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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

126 漁師町の酒場

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 ネメシアは目的地へと、一人走って行ってしまい、残されたカズは海に続く街道を一人で行く。

 何もしてないのに、なんで俺はネメシアに嫌われてるんだ?
 邪魔にならない様に黙って付いて行ったのに、文句を言われたあげく置いていかれるし、思い返すとだんだんと腹が立ってきた。
 まあ討伐対象のストーンシャークは、数体だけだと言ってたし、Bランクのネメシアなら余裕でしょうけど。
 どうせ俺が海岸に着く頃には、討伐し終わって『とっとと帰るぞ』とか言いそうだし、俺が行く意味あるのか?
 このままでの状態が続いてもしんどから、もう直接嫌われてる原因を聞こう。
 ストーンシャークの討伐が終わってて、少しは気が張れてればいいんだけど。

 俺は、ネメシアに追い付かないように、目的地へ小走りで向かった。
 日が暮れ始めた頃に、俺はようやく海岸近くの漁師町に着いた。
 俺は先に着いてるはずのネメシアと、討伐対象のストーンシャークについて聞く為に、人が集まってそうな所を探す。
 小さな漁師町な為、人が集まっている酒場はすぐに見つかり、店の中に入る。
 酒場の中は、十数人が入れば満員になってしまう程の小さな店だ。
 俺はカウンターの前にある席に座り、夕食がてら情報収集にあたる。

「いらっしゃい。お客さん海に観光にでも来たのか? 今はちっと問題があってな、漁師達も沖に出れないでいるんだよ」

「ちょっとあんた、話をしてないで、先に注文を聞いたらどうなの!」

 店の主人が話していると、奥から女性が出て来て、仕事をするようにと急かしてきた。

「おっとすまん。お客さん何にする?」

「それじゃあ、漁師町ならではのものを、おまかせで」

「おう、まかせときな」

「夫がすまないね。寒くなってくると、海に遊びに来る人も殆んど居なくなっちまって、話す相手が常連の漁師連中しか居ないもんで、新しいお客が来ると、話し込もうとしちまうんだよ」

「いえ全然大丈夫です」

「あたしは『ツツジ』あっちが夫の『ロッド』よ」

「カズです」

「カズさんね、よろしく。それでカズさんは、何しにこの町に? 新鮮な魚を買いに来たって訳でもなさそうだし、釣り…って訳でもないわよね、道具も持ってないから。旅の途中かしら?」

「依頼で来たんですよ」

「カズさんは冒険者だったの!? 何も装備もしてないから、冒険者には見えなかったよ」

「ハハ……(やっぱり装備をしてないと、そう見えるのか)」

「おいおい、おまえも酷いこと言ってないか。カズ悪いな、オレっちの女房が」

「あんただとずっと話し込んじまって仕事をしないから、あたしが代わりに、カズさんと話してるのよ」

「何おぅ、オレっちがいつ話し込んでるって言うんだ」

「いつもでしょ」

「何おぅ!」

「何よ!」

「ちょ、ちょっと(客の前で夫婦ケンカするのかよ)」

「あんちゃんよぉ、いつもの事だから気にすんな」

「そうそう、すぐに納まるって」

「じゃれてるだけだべさ」

 口ケンカをしている酒場の夫婦を、見ていた常連の客が、いつもの事だから放っておけばいいと言ってきた。
 そうしてる間に、夫婦の口ケンカは納まっていた。

「ほいお待ち、この近海で獲れた魚の煮付けと、エビの塩焼きだ」

「いただきます(煮付けって、何の味付けをしてあるんだろう?)」

「どうだい、オレっちの味付けは?」

「美味しいです。この煮付けは何で味を付けてるんですか?」

「おっとそれは、オレっちの秘密だぜ」

「何言ってんのさ。ここいらの者だったら、誰でも知ってることだろ。カズさん、これは魚を塩に漬けにして、そこから出てくる汁を濾した物だよ。漁師町なら、大抵どこにでもある調味料よ」

