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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

172 寝所は秘密の空間!?

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 空いてる宿屋を探したが、そうそう見つかる訳もなく、どうしようかと悩んでいると、不意に白真の声が聞こえた。

「『カズ』」

「ん! 『どうした白真?』」

「『昼間カズ達と会った少し後に、ちょっとした事があってな』」

「『ちょっとした事?』」

「『人族と思わしき者達が、同族や他の種族を捕まえていたのを見てな。我に気付くとその連中は逃げて行きおったが』」

「『捕まった人達はどうしたんだ?』」

「『それは知らん。我はすぐに去った。カズが人に危害を加えるなと言っていたので、何もせんかった』」

「『確かに言ったけど、助けてやれば良かったじゃないか』」

「『捕まえたという事は、奴隷にでもするのであろう』」

「『奴隷……そういえば、この国に奴隷制度なんてあるのか?』」

「『下界に住む者どもの事など我は知らん』」

「『じゃあ今回は、どうして教えてくれたんだ?』」

「『昼間カズ達と会った近くだったのでな、その事で我が見たと、後になってカズが知ったら怒ると思うたので、今話したまでだ』」

「『怒る? まぁ…それはあるかも』」

「『であろう』」

「『白真が見た連中が、冒険者崩れや盗賊の可能性もあるから、その情報はありがたいよ。それで、どの辺りで見たんだ?』」

「『カズ達と会った場所から少し南だ』」

「『その連中が、どっちの方角に向かってたか分かるか?』」

「『そこまでは知らんが、乗っていた物の跡は、東の方に延びていたぞ』」

「『乗っていた物? 荷馬車か?』」

「『そんな物だ。おそらくな』」

「『そうか、分かった。明日にでもギルドで聞いてみる。それで白真は、もう寝所の山に戻ったのか?』」

「『戻っておるぞ』」

「『それなら渡す物もあるから、今から行くよ』」

「『構わんが、渡す物とはなんだ?』」

「『イノボアが何匹かあるんだけど、食べるかと思って。昼間の獲物はデカイとはいえ、ロックバード一体だけだったろ。それですぐに帰らせたから、アイテムボックスに入れてあるイノボアでも、白真にあげようと思ってさ。腹の足しになるか分からないけど』」

「『確かに昼間食うた鳥は、肉付きが少なかったゆえ、もう少し何か腹に入れておいてもよいな。寝所に戻りながら他の獲物を探したが、食えそうな奴は見付からんかったのでな』」

「『ならヘビーベアでも残しとけば良かったか?』」

「『なぁに構わんさ。更に腹が空いたら、獲物探せば良いだけのことだ』」

「『そうか。それじゃあ、すぐにそっちに行くよ』」

「『了承した』」

 カズは暗くなる街の路地裏に移動して、人が居ない事を確認し〈ゲート〉を使い、白真の居る雪山に移動した。

「白真、来たぞ」

「来たかカズ」

「冷寒耐性があっても少し冷えるんだけど、この前来た時より寒くなったか?」

「何も変わらんと、我は思うが」

「そりゃあフロストと名の付くドラゴンだもんな。白真に聞いた俺がバカだった」

「我が寒さを感じる場所ならば、人などすぐに凍りつくであろう」

「それもそうだな。持ってきたイノボアすぐに食べるか? それとも何処かに置いとくか?」

「ならそこの隅にでも転がして置いてくれ。小腹が空いたら食うことにする」

「分かった。ここなら寒いから、腐ることもないだろう」

 カズは【アイテムボックス】から、入ってるイノボアを全て出した。

「これで全部」

「うむ。つまむには丁度良い数だ」

「じゃあ俺は…」

「もう戻るのか?」

「いや、今日ここに泊まるつもりで来たんだ」

「そうか泊ま……ん? ここは寒いと言うたであろう。なのに泊まるのか?」

「今日泊まる所が見付からなくてさ、王都で野宿って訳にもいかないし、ギルトもちょっと理由があって。冷寒耐性があるから、大丈夫だと思って来たんだ。それに最近一人になれる事がなくて、なんだか疲れちゃったんだよ」

