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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

147 小さな店での昼食 と 出来上がった装備品

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 モルトに連れられて来たのは、第2ギルドから少し離れた路地裏にある、小さな店だった。
 昼食時間を少し過ぎた頃だったので人は少なく、食事をしながら落ち着いて、話が出来そうだった。
 モルトが話があると言った用件は、翌日の朝にオリーブ・モチヅキ家から、迎えの者が来るとの事で、今回モルトは用事があり、同行は出来ないと言うことだ。

「儂の用件は以上です。相手が相手なので、伝言では頼めなかったので直接話をと」

「なんとなく呼ばれた理由が、そうではないかと思ってました」

「ご理解いただけたのなら良かったです。それでここの食事はどうでしたか?」

「素朴な味で、美味しかったです」

「それは良かった。ラヴィオリさんに、カズ君は味が薄い方が好みだと言っていたので、この店を選んだんです」

「味が薄いと言うか、俺が王都で食べた物全般が、濃い目の味付けだったので」

「王都は冒険者が多いですから、その影響で味の濃い食べ物が増えたんですよ。かと言って、どこもが濃い味付けの店ばかりじゃなく、このような店も探せばありますよ」

「そのようですね(あれの事を話してみるかな)」

「昼食と用件も済みましたし、そろそろ出ましょうか」

「あ、その前にモルトさんに、見てほしい物があるんですけど」

「なんでしょう?」

「これなんですが」

 カズは【アイテムボックス】から、空間収納魔法を付与した、手提げ袋を取り出しモルトに渡した。

「商店でよく見かける手提げ袋のようですが、これが何か?」

「手提げ袋の中に、手を入れてみてください」

「何も入ってない手提げ袋にですか?」

 モルトはカズが言っている意味が分からなかったが、取りあえず言われた通り手提げ袋に手を入れてみる。

「これは……」

「こういった空間収納魔法のアイテム(魔道具)とかありますか?」

「あるにはありますが……」

「それは良かった。実は試しに一つ、スピラーレさんに使ってみてとあげまして(空間収納出来るアイテムが無かったら、さすがにまずいからな)」

「カズ君これを何処で? まさか作ったなんてことは、ないですよね?」

「あ、えーと……はい。実は」

「そうですか……少し前にロウカスクからの提示連絡で、アレナリアが変わったブレスレットをしていると書いてきまして。しかもそのブレスレットには、一つではなく、複数のスキルが付与されてると」

「そう…ですか。アレナリアがそんなブレスレットを」

「それは、カズ君が差し上げた物だとか」

「ぅ……はい」

「ではやはり、この手提げ袋に付与してある空間魔法も?」

「はい俺が……(やっぱり言わなければ良かったかな。サブマスから解放され、お腹も満たされたもんで、つい安心してモルトさんなら話しても良いかなって……)」

「スピラーレさんに差し上げたと言ってましたが、少し危険ですね」

「俺も珍しく物だから、使いなれるまで最初は、ガルガネッリさんと一緒に買い物に行ってと話しておいたんでが」

「このような物は、アイテムボックスが使えない方でも、多くの荷物を手軽に運べるので、誰もが欲しがる物なんですよ」

「一応スピラーレさんしか、使えないようにしてありますけど」

「どういう事ですか?」

「個人の魔力を記録させると、その人以外には、ただの手提げ袋としか使えないんですよ。今あるそれは、記録する前の物なので、誰でも使えるようになってますが」

「なるほど。儂からもスピラーレさんに、この手提げ袋の価値と使う時は気を付けるように言っておきます」

「すいません。お手数おかけします」

「これはどの程度収納出来ますか?」

「スピラーレさんに渡したのは、40㎏くらいかと思います。今出したこれは、70㎏くらいです。個人の魔力記録すると、容量は減ります」

「なるほど。ちなみに、どこにでもある手提げ袋を選んだん理由は?」

「出来るか分からなかったので、店先に大量にあった手提げ袋を選んだだけで、特にこれと言って理由はないです」

「まだ他にもありますか?」

「あと一つあります。容量は90㎏の物が」

「カズ君はそれをどこかで売ろうかと?」

「いいえ。試しに作ったら、三つだけ出来たので。一つはアイテムボックスを使いたがってたスピラーレさんに、他の二つの使い道は考えてませんでした」

「これを儂が預かっても構いませんか?」

「ご迷惑をかけたお詫びに差し上げます。モルトさんには、お世話になってますから」

「よろしいんですか?」

「はい。あと一つは、オリーブ・モチヅキ家のメイドさんに差し上げても良いでしょうか? 貴族のメイドさんなら、こういったアイテムを持っていても、おかしくないでしょうし」

