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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

190 イキシアへの注意

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「それじゃあ俺は、トレニアさんがナツメとグレープを見てくれている間に、宿屋を探しに行きます」

「まだ見つけてなかったの?」

「それが高価な店は、どうも落ち着かなそうで」

「だったら今日もギルドに泊まったら」

「良いんですか?」

「明日には二人を送って行くんでしょ?」

「キウイが来れば、そのつもりですけど」

「なら良いわよ。あと一日か二日ギルドに泊まったくらいで、特別扱いしてるなんて思われないから。それに子供達も、今回の件に関係あったんだから」

「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて。それと忘れない内に、これをフローラさんに返しておきます」

 カズはフローラから借りていた、認識阻害の効果があるマントを【アイテムボックス】から出して渡した。

「これはギルドの所有で、まだ他にもあるから、そのままカズさんが持っていても構わないのよ」

「フローラさんが使用してたって事が、問題なんです(他にも同じ効果の物があったのなら、そっちを貸してくれれば良かったのに)」

「私が使ったのが嫌だったのかしら?」

「……フローラさん、分かってますよね」

「イキシアのことね。分かってるわよ」

「借りたときだって、フローラさんが使ってたマントだとすぐに気付いて、目の色を変えて追っかけて来ましたから」

「うふふッ」

「笑い事じゃないですよ。これからはフローラが使用した物を、むやみに貸さないでください(そうじゃないと、またイキシアさんが……)」

「なんだか私が嫌われてるみたいね」

「別にフローラさんを嫌ってる訳じゃないですよ。ただここに来る度に、イキシアさんに追い回されたら、たまったもんじゃないですから」

「今はまだいいけど、これが人の多い一階や外でなんて事になったら、第2ギルドの信用が落ちるわね。イキシアにはキツく言っておくわ」

「それは良かった。お願いしますね」

「ええ。ギルドの信用問題になるから、人の多い所ではしないようにと」

「ん? いやいや、人の多い所だけじゃなくて、やめてくれるように言ってくださいよ!」

「……」

「なぜそこで黙るんですか」

「カズさんはそろそろ、ナツメとグレープの所に行ったら? 二人とも待ってるわよ」

「俺の話をスルーですか! イキシアさんにちゃんとやめるように、言ってくださいよ! お願いしますからね! 聞いてますかフローラさん!」

「わ、分かったから落ち着いて。今イキシアを連れてきて、カズさんの前で注意するから」

 根負けしたフローラは部屋を出て、イキシアを連れて戻ってくる。

「フローラぁ、話ってなぁに?」

「それは…」

「あ! なんでカズが居るんだ。またフローラと二人っきりで居たのか?」

「さっきまでアイガーさんが居ました。依頼であった事を話してたんです」

「イキシア。そうカズさんに突っかからないの! それに話っていうのは、その事よ」

 フローラはイキシアに、カズに対しての行動を改めるように言った。
 少し渋る様子をしていたが、それとなく承諾した。

「悪かったわね! これからはできるだけ、カズに突っかからないようにするわよ!」

 口では謝っていたが、カズに対する目つきや態度は、あまり変わらなかった。

「一応大丈夫そうね。これで良いかしらカズさん」

「はぁ。わざわざすみません(大丈夫かなぁ?)」

「それじゃあ、私も仕事をするから、イキシアも戻って仕事の続きをしてちょうだい。カズさんは子供達の所に行ってあげて」

「……はい」

「分かりました」

 カズとイキシアは、ギルドマスターの部屋を出る。

「ねぇカズ」

「な、なんですか?」

「いつからフローラの旦那になったの?」

「……は? なんの事ですか」

「フローラに『あなた』って呼ばせたらしいじゃないの!」

「いったいなんの話を……あ! (あのときフローラさんが言った冗談か。でもなんでイキシアさんが、その事を知ってるんだ?)」

「覚えがあるようね」

「ど、どこでそんな話を?」

