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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

182 潜入調査 6 作戦開始

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 〈ゲート〉で採掘場の横穴に戻ると、カズは隠密と隠蔽のスキルを最大の『5』上げて、メタモルフォーゼの効果を解き、元の姿に戻った。


 失敗しないように、これからやることの確認だ。
 『まずはこの採掘場を仕切っているアヒリモと、その連中と関係のある貴族が居る場所の把握と証拠の確保。
 次に盗賊達の配置と、現在所持している武器の確認。
 そしてこの採掘場で、働かされるて人達の居る場所と状態。
 これを潜伏している冒険者に、伝えること。
 あとはその時の状況で、臨機応変に判断し行動する……よし、始めるか。

 カズはフローラから借りたマントをすっぽりと頭から纏い、横穴から外に出て行動に移った。
 暗闇に乗じて採掘場内を移動して、建物内を調べる。
 そこでアヒリモと、昨日来た貴族だと思われる人物を確認した。
 証拠になる物は、アヒリモが寝ている部屋にあると思われたので、冒険者達が突入後に来ることにした。
 採掘した鉱石を置いてある倉庫内に、武器が置いてあるのは調べがついていたため、カズはそこに行き置いてある武器を全て【アイテムボックス】に回収した。
 これにより盗賊達が使える武器は、現在装備している物と、予備としてあちこちに少し置いてある物だけになった。
 カズは採掘場内で監視をしている盗賊を確認しながら、途中で見つけた予備武器も回収する。
 冒険者達が潜伏している位置は、既にマップで確認してあるので、カズは急ぎそこへと向かった。
 夜明けまであと四十分というところで、カズは潜伏している冒険者達を見つけ、暗闇から姿を現した。

「誰だ!」

「俺です」

「待ってたぞカズ。それで状況は?」

「少しやることが増えました」

 カズはアイガーと、盗賊討伐に来た冒険者達に、たった今調べてきたことを話した。

「隣国の貴族は来ているか?」

「盗賊が話してるのを聞いただけなんで、本当に貴族かどうかは、分からないんですが」

「いや十分だ。もし本当に貴族だったら、黒幕の可能性があるな」

「それでは、後は任せます。俺は騒ぎに乗じて、ここを仕切ってるアヒリモを捕らえてます。証拠を消される前に」

「皆聞いての通りだ。ここに来て居る半分は、捕まっている人達を解放して救いだすこと。あとの半分は採掘場内に居る盗賊を一掃。オレは貴族だと思われる奴が居る所に向かう。そういう事だから、カズも頼んだぞ」

「分かりました。では…」

 カズはアイガー率いる冒険者と別れて、ひとまずホーベル居る横穴に戻った。
 アイガーは冒険者を2チームに分けて、配置につかせた。
 しらじらと夜が明け始め、盗賊を一掃するチームがアイガーの掛け声を合図に、勢いよく採掘場内に入って行く。

「行けぇー!」

 いつもと変わらない朝がくると思っていた盗賊は、急な襲撃で慌てふためいていた。
 武器を装備していた盗賊は、侵入した冒険者の対処に向かい、寝ていた盗賊達は倉庫に急ぎ武器を取りに行った。
 しかし武器を取りに行った盗賊達は、そこで衝撃の光景を目の当たりにした。
 そこには錆びた剣の一本すらなかった。
 それもそのはず、倉庫にあった武器はカズが回収したため、全て無くなっていたからだ。
 盗賊達は唖然としていた。
 そのため武器を持たない盗賊達は、採掘場で働かせている人達を盾にしようと、すぐに横穴に向かった。
 しかし既に冒険者達が、全ての横穴に居る人達を解放しにかかっていた。
 その様子見た盗賊は、無い武器の代わりに、採掘道具のシャベルや、つるはしを持ち戦おうとする。
 中には諦めて大人しくする者や、自分だけはと、この場から逃げ出そうとする盗賊もいた。
 先頭に立ち突入したアイガーは、一人建物内に入り、目的の貴族とおぼしき人物を無傷で確保した。

 その一方で、アイガー率いる冒険者達から別れて、横穴に戻ったカズはホーベルを起こした。

「ホーベル起きろ」(小声)

「ん……」

「ナツメとグループは安全な所に連れてった」(小声)