「へぇ(それって確か魚醤だよな)」

「なぁなぁ、オレっちの味付けを教えたんだから、カズは何の依頼で来たか、教えてくれや」

「あんた何聞いてんだよ! それこそ秘密でしょ」

「ああ大丈夫たですよ。俺も聞きたいことがあったので」

「聞きたいこと?」

「ええ。最近この辺りの海で、ストーンシャークが出たって聞いたんですけど、何か知ってますか?」

「知ってるも何も、オレっちが最初に言った問題ってのが、そいつの事なんだ。この町から海岸沿いを少し行った岩場付近の海に、ストーンシャークは出るんだよ」

「どのくらい出るか分かりますか?」

「オレっちの店に来る漁師達の話だと、五体は見たって言ってたぜ。もしかしてカズは、ストーンシャークの討伐に来たのか?」

「ええ」

「そんな装備もしてないのに、大丈夫なのか?」

「俺一人じゃなくて、もう一人先に来てるはずなんですけど、ネメシアって女性の冒険者を見かけませんでしたか?」

「うちの店には来てないね。誰か見た人はいるかしら?」

 ツツジが来ている常連のお客に聞いた。

「いや」

「知らねぇな」

「……そうだ! ここに来る前に、女の冒険者らしき人を見たな。漁師達に、何か話を聞いていたようだったが」

「見たんですか! それでその人は、何処に行ったか分かりますか?」

「今さっきロッド言ったのと同じ話を聞いたなら、岩場の方に言ったはずだが、もう暗いからさすがにそれはないか」

 お客の話を聞いて、俺は【マップ】の範囲を広げ、教えてくれた場所に人が居るか確認した。
 すると暗くなっているにも関わらず、教えられた付近に、一人居るのが分かった。
 俺はネメシアか確認する為に、マップに表示された人の場所に行くことにした。

「ありがとうございます。俺ちょっと行ってみます」

「止しなって、もう暗いんだから、その人もどっかの宿で泊まってるよ」

「そうかも知れませんが、一応確認に行きます。お幾らですか?」

「2,600GLだよ。本当に行くのかい?」

「ええ。取りあえず、確認に行くだけですから(マップを見て、人が居るのが分かるとは言えないからな)」

 俺は銀貨四枚(4,000GL)を渡した。

「これ多いよ。情報料ってことで、皆さんにお酒でも出して上げてください」

「気が利くなあんちゃん。ありがとよ」

「律儀だな、あんちゃん」

「覚えてて良かったべさ」

「また来てくれや、カズ」

「カズさん気を付けなよ」

「はい。ごちそうさまでした」

 俺は酒場を出て、ネメシアが居るであろう岩場の方に向かった。
 街灯のような物も無く、月明かりがあるが、とても暗い。
 それでも数m先くらいは見えるので【マップ】を頼りに、表示されている人の所へと向かう。
 【マップ】を見る限りでは、今居る場所から殆ど移動してない。
 二十分くらい海岸沿いを歩くと、岩場付近に来たので、マップに表示されていた人を探す。
 足元に注意しながら岩場を進むと、海を見ながら立っている人が見えた。

「ネメシアさんですか?」

「チッ、暗いのにお前も来たのか。大人しく宿屋にでも泊まってればいいものを」

「そういうネメシアさんも、こんな暗い夜に来なくても、一泊して朝に来た方が良かったんじゃ?」

「そうしたら、奴ら(ストーンシャーク)が、沖の深い所に逃げちまうだろ。だからこの暗闇に乗じて倒すんだよ!」

「町の人に聞いたら、五体くらいは居るらしいですが、何か作戦でも?」

「そんなのねぇよ。とっとと倒すだけだ」

 Bランクで実力はあるだろうけど、大丈夫なのか?
 浅いとはいえ相手は海の中だし、しかもこの暗闇でどう戦うんだろう? 
 こんな風に戦闘をしてるから、サブマスは心配で俺を付けたんだろうか?
 でもそれだったら尚更Bランク以上の人を、来させた方が良さそうだけど。
 こんな性格じゃあ、来る人はいないか。

「おっ! 来やがった、お前は手を出すなよ。私が一人で片付けるからな」

 俺は【マップ】を確認見ていて分かったが、少し沖の方から六体のモンスター反応が、今居る岩場付近に、向かって来ている。

「一人だと危険ですよ」

「うるせぇ黙って見てろ。私一人で十分だって事を、見せてやるよ」

 ネメシアはそう言うと、上空に〈ライト〉の魔法を使い、光の玉を出現させて、辺りを明るく照らした。
 急に明るくなった為に、ストーンシャークは岩場付近の浅瀬で、驚きバシャバシャと暴れていた。
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