上 下
121 / 789
三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

113 忘れた仕事 と 窒息寸前

しおりを挟む
 メイド達が慌ただしく働いている時に、カズはメイド達の手伝いをせずに、マーガレットの部屋に居た。

「カズさん、ごめんなさいね。起きた状態で、子供達に会えると思うと興奮しちゃって、何かしてないと落ち着かないのよ。だから午後も話し相手になってね」

「俺なんかで良ければ。それに受けた護衛の依頼も、ジルバさんが戻って来れば終わりですし」

「そう言えば、そうだったわね。モルトさんに頼んで、カズさんの承諾なく、勝手に依頼を受けてもらうことにして、ごめんなさいね」

「構いませんよ。事情も分かってましたから」

「あれから私も身体を動かして、なんとか立ち上がれるまでになったし、今では食事も美味しく感じられて、とても嬉しいわ。これもカズさんのおかげね」

「そんなことは……メイドの皆さんが、看病してくれたおかげですよ。お子さん達も、マーガレットさんを治す薬を、一生懸命探してましたから」

「そうよね。子供達だけじゃなく、ベロニカ、アキレア、ミカン、ビワ、キウイ。夫やジルバにモルトさんも、皆が居たから、今の私があるようなものね。本当に感謝してるわ……」

 マーガレットは、涙ぐんでいた。

「もうすぐ、お子さん達が乗った馬車も着きますから、泣かないでくださいよ」

「ふふっ。今までの事を考えたら、ついね。早く子供達に会いたいわ」

 マーガレットと話をして、二時間程経った頃、ベロニカが部屋にやって来た。

「奥様。そろそろ運動の時間です」

「ねぇベロニカ、今日もやるの? もうすぐ子供達が帰って来るのよ」

「毎日少しずつやるのが、以前の様な身体に戻る近道です。これも奥様の為です」

「やっぱりベロニカは厳しいわね。分かったわよ。カズさんありがとう。また後で」

「はい。くれぐれも無理しないように。ベロニカさんも、あんまりマーガレットさんに、無茶させないでくださいよ」

「分かりました。今日の運動は、少し控えめにしておきましょう。その代わり運動後プリンは、お預けですよ」

「そんなぁ。やっぱりいつもと同じで良いわ!」

「やれやれ。奥様ときたら……」

「ハハ……(もしかして運動する時に、毎回プリンで釣ってるのか?)」

 カズは客間にでも居ようかと思い、マーガレットの部屋を出て廊下を歩いていると、正面からミカンが早足に向かってきた。

「カズお兄ちゃん。時間空いた? 空いてるよね!」

「どうしたのミカン? (とうとう仕事中でも、常にお兄ちゃん呼びか)」

「ちょっと手伝ってほしいから来て!」

「どこ行くのミカン? (毎回マーガレットさんの部屋から出たら、誰かしらとすぐ会うけど、待ち伏せでもされてるのか?)」

 カズがミカンに連れられて行ったのは、屋敷のすぐ横にある馬車小屋だった。
 中に入ると、そこにはキウイが居た。

「キウイお姉ちゃん。カズお兄ちゃんを呼んできたよ」

「ありがとにゃ。ミカン」

「ミカンじゃなくて、キウイさんの手伝いですか」

「手の空いてたミカンに、呼んできてもらったにゃ」

「それで俺に、何をさせたいの?」

「実は先日ギルドに行った時にゃ。モルトさんづてで、ジルバさんから連絡があってにゃ。ここにある古い馬車を、隅に動かしておくようにと、頼まれていたにゃ。それをさっきまで、すっかり忘れていただにゃ」

