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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

189 譲ったトレカ と 取り調べの報告

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 フローラからの頼みを聞き入れ、カズは『幻惑の霧』『捕縛の鎖』『バリア・フィールド』『ユグドラシルの枝杖』『浄化』『解呪』『広がる錆』の7枚のトレカを渡した。
 ただ『隔離された秘密部屋』だけは、一人で野宿するときに、よく使っていると言って断った。
 だが実際は生き物を別空間に隔離する事ができるので、万が一に盗まれでもしたら危険だと思ったからだった。

「他に治療の効果があるカードや、モンスターを召喚するカードはあるのかしら?」

「確めてみないと不明な物に関しては、誰も居ない所で試してみませんと。ですので、あるかも知れないとだけ、言っておきます(あるけど)」

「それもそうね。私達がアーティファクト(遺物)を見つけた場合も、どんな効果があるか、念入りに調べてから使用するから、それと同じね」

「そういう事です。それに試しで使うにしても、効果範囲までハッキリと分かるものではないので、広い場所で確かめないと」

「それはカードを詳しく分析しても?」

「効果内容はある程度分かりますが……(以前にファイヤーストームのトレカを使ったときに、白真が怒ってたからなぁ。更に詳しく解析すれば、分かるかも知れないけど)」

「そう……もし新しいカードが使えたら、また譲ってほしいわ。そこはカズさんの判断に任せるから」

「分かりました(トレカの名前だけでも、危険なのが多いんだよなぁ)」

「それとカズさんが言っていたダンジョンの情報なんだけど、もう少し待ってもらえるかしら」

「構いませんよ」

「ナツメとグレープを送り届けて戻ってまでには、何かしら教えられると思うわ」

「期待してます」

 フローラとの話を終えて暫くすると、女性職員が、アイガーを案内して連れてきた。

「ご苦労様。貴女は仕事に戻って良いわよ」

 フローラに言われ、女性職員は自らの仕事に戻って行った。

「お疲れ様アイガー。さっそくだけど、分かった事を報告してくれるかしら」

「ああ。とりあえず盗賊のアヒチーノとアヒリモの二人と、落ちぶれ貴族のゴンズ・イシガ・テラを取り調べた結果を報告する。これは今回の取り調べで分かった事だ」

 アイガーからの報告では、十数年前にアヒチーノとアヒリモは、落ちぶれ貴族のゴンズと知り合ったらしい。
 落ちぶれ貴族と言っても、街人よりは資金はあるため、それを元手に盗賊と手を組み、あくどい商売をしていたそうだ。 
 そのゴンズは、盗賊の組織が大きくなると、冒険者崩れさを仲間に入れさせて、王都のギルドを内部から、崩壊させるつもりだったようだ。
 そして自ら新たに冒険者ギルドを立ち上げて、権力を手にしたあかつきには、貴族に返り咲こうとしていたとのことだ。
 今ある冒険者ギルドを内部から破壊し、信用をなくさせつつ、自らが作った新たな冒険者ギルドに、優秀な冒険者を引き抜こうとしたらしい。
 だがそれも、今回の盗賊討伐依頼で明かになり、未然に防ぐ事ができたと。
 ただ採掘場で掘っていた鉄鉱石や、貴重な魔鉄鉱石は、殆どが他の国に流れてしまったらしい。
 一部の物は、盗賊が使っていた武器に使用されたようだ。
 アイガーの報告を聞いて、カズはあることを思い出した。

