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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

170 フローラの姿 と イキシアの本性

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 モルトが扉をノックをすると、中から返事があり、ギルマス部屋の扉が開いた。
 ギルマスの部屋から姿を現したのは、サブマスのイキシアだった。

「カズを連れて来たねモルト。二人共部屋に入って、フローラがお待ちよ」

「はい、失礼します」

「失礼します(イキシアさんも居るのか。苦手なんだよなぁ)」

 部屋に入ると、銀髪で長い髪をした、とても美しく綺麗なエルフ女性が椅子に座り、机の上にある書類に目を通していた。
 カズは内心とても驚いていた。
 ラスラことフローラが魔法で姿を変えているのは知っていたが、本来の姿を実際に見たのは初めてだったからだ。
 横に居るエルフのイキシアよりも、更に美しい姿をしており、女神が存在するとしたら、彼女がそうではないかと思えるほどだ。
 カズがじっと見ていると、書類に目を通しているフローラが視線に気付き、カズを見てにこりと笑った。
 カズが照れると、それを見ていたイキシアが、カズの正面に回り込み睨み付つける。

「いつまでも見てるんじゃないよ!」

「いっ! す、すいません(なんでそんなに怒ってるんだ?)」

「イキシア下がって」

「でもぅ、カズがフローラの事を、嫌らしい目で見てるからぁ」

「カズさんはそんな目をしてないわよ。いいから下がってイキシア」

「はぁい(カズさんだと!)」

 猫なで声の様な話し方をしていたイキシアが、カズの正面から離れる際に、先程よりも更に鋭い目付きでカズを睨んだ。

「この姿で会うのは初めてだから、もう一度自己紹介をさせてもらうわ。ここ第2ギルドでギルドマスターをしている、フローラ・クルトス・ナトゥーラです。知っての通り、変装時はラスラと名乗ってるわ」

「それでえーっと、フローラ様…」

「フローラで良いわよカズさん」

「フローラ…さん」

 カズはイキシアを横目で見ると『フローラと呼び捨てにしようものなら、覚悟しとけ』と、言わんばかりに威圧して睨み付ける。

「あ、あのそれで、あとは依頼の品を持って行けば、終わりだと思うんですけど、俺は依頼書を持っていないので」

「その事ならモルトに話したから、村で購入してきた品物を渡してくれれば、モルトに持って行ってもらうわ。カズさんには、色々とお話がありますから」

「そうですか(話か…まぁ仕方ないか)」

「儂が責任をもって、オリーブ・モチヅキ家に届けます」

「そういう事だから、モルトに渡してくれるかしら。ちゃんと冷やして運べる入れ物を、用意したから大丈夫よ」

「分かりました。今出します」

 カズは【アイテムボックス】から、村で購入してきた『生クリーム(未完成)』をモルトに渡した。
 モルトがそれを受け取ると、30㎝程の箱にしまった。
 その箱をよく見ると、外は木製だが中は銅で出来ていた。
 箱の蓋を開けると冷気が漏れ、中には1枚のソーサリーカードが入っていた。
 そのソーサリーカードは、氷結系の魔法が込められており、使用時の魔力を少なくする事で長時間冷しておくことができ『クーラーボックス』のように、中の物を冷やして運べる作りになっていた。

