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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

125 前途多難な依頼

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 夕食を済ませて、泊まっている三階の部屋に行き、今日は早めに寝ることにした。


 ◇◆◇◆◇


 早朝に水の音が聞こえ、目を覚まし外を見ると雨が降っていた。
 今日は依頼で、ネメシアと二人で海岸まで遠出するのに、雨が降っているのを見ると、気分が少し憂鬱になる。
 だからと言ってゆっくりしてられない、少しでも遅れると、ネメシアがいつも以上に機嫌が悪くなるかも知れないから、朝食を取って早く行くことにする。
 宿を出る時には小雨になっていたので、濡れながら第2ギルドへ小走りに向かう。
 第2ギルドに着くと、雨が降っているので、昨日程混んではいなかった。
 中に入り一階で濡れた服を拭きながら『転移水晶』のある場所を聞き忘れたと思っていると、トレニアがこちらにやって来た。

「カズさんでしたよね?」

「はい」

「昨日は私のせいで、ご迷惑お掛けしたした」

「あれはトレニアさんが悪い訳じゃないですよ(似た様なやり取りが、アヴァランチェでもあったっけな)」

「ありがとうございます。それでカズさんが来たら、転移水晶のある部屋まで、案内するようにと言われてまして」

「そうですか、お願いします。昨日ここから転移水晶で出発と言われたんですが、何処に行けばいいのか、困ってたとこなんですよ」

「どうぞこちらへ」

「はい。ネメシアさんはもう来てますか?」

「まだ来てませんよ」

「それは良かった」

「ネメシアさんと、何かあったんですか?」

「何かと言うか、どうも嫌われてるみたいで」

「何かしたんですか?」

「何もしてませんよ。何故だか初対面のときからずっと……」

「何故でしょうね?」

「さぁ?」

「こちらです。それじゃあ、ネメシアさんが来るまで、中でお待ちください。私は仕事があるので、失礼します」

「分かりました。ありがとうございます」

 トレニアの案内で、ギルドの地下にある一室に入った。
 部屋の中に入ると、奥に30㎝くらいの水晶玉が台の上に置いてあるだけで、他には何もない。
 部屋にある水晶玉は、リアーデに居た頃に、ギルド専用の訓練場へ転移したときに使った水晶と、同じ魔道具だと思われる。
 部屋には俺一人だし、どんな効果があるのか鑑定してみようと、水晶玉に近付いたら、部屋の扉が開きサブマスが入ってきた。