「我は構わぬが、何処で寝るのだ?」

「そうなんだよ。思ってたより寒いから、どうしようかと……」

「まさか寒いからと、また辺り一面の雪を溶かすような事をするのか?」

「またって、あれはトレカの効果を調べる時に、ああなってしまっただけなんだから、寒いからってそんな事はしないつもりだ(毎回ここへ来る度に言われそうだ)」

「ならどうするのだ?」

「今の話で思い出した。トレカ使って寝る場所を確保するよ」

「また新たな物か?」

「前に使った『隔離された秘密部屋』のトレカ」

「……なんであったか?」

「アイテムボックスみたいな、外部から切り離された別の空間を作るトレカだよ。前に来た時に、手提げ袋に空間収納魔法を付与したでしょ。その時に使ったトレカ」

「それならここで使わなくても、良いではないのか?」

「王都だと人目があるから、外では簡単に使えないよ。それこそ部屋に一人で居る時とかじゃないとさ」

「面倒だな。カズの力を皆に知らしめてやれば、こそこそする必要もなかろう」

「大事になると、それこそ面倒だから、知ってるのは一部の信用ある人達だけで良いの」

「その信用ある者の中に、我も入っているのか」

「まぁね。白真の場合は、いざとなったら……」

「何が『いざとなったら』だ? 恐ろしい事を考えてるのではないのか?」

「さてと、冷えるからトレカを出して、あの空間に入ろーっと」

「おいカズ聞いているのか! 『いざとなったら』なんなのだ!?」

「何もしないよ。冗談だから」

「本当か? 本当だな!」

「本当だよ。ただの冗談」

 白真の話を軽く流し、カズは【アイテムボックス】から『隔離された秘密部屋』のトレカを出して使用した。
 するとトレカは鍵に変わり、目の前に扉が出現した。
 カズが扉を開け中に入ると、白真が覗きこんできた。

「入りたいのか?」

「いや。閉じ込められたくはない。ただ少し興味があっただけだ」

「あっそ。俺は適当に何か食べて、少してから寝るけど、何か話す事でもあるか?」

「特にはない」

「そうか。じゃあおやすみ」

「うむ」

「今夜は一人で、気兼ねなく寝れそうだ」

 カズは一人で別空間で食事を取り、魔法の古書に何か新たに出現したかを確認してから、毛布にくるまって寝た。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝別空間で目が覚めたカズは、扉を開けて外に出た。
 持っていた鍵はトレカに戻り、カズはそれを【アイテムボックス】にしまった。
 空間から出た所には、白真が横たわり寝ていた。

「白真…」

「……ん? カズか、出てきたのだな。扉が消えたので、どうしたかと思うたぞ」

「ああ、五分くらいで外の扉は消えるから。俺、王都に戻るよ」

「そうか……」

「どうした?」

「いやなに、昔の事を夢で見たような気がしたんだが……」

「夢見てたのか!? それは起こして悪かった。ゆっくり寝てくれ」

「ああ。そうするとしよう」

「〈ゲート〉またな(モンスターの白真でも夢を見るんだ。何見てたんだろう? 今度聞いてみようかな)」

 カズはゲートを使い、王都に戻った。

「行ったか(我に食い物を届け、一晩過ごす為だけに同族の所ではなく、我の所に来たとは、相変わらず変わった主人だ。先程見た夢……確か…忘れた…まぁいい。もう一眠りするとしよう。腹が減ったら、カズが持ってきた獲物でも食えば……)」

 白真は忘れていた……獣魔契約が付与されている水晶を渡し、自分に名を与えた者の事を。

 王都に戻ったカズは、店を回り食料を買だめて、朝の混雑がおさまった頃を見計らい、ギルドに向かった。
 ギルドに着き、受付の職員にギルドカードの事を聞くと、会議室に行くよう言われた。(ちなみにこの日、トレニアは休みだった)
 カズが言われた会議室に行くと、そこには第1ギルドのアイガー居た。

「よぉカズ。遅かったな待ってたぞ」

「アイガーさん! どうしたんですか?」

「頼まれた資料を持ってきたんだ。それに話もあったんでな。じゃあ早速ギルマス殿の所に行くか」

「フローラさんの所ですか?」

「ああ。カズが来たら一緒に来てくれって言われてんだ」

 カズとアイガーは、ギルマスの部屋に移動した。
 部屋の中には、サブマスのイキシアも当然の様に居た。

「遅いぞカズ! フローラを待たせるな」

「す、すいません(昨日に続き今日もか)」

「久し振りだなイキシア」

「アイガーが持って来なくても良かったのに」

「オレが動いて調べてるんだから、説明するのもオレがした方が早いだろ」

「そういう事よイキシア。わざわざご苦労様ねアイガー」

「オレ一人で動くより、信用出来て実力がある二人が手伝ってくれるんだから、喜んで足を運ぶさ」

「私は半月もギルドを離れてたから、仕事が溜まって動けないわ。だからカズさんにやってもらう事にしたの」

「カズが手伝ってくれるなら、王都外での調べは任せて大丈夫そうだな」

「何があったか知らないけど、カズを買い被り過ぎじゃないのアイガー? まだBランクになったばかりなのよ」

「ランクが全てじゃない。そうでしょイキシア」

「フローラまで……」

 イキシアが睨むと、カズが一歩後ろに下がった。

「ハァ…イキシアちょっと出てて」

「えぇー」

「いいから三人にしてちょうだい」

「はぁい……」

 イキシアは後ろ髪を引かれる思いで、ギルマスの部屋を出て行った。
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