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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

127 凍結魔法 と 呆然のネメシア

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 ネメシアは〈ライト〉の魔法で辺りを明るく照らした。
 見えたストーンシャークは、どれも2m程の個体で、大して脅威には感じない。
 急に明るくなって、驚き暴れているストーンシャークの一体に、ネメシアはスキルで強化した剣で斬りかかった。
 斬られたストーンシャークは動かなくなり、浅い海の底へと沈んでいった。
 ネメシアは次の対象を、近くに居たストーンシャークに切り替え、攻撃していった。
 さすがはBランクの冒険者だけあって、戦闘は手慣れている。
 危なげもなく五体のストーンシャークを倒し、元居た岩場の上に戻ってきた。

「どうだ! このくらいのモンスターなんか、私一人で楽勝なんだよ。たかが五体程度どうってことないのさ」

「……五体? 一体沖に逃げて行ったのか?」(ボソッ)

 俺は【マップ】を見て確認すると、一体がマップの範囲外(現在半径500m)へと姿を消した。

「さぁ討伐も終わったことだし、魔石(魔核)を回収して終わりだ」

「回収って言いますが、浅いとはいえ、倒したストーンシャークは海の中ですよ」

「お前は何にもしてないんだがら、水の中に入って回収してこいよ」

「なっ、理不尽だ。手を出すなって言ったは、ネメシアさんじゃないか」(ボソッ)

「なんだよ、ハッキリ言ったらどうだ! どうせお前なんかが戦ったところで、一体も倒せはしなかっただろ」

「……」

「おい聞いてるのかよ!」

「……んっ?」

 俺は視界の端に映っている【マップ】に、多くのマークが表示されたことに気付き確認をした。
 すると五十体以上のモンスター反応が、沖からこの岩場の方に向かってくるのが分かった。

「ネメシアさんあれ見えますか?」

「急に黙ったと思ったら、今度はなん……なっ!」

 ライトの魔法が消えつつあるなかで、ハッキリとは見えないが、沖からストーンシャークと思わしきの群れが、白波を立ててやって来るのがうっすらと見えた。
 ネメシアは確認する為に、再度〈ライト〉の魔法を上空に向けて使い、光の玉を出現させ、辺りの海を明るく照らした。

「あの数はなんだよ! 数体じゃなかったのか?」

「五十体以上はやって来ますね。しかもさっき倒したのよりも、大きな個体ばかり」

「チッ! こいつは骨が折れる。いいな、今度も手を出すなよ」

「またですか? ネメシアさん一人でこの数は無理ですよ。しかも相手は海の中ですし」

「うるせぇ、お前なんかがやったって、一体も倒せねぇって言っただろ!」

「この人は……サブマスに、二人で帰って来いって言われたでしょ」

「だからお前はここで、大人しくしてればいいんだよ!」

「何故俺のことを嫌ってるか知りませんが、いい加減好き勝手にやるのは止めてください。俺も一応、同じ依頼で来たんですから!」

「そこまで言うんだったら、あの数のストーンシャークを、お前が何とかしてみろよ! どう見たってさっき倒したのより、強力な個体ばかりだろ。私の剣だって簡単には、通らないかも知れないんだぞ!」

「だったら協力して一緒に…」

「お前と協力なんかして、ちんたらやってたら、漁師町に被害が出るんだよ! 分かったら邪魔をする…」

 ムカッ!

「分かりました! 俺が一人でやりますから、今度はネメシアさんが手を出さないでください!」

「このバカが! Cランクのお前一人で、何が出来るかって言ってるんだよ!」

 ムカッムカッ!

「ハイハイ。どうせ俺は、Cランクの弱輩者です(もう腹立つし面倒臭いから、とっとと終わらせてやる)」

「おいちょっと待てよ!」

 俺はネメシアの言葉を無視して、岩場を下り海水の触れられる位置まで来た。
 ストーンシャークの群れが目前まで迫って来たので、ストーンシャークの群れに向けて、スキルの《威圧》『2』を発動させた。
 するとストーンシャークの群は、畏縮し一時的に動きを止めた。
 俺はその隙に、ストーンシャークの居る沖に向けて、古書で見た凍結魔法を使用する。(ちなみに魔法名は、なんとなく即興で付けた)

