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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

152 家名の由来(モチヅキ) と 謝礼

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 オリーブ・モチヅキ家の当主ルータと、執事ジルバがお互いの手を固く握り、握手を交わす。
 その様子を見たカズは、邪魔をしないように二人から離れ、庭をゆっくり歩きながら暫し待つ。
 我に返ったルータは、カズに声を掛ける。

「! カズさん申し訳ない。ついジルバの想いに…」

「ジルバさんや、アキレアさん達メイドの方々も、大切な家族で良いですね」

「ええ、我が家の使用人は、立派で大切な家族です」

 ルータは胸を張って言う。

「あのう、先程の話で家名に『モチヅキ』が入った理由を、聞いてませんでしたが」

「そう言えばそうでしたね。『モチヅキ』とは、別の世界から召喚された勇者様の一人が、当時の王族の女性と御婚約されて、勇者様の家名を加えたと聞いてます」

「と言うことは、ルータさんのご先祖が婚約された王族とは、もしや…」

「そうです。それが勇者様の子孫にあたる方だったようなのです。私もこの事を知ったのは、デイジーが産まれた時に、義母(はは)のジニアから聞いたのですが」

「ではそれを知ったのは、十数年程前と言うことですか」

「ええ。本来ならば、当主から詳しく聞かされる事なのですが、義父(ちち)は既に亡くなっているので、義母(はは)も詳しい事は分からず、その程度しか」

「そうでしたか。辛い事を思い出させてしまった様で、申し訳ないです」

「気にしないでください。義父が亡くなったのは、私やマーガレットがまだ子供の頃の話でしたから。当時悲しんでるマーガレットを、慰めたのは幼馴染みの私でしてね。今と違ってすぐに泣く子でした」

「そんな頃からの仲なんですね」

「ええ……おっと、余計な事を話してしまいました」

 ルータは少し、恥ずかしそうにしている。

「そうだ! 肝心な事を話してませんでた。実は冒険者ギルドに依頼を出したのですが、カズさんのことを聞いて、推薦してしまったんです」

「別に構いませんが、もしかして、Aランクと思っての推薦ですか?」

「はい」

「まぁでも、ランクに伴わない依頼なら、ギルドの方で、受けさせないようにするでしょうから、大丈夫ですよ」

「そうですか。ただこの依頼には、大量の荷物を運ぶ事が出来るという条件がありまして」

「……だ、大丈夫ですよ。Aランクが受けるような依頼は、俺に来ませんから、気にしないで…」

 カズが否定して言い切る前に、ジルバが話し出す。

「それは分かりませんぞ。カズ殿は確かにランクだけを見ると、高くはないかも知れませんが、実力的には十分にAランクの方に張り合えると、私しは思ってます。この事に関しては、モルトも同感だと」

「そんな俺は…」

「ジルバだけじゃなく、モルトにもそう思われてるのであれば、推薦ではなく、カズさんを指名すれば良かったですな」

「……あのう、ちなみにどんな依頼だったか、お聞かせ願いますか?」

「ある食材を運んでくる依頼です。その為には、アイテムボックスを使える方が必須なんです」

「ルータさんが持ってる、化粧箱じゃ駄目なんですか?」

「化粧箱だと、空間内(なか)の時間が外部と同じなので、王都に持って来るまでに、傷んでしまうんですよ。ですから、空間内(なか)の時間が停止している、アイテムボックスを使える方が必要なんです」

「王都のギルドでしたら、高ランクの方で、アイテムボックスが使える方が居るでしょうから、俺の出る幕はありませんよ(……と言ったが、これは行くことになりそうな気がする)」

「もしカズさんに、この依頼を受けていただけるのであれば、私しも安心できるのですが」

「それはどういうことですか? アイテムボックスが使える高ランクの冒険者ならば、俺より安心して撒かせられると思いますが?」

「アイテムボックスを使える冒険者の方は少ないですし、使えたとしても殆んどの方が、大きな商会か貴族等と契約してますから」

「そう言えば前にそんな事を、聞いたような気がします」 

「例えアイテムボックスを使える方が居たとしても、結構な料金を払うことになるんですよね。場合によっては、ギルドの依頼料とは別に、報酬を要求してくる方も居ますし」

「その場合は冒険者ギルドに報告すれば、良いんじゃないですか? その冒険者もランク降格や、厳罰を受けるのが嫌でしょうから」

「低ランクの冒険者ならば良いんですが、高ランクでアイテムボックスを使える方を、冒険者ギルドとしても手放したくはないでしょうし、厳罰も軽いものになってしまうでしょうね」

