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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

171 危険人物!? と 男の見栄

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「いつ頃出発すれば良いですか?」

「早ければ明日資料を見たらすぐにでも」

「明日! 急ですね」

「最近国境付近の町に出たと、カズさんも村で村長さんから聞いたでしょ。カズさんなら空間転移……ゲートでしたね。それがいつでも使える訳ですから」

「ですよね~。俺なら王都との行き来もすぐですから(やっぱりゲートを知られたのは、少し不味かったな)」

「早速利用したと思ったかしら?」

「と、とんでもない(顔に出てたのか? まさか『女の勘』! いやいやまさかな……)」

「それにカズさんは、もう私の仲間なんですから、知ったからには手伝ってもらいます。……便利ですしね(ボソッ)」

「私の仲…ん! 今最後なんて言いました?」

「な、何しろギルマスの私自身が変装までして、今回の依頼に行ったんですから」

「そういえば、どうしてギルマス自身が変装までして、わざわざ依頼に?」

「カズさんの事を調べる為なのよ」

「えっ? 俺ですか?」

「そうよ。Cランクなのに貴族の依頼を受け、さらに呪い無効にする事が出来る謎のカードを持ち、ランクが上の相手に快勝する。王都に来てからの短い間だけでも、これだけの事をしているのよ。もし敵対するような、危険人物だったら大変でしょ。だから今回は私が動いたの」

「俺が危険人物ですか(ネメシア相手に快勝なんてしてないけど)」

「結果そんな事はなかったから良かったのだけど、もし危険人物だったら、私達に勝ち目は薄かったでしょうね。白き災害と呼ばれてる、フロストドラゴンを従属させてるんですから。どうやったのか詳しく聞きたいわね」

「……」

「ちょっと言い過ぎたかしら。ごめんなさい。その代わりカズさんの要望を聞きますから、なんでも言ってください」

「! なんでもですか?」

「私に出来る事ならですけど」

「なんで……(俺の事を知った王都のギルマスが、要望を聞いてくれるって事は、元の世界に帰る手掛かりが何か分かるかも…よし!)」

「イヤらしい事はダメですよ」

「ブっ……そ、そんな事は考えてません。イキシアさんが聞いてたらどうするんですか。怖い事を言わないでください」

「冗談です。それで何かありますか?」

「俺の目的は、元の世界に帰る方法なんですが、何か知りませんか?」

「さすがにそれは、分かりかねます」

「そう…ですよね。だったら手掛かりになりそうな場所や物は?」

「物ですと……アーティファクト(遺物)でしょうか?」

「それは何処に? 見れたりしますか?」

「『重要機密保管所』になら、かつての勇者が使っていた物があると思いますが」

「場所の名前からして、アーティファクト(遺物)を見るのは難しそうですね」

「ええ。私が入るにしても、色々と手続きがありますし、身分の高い貴族か、王族の紹介がありませんと、入るのは難しですね」

「ではどこか未踏のダンジョンか、探索しつくされてないダンジョンでもあれば、教えてほしいです」

「なかなか難しい注文ね」

「無理ですか?」

「出来るだけの事はするけど、あまり期待はしないで」

「調べてくれるだけでもありがたいです」

「それじゃあ、今日はここまでにしましょう。他の話は次の時に。それまでこれは預かっておくわ」

 フローラは1枚のカードをカズに見せた。

「あっ! それ(ユグドラシルの枝杖のトレカ)」

「そう。カズさんから借りた杖。カードに戻った後返してなかったわね」

「俺もすっかり忘れてました」

「他にも持ってるんでしょ? その話も聞きたいから」

「……分かりました(全部は言えないけど)」

「そうだ忘れるとこだったわ。回収してきたモンスターなんですけど、ギルドの倉庫に運んでもって良いかしら?」

「はい。大丈夫です」

「場所はモルトに聞いて。すぐに戻ってくるでしょうから」

「分かりました。それと、俺も忘れるところでした」

「何かしら?」

「まだしっかりお礼を言ってなかったので。依頼の間はお世話になりました。それと王都の数ある冒険者ギルドの中で、フローラさんの居るギルドに来て良かったです(元の世界に帰る方法を、探してくれそうだし)」

「フフッありがとう。今日はゆっくり休んで」

 カズはギルマスの部屋を出て、先程話の途中だった、受付に居るトレニアの所に向かった。
 カズが出て行った直後、イキシアがギルマスの部屋に入っていった。

「フローラ大丈夫、変な目で見られなかった?」

「そんな事はされてません。なんでイキシアは、カズさんを嫌っているの?」

「男が好きじゃないだけ。女性を見るイヤらしい目付きが、特に気持ち悪い。仕事だから割り切って話をするけど、やっぱり嫌い。モルトやカズは、そこらの男と違って、血走った目をしないからまだましなだけ」

