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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

137 買い物 と 殺意の視線

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 部屋で一人、窓から外をボケーッと見ていたカズは、今後の予定を考えていた。
 ステータスに変化はないが、最近疲れがたまっているのか、元の世界に帰る方法を探すのを、少し諦めそうになっていた。

 はっ! 駄目だ駄目だ、まだ昔にこちらへ来た人(勇者)の事だって調べてないのに、何を諦めそうになってるんだ。
 これからなんだから、しっかりしないと!
 夕食前に、明日持ってく食料の買い出しに行くか。
 アイテムボックスには、何かしら食べる物は入ってるけど、あって困るものでもないし、白真にあの濃厚なチーズでも持っていってやるか。

 カズは食料の買い出しをする為に、ラヴィオリ亭を出ようとすると、女将のラヴィオリが話し掛けてきた。

「カズさん、今から出掛けるのかい? 今日は外で夕食を?」

「いえ、ちょっと食料の買い出しに。明日出掛けるので。夕食はこちらでいただきます」

「そうかい。だったらすまないが、スピラーレの買い物を手伝ってやってくれないか? 明日の朝食に使う分の食材を、買いに行かせるのを忘れていてね」

「そうなんですか。良いですよ」

「助かるよ。一人だと量が多いから、フリッジと二人で行かせようと思ったんどけど、これからお客が増えて来る時間だもんでね。買う物が多いから、男のフリッジ一人でもちょっと大変だし、今は奥で旦那の手伝いをしてるから、カズさんが行ってくれたら、荷物持ちの心配はないだろうから、スピラーレに買い物を頼めるしね」

「ええ、荷物持ちなら大丈夫です。お任せを(前に俺から言ったことだしね。アイテムボックスが使えるから手伝うって)」

「スピラーレ買い物頼んだよ。カズさんが一緒に行ってくれるって言うから」

「あの、お願いします」

「ああ。それじゃあ行こうか(店の奥からの視線が痛い)」

 カズとスピラーレが一緒にラヴィオリ亭を出ようとすると、背後からカズに凄い視線を浴びるガルガリッネが居た。
 仕事の手を止めて、カズを睨み付けてる親バカなガルガリッネを、呆れたラヴィオリが一喝して仕事に戻らせた。

「最初どこに行く?」

「そうですね……それじゃあ、お肉とお野菜を買いに行きます」

「両方?」

「お肉屋さんと、いつもお野菜を買ってるお店が、近い位置にありますから、そっちに行こうと思います。それに燻製したお肉を頼んであるので、先に取りに行かないと」

「そうなんだ」

 ラヴィオリ亭から歩いて十五分くらいの所にある肉屋に着き、スピラーレは買い物客で賑わっている店の中に入って行った。
 肉屋が混んでいたので、カズは店の近くで待つことにした。
 視線の先に雑貨屋があったので、カズはちょっとした手提げ袋を数個買うことにした。
 雑貨で手提げ袋を買ってから五分程すると、スピラーレが紙で包んだ肉を、大量に抱えて出てきた。

「カズさんお待たせしました」

「たくさん買ってきたね。じゃあ預かるよ」

 スピラーレが抱えている、物を受け取り【アイテムボックス】に全て入れる。

「いいなぁ」(ボソッ)

