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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

180 潜入調査 4 脱走 と 再調査

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 ≪ ルア(カズ)が採掘場に連れて来られてから七日目の夜 ≫


 ルア(カズ)はここに来てからの七日、盗賊の様子をうかがっていたが、ホーベルが言ったように食事は朝と夕の一日二回、それもパンが一つと干し肉が少しだけと非常に少ない。
 そのために殆どの者達は、水を飲んで空腹を誤魔化していた。
 寝る場所は各自が掘っている横穴の中と言うこともあり、時には崩れることもあり怪我人もでる。
 幸いルア(カズ)達が居るの横穴は、ホーベルが崩れないように採掘していたため、他にある横穴と比べると比較的安全だった。
 強制労働とはいえ、この場所はかなり悪い環境と言える。
 着替えがないため着ている物を洗えば、その日は裸でいなければならず、体は濡らした布で拭くことしかできない。
 他の横穴で採掘している者の中には、病気になる者もいた。
 そういった者は閉じ込められるか、採掘場から離れた場所に連れて行かれ、森や荒野に置き去りにされるらしい。
 そんな環境の悪い場所で、皆が掘らせれている物は、武器を作るための鉄鉱石だ。
 ごく稀に、土の魔素を溜め込んだ魔鉄鉱石が見つかると。
 それも濃い魔素を溜め込んだ、貴重で高価な物が。
 そのために盗賊達は、山に囲まれた不便な場所に、労働力をかき集めて採掘をしているようだ。
 ルア(カズ)は、この場所に居る盗賊の人数と動きを把握してきていたので、一度ギルド(第2)に戻り、フローラと話し合い作戦を立てようと思っていたが、現状難しく、ゲートを使って手紙のやり取りしているだけになっていた。(ゲートで手が通るだけの空間を作り、そこから手紙を資料室に置いたり、回収したりと)
 そしてこの日、夕食の支給が終わったあと、行動を起こそうと決意する者がいた。

「飯を食い終わったら、ととっと穴に戻れ」

「もっとまともな食べ物よこせよ」(ボソッ) 

「なんだぁ。何か言ったか?」

「いえ、なんでもありません」

 あれから毎日が同じで、夕食のあとは掘っていた横穴にすぐに入れと言われ、カイトは限界に来ていた。

「おいルア」(小声)

「なんだ?」

「もっと小声で話して」(小声)

「それで、なんだよ」(小声)

「今夜中に僕はここを逃げ出すぞ」(小声)

「どうやって? その毒針付きの枷だってあるんだぞ」(小声)

「毒針たって、所詮は針だから細いだろ。僕が手に入れたこの板を枷と腕の間に入れれば、毒針なんか通さないさ。ここに来て食事があれだけだろ、そのおかげ腕と枷の間に隙間ができたからな!」(小声)

「脱走はまだやめておいた方が良いと思うぞ。外の状況だって分からないんだろ(今カイトに動かれると、俺達の見張りが増えてしまう)」(小声)

「ここさえ出ればなんとかなるよ。二日も歩けば誰かに会うだろうから、その人に頼んで助けてもらうさ」(小声)

「好きにすればいい(止めてもダメか)」(小声)

「今頃になって、連れて行ってくれって言っても、もう遅いからな」(小声)

「分かった分かった。じゃあ今夜カイトは、入口に近い方でいるんだな」(小声)

「そうするよ。これで明日の朝になったら、ここの連中驚くぞ。僕はそれが見れないから残念だけど。くくくッ」(小声)

「そうか……(うまく行くにしろ行かないにしろ、これで連中の動きが変わるだろうから、また様子を見て調べ直す必要があるな。調査の延長か)」


 ◇◆◇◆◇


 翌朝空が明るくなり始めた頃、盗賊達が何やら騒いでいた。
 ルア(カズ)とホーベルはその騒ぎで起き、カイトが逃げ出したことを盗賊達が気付いたのかと思っていたが、そうではなかった。

「コイツらには、しつけが足りなかったようだな」

「ここから逃げられるとでも思ったのか」

「わいの眠りを邪魔をしたのはコイツらか。おいお前ら、全員を起こせ」

 採掘場を仕切るアヒリモが全員を集めろと、盗賊達に命令をした。
 ルア(カズ)達が居る横穴にも、入口から監視役の盗賊が大声で起きて出ろと命令する。

「どうやらこの騒ぎは、カイトが逃げたしたからのようじゃな」

「さてどうでしょうか」

「どういうことじゃ?」

「盗賊は『コイツら』と言ってたから、一人じゃなさそうなんだ」

「ん…なにルア?」

「もう朝なの?」

「何かあったようでね、外に出て来いって言われたんだよ」

「まだ眠いよぉ」

「あたしも…眠い…なの」

「ほれチビども、仕方がないから起きて外に出るんじゃ」

「何してんだ! 早く出て来い!」

「怒られたよルア」

「怖いなのルア」

「大丈夫だから、とりあえず出ようか」

 先にホーベルが横穴の入口に向かい、ルア(カズ)がそれに続き、その後ろに隠れながらナツメとグレープが出て行く。
 外にはこの採掘場で働かされてる者達が、一堂に会していた。
 その数は百は居ると思われる。
 多種多様の種族がおり、人と獣人以外はエルフにドワーフ、さらには『ハーピー』さえも居た。
 しかも中には子供と思われる者も、数名確認できた。
 二体だけ居たハーピーは、両足に重りの付いた枷を付けられていた。
 そしてその皆が見ている先には、盗賊に殴られ倒れている三人の者がおり、その内の一人がカイトだった。