「たまにイキシアも、私を見る時の目付きが同じだと思うけど」

「そ、そんなフローラァ……」

 イキシアが今にも、泣きそうな顔をしている。

「ごめんなさい冗談よ。だからそんな顔しないで(たまに血走った目をするのは、本当なんだけどね)」

「……」

「ハァ……そうだわ。せっかくだから、イキシアが買ってきた香りの良い茶葉で、一緒にお茶を飲みましょうか」

「フローラァ! 今すぐ新しいのを用意する!」

 泣きそうになっていたイキシアが、今度は満面の笑みを浮かべた。
 そしてフローラとの話を終えたカズは、一階の受付に来ていた。

「トレニアさん居ますか?」

「トレニアなら用事で、少し出てますよ」

 カズが受付でトレニアを探していると、モルトが声を掛けてきた。

「モルトさん! もう戻って来たんですか? 早かったですね」

「ええ。あちらで話をしていると、暗くなってしまうので、今日は預かった荷物を、届けただけにしました」

「そうですか。ならちょうど良かった。ギルマスに討伐してきたモンスターを、倉庫に運んでおくように言われたんですけど、あの冷蔵…冷やせる倉庫で良いですか?」

「ええ、そこで構いません。これから行きますか?」

「トレニアさんに用があったんですが、居ないようですし、先に倉庫に行って回収してきたモンスターを置いてきましょう」

「では儂が一緒に行って、倉庫を開けましょう。本当はヘレフォードに行ってもらい、解体する現物を見てもらいたかったのですが、もう帰ってしまいましたから」

「それじゃあ、お願いします」

 カズはモルトと、以前ストーンシャークを持って行った倉庫へと移動した。
 倉庫に着き中に入ると、とても冷えていた。
 倉庫の中には、解体し終わった肉や素材が幾つか置いてあった。
 カズは【アイテムボックス】から、回収してきた物を出して、隅から順番に並べていった。
 先ずはヘビーベア、次にレッドヒヒとバンブースネーク、最後にロックバードを出した。 
 するとガラガラだった倉庫の中が、半分以上埋まってしまった。
 村に居る時に、二十匹近い数のイノボアを倒したが、それは出さなかった。

「カズ君が持って来ると、相変わらず凄い数になりますね。ロックバードを二体も回収してくる冒険者なんて、儂は見た事ないですよ」

「大きいですしね。アイテムボックスを使用出来る人の特権ですから。それで解体の方は」

「それは儂からヘレフォードに言っておきます」

「素材の一部は、第1ギルドのアイガーさんに渡す分もありますから」

「分かりました。それはまた聞いておきます」

「お願いします」

 回収してきた獣とモンスターを倉庫に出したカズは、モルトとギルドに戻った。
 先程居なかったトレニアが、受付に戻って来ていたのに気付いたカズは、モルトと別れ受付に向かった。

「トレニアさん」

「はい? あっカズさん」

「さっき、話の途中みたいだったので」

「あのう、実は……私まだカズさんが泊まっている宿に居るんです」

「あれ? トレニアさん所の改装工事は、終わってないんですか?」

「はい。改装に使う資材が届かなくて、長引いてしまって、まだ数日掛かるようなんですよ」

「そうですか。じゃあトレニアさんは改装工事が終わるまで、そのまま宿に泊まっていてください」

「良いんですか?」

「また明日から、俺出掛けるので良いですよ。まだ何日分か、先払した宿代も残ってるでしょうし」

「明日って、今夜はどうするんですか?」

「一日くらいなら行く宛ありますから、トレニアさんは気にしないでください」

「そんな、だったら私が今夜は、同僚の所に泊まらせてもらいますから、カズさんは宿に戻ってください」

「いいですって、トレニアさんが使ってください。それじゃ俺もう行きます(これ以上話しても、お互いに譲り合うだけだからな)」

「あ、ちょっとカズさん!」

 慌てて呼ぶトレニアの声を無視して、カズは足早にギルドを出て行った。

「もう!」

「カズ君なりに気を使ったんですよ」

「モルトさん。せめてもう一度お礼を言いたかったわ」

「お礼ならいつでも言えますよ。カズ君が所属しているギルドは、ここなんですから」

「そうですよね。今度何かお礼と御返しをしないと」

 つい見栄を張ってギルドを出て来たちゃったけど、俺行く宛がないんだよな。
 もう夕方だし、今夜一晩泊まる所を探さないと。
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