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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

107 メイドのミカン と お兄ちゃん

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「アキレアさん笑うと可愛いな」(ボソッ)

「えっ? カズさん今何を……」

「あ、いや、俺ちょっと庭を一回りしてきます」

 気まずくなったカズは、その場を離れた。

「男の人に、可愛いなんて言われる事ないから……(なんか顔が熱い)」

 にやけた顔を叩いて、いつもの自分を取り戻したアキレアは、朝食の支度を始めた。
 夜が明け、明るくなり始めたこ頃、庭に出たカズは、先程口に出した言葉を思いだし、恥ずかしくなった。

 なんで俺は思った事を、口に出してしまうんだ。
 こっちの世界に来てから、若い女性と話す機会も増えて、キッシュとアレナリアの二人と関係をもってから、俺も変わったのかな?
 取りあえず、ポロっと口に出さないように、気を付けないと。
  なんか前にも、こんなこと言ってたような……?
 まあ言った後に悩んでも、どうしようもない、前向きに……アキレアさんと顔を合わせづらい。
 俺はどうしようかと考えながらボーッとしてると、すっかり辺りは明るくなっていた。

「カズ様こちらにいましたか!」

 声を掛けてきたのは、昨日マーガレットの寝室に居た、年配のメイドだった。

「はい? あ、えーと……」

「これは自己紹介がまだでした。私し(わたしく)はこちらでメイド長をしている『ベロニカ』と申します。昨日は、奥様共々助けていただき、ありがとうございました」

「これはご丁寧にどうも。カズです」

「存じております。朝食の用意が出来ましたので、広間までお越しください。私しは他に仕事がありますので、失礼致します」

「分かりました。ありがとうございます(またあの広い部屋で、一人で食べるのか……)」

 カズは昨日遅い昼食を取った部屋へと行き、誰も居ない広間にある、大きなテーブルの端にある椅子に座った。
 数分程したら部屋の扉が開き、一人のメイドが食事を運んできた。
 食事を運んできたそのメイドは、背の低い女の子だった。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりください」

「ありがとう」

 メイドは部屋の入口付近に立ち、じっとこちらを見ている。

「あ、あの何か?」

「お食事が終わりますまで、こちらで待たせていただきます。どうぞお気になさらず」

「そ、そうですか(いやいや、ものスゴく気になるんですけど!)」

 静かな広い部屋の中で、一人朝食を食べる微かな音がするだけ。
 それを見る一人のメイド。

 気まずい……もの凄く気不味い。
 初対面の女性と話をするのは苦手だが、この状況は耐え難い。
 取りあえず、少し話し掛けてみるか。

「あ、あの。初めましてでは、ないんですよね。俺はカズって言います」

「知ってます。昨日皆が怖い思いをしている所を、助けてくれた方ですから。あ! ミカンは『ミカン』って言います」

「ミカンさんですね。よろしく」

「『さん』は、必要あません。ミカンのことは、ミカンと呼んでください」

「呼び捨てで、良いんですか?」

「昨日怖かったのを、助けてくれたから良いです。それにミカンに対して、敬語もしなくていいです」

「ほぼ初対面でそれは」

「ミカンが良いって、言ってますから」

「それなら俺のことも、カズでいいです」

「お客様ですし、恩人なのでそれは失礼です」

「うっ……メイドさんとしては正論だけど、呼び捨てにして、敬語なしってのはちょっと」

「それなら、ミカンは……『カズお兄ちゃん』て呼ぶ」

「えっ? 急になんで(いったいどうしたんだ、このメイドは?)」

「なんとなく。そう呼びたいから。それにお兄ちゃんなら、話し方も丁寧にしなくて良さそうだし」

「そんないきなり、お兄ちゃんだなんて、他の人が聞いたら変に思われるよ。だからお兄ちゃんはやめよう」

「……分かりました。恩人のカズ様」(ボソッ)