「ごめんなさいごめんなさい。もう逃げませんから許してください」

「おいコイツらを見張ってた奴は」

 アヒリモの問い掛けに、三人の盗賊が倒れてるカイト達の前に出てきた。
 そしてアヒリモは、出てきた盗賊を一発ずつ殴りつけた。

「お前らのしつけが悪いから、コイツらが逃げ出そうとするんだ。次はないぞ!」

「すいやせん」

「分かりやした」

「い、痛い」

「分かったらコイツらを、三日間閉じ込めておけ! その間の飯は抜きだ。それとコイツらと同じ穴の奴も、今日の飯は抜きだから配給するな。他の奴も今日の朝飯は抜きだ」

 集まっている者達は、倒れている三人を睨み付け、ぶつぶつと小声で文句を言っていた。

「カイトはすぐに捕まったようじゃな。飯抜きとは、えらいとばっちりだ」(小声)

「逃げたせずに捕まると、いつもあんなことになるなのか?」(小声)

「制裁はされるが、今回はちとキツイのぉ。ここのボスを怒らせたのが、まずかったようじゃな」(小声)

「いいかよく見ておけ。ここに居るお前らも逃げたそうとしたら、こうなるからな! 分かったら作業を始めろ!」

 それぞれ自分の採掘している横穴に戻り、作業を始めた。
 ルア(カズ)達四人も横穴の奥に行き、採掘作業を始める。

「ワシは大丈夫じゃが、子供達が飯抜きなのは辛いのぉ」

「ルアお腹すいたよぉ」

「お腹すいたなのルア」

「ちょっと待ってな(ホーベルにだけは少し話しておくか……完全に信用できるかは分からないが、ナツメとグレープに食べ物を与えないのはさすがに)」

 ルア(カズ)は【マップ】を見て、盗賊が自分達の居る所まで来ないか確かめ、ホーベルに魔法とアイテムボックスが使えることを話した。

「よくあの連中に、気付かれなかったのぉ」

「俺を騙そうとした盗賊が気付かなかったんで、そのあとバレないようにしてたんだ。子供達に食事をさせたいから、ホーベルも協力してくれ」

「そうじゃな。カイトのせいで、今日の飯が無くなってしまったからのぉ。しかし少量にしないと、怪しまれるから気を付けるんじゃぞ」

「分かってるさ」

 ルア(カズ)はナツメとグレープの手に〈クリーン〉の魔法を使い清潔にして【アイテムボックス】からすぐに食べられるパンを出し二人に渡した。
 もちろんホーベルにもパンを渡し、ルア(カズ)自身も食べた。

「おいしかった」

「柔らかかったなの」

「このことは内緒だから、誰にも言っちゃ駄目だよ」

「はぁーい」

「分かったなの」

「ホーベルもお願いな」

「ああ、もちろんじゃ。さあ食い終わったら怪しまれる前に、作業を始めるぞ」

 そして今朝脱走があったことで、それぞれの横穴の出入口では、深夜交代で見張りが付くことになり、ルア(カズ)は盗賊の動きを把握するために、この日からさらに数日かけて調べるとなった。



≪ ルア(カズ)が採掘場に連れて来られてから十一日目 ≫


 脱走に失敗したカイトを含む三人は、拘束から解放され、一緒に新たな横穴を掘りよう言われた。
 この三人は要注意として、三人それぞれに監視役が付くことになった。
 そのため見張りがゆるくなる場所もあり、ルア(カズ)達が居る横穴もそうなった。
 盗賊達が話していた理由は、子供が二人も居るため、監視役を増やす必要がないと。
 子供二人はルア(カズ)が世話をしていたため、面倒が起きないからだと、盗賊達が話していたのをホーベルが聞いていた。
 しかもカイトが元々居たことで、制裁がどうなるか目の当たりしたから、分かるだろうとのことだ。
 監視がゆるくなったのはルア(カズ)達には幸運で、ナツメとグレープに食事を与えていても、気付かれる可能性が減ったからだ。
 そして新たに情報を得るために、ルア(カズ)はこの日の夜中から、隠密と隠蔽のスキルを最大の『5』に上げて、この場所を調べるため動き出した。
 探索スキルとサーチの魔法で、秘密の通路や部屋がないかなど調べ、貴族などの権力がある者と、繋がっている証拠を探した。
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