「おや! もう来てたのね」

「サブマス! お、おはようございます」

 俺は水晶玉の置いてある台から、一歩離れた。

「おはよう」

「サブマス自ら、どうしたんですか?」

「ネメシアに討伐依頼の指名をしたのは、ワタシですからね。見送りくらいはと思っただけよ。それより、今何かしようとしてた?」

「いえ別に、何もしてないですよ(水晶玉を鑑定しようとしてました。なんて、言えるわけない)」

「まぁいいわ。それよりネメシアが来るまで、昨日話した続きをしましょうか?」

「うっ……な、なんの事でしょうか?」

「別に貴方が隠してるスキルを、教えろなんて言わないわ」

「そうですよ。Cランクの俺なんて、別に気にしなくてもいいですよ(おっ! 以外だな。引き下がってくれるとは)」

「そうカズはCランクよね。だったらサブマス権限で、ステータスを全部見せてもらおうかしら」

「んぐっ(最悪だ)」

 カズがサブマスに責め立てられそうになっていたとき、部屋の扉が勢いよく開き、ネメシアが入ってきた。

「なんだ、お前来てたのか。足手まといなんか必要ねぇのによ」

「ネメシア、文句は…」

「分かってるよ。指名の依頼だから、仕方がねぇから、そいつと行くけど、報酬は弾んでもらうからな!」

「分かってますよ。ただし二人で一緒に帰って来ること! 良いですね」

「チッ! 面倒だが分かったよ。ほらとっとと行くぞ!」

「はい。サブマス行ってきます」

 ネメシアが水晶玉に触れ魔力を流すと、水晶玉を中心に魔方陣が足元に浮かび上がり、カズとネメシアは、第2ギルドから第8ギルドへ転移した。

「やれやれ。ネメシアがあれで、カズは無事に帰って来れるのかしら? ネメシアがもう少し来るのが遅ければ、カズの秘密を聞き出せそうだったのに。残念」

「おや、もう二人は出発されましたか?」

 イキシアが転移水晶の置いてある部屋を出ようとしたら、モルトが入ってきた。

「モルトも見送りに来たの? 二人なら今行ったわよ」

「そうですか」

「しかし貴方の仕事は、主に貴族を相手にすることでしょ。それなのに、やけにカズのことを気にかけてるのね」

「なんでしょうね。言われると、儂自身も不思議に思いますな」

「確かに得体の知れない、変わった存在……などと言ってるワタシも、気になってるのよね。何を隠してるのかがだけどね。モルトはカズのこと、何か知らないの?」

「確証がないことばかりですが……カズ君の許可なく軽々しく言うのは、やめておきましょう」

「何か知ってる風な言い方ね。サブマスのワタシにも言えないのかしら?」

「今回儂が関わった貴族の件に関しては、ギルマスに報告はしましたが、サブマスに話されてないのは、何か理由があるのでしょう。なので儂から言う訳にはいきませんな」

「そう。だったら無理矢理にでも、カズから聞き出してやろうかしら」

「程々にしてください。もしカズ君が他のギルドに移ったら、サブマスのせいですから」

「そこまでカズを気にかけてるの?」

「少なくとも、今回関わった貴族の方が、カズ君のことを良く思ってますから、ギルドとして、むげには出来ませんからな」

「いったい何処の貴族かしら? 何でサブマスのワタシも秘密なのかしらね」

「知りたければ、ギルマスに聞いてください。儂からは言えません」

「真面目ね。まぁそうでなくては、貴族とギルドを繋ぐ責任者なんて、出来ないのだけど」

「分かっているのなら、聞かないでください」

「分かったわよ。さぁワタシ達も、仕事に戻りましょう」

「そうですな」

 カズとネメシアを見送ったイキシアと、見送りが出来なかったモルトは、各々の仕事へと戻った。

 冒険者第8ギルドは、王都の中心部から西に約50㎞離れた街の端にあり、海に続く街道沿い立つ。
 第8ギルドを拠点にしている冒険者は、海近くの漁師町から集まって来ている漁師が多い。
 魚が捕れない時に、ギルドで依頼を受け、それを稼ぎとして暮らしている者が多い。
 なので第8ギルドの冒険者は、Dランク以下が殆どだ。
 その為にCランク以上の依頼は、今回のように、王都にある他の冒険者ギルドから、依頼を受け転移水晶でやって来る。
 
 第2ギルドから、第8ギルドに転移したネメシアは、すぐに目的の海岸へと向かう為に、第8ギルドの職員に挨拶もなしに出て行ってしまった。
 王都の西側にある第8ギルドの外は、晴れていた。
 第8ギルドを出たネメシアは、海岸へと続く街道を、一人で足早に歩いて行ってしまう。
 俺はネメシアの後を、急いで追いかけ付いて行く。
 海に続く街道を、無言で歩き続けていると、先に口を開いたのはネメシアだった。

「おい、いつまで後ろを付いて来るんだよ」

「そう言われましても、海岸までの道分かりませんし」

「海までは、この道を行けばそのうち着く」

「一本道ですか。それじゃあ、俺がネメシアさんの前を歩きます。後ろを歩くのが、迷惑と言うのであれば」

「私の前を歩いたら目障りだ!」

「だったら…」

「私と並んで歩くとか言ったら、ブッ飛ばすぞ!」

「……ネメシアさんは、ストーンシャークが何処に現れるか、分かるんですか?」

「……」

「ネメシアさん?」

「うるせぇな! 海までは行けば、そんなの分かるだろ」

「そう…ですか(今日もキツい言い方だな)」

「私は走って行くが、お前は歩いて来いよ。戦闘で死なれてでもしたら、サブマスとじじぃが、うるさいからな」

 そう言うとネメシアは、カズをおいて一人走って行ってしまった。
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