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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

132 特殊な倉庫

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 カズはモルトの案内で、討伐して回収してきたストーンシャークを、アイテムボックスから出す為に、第2ギルドが所有している倉庫に、歩き向かっていた。
 倉庫に着くまでの間に、ネメシアと行った討伐依頼の話を、聞かせてほしいとモルトに言われ、カズは少し困った。

「それでカズ君、ネメシアとの依頼はどうでしたかな?」

「行く前に比べて、話をしてくれるようになりましたが、親しくはなってないです。ストーンシャークを討伐する際も、手を出すなとか言われて、邪魔者扱いされてる感じでしたから」

「一緒に依頼に行ったので、少しは良くなったと思ったんですが……」

「俺の方から、成るべく話をするようにしたんですが、討伐する時に一緒に協力してと言ったら『手を出すな』『お前じゃ倒せないから邪魔だ』とか言われたもので、俺も腹が立ってしまって」

「ネメシアときたら……」

「ネメシアさんの方がランクは上ですし、戦闘経験も豊富でしょうから、指示された事に従うのは分かりますが、さすがに言い方ってものが……って、モルトさんに愚痴っても、しょうがないですね。すいません」

「どうもカズ君には、随分と不快な思いをさせてしまった様ですな。少しは打ち解けると思い、ネメシアが一人で行くはずだった今回の討伐依頼に、カズ君を同行させてもらうよう、サブマスのイキシアさんに頼んだのですが」

