって休むことにした。


 ◇◆◇◆◇


 朝になり起きたカズは、焚き火でスープの入った鍋を温めていた。

「そろそろ三人を起こそうかな。でもずっと馬車に乗って疲れてるだろうから、まだ寝かせておいた方が良いか」

「ぅにゃ~……」

 キウイが眠そうにしながら、馬車から降りてきた。

「おはようだにゃ」

「おはようキウイ。眠ければもう少し寝てて良いよ」

「お屋敷ではいつも、このくらいに起きるにゃ」

「せっかく里帰り中で休みなんだから、ゆっくしてれば良いのに」

「村に戻ったらゆっくりするから大丈夫にゃ」

「キウイがそれで良いなら……はいスープ。熱いから気をつけて」

「ありがとにゃ。少し冷ましてから飲むにゃ」

 カズとキウイが焚き火にあたりながら、スープを飲んで話をしてると、ナツメとグレープが起きて馬車から降りてきた。
 カズは二人にも温かいスープを出し、軽めの朝食を【アイテムボックス】から出した。
 朝食を済ませた三人は、馬車へと乗り込む。
 カズは焚き火の後始末をしてから、馬車に乗り込み出発する。
 【マップ】を見て、獣やモンスターが近寄って来ないかを確認しつつ、カズは馬車を進める。
 キウイが言ったように、モンスターの反応は無く、離れた所で獣の反応がちらほらあるだけだった。
 森の中の道だからといって荒れている訳ではなく、枝や落ち葉などはあるものの、馬車が通るのに支障はなかった。
 何事もなく順調に馬車は進み、予定よりも早くに森を抜けた。
 前日冷たい風が強く吹いていたのが嘘のように、風もなく日差しが暖かい陽気だ。
 昨日キウイが言っていてように、森を抜けた少し先には低い山が見えていた。

「カズカズ! あの山、ぼく知ってる」

「村の近くにある山なの。もうすぐお家につくなの」

「思っていたより早く森を抜けたから、少し馬車を止めて休憩しようかと思ったけど、このまま行こうか(ナツメとグレープも、家に帰れることに実感がわいてきたかな)」

「そうするにゃ。ナツメもグレープも見覚えのある山が見えて、村が近づいて来たことに気づいたにゃ」

「ねぇキウイ、どうだろう。このまま行けば、日暮れには村に着けるかな?」

「馬さんにがんばってもらえば、行けるかも知れないにゃ」

「そうか。なら山道(やまみち)を見てから考えようかな(馬に身体強化すれば、負担も減るだろうしな)」

「それにしても今日は、風がないからぽかぽかして、お昼寝日よりにゃ。でも少し冷えるかにゃ」

「キウイはいつでも、昼寝日よりじゃないの」

「そうかも知れないにゃ。たがらこんな日にお昼寝しないのは、もったいないにゃ」

「止まって昼寝してる時間はないよ」

「分かってるにゃ。早く村に着くことの方が大事にゃ」

 森を抜けてからも休むことはなく、馬車は進み続ける。
 移動中ずっと馬車に乗っていたナツメとグレープは、少し疲れた表情を見せていたが、今はいつもの元気な姿に戻っていた。
 道の先に見えていた低い山の麓まで馬車が行くと、道の脇に立て札があり何かが書いてあった。
 カズは馬車を止めて、立て札を見に行く。


ーーーーーーーーーー

 この先の山道に倒木があり道を塞いでいるため、徒歩以外の通行不可。
 徒歩以外で先の村へ行く場合は、すぐ手前の脇道を入り、山を迂回すれば行ける。

ーーーーーーーーーー


「どうしたのカズ?」

「何が書いてあるなの?」

「うん、ちょっと道がね……」

「道がどうしたにゃ?」

「どうも山道のどこかに、木が倒れていて、馬車が通れないみたいなんだ」

「通れないんじゃ仕方ないにゃ。遠回りして向かうにゃ」

「もう少しなのに、行けないの?」

「遠回り嫌なの。お山の道通って帰るなの」

「しょうがないにゃ。歩きじゃないと通れないんだから、山を迂回して行くにゃ」

「……」

「嫌だぁ! 早く帰るなの」

「グレープ! わがまま言っちゃ駄目にゃ」

「だって……」

 キウイの言葉に、グレープは今にも泣き出しそうになっていた。

「まぁまぁキウイ。三人はここでお昼ごはん食べて休憩しててよ。俺が先に行って道の状況を見てくるから」

「大丈夫かにゃ? 無理しなくても、迂回すればいいにゃ」

「徒歩では通れるって書いてあるから、木が一本か二本倒れてる程度なら、俺一人でどかせるから。その方が迂回して行くより早いでしょ」

「ならカズにゃんの判断に任せるにゃ」

「じゃあ俺が先を見てくるから、ごはん食べて待ってて。いいかなグレープ?」

「……分かったなの」

「ナツメも」

「う、うん待ってる」

 カズは馬車を道の脇に寄せて【アイテムボックス】から、パンと干し肉、あとは野菜と果物を多めに出した。
 
「行って来るから、ゆっくり食べてて。食べ終わる頃には、戻って来るようするよ」

「気を付けてにゃ」

 馬車から降りたカズは、スキルの《ブースト》と《筋力強化》を使い、走って山道を上って行った。
 なだらかな山道を、山の中腹まで上ると、そこには太い一本の木が倒れていた。
 その木は完全に道をふさいでいた。
 カズは倒木に〈アンチグラヴィティ〉を使い、軽くした倒木を持ち上げて、通行の邪魔にならない所に運んだ。
 太い倒木を片付けたカズは、馬車には戻らずに山道を先に進んで行く。
 すると今度は、二本の細い木が倒れており、道をふさいでいた。
 カズは同様に倒木を片付け、山道を更に先へと進み、馬車が通行できるかを確認する。
 山道を通行できることが分かったカズは、急いで馬車へと戻る。
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