「さっき子供達とトレニアが、楽しそうに話してるのが聞こえたのよ。そこでカズがお父さんなら、フローラがお母さん……だって」

「それは…」

「フローラもカズのことを、あなたって呼んだらしいじゃないの!」

「ままごとをした場合ですよ。それにフローラさんが冗談で、一回呼んだだけですから(子供達から情報が漏れるなんて!)」

「そうだとしても……羨ましい!」

 それを聞いたイキシアが、カズの胸ぐらを両手で掴み、前後にカズに何度も揺さぶる。

「わ、ちょ、やめ、止めて。フ、フローラさんに、言わ、言われたばかりじゃ」

「はっ!」

 イキシアが我に返り、掴んでいた手を放した。

「も、もう俺はここで失礼させてもらいます(今の内に退散だ)」

 カズは逃げるようにイキシアと別れて、ナツメとグレープが居る部屋へと向かった。

「あ、カズだ!」

「お話は終わったなの?」

「終わったよ。トレニアさん、二人を見ててくれて、ありがとうございました」

「構いませんよ。これもお仕事ですし、私も癒されますから」

「それで、二人とも大丈夫でしたか?」

「何がですか?」

「イキシアさんが来ませんでした?」

「サブマスですか? 来てませんよ」

「そうですか。なら良いんです(子供が相手だから、少しは自重するようになったのか?)」

「カズさんが来たのなら、私は仕事に戻りますね」

「ありがとうございました」

 トレニアは一階の受付に戻って行った。

「じゃあ二人とも、色々と買い物に行こうか」

「何を買うの?」

「ごはんなの!」

「それもあるけど、ナツメとグレープが帰る場所が分かったから、手ぶらより何か持っ行った方が良いでしょ」

「皆にお土産持ってく」

「お買い物に行くなの!」

 カズは、はしゃぐナツメとグレープを連れて、街に買い物に出る。
 ギルドに泊まる許可がもらえたことで、宿探しはしなくてすみ、買い物に集中することができた。
 日が暮れた頃に、買い物を済ませた三人はギルドに戻り、キッチンを借りて夕食を作って食べた。
 お腹が膨れて眠くなったナツメとグレープを、ベットのある仮眠室に連れて寝かしつける。
 一人になろうと仮眠室を出ようとするカズだったが、グレープが服を掴んだまま放さなかった。
 まだあの採掘場に居た頃の、寂しさは消えてないと思ったカズは、二人と一緒にそのまま寝ることにした。


 ◇◆◇◆◇


 前日は早く寝たため、起きるのも早かったナツメとグレープの二人は、カズを連れて外へと散歩に出かける。

「二人とも朝から元気だなぁ。夜が明けたばっかりだよ」

「朝の運動してお腹すかす」

「人が少なくいから、思いっきり走れるから良いなの」

「でもほら、寒いでしょ」

「走ってれば暖かい」

「体がぽかぽかしてくるなの」

「そう(俺も子供の頃って、あんなに元気だったかなぁ?)」

 だんだんと通りに人が増えてきたので、カズはナツメとグレープを連れて、ギルドに戻ることにした。

「ほら人も増えてきたから、ギルドに戻って朝食にするよ」

「ハァハァ。お腹すいた」

「ハァハァ。分かったなの」

「そんなに息を切らしてまで走って。ギルドに戻ったらしっかり暖まらないと、汗が冷えて寒くなっちゃうぞ(ギルドに戻りながら、温かい食べ物を買っていくか)」

 焼きたてのパンと、温かいスープを買ってからギルドに戻り、ナツメとグレープに温かい朝食を与えた。
 朝食を済ませた頃に、モルトがキウイを連れてきた。

「お姉ちゃん」

「キウイお姉ちゃん来たなの」

「早いねキウイ」

「にゃはは。二人に会いたくて、すぐに来たにゃ」

「それで返事はどうだったの?」

「大丈夫です。事情を知ったオリーブ・モチヅキ家の方々は、快く承諾してくださいました」

「それは良かった」

「出発の用意が出来ましたら、フローラ様に挨拶をしていってください」

「ええ、そのつもりです」

「そうですか。ではカズ君にこれを」

 モルトがカズに一枚の紙を渡した。

「これは?」

「そこに書いてある場所で、道中移動するための馬車が借りれますから、行ってみてください。儂は用事がありますので、そろそろ失礼させてもらいます」

「ありがとうございました。ほら二人とも、モルトさんにお別れを言いな」

「モルトおじちゃん。さようなら。遊んでくれてありがとう」

「さようならなの。また一緒に遊ぶなの」

「儂もまたいつか会えることを、楽しみにしてますぞ」
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