「どうしたの?」

「なんでもないです。次は三軒隣で野菜を買います」

「あそこは、そんなに混んでないから、俺も一緒に行こう」

「おじさん、あれとそれとこれ、あとは……そこのを三つください」

「あいよ。いつも買い物大変だな。今日は少し多いがもって帰れるか?」

「大丈夫です。手伝ってくれる人が居るので」

「なんだ年上の彼氏かい?」

「ち、違いますよ。うちに泊まってるお客さんですよ。買う物が多いので、お母さんが頼んで手伝ってもらってるんです」

「冗談だよ。ガルガリッネの前で言ったら、ボコされちまうな」

「あの、買った物は俺が」

「はいよ」

 野菜を売ってる店の人から、スピラーレが選んで買った野菜を受け取り【アイテムボックス】に入れる。

「あんたアイテムボックスが使えるのか! それなら大量に買っても、運ぶのは大丈夫だな」

「そんなんです。だから今日の買い物は、とても楽なんですよ」

 やはり王都だと、アイテムボックスを使えるといっても、少し珍しがるだけで、そんなに驚きはしないんだな。

「スピラーレさん、そろそろ次に行こうか(人見知りの様なこと言ってた割には、お店の人と結構話してるじゃないの)」

「あ、はい。それじゃあ、また来ます」

「ああ、ありがとよ」

「それで次は、どこに何を買いに行くのかな?」

「次はこの前買えなかった、チーズを買いに行きます」

「じゃあ、あの店だね。俺もチーズを買おうと思ったから丁度良かった」

 カズとスピラーレは、濃いチーズが売っているパン屋に向かった。
 スピラーレは前回行ったときは、売り切れてしまい、とても困ったていたが、今日はこの時間に行っても残っているか、少し不安な二人だ。

「スピラーレさん、この前行って売り切れだったときも、このくらいの時間だった?」

「う~ん……もう少し遅いかな?」

「もし今日も売り切れて、買えなくても大丈夫?」

「大丈夫です。一応今日使う分はあるって、お父さんが言ってたから。もし買えなかったら、明日の早い時間に行きますから」

「なら安心だ」

 パン屋に着くと、さっそく濃厚チーズを注文した。
 すると今日は、多く残っているとのことだ。
 スピラーレはいつも店で使う分の1㎏を買い、カズは白真に持っていく分として、5㎏を買い【アイテムボックス】に入れた。

「カズさんいっぱい買いましたね」

「ちょっと知り合いに、持って行こうと思ってね」

「お友達ですか?」

「う~ん……まぁそんなような奴かな」

「わたしお友達って、あんまり居ないからなぁ」

「スピラーレさんならすぐ出来るよ。それで他には、何か買う物はあるのかな?」

「チーズも買えたから、これで終わりです」

「じゃあ戻ろうか」

「はい。こんな楽なお買い物、わたし初めて。やっはりアイテムボックスって良いですね。わたしも使えたらな」

「使い方を教えてあげられれば、いいんだけどね(空間収納の魔道具があっても、良さそうなんだけどな)」

「また沢山買うときは、手伝ってくれますか?」

「時間が合えば良いよ。別に大変じゃないから」

 買い物を終えたカズとスピラーレは、日が暮れる王都の道を、談笑しながらラヴィオリ亭に戻って行く。
 ラヴィオリ亭に着くと、常連の人達が既に来ており、酒を片手に盛り上がっていた。

「ただいま。お母さん」

「戻りました」

「二人共お帰り」

「ねぇねぇお母さん、今日のお買い物すっごく楽だったよ。だからこの後も、いっぱい手伝うからね」

「おや頼もしいねぇ」

「買ってきた物は、どこに出しますか?」

「それじゃあ、こっちの台の上に出してくれるかい」

「はい」

 ラヴィオリに言われ、調理場の出入口近くにある台の上に、買ってきた食材を【アイテムボックス】から出した。

「久々にアイテムボックスを使える人を間近に見たが、何も無い所から物が出てくるのは、やっぱり不思議だねぇ」

「わたし達家族の誰かが、使えたら良かったのにね」

 親子揃って同じこと言うんだな。

「本当だね。だったらスピラーレがカズさんの嫁になれば、いいんじゃないか。そうすれば買い物は、いつでも楽が出来るよ」

「なっ! ちょ、ちょっとお母さん、何言ってるのよ!」

 スピラーレは顔を真っ赤になっていた。
 カズには調理場の奥からの、殺意の視線を向けられている。

「冗談よ。便利さ目的でそんなこと言ったら、カズさんにも迷惑だしね」

「もうお母さんったら!」

「そうですよ。そう言う冗談は、勘弁してください。でないと、そのうち料理に毒で盛られそうで」

「旦那か……言ってることが、冗談だと分かってもらいたいもんだね」

 ラヴィオリが調理場に入って行き、ガルガリッネと何か話している。
 カズの隣にスピラーレが居た為に、話の最中ガルガリッネが何度かカズを睨んでいたが、その度にラヴィオリに叩かれていた。
 カズはそっとスピラーレから離れた。
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