「それで俺に、どうにかしてほしいと?」

「お願いだにゃ。カズにゃんしか頼める人がいないにゃ」

 キウイが詰め寄ってきた。

「ミカン以外には、知ってるの?」

「まだ言ってないから、知らないにゃ」

「一応アキレアさんだけにでも、言っておいた方が良くない?」

「うぅ……せっかくお嬢様達が帰ってくるのに、にゃちきは……こんな時も失敗ばかりだにゃ。今からギルドに、頼みに行ってる時間もにゃい…し……」

「ちょ、ちょっとキウイさん。別に俺は、責めた訳じゃ」

「……にゃちきは……にゃちきなんて……うぅにゃぁ~」

 いつも陽気なキウイが、大粒の涙を流して泣いている。
 それを見ていたミカンが、キウイに寄り添い、なだめようとしたミカンも、一緒に泣き出してしまった。

「ミカンまでもらい泣きして(あの陽気なキウイさんが泣くなんて)」

「カズお兄ちゃん。キウイお姉ちゃんを、手伝ってあげて。お願い」

「分かってるよミカン。キウイさんも、泣き止んでください。すぐにこれ(古い馬車)を、動かしますから」

「でもこれ重いし、古いから車輪も固くて、なかなか動かないしにゃ……うぅ……」

「だ、大丈夫だから、もう泣かないで」

 一度泣き止んだキウイがまた泣きそうになったので、カズは急いで古い馬車を馬車小屋の隅に移動させる事にした。

「〈アンチグラヴィティ〉……よし。軽くなったから、これで楽に動かせる」(ボソッ)

 カズは魔法で軽くした古い馬車を持ち上げ、馬車小屋の隅に運んだ。

「えっ! えぇー!!」

「にゃにゃぁー!!」

「カ、カズお兄ちゃん。何やったの!? スゴい力持ち」

「カ、カズにゃん……」

「驚いた? 魔法で馬車を軽くしたんだ。だから一人でも余裕で持ち上げて、動かすことが出来たんだ」

「良かったにゃー! これでお嬢様達が乗ってる馬車が戻ってきても、邪魔にならずに、馬車小屋にしまえるにゃ! ありがとうカズにゃん!」

「ふぉっくぉ、くふぃふぁん。ふぅねぐぁ、く、くるふぃい……『(訳)ちょっと、キウイさん。胸が、く、苦しい……』」)

 キウイが思いっきり抱き付いて、カズはキウイの胸で窒息しそうになった。

「ちょっとキウイお姉ちゃん。カズお兄ちゃんが、苦しそうだよ!」

「にゃ? にゃ! カズにゃん大丈夫かにゃ?」

「ハァ…ハァ。だ、大丈夫(こっちの世界に来て、初めて呼吸が出来なくなった)」

「ごめんなさいにゃ。つい嬉しくて、抱き付いちゃったにゃ」

「キウイお姉ちゃん。ここを早く掃除しないと、馬車が来ちゃうよ?」

「そうにゃ! 急いで掃除をするにゃ!」

「じゃあ俺も」

「あとはミカンと二人で、掃除をするから大丈夫にゃ。カズにゃんはお屋敷で、休んでくれていいにゃ。ありがとにゃ!」

「ミカンもがんばって掃除するから、カズお兄ちゃんは、休んでて良いよ!」

「そう。ありがとう(手伝っても、良かったんだけどな)」

 カズは馬車小屋を出てお屋敷へと向かいながら、これからの事を考えた。


 馬車が王都に入ったと聞いてから、二時間以上経ってるから、あと一時間もすれば到着するかな。
 それまでには馬車小屋の掃除も、終わるだろう。
 明日からは、貴族が住む区画から出て街で暮らすから、どこか住む場所を探さないと。
 王都に来て、すぐここに来たようなものだから、話に聞くだけで、街のこと全然知らないし。
 護衛の依頼だから、お屋敷から離れられなかったしな。
 まあ、街に戻ってもモルトさんとは会うわけだから、呪いをかけた犯人を探す手伝いを、するんだろうけど。

 そんなことを考えつつカズが屋敷に入ると、ビワが出て行こうとしていた。

「ビワさん。どこか行くんですか?」

「あの…キウイとミカンを……探してるん…です」

「そうですか。二人なら馬車小屋で掃除してますよ」

「馬車小屋……分かりました。ありが…とう」

「いえいえ」

 カズは寝泊まりしている部屋で休憩してると、今度はアキレアが他の三人を探しにやって来た。

「カズさん。キウイとミカン知りませんか? さっきビワに頼んで、探しに行ってもらったんですけど、そのビワも見当たらなくて」

「ビワさんなら、二人が掃除をしている、馬車小屋に行きましたよ」

「馬車小屋の掃除? そんなこと頼んだかしら?」

「まだ戻って来ないんですか? さっきビワさんと会ってから、三十分くらい経ちますけど」

「あの娘たちは、いったい何をやってるのかしら? そろそろお夕食の仕込みを、しなきゃいけないのに。せめてビワだけでも、戻ってきてくれないかしら」

「俺が呼んできましょうか?」

「お願いします」

 カズはアキレアに頼まれ、馬車小屋に三人を呼びに行く為に屋敷を出た。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

処理中です...