「んっ? 今なんて?」

「大恩人のカズ様!」

「ちょ、ちょっと待って。なんでそうなった?」

「お兄ちゃんが駄目って言ったから」

「いやいや。それならカズさん、とかで良いんじゃないのかな?」

「それは失礼だから、恩人のカズ様」

「ミカンさん。勘弁してください。こんな所をアキレアさんや、他の人に見られたら」

「……」

「ミカンさん?」

「…………」

「ミカンさん? ミカンさーん!」

「ミカンのことは、ミカンて呼んでくれないと、答えないもん」

「うぅ……分かったよ。ミカンて呼ぶから、俺のこともカズって呼んで」

「……」

「おーい。ミカン?」

 カズがミカンと、このやり取りをしていると、ミカンの横にある部屋の扉が開き、人が入ってきた。

「分かりました。カズお兄ちゃん!」

「カズさん。お屋敷のメイドに、お兄ちゃんと呼ばせるのはどうかと……」

「ア、アキレアさん。ち、違いますから。俺が呼ばせてる訳ではないですから! そうだよねミカン(今度は黙らないでくれよ)」

「はい。ミカンが、カズお兄ちゃんて呼びたいって言ったら、良いよって言ってくれました」

「なんだそうだったの。私はてっきり、カズさんの趣味かと」

「アキレアさん…(酷い誤解だ。それにミカンも、お兄ちゃんって呼ぶのを良いとは言ってないよ)」

「冗談です。ミカンは、朝食の後片付けをしたら、今度は掃除ね」

「はーい。アキレアお姉ちゃん」

「こらっ! 仕事中はアキレアさんでしょ」

「そうでした、てへっ! ごめんなさい。アキレアさん」

 アキレヤはミカンを注意したら、すぐに広間を出で、他のメイド達の仕事を確認に行った。

「アキレアお姉ちゃん? ミカンは、アキレアさんのことを、そう呼んでるの?」

「休憩や仕事以外の時は、そう呼んでる」

「仲良いんだ」

「うん。あ! アキレアさんだけじゃなくて、他の二人とも仲は良いんだよ」

「他の二人?」

「カズお兄ちゃんは、昨日以来まだ会ってないの?」

「そうだね。ベロニカさんには、さっき会ったけど」

「メイド長は厳しいから、カズお兄ちゃんとこうやって話してるの見られたら、怒られちゃうな」

「一応、朝食の後片付けって仕事をしてるから、大丈夫じゃないの?」

「無駄話をしないで手を動かしなさいって、言われちゃうよ。本当にメイド長は、厳しいんだから!」

「まぁまぁ。それはミカンに、立派なメイドさんになってほしいからだよ」

「えーそうかなぁ?」

「何をしてるんですか? 早く食器を、厨房に持っていきなさい」

「メイド長さん! 今持っていくところです」

 急にメイド長のベロニカから、声を掛けられたミカンは驚き、食器を持って広間を出ていった。

「うちのメイドが、何か失礼をしましたか?」

「別に失礼なんてありませんよ」

「そうですか。あの娘はメイドの中で一番若く、奥様が連れてこられたので……」

「マーガレットさん?」

「あ、いえ失礼しました。私しが軽々しく話していい事ではないですね。今のは忘れてください」

「え、はぁ。そうですか(そこまで言っておいてですか!)」

「もしミカンに限らず、他のメイド達が迷惑をかけましたら、構わず叱って下さい」

「いやそんな迷惑なんて……」

「叱るのが苦手でしたら、私しにご報告下さい。キツくお仕置きしておきますから」

「分かりました。その時は、お願いします」

「はい。それと奥様が、またお話を聞かせて欲しいと、おっしゃいまして、奥様の寝室までお越し下さい」

「分かりました。すぐに行きます」

「奥様の寝室には、メイドの『ビワ』が居ますので、何か用があれば、お申し付け下さい。私しはこれで失礼します」

 メイド長のベロニカに言われて、マーガレットと話をする為に、食事をする広間から、マーガレットの寝室へと向かった。
 マーガレットの寝室に着き、扉をノックして、返事があったと思ったら、扉が勝手に開いた。
 それはマーガレットに言われ、メイドのビワが扉を開けたからだった。

「失礼します」

 俺は部屋に入る際に、目の前に居るメイドのビワを見た。
 身長が160㎝程あると思われ、頭に獣の耳が見えた。
 ビワが扉を閉める際に後ろ姿を見ると、メイド服のスカートに隠れて分かりづらいが、尻尾もあるようだった。
 そこで俺は、ふと思い出した。
 マーガレットさんに掛かってた呪いが、移った相手が、このメイドさんだったと。
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