「モルトさんが仕組んだんですか!」

「うまくいくと思ったんですが、失敗でしたな。カズ君には、申し訳ないことをしました」

「もういいですよ。それに今回の模擬戦で俺が勝てば、嫌ってる理由を教えてくれると、ネメシアさんは言ってましたから」

「そう言えばネメシアから、模擬戦の立会人を頼まれました。なんでも他の人には見せたくないからと」

「それは俺からも、お願いしたかったことです」

「ではカズ君がネメシアに言って、専用訓練所での模擬戦を頼んだと?」

「専用訓練所? そんな所もあるんですか?」

「ええ。Bランク以上で、実績のある方だけが使える、訓練所があるんですよ」

「B……俺Cランクなんですけど?」

「ネメシアがBランクで、実績も経験もあるので、一緒に使う者が例えFランクでも使用出来ます」

「いやいや、そんなに実力差があるのに、良いんですか?」

「必ずしも模擬戦のような事を、する訳ではありません。弟子と言われる者達に訓練をつける為、部外者に見せたくないと言って使う方が居ますから」

「あぁなるほど! 確かにそれならランクが離れてても安心……実は上辺だけで、お仕置みたいな事を、してるとかないですよね?」

「その辺はギルドも、管理してますから大丈夫のはずです。それと模擬戦ですが、今日の午後と言う事でどうでしょうか? ネメシアが、そのつもりの様でして」

「そうですよね。今回はモルトさんが、立会人を……今日の午後ですか!」

「ネメシアの勝手な言い分ですが。カズ君の都合が悪ければ、他の日に変えるようネメシアに伝えますが」

「大丈夫です。依頼を受けなければ、時間はありますから(相変わらず、自分の都合だけで決める人だなぁ)」

「それは良かった。儂も今日なら時間がとれたので」

「なんか俺のせいで、モルトさんに迷惑をかけて申し訳ないです」

「何をおっしゃいますか、勝手なのはネメシアの方です。カズ君は悪くありませんから」

「そんな、ありがとうございます(そうだよな、俺悪くないよな!)」

「それとなんですが……」

 モルトが何か話そうとした時に、二人より先に、倉庫に来ていた人が話し掛けてきた。

「モルトその人がそうか?」

「先に着いてましたか」

「モルトさん、あちらの人は?」

「カズ君は初めてでしたな。第2ギルドで買い取った獣やモンスターを解体して、素材別に分けてくれる専門の方です」

「わしの名は『ヘレフォード』主に第2ギルドに持ち込まれた、獣やモンスターを解体する仕事をしている。今後よろしくだ」

「よろしくお願いします。カズと言います」

 カズはヘレフォードに、軽くお辞儀をして挨拶した。

「今時珍しい、腰の低い冒険者だな。おいモルト、この若いのは大丈夫なのか?」

「カズ君は、こういう人でな」

「大した獲物を獲っとらんのに、態度だけデカイ連中よりましだか、そんな腰が低くて、いったい何を持って来たと言うんだ?」

「ここで話してても仕方ないので、先ずは倉庫の中に入りましょう」

「それもそうだな」

 カズ、モルト、ヘレフォードの三人は、第2ギルドが所有する倉庫の一つに入った。 
 この倉庫には窓が一つも無く、出入口の扉も厚く、開けて中に入ると暗い中にもう一つ扉があった。
 ヘレフォードが扉横の色が違う壁に手を触れてから、二つ目の扉を開けた。
 すると倉庫の中は明るくなり、開けた二つ目の扉から冷気が流れてきた。

「空気が冷たい? モルトさん、ここはなんですか?」

「ここは食材になる物等を、保管する専用の倉庫です。魔道具で倉庫の中を冷して、中の物を長く保存出来るようにしてるんです。なのでご覧の通り窓が無く、二重の壁と扉で、倉庫の中と外を隔ててるんです」

「へぇ~! そんな所があったんですか(巨大な冷蔵庫と言うか冷蔵室だ!)」

「ちなみに、ヘレフォードが触れていた色が違う壁に魔力を流すと、倉庫内の明かりが灯るようになってます」

「便利だろ! わしの家にも、こんな倉庫があればいいんだが」

「そんなに欲しければ、作ってもらったらどうです?」

「軽々しく言うなよモルト。どれだけ金がかかると思ってるんだ」

「まぁ白金貨数枚(数百万円)じゃ足りないでしょうな」

「わしらのような一般庶民には、程遠い物だからな。個人で持ってるのは、貴族様か豪商の連中くらいだろうよ」

「あのう、そろそら本題に入っても?」

「そうでしたな。ヘレフォード」

「じゃあ、そっちの隅にでも出してくれ」

 ヘレフォードに言われて、カズは【アイテムボックス】から、討伐してきたストーンシャークを次々と出していった。
 すると倉庫の半分を、埋め尽くす程の量になってしまった。

「こりゃまた…すげぇ量だな。しかも凍ってやがる」

「はい、これで最後です」

「これだけあると、四日…いや六日はかかるぞ」

「俺は構いませんが、解体が終わらないと、ネメシアさんが報酬はまだかと、催促してきそうですね」

「それなら儂から言いますので、安心してください。それに、魔石(魔核)の買い取り以外の報酬を渡せば、文句はないでしょう」

「ありがとうございます。モルトさん」

「どれ、先ずは試しに、一体を解体してみるか!」

 ヘレフォードは出されたストーンシャークの中から、3mくらいのものを選び、大きなハンマーで表面の氷を砕こうとした。

「ちょっと待ってください」

「あ? なんだ?」

 カズはヘレフォードが選んだストーンシャークに近付き、表面の氷に触れてスキル《解除》を使用して、氷を元の海水に戻した。

「ほう、魔力変化ですかな?」

「まぁそんなとこです。ヘレフォードさん、これで解体出来ますか?」

「おう。氷を砕く手間が省けた」

 ヘレフォードはものの十分程で、ストーンシャークの一体を解体した。

「さすがはベテラン早いですね」

「まぁな! コイツ(ストーンシャーク)は確かに表面は岩のように硬いが、刃を入れる所があってな、そこから…」

 何かのスイッチが入ったのか、ヘレフォードが解体について語りだしたので、長くなると思ったモルトは、カズと倉庫を出ることにした。

「では、あとはヘレフォードに任せて、儂らはギルドに戻りましょうか」

「そうしましょう」

「あ、ちょっと待ったあんちゃん。行くなら残りのやつも、氷を溶かしていってくれ。そうすれば、明日には解体が終わるからよ」

「分かりました。モルトさん、少し待っててください」

「ええ良いですよ」

 カズはヘレフォードがまた語りだす前に、言われた通りストーンシャークの氷を、解除のスキルで元の海水に戻していった。
 海水は床にある溝を流れ排水されていく為に、足元が水浸しになることは無い。

「モルトさんお待たせしました」

「では行きましょうか」

「はい。ヘレフォードさん、あとはお願いします」

「おう、任せとけ! 解体のことが知りたければ、いつでも教えてやるぞ」

 カズとモルトは倉庫をから出て、ギルドに戻って行った。
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