「ああ……なるほど。世知辛い世の中ですね(どこの世界も、大して変わらないのかな)」

「おっと、貴族と言いながら、金銭にうるさかったですな。どうも自ら商売をしてると、金銭感覚が他の貴族と違ってしまい、いけませんな」

「こちらの方々は貴族と言っても、親しみやすくて良いですよ」

「私し達としては嬉しい意見ですが、他の貴族や権力者の前では、言わない方が良いですよ。貴族としての誇りを、第一に考えてる方も多いですから」

「そうでした。モルトさんにも気を付けるように言われてました。皆さんが気軽に話し掛けてくれたので、つい」

「貴族だけの付き合いだけだと、話し方等の面倒な事が多いですから、気楽に話してくれるカズさんには、感謝してるんです」

「俺には礼儀作法の事はよく分かりませんから、不作法で申し訳ないと思います」

「そんな事ないです。冒険者の方にしては珍しく、敬語で話してくれてるじゃないですか」

「敬語と言っても、これで良いのか分かりませんが」

「大丈夫ですよ。それに妻や子供達と話すときは、敬語なんて使わないで、メイド達と話すよう気楽に話してください」

「しかしそれでは…」

「良いんです。皆も思ってることですから、これからは友人として、我々の相手をしてください」

「いきなりは難しいですが、分かりました(メイド達ならともかく、貴族相手に友人としてか……)」

「旦那様そろそろ」

「そうだな。カズさん、一度私の書斎にお越しください。そこで今回の謝礼金を、渡させていただきます」

 ルータとジルバに付いて庭から屋敷に戻り、ルータの書斎に移動した。
 そこでルータがカズに、白金貨三十枚(3,000万 GL)を渡した。

「ちょっとこれは多過ぎですよ」

「何を仰いますか。マーガレットの命を救ってくれたんですから、これでも少ないと私は思ってるんですよ。しかしジルバが『あまり多額だとカズ殿が困ると思います』と言うものだから、この金額にしたんです。カズさんが迷惑でなければ、本来渡そうと思っていた王国白金貨を…」

「いやいや、これで十分ですから(謝礼金が三千万だよ。しかも本来なら王国白金貨って『億』……いやいやいやダメだよ! いくらなんでも多過ぎるよ!)」

「そうですか……ではあとこれを、お渡しします」

 ルータは書斎にある机の引き出しから、一枚の金属プレートをカズに渡した。

「これはなんですか?」

「それは我が家の紋章が、刻印されてあります。他の貴族から何かされた場合や何かあった時は、それを見せてください。我がオリーブ・モチヅキ家が、カズさんの身分を保証すると言うことの証です」

「そんな物を俺に? 何かあった時は、逆に迷惑をかけてしまいますよ」

「構いません。元々成り上がり貴族と言われていましたから、長い歴史のある貴族からは嫌われてますので」

 プレートを見つめ考えるカズだが、ここまでしてくれているで、返す事も悪いと思い、渋々受け取ることにした。

「ありがとうございます。俺の出来る事でしたら手助けになりますので、いつでも呼んでください」

「それはありがたい。その時はお願いします」

「はい。それじゃあそろそろ、俺はお暇します」

「そうですか。よろしければ泊まって行かれては?」

「一応冒険者としてやっていますので、目的もありますし、お金が入ったからと言って、何もしない訳にもいきませんから」

「残念ですが、またいつでもいらしてください。我が家はいつでも歓迎します」

「ありがとうございます」

「それではジルバお見送りを」

 ルータの書斎をシルバと出て、マーガレットとデイジーとダリアの居る部屋より、別れの挨拶をし、外に出るまでに会ったメイドのビワとミカンに見送られて、カズは屋敷を後にする。
 帰りは一人で衛兵の警備する門を通り、街に戻った。
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