「そう…か」(小声)

「もうすぐ夜が明ける。それと同時に、冒険者達が採掘場に突入して、捕まっている人達を解放するから、それまでホーベルもここ(横穴)から出ずに待機してた方が良い」(小声)

「ルアなのか?」(小声)

「そうでもあるけど、そうじゃないな。ルアは俺が変装してたときの名前。この姿が本来の俺で、名前はカズ」(小声)

「子供達と、このあと起きる事を知っているなら、本当にルアのようじゃな」(小声)

「姿を偽ってごめん。ここを潜入調査してたもんだから」(小声)

「気にすることはない。それでここを出られるのなら」(小声)

 カズがホーベルを起こして事情を説明していると、外からアイガーの掛け声が聞こえた。

「冒険者達が突入してきたようだ。俺はやることがあるから、もう行くよ」

「気を付けるんじゃぞ」

「ああ」

 カズはホーベルと別れ、アヒリモが居る建物に向かった。
 すれ違う盗賊を、得意の電撃魔法で気絶させていき、アヒリモの部屋に入った。

「誰だテメェ? 顔を見せろ!」

「もうすぐここは冒険者達が制圧する。だから降伏してほしいんだが」

「わいに降伏しろだぁ? 死んで後悔しやがれ!」

 アヒリモが手元に置いてある短剣を持ち、カズに斬りかかる。
 カズは後ろに飛び退き回避して、気絶させるようと〈ライトニングショット〉を放つ。
 電撃がアヒリモに直撃するが、一瞬動きが止まったものの、気絶されるまでにはいかなかった。

「電撃の魔法を使える奴とは、だが残念だったな。わいが装備しているレザーアーマーは、帯電する魚や獣を捕食するワニの革が素材なんだ。だからその程度の電撃なんて効かねぇのさ。それとコイツもただの武器じゃねぇぜ」

 アヒリモは短剣を鞘にしまい、ベットの脇から『バトルアックス』と呼ばれる、大きな斧を持ちだした。

「そんな物ここで振り回すと、建物が壊れるぞ」

「かまやしねぇ。テメェを殺してとんずらするからな」

「大人数の冒険者から、逃げきれると思ってるのか?」

「これ以上話しても時間の無駄だ。魔法が使えるだけで、丸腰で来たテメェがバカだったな」

 アヒリモがバトルアックスを振り回し、カズを攻撃する。
 バトルアックスが振り回される度に、椅子や壁が破壊されて行く。
 カズは攻撃を避けながら、武器を装備したアヒリモのステータスを【分析】して見る。



 名前 : アヒリモ
 職業 : 盗賊団副頭
 レベル: 49
 力  : 735(+50)
 魔力 : 106
 敏捷 : 261(-50)
 運  : 29

 【装備品】
 短剣(麻痺毒付き): 力 +3

 バトルアックス(土属性)水晶装備 : 力 +50
 ・バトルアックスに埋め込まれた水晶に〈アースクウェイク〉の魔法が付与されており、一日二回だけ使用できる。
 ・基本の力が800以下の場合、敏捷が20%低下する。

 レザーアーマー(悪食のワニ革使用): 水と電撃の耐性があり、革の表面は岩のように硬い。



 攻撃力(力)だけなら、Bランクの冒険者くらいはありそうだな。
 それになんだあの武器……魔法が使えるのか!?

「チィ! なんでこんな奴に、わいの攻撃が当たらねぇんだ。避けるんじゃねぇ!」

「いやいや避けるでしょ(武器の性能とステータスがあってないから、敏捷が下がって動きが遅くなってるのに、気付いてないんだ)」
 
「クソがぁ! だったら〈アースクウェイク〉」

 床板が剥がれ見えている地面に、アヒリモがバトルアックスの刃を叩き付けて、水晶に込められてる魔法を使った。
 すると地面が揺れて建物がきしみだし、今にも崩れそうになる。
 地面が揺れたことにより、カズも動きを止めた。
 それを見たアヒリモは、動きを止めたカズ目掛けて、バトルアックスを横になぎ払った。

「もらった! 死ねぇ」

 アヒリモがしとめたと思った瞬間、金属音がして、バトルアックスがカズの手前で止まった。
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