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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

146 イキシアに誘われて……

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 話を聞いていたのか、聞こえていたのか、二階に上がる階段から下りて声を掛けてきたのは、サブ・ギルドマスターのイキシアだった。

「あれ、サブマスどうしたんですか?」

「ちょっと休憩をかねて下りて来たら、ワタシの事を話していた様なので、声を掛けたんだけど、ネメシアがまたカズに何かしたの?」

「私はもうカズに、ちょっかい出したりはしてない」

「さてどうでしょうねぇ。どうなのカズ?」

「ただ話してただけですよ(ネメシアの次はサブマスかい、次から次へと)」

「ふ~ん……」

「あ! そうだ、私はこの後依頼があるから、もう行くよ。また後でなトレニア」

 そそくさと逃げるように、ネメシアはギルドから出て行った。

「サブマスとモルトさんのお説教が、よほど応えたんでしょうね」

「もう済んだ事なのだから、何も逃げる事ないのに」

「モルトさんもまだ来ないようだし、俺もちょっと出掛け…」

「待ちなさいカズ」

「な、なんでしょうか(遅かった)」

「モルトを待ってるのよね」

「そうですが」

「ならワタシの休憩に、少し付き合ってちょうだい」

「え!?」

「モルトが来るまで、話をするだけだから。話をね」

「な、なんの話でしょうか」

「それはワタシの仕事部屋で、二人っきりになってからのお楽しみよ!」

「遠慮しま…」

「Cランクの冒険者が、王都第2ギルドのサブマスからの誘いを断るの?」

「ぅ……行きます(行きたくない)」

「では、行きましょうか。トレニア、モルトが来たら、カズはワタシの部屋に居るって言っておいてね」

「分かりました」

 イキシアに付いて行き、カズはサブマスの仕事部屋に移動する。
 サブマスの部屋に移動中カズは以前のように《隠蔽》のスキルを『2』上げ、ステータスを詳しく見られないようにした。
 サブマスの部屋に着き中に入ると、壁には大きな本棚があり、部屋の中央には三人掛けのソファーが二つと、ソファーと同じ長さのテーブルが置いてある。
 部屋の奥には、仕事用の机と椅子があり、右奥には扉がある。

「さぁ遠慮しないで座って」

 イキシアに言われ、カズはソファーに座った。
 イキシアはカズの向かい側のソファーに座り、じっとカズを見る。

「あのう、それで話とは……」

「やっぱり見えないわねぇ。あなたのステータス」

「それは…」

「どんなスキル使ってるのかしら? それとも何かのアイテム?」

「隠蔽のスキルを使ってるだけです(下手に隠すより言った方が、他の事まで根掘り葉掘り聞かれずにすむだろう)」

「隠蔽のスキル……ワタシの使う『ハイディング』のスキルと同じね」

「話したので、ステータスの件に関しては、もう良いですか?」

「そうね、今は良いわ」

「今はですか……話はそれだけですか? なら俺は…」

「何を言ってるのかしら、これからが本題よ」

「本題!?」

「ネメシアと模擬戦したんでしょ」

「はい。それが何か(やっぱりその話か!)」

「圧勝だったらしいじゃない」

「圧勝なんてとんでもない。剣では全然敵いませんよ」

「剣だけで戦ったらって事でしょ。魔法もスキルも有りで戦ったのよね」

「そう…ですが……(ネメシアに聞いたのか言わせたのか、模擬戦の内容知ってるよねこれ)」

「見たかったわ。Bランクのネメシアを相手に、Cランクのカズが『弱体化の腕輪』を2個も付けて戦い、余裕で勝ったところを」

「…………」

「あらどうしたの黙っちゃって?」

「模擬戦の内容は、モルトさんからですか?」

「いいえ。モルトは口が堅いから」

「じゃあ、やっぱりネメシアからですか」

「ええ。でもワタシは、無理矢理言わせてなんかいないわよ」

「本当ですか?」

「ワタシは、お説教をしただけ」

「お説教?」

「そう。職員を騙して勝手に弱体化の腕輪を、2個も持ち出したこと。お仕置きとしてランクを落とすわよって言ったら、何故か独り言で模擬戦の内容を言っていたわ。駄目よねぇ模擬戦相手(カズ)の事を、他の人(ワタシ)に聞かれるかも知れないのに、声に出して言ったら」

