上 下
183 / 770
三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

174 罪人奴隷の扱い

しおりを挟む
 カズはこの異世界での、奴隷に関する事をフローラとアイガーに尋ねた。

「現在この国で奴隷というと、罪人奴隷ですね」

「罪人奴隷?」

「オレが説明しよう。罪人奴隷ってのはな、罪を犯した者達を奴隷とし、労働力として使ったりしてるんだ。大抵は罪が軽い者が多いがな」

「逃げたりはしないんですか?」

「各自に契約を施し『魔道具の枷』をはめさせてるから大丈夫だ。決められた一定の範囲から出ると、枷をはめてる者が麻痺して、動けないようになる。枷の効果が発動した場合は、監視役の者に、その事が分かるようになってる」

「暴れたりしたら、どうするんですか?」

「大抵は監視役の方が強いだろうが、いざとなったら、枷に付与してある麻痺の効果を、強制的に発動させられるようになってる」

「そんな魔道具があるんですね。だったら労働力が足りなくなることは、ないでしょうね」

「そうでもないわ。その枷を作れる人が少ないうえに、使用時には監視をする方も魔力を使うから。だから監視役が一人で、一度に多くの奴隷を使えるわけではないの。せいぜい五人から八人程ね。それに罪人奴隷だからって、肉体労働を長時間させるような無理はできないのよ」

「そうなんですか。犯罪奴隷に対しても、そういうところはしっかりしてるんですね」

「ええ。無理な労働をさせて、日常生活に復帰出来なくなったら大変だから。その事も考えてるのよ」

「じゃあ奴隷は、売り買いされたりしないんですか?」

「罪人奴隷は国が管理してますから、売り買いはしていませんよ。ただ料金を支払えば、労働力として借りる事は出来ます。その場合も監視役の方が、同行することになります」

「聞いての通りだ。白き災害……じゃなかった、白真が見たのが本当に、奴隷にしようと捕まえていたのなら、かなり面倒だ」

「そうね。奴隷として売られた先が貴族だったり、国境を越えて他の国にでも行ったら、余計に面倒だわ」

「ああ。オレ達の手に余るな」

 フローラとアイガーは難しい顔をする。
 そこでカズが気になる事を聞いた。

「そういう連中を、国がなんとかしようとしないんですか? 衛兵が居ますよね?」

「潜伏場所が分かってないと、衛兵は動かないわ。それに衛兵は貴族や街に住む人々を守るから、盗賊を探しに行ったりする事は殆どないわ」

「そんなことだと今回のように、良からぬ事を企む連中が徒党を組んでいたら、貴族どころか、王族だって危ないんじゃないですか?」

「だから冒険者ギルドに、秘密裏に依頼が来たりするのよ」

「ってことはつまり、今回の依頼者は『国』ってことですか?」

「そこはその……依頼主の希望で秘密になってるわ」

「えっ……(これって途中で辞めるどころか、失敗も出来ない依頼じゃないのか! 責任重大、しくじったら極刑確定とか!?)」

「カズさん……カズさん!」

「は、はい」

「ボーッとして大丈夫?」

「いやぁ…あのぅ……やっぱりこの依頼…」

「カズさんなら必ず出来るわ! 私が保証するから大丈夫! だから今になって、やらないなんて言わないですよね」

「ぁ……(こ、断れない)」

「まさか断ろうとしたんですか……?」

 フローラが困ったような言い方をして、悲しげにカズをじっと見る。

「も、もちろん断りはしませよ。任せてください(何言ってるんだ、何故断らないんだ俺ぇ! その顔は卑怯だよフローラさん)」

「頼りにしてるわ!」

 一連の話を聞いていたアイガーが、カズに耳打ちをする。

「種族関係なく、口では女に勝てないな」(小声)

「ハハ……まったくです(どこの世界でも同じか)」(小声)

 一時間程続いた話し合いは、だいたいが終わった。

「オレが持ってきた情報は以上だ」

「私のギルド(第2)は大丈夫だと思うけど、一応内部調査をした方が良さそうね」

「ああ。それに他のギルドで、信頼出来る者と連絡を取り、同じ様に内部調査をするように言った方が良いだろう。本来の案件とは別の理由で説明をして」

「そうね。先ずは安心出来る場所を確保して、地盤を固めていきましょう」

「では王都内は皆さんに任せます。俺はそろそろ、出発したいと思います」

「頼んだぞカズ」

「お願いねカズさん」

「はい」

「そこに掛けてあるマントを使って。認識阻害の効果があるから。それとカズさんは『フェイク』の魔法は使えるかしら?」

「フェイクですか?」

「ええ。ステータスやギルドカードを見せる時に、表示を誤魔化す事が出来るの。今のカズさんがしているように、ステータスを見られないようにしてると怪しまれるから、ステータスを見られても良いように、偽の情報を表示させた方が、色々と動きやすいでしょ」