「モルトさん、凍ったりしませんか?」

「大丈夫です。そこまで冷えませんから。それでは、このまま急ぎ届けてまいります」

「オリーブ・モチヅキ家の皆さんに、よろしくお伝えください」

「はい。お任せください」

「頼みましたよモルト」

「はい。それでは失礼します」

 モルトは受け取った『生クリーム(未完成)』を、箱にしまうと部屋を出て行った。

「取りあえず急ぎの書類は片付いたから、そちらの椅子に座って話しましょう。どうぞ座ってカズさん」

「はい」

「何か飲み物を持って来てくれるかしら、イキシア」

「はぁい。おいカズ、フローラを変な目で見たら、ただじゃおかないから」

「綺麗だからって、変な目でなんて見ませんよ」

「綺麗だなんて嬉しいわ。ありがとう」

「いえ…その、本当ですから(じゃな~い。久々に何を口走ってるんだ俺は!)」

「こらカズ! 気安くフローラと話すんじゃないよ! ギルドマスターなのよ、立場をわきまえて話なさい!」

「は、はい。すいません(なんで! 前回は『ギルマスを紹介しようか』とか言ったの自分なのに)」

「イキシア、飲み物をお願い」

「すぐに私の部屋から持ってきま~す」

 イキシアがニコニコしながら、隣にあるサブマスの部屋に、飲み物を取りに行った。

「ごめんなさい。彼女仕事は出来て優秀なんだけど、なぜか私と居ると、あんな風になってしまうのよね」

「いえ、大丈夫です(本当に気付いてないの?)」

「イキシアが言った事は気にしないで、かしこまる必要ないから」

「はあ……それで話とは?」

「先ずは今回依頼に行く前に、ランクの話をモルトに聞いたでしょ。それの事を話しましょう」

「そういえば、俺がBランクに上がるとかって(忘れてた)」

「ええ。実力を見る限りでは、Aランクどころか、Sランクでも全然良いんだけど、その場合は何かあった時の為に、全ギルドマスターにステータスを全て開示する必要がありますから。ですから今回は最初の話通り、Bランクに昇格という事にしておきましょう。そうすればステータスの開示は数値だけで済みますから」

「あのでも、俺の数値…」

「分かってます。それは私の方で何とかしておきますから」

「お手数お掛けしてすいません。ありがとうございます」

「別に構いませんよ。それとギルドカードを渡してもらえるかしら。新しくするから」

「はい、分かりました」

 カズは【アイテムボックス】からギルドカードを出し、フローラに渡した。

「明日には出来るから、受付で確認して」

「はい(ステータス開示の事忘れてだけど、なんとかなって良かった)」

 ちょうどカズのランクを、Bランクに上げる事で話がついた時、飲み物を取りに行ったイキシアが戻ってきた。

「お待たせ。香りの良い茶葉を見付けたんで、フローラと一緒に飲みたくて買っておいたのよ」

 イキシアはフローラを見て、ニッコリと笑った。

「そう、ありがとうイキシア。でもまだカズさんとお話があるから、飲み物を置いたらお仕事に戻って」

「でもぉ、それだとカズと二人っきりにぃ…」

「別に構わないでしょ。カズさんとは半月も一緒に依頼に行ってたのだから」

「話の邪魔をしないからぁ~、ワタシも一緒に居て良いでしょ」

「イキシアお仕事に戻ってね」

「…はい。お仕事に戻ります」

 イキシアは悲しげな顔をしながら部屋の扉を開けた。
 部屋の扉が閉まる瞬間に、カズを睨み付けた。

「フローラに何かしたら殺す!」(ボソッ)

「ヒィ……あ、あんなサブマスで、このギルドは大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ(たぶんね)」

「他の職員に被害が出てるんじゃ」

「それは心配ないわ。イキシアは女性職員には優しいから」

「女性限定ですか(やっぱりそっち系か)」

「ここのギルドは、殆どの職員が女性だから」

「そういえば、男性職員をあまり見ませんね。モルトさんと、解体をしてるヘレフォードさんと、あとは受付で一人か二人見たくらいです」

「男性職員は力仕事が多いから、表に出て来ないのよ。だから会う事はあまりないと思うわ」

「もっと男性を雇わないんですか?」

「私もイキシアにそう言ったのだけど、こうなってしまったのよ。今居る職員の殆どは、イキシアが選んで採用したから」

「ぁぁ……(異世界での男女差別か。いやただの趣味だな。まったくダメな人…じゃない、エルフだ)」

「ギルドの話はもういいとして、カズさんにやってもらう事ですけど」

「ど、どんな無理難題でしょうか? (俺の秘密を盾に、扱き使われるのか?)」

「そんな大変な仕事を押し付けない……と言いたいとこなんだけど、王都の外にある町や村に行って、例の事を調査してもらおうと思って」

「例と言いますと、冒険者崩れと盗賊の事ですか?」

「ええ。第1ギルドのギルマスに連絡したら、アイガーの報告を聞いて、私が知った事を聞いていた様だから、こちらでも調査をしてみるって言っておいたの」

「別々に調査ですか?」

「ええ。明日の朝には、あちら(第1ギルド)から資料が来るから、それを確認してから行ってください」
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