「そういえばスッカリ忘れてました。アヒリモが使っていた武器を回収してたのを」

 カズは【アイテムボックス】から、アヒリモが使っていた、柄が短くなったバトルアックスを出した。

「これがカズが回収してきた得物か。水晶が埋め込まれてるが」

「その水晶に、アースクウェイクの魔法が込められます」

「調べたのか?」

「それもありますが、実際に使われました」

「なるほど。証拠品として調べるのに、これはオレが持っていってもいいか?」

「俺は構いませんが、フローラさんは?」

「ええ良いわよ。今回の件は、第1ギルドが主体になって元々動いていたんですから」

「感謝します。カズも今回の依頼で、面倒なことをやらせて悪かったな」

「構いませんよ。今回の件を知ってて、あのとき動けるのが俺だけだったんですから。でもかなり不安でしたよ」

「それだけの力を持っていてか?」

「それこそステータスだけで、俺の経験なんて微々たるものですから」

「それでもカズさんが行ってくれたから、捕まっていた人達が誰一人犠牲にならず救い出せたんだから。それにナツメとグレープもカズさんに会えて喜んでたじゃない」

「まあ、結果だけ見ればそうですけど」

「おっと、また報告があった。イソチオとシアネトなんだが、あの二人も捕らえたぞ」

「どこに居たの? カズさんの報告ではでは、あの二人が乗って行った荷馬車は、隠されて作られた集落で見つかったと聞いたけど」

「オレ達が初めて会った場所だ」

「初めて会った場所というと、第4ギルドですか?」

「ああ。深夜に忍び込んで、ギルドの資料を運び出そうとしてたんだ。だが第4ギルドは、オレの所属している第1ギルドが、秘密裏に監視してたからな。それで捕らえる事ができたんだ」

「でも深夜と言っても、ギルドには常駐している職員も居る……って事はやはり、手引きしている者が居たんですか?」

「……サブマスだった」

「えっ?」

「……」

「手引きしていたのは、第4ギルドのサブマスたったんだ」

 アイガーの衝撃の報告で、カズは驚いた。

「第4ギルドのギルマスは、そのことに気付いてなかったんですか?」

「それが第4ギルドのギルマスは、現在昏睡状態で治療を受けていて、話を聞けないんだ」

「どういう事ですか?」

「どうもなんらかの影響を受けているようなんだが」

「原因は分からないの?」

「魔法に詳しい者が少なく、今のところはどうも。そこで申し訳ないのですが、フローラ殿に見てもらえないかと」

「私にですか?」

「今回の件を知っている者で、対処できそうなのは、フローラ殿かあるいは……」

 アイガーはカズを見る。

「分かったわアイガー。私が見てみます。カズさんは明日から出掛ける用事があるのよ」

「潜入依頼から戻ってきたばかりなのに、もう他の遠出依頼を受けたのか?」

「依頼って訳じゃないです。採掘で一緒に居た獣人の子供達、さっき話に出たナツメとグレープを、家まで送り届けるんですよ」

「わざわざカズが送って行くのか?」

「カズさんになついてるのよ。それに王都で働いてる子供達のお姉さんが、目的地まで道案内をしてくれる事になったの。それがたまたま、カズさんと知り合いだったのよ」

「そういうことか。盗賊に捕まっていた子供に、女性を一人同行して行かせるのも、不安だからな」

「そういうことです。と言っても、俺も子供達の帰る所が分かれば、送ってくつもりでしたから」

「カズらしいな」

「私もカズさんらしいと思うわ」

「俺のことはいいですから、第4ギルドのサブマスはどうしたんですか?」

「既に捕らえてあるから大丈夫だ。今ごろ取り調べをしているだろう」

「それなら良かった(サブマスを捕らえる依頼に行くように言われたら、それこそ目立って面倒になりそうだからな)」

「とりあえず、現時点で報告できるのはこれだけです」

「そう。ありがとう」

「なぁカズ……」

「なんですか?」

「前から一つ、聞きたいことがあったんだが?」

「そういえば少し前に、何か聞こうとしましたね」

「カズは今までで、獣やモンスター以外、つまり誰か人を殺した事はあるのか?」

「……ないです」

「やはりか」

「どうしてそう思ったんですか?」

「戦いかたというか、カズくらいの高ステータスなら、盗賊の頭だけ捕らえて、他は抵抗するなら、殺してしまった方が楽だからな。元々が討伐依頼な訳だし」

「俺は殺しはどうも……(獣やモンスターなら、狩猟って感じだけど)」

「いくら強くても、その内足をすくわれるぞ。冒険者なら、覚悟を決めるときは必要だと覚えておいた方がいい」

「そう…ですね(俺もいつか誰かを……)」

「報告も終わったので、オレは所属ギルドに戻ります。明日第4ギルドのギルドマスターが、治療を受けている場所へ案内する為に伺います」

「分かったわ」

「カズもまたな。オレが言ったことは、もしもの時の話だからな」

「はい、分かってますよ」

 報告を終えたアイガーは、自分が所属している第1ギルドに戻って行った。
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