「確かにそうですね」

「私も変装時に使ってたんだけど、カズさんには見破られちゃったわね」

「そんな事してたんですか?」

「ええ。カズさんのステータスなら、見破られる事は滅多にないと思うわ」

「フェイクですね。たぶん使えます(この話を聞いたから、使えるようになってんだろうな)」

「カズさんのギルドカードを返しておくわ。試しに今フェイクを使ってみて」

「今ですか? 分かりました。やってみます……〈フェイク〉」

 カズは受け取った自分のギルドカードに、フェイクの魔法を使い、表示されている内容を変えた。

「どうですかフローラさん?」

「見せて……Dランクになって、名前も変わってるから、これなら大丈夫そうね。ただランクは、Cランクにしておいた方が良いわ。Dランクで遠出の依頼を一人で受ける人なんて、そうそうないから」

「分かりました。それじゃあ、そろそろ俺行きます」

 カズはフローラに言われたマントを持ち、ギルマスの部屋を出て行った。
 しかし二分と経たないうちに、慌てて戻ってきた。

「どうしたカズ?」

「階段を下りてる途中でイキシアさんに会ったんですが、俺が持ってるマントを見たら、なんか急に怒りだして」

 するとカズを追ってきたイキシアが、扉を激しく叩くき入室の許可を求める。

「イキシアです。よろしいですか!」

 イキシアが来たのを知ったカズは、慌てて奥の資料室に入り、急いで〈ゲート〉を使ってギルドを離れた。

「入りますよ!」

 イキシアが勢いよく、ギルマスの部屋に入った。

「どうしたんだイキシア?」

「ねぇアイガー、カズはどこに行ったの?」

「カズならもう出発したぞ」

「今そこで会ったばかりなのよ。隠すとただじゃおかないから!」

「騒がしいわよ。何を怒ってるのイキシア?」

「だってカズがぁ、フローラのマントを持ってたのよぉ。昨日までフローラが見に纏ってたマントを」

「私がカズさんに貸してあげたのよ」

「えっ! フローラの香りが付いたマントを、おのれカズ…許さない! 自分ばっかり……羨ましいぃ!」

「イキシアはこんな奴だったのか……これは完全に変態だな」(ボソッ)

「何か言ったかしらアイガー」

「おっと、オレもそろそろギルド(第1)に戻らないと。何か分かったら知らせてくれ…くださいフローラ殿」

「分かりました。ご苦労様でしたねアイガー。気を付けて戻ってください」

 アイガーは所属する第1ギルドに戻る為に、ギルマスのフローラに挨拶をして部屋を出た。
 そしてフローラが使ってたマントだとは露知らず、前日まで来て居た村の近くにゲートで移動したカズは、イキシアに捕まらず安心していた。

「ハァー…毎回会う事に、なんなんだよイキシアさんは! 俺が何したって言うんだよ。さっきマントを見てたようだったけど……(なんか良い匂いがするけど、香水みたいなものでもつけたのかな? せっかく認識阻害の効果があるのに)」

 カズはフェイクの魔法を自分に施し、フローラに借りたマントを羽織った。
 そしてフェイクの魔法を使ったので、隠蔽のスキルを『1』に下げた。
 カズは【マップ】を頼りに、先日まで滞在した村の村長に聞いた、盗賊が現れた国境近くの村に向かって、移動する事にした。
 カズは国境近くにある村まで続く道を、たまにすれ違う人達に、怪しまれず目立たないようにして向かう。
 しかし認識阻害があるマントとはいえ、顔まで隠しているので、ちょっと怪しく見えてしまう。
 そこでカズは、ふとフローラのステータスを見た時の事を思い出した。


 フローラさんは変装していたと言っていたけど、アレナリアみたいに『イリュージョン(幻想)』の魔法なら、俺が見抜けると思うから、おそらくはステータスに表示されてた魔法『メタモルフォーゼ』だろうな。
 たぶん見聞きしたから、俺も使えるはずだ。
 ステータス確認魔法。 


 カズは使用出来る魔法を表紙させた。
 すると予想通り『メタモルフォーゼ』の魔法があったので《分析》して効果を調べでた。



 《特》メタモルフォーゼ : 自分自身の姿形を、任意に変身させる事が出来る。(ただし元の姿から大きく変えることが出来ない。人が巨人または、人が小人になど)
 ・姿形を変えるには、変身後の姿を詳しくイメージする必要がある。
 ・獣人のように、人型や獣型と変化する場合は、変化前と変化後の両方をイメージすることにより、変身中に変化することも可能。(ただし使用する魔力量は大幅に増え、使用者が保有する魔力量によっては、変身時間も短くなる)
 ・変身中は常に魔力を消費する。
 ・この魔法を使用するには『火・水・風・光・無』の属性が必要であり、三つ以上の属性を同時に使える必要がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...