「〈アイスフィールド〉」

 カズが魔法を放つと、一瞬の間に50m程沖まで海が凍結した。
 辺りの気温はグッと下がり、迫っていたストーンシャークの群は、完全に凍り付いて動かなくなった。
 ネメシアは氷り付いた海を、ただ呆然と見ていた。

 群れごと倒すには良い方法だったんだが、威力を上げ過ぎたか?
 いやこれ以上加減して効果範囲を狭めると、何体かに逃げられる可能性があったし、これで丁度良かったんだよな。
 それに白真(フロストドラゴン)が使ったブレスに比べたら、そよ風程度の威力しかないしな。

「おいカズっ! お前何やったんだよ! なんだよ今の魔法は! 説明しろよ!」

 我に返ったネメシアは、カズに掴みかかり、目の前で起きた事の説明を強く求めた。

「ネメシアさんが『お前が何とかしてみろ』って言ったから、やっただけです。あとは魔石(魔核)を、回収すれば良いんでしょ」

「こんなに凍らせて、どう回収するんだよ! そうじゃなくて、先に説明しろ!」

「じゃあ俺が回収するんで、ネメシアさんは漁師町にでも行って、休んでてください」

「おいちょっと待てよ!」

 俺はネメシアの話を聞かずに、凍らせた海へと下りて、水魔法のウォーターカッターを使って、ストーンシャークを切り出していった。
 少しするとライトの効果が切れてきて、辺りが暗くなってきた。
 すると岩場に居るネメシアが、再度ライトの魔法を使い、周囲を明るく照した。
 なんだかんだと言っておきながら、手伝ってくれている。

 俺は魔石(魔核)探して取り出すのが面倒だったので、凍り付けのストーンシャークを切り出しては【アイテムボックス】に突っ込んでいった。
 作業を始めて四十分程で、凍り付けにした全てのストーンシャークを回収した。
 凍らせた海水を元に戻す為に、足場のある岩場に戻り、スキルの《解除》を使用して、全ての氷を元の海水に戻した。

「ネメシアさん終わったので、漁師町で一泊してから、明日の朝に町を出発して、第8ギルドまで戻るってことで良いですね」

 俺はネメシアに一方的に話し掛け、漁師町の方へと歩いて行く。

 ネメシアは訳が分からなくなっていた。
 一瞬で五十体以上のストーンシャークを倒し、それを回収出来るアイテムボックスを使え、さらに氷り付いた海水を元へと戻したカズが、何事もなかった様に平然としているからだ。
 そして苛立ちと混乱の中で、ネメシアはカズの背を見ながら後を付いて、漁師町へと歩いて行く。
 カズとネメシアが漁師町に入いり、宿屋を探して歩いていると、カズが先程行った酒場から、夫婦が店を閉め出て来た。

「あれ! カズさん?」

「んっ、カズ?」

「あ! 先程はどうも」

「良かった。お連れの方を見つけて、戻って来たのね。ストーンシャークの討伐なら、明日からやれば良いのよ」

「そうだぜ。こんな暗い海で討伐なんて自殺行為だからな、オレっちも心配してたんだぜ。明日になれば漁師の連中から、ストーンシャークの情報も聞けるから、その後でも良いだろ。早く討伐してほしいのは確かだが、無理して死なれたら、町の評判が下がっちまうからな」

「あんた、その言い方は酷いだろ!」

「冒険者ってのは、実力以上に強気で威張り腐ってるからな、このくらい言っておかないと」

「だからって言い方があるでしょ。それにカズさんは、冒険者って感じはしないし、威張ってもいないわよ」

「まぁまぁ、俺は気にしてないですから。それより、何処か宿を教えてもらえませんか?(もう遅いのに、夫婦ケンカ二戦目は勘弁してくれ)」

「宿だったら、あたしの実家に来れば良いよ。小さいが民宿をしてるか。ただし一部屋しかないから、二人一緒ってことになるけど」

「そうなんですか。だったら、連れのネメシアさん一人をお願いします。俺一人なら、当てがありますから。はいこれで足りますか?」

 俺はツツジに、銀貨八枚を渡した。

「ちょ、私は…」

「カズさん、これじゃ多いよ」

「それなら残りで、朝食でも用意してもらえれば」

「そうかい。分かった任せときな。ほらネメシア…さんだっけ!? こっちだから来て」

「まだ私は行くとは…」

「それじゃあネメシアさん、明日朝食を取ったら、町の入口で待ち合わせってことで」

 ネメシア達三人と別れ、俺は一人別方向に歩いて行く。
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