「いやいや、完全に脅してるじゃないですか! それにネメシアがCランクに下がったとしても、自業自得ですから」

「まぁカズったら酷いわ。Bランクに上がるのも大変なのよ。それを自業自得だから下げてしまえなんて」

「俺は下げろだなんて言ってないでしょ(うわっ! この性悪エルフ酷いのどっちだよ!)」

「あらそうだったかしら。それでカズは模擬戦をしてどうたったの? ワタシに話して教えてくれるかしら?」

「ネメシアに聞いたならいいでしょ(……なんか誰かに見られてるような?)」

「模擬戦した両者から聞くことで、より中立の立場で意見を言えるじゃない。それによってネメシアの降格もあり得るのよ」

「ネメシアの話しだけで、既にCランクに降格するかも知れないのに、俺がここで話す内容で、ネメシアの降格が確実になるのを分かっていて話せと? やめておきます」

「あら、ネメシアにあれだけの事をされたのに、優しいのねカズ」

「そんなんじゃないです。一応ネメシアのやった事での謝罪は、模擬戦後に終わったので、掘り返したく無いだけです(ただでさえ、ネメシアに会って思い出したのに)」

 カズは話ながら、さっき気になった事を確認する為に【マップ】を見る。
 すると隣の部屋に人の反応があったので、部屋の右奥にある扉へと、目線を少し移した。

「扉の先が気になるかしら?」

「ちょっと……いえ、なんでもないです」

「扉の先にある部屋は、ここ第2ギルドのギルドマスターの部屋よ。なんだったら会ってみる? ワタシが紹介しましょうか?」

「俺がギルマスに面会なんて、恐れ多いので遠慮しておきます(今会ったら、このサブマスが何を言うか分からないからな)」

「あらそう。いつでも紹介するわよ。さて次は…」

 イキシアが更に何かをカズに聞こうとした時に、部屋の扉がノックされ、モルトが入室の許可を求めてきた。

「どうぞ」

「失礼致します」

「遅かったわねモルト。一階でカズが暇そうに貴方を待ってたから、ちょっとワタシの話し相手になってもらってたのよ」

「そうでしたか。カズ君遅れて申し訳ありません」

「俺が言われた時間より、早く来ただけですから(やっと来てくれた)」

「ではサブマスには失礼して、行きましょう」

「そうですね。サブマスそれでは俺は失礼します(助かった)」

「ええまたね。それとサブマスじゃなくて、イキシアで良いわよ」

「そんなサブマ…」

「イキシアで!」

「わ、分かりました。イキシアさん(苦手だなこのひ…エルフ)」

 背後に視線を感じながら、カズはモルトと一緒にサブマスの部屋を出で、一階へと下りて行く。

「サブマスに何か聞かれましたか?」

「模擬戦の事など聞かれました。ネメシアの降格をちらつかせて」

「話したのですか?」

「俺は終わった事だと言って、何も話してません。ネメシアはサブマスに話した様ですが」

「サブマスは、ちょっと強引なところが問題でしてな、目を付けられたりしなければ。今言っても遅いですな」

「初めて会った時から、既にです」

「あまりにも強引でしたら、言ってください。儂がギルマスに直接話してみますから」

「先程サブマスに、俺をギルマスに紹介しようかと言われました。恐れ多いと断りましたが」

「そうですか……暫くサブマスに近付かない方が、良いですな。もしかしたら既にギルマスに、ある事ない事話してるかも知れませんな」

「はい」

「話は変わりますが、カズ君はもう昼食を済ませましたか?」

「まだです」

「では外で昼食を取りながら、今日呼んだ用件を話しましょう」

「はい。ギルドに居ると、またサブマスが来るかも知れませんからね」

 モルトに誘われ路地裏にある古びた小さな喫茶店に入り、そこで昼食を取りながら話をすることになった。
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