「まぁ良いでしょう。ただし使い方と、その魔力の記録をして、他の人には使えないようにする事です」

「そうします」

「では店を出ますか。あまり長居をしても迷惑になるので」

「はい」

「カズ君はギルドに戻りますか?」

「サブマスと会うかも知れないので、やめておきます」

「そうですか。それでは明朝ギルドの一階で待っていてください。朝は儂も居るので、見送りはします」

「分かりました。遅れないように早く行きます」

「それでは明朝ギルドで」

「はい」

 話を終えて、カズとモルトは別れた。
 第2ギルドに戻らないカズは、この後どうするかと考え、予定では頼んであった装備品が、そろそら出来ていてもいい頃だと思い、先日行った武器屋に向かう。
 アヴァランチェに居た時の依頼で、水晶採取に行った時倒した『スノーウルフ』を渡して、それを材料に装備品を作ってもらっているので、その様子を見に行く。
 モルトと別れてから二十分程歩き、目的の武器屋に着く。

「こんにちは……ん? こんにちは! ……留守か」

「聞こえてるぞ。誰だ?」

「この前スノーウルフを置いていった者ですけど、頼んだ物はどうなりましたか?」

「ああ、あんたか。出来てるぞ」

 武器屋の店主が、奥から白い毛皮の装備一式を持ってきた。

「合うか装備してみてくれ」

 カズは渡された装備一式を、体に合うか装備してみることにした。
 スノーウルフで出来た装備は『左右の手甲・脛(すね)当て・胸当て・外套(マント)』の五つ。
 スノーウルフは、それなりの大きさがあった為の、外套(マント)まで作る事が出来たようだ。

「サイズは大丈夫そうだな」

「ええ、大丈夫です。それて料金はどのくらいですか?」

「それなんだが、これを見てくれ」

 武器屋の店主が大事そうにして、10㎝程の魔核(魔石)を見せてきた。

「これは?」

「あんたから渡された、スノーウルフから出てきた魔核(魔石)なんだが」

「スノーウルフを解体した他の素材は売ったんだが、これはあんたに聞いてからにしようと思ってな」

「最初の取り決めでは、スノーウルフから出てきた魔核(魔石)も売って、この装備の代金にあてるって事になってましたよね?」

「そうなんだが、状態の良い魔核(魔石)は滅多に見ないんでな、一応あんたにこれ返した方が良いかと思ってな。装備の代金は、別に貰えばいい訳だから」

「別に俺はそれを売ってもらって、その差引きした分を、貰えれば良かったんですが。魔核(魔石)を俺が引き取って、装備の代金を支払えば、良いのでしたらそうしますが」

「それで頼む」

「そうですか、分かりました。それで幾らですか? (黙ってればボロ儲けになったのに、良かったのかな?)」

「金貨八枚(80,000GL)になるが、今払らえるか? 結構な額だが」

「なんとか大丈夫です。もし無くなっても、この返してもらった魔核(魔石)を売りますから」

「そうだな、ありがとよ。またいつでも来てくれ」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 武器屋を出た俺は、魔核(魔石)を【アイテムボックス】に入れて、街を散策しながら少なくなった食材を大量に買い込み、夕方にはラヴィオリ亭に戻った。
 夕食後は部屋で買った食材を小分けにして、寝る前には受け取った装備品を調べることにした。


 【スノーウルフの革鎧一式】『二級』
 ・『力 + 18』『魔力 + 20』『敏捷 + 25』
 ・《寒冷体制(弱)》
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