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三章 王都オリーブ編1 王都オリーブ

101 責任者 と 貴族の区画

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 カズは右手を出し、手の甲にある貴族印を、モルトに見せた。
 モルトは貴族印に手をかざした。

「ありがとうカズ君。もういいですよ」

「モルトそれでどうなんだ?」

「やっと名前で呼んでくれましたね」

「そんな事はいいだろ。早く教えろよ」

「間違いなく本物の貴族印ですね。まあ偽物でしたら、調べるのを拒むでしょうけど」

「…おいカズ。どうやら本当に貴族から依頼を受けて来たようだが、アタシには一つ解せない事がある」

「な、なんでしょう」

「お前アヴァランチェから来たと言っていたな」

「そうですが」

「それが、おかしいんだよ。あそこから早くても十日は掛かるはず。それまでには、貴族の依頼を受けた者が来るって、ギルドに前もって連絡が来る事になってるはずなんだ。たがそれが来てねぇんだよ」

「そう言われましても……(やっぱり早く着き過ぎたのが不味かったか。これでも山脈を越えてから、街道に出るまでは、ゆっくり来たんだけど)」

「う~ん。それは儂も気になるが、急ぎの依頼なら、ギルドへの連絡が遅れて来る事も、たまにありますからな。特に王都から離れていると」

「そうなんです。急ぎの依頼なんですよ。だから早く、目的のお屋敷に行きたいんですけど……(なんか視線が気になるな。一応【隠蔽】を『2』に上げておこう)」

「そうですね……依頼書を見せてもらえますか」

「依頼書ですか?」

「貴族印は本物でしたが、依頼書の確認は、まだしてないですから」

「……分かりました(氷結花の事を知られて、面倒にならなければいいが)」

 カズは依頼書を懐から出すふりをして【アイテムボックス】から出し、モルトに渡した。
 その時カズは、チラリとネメシアを見た。

「なんだよ!」

「いえ。なんでもないです(気付かれてないか)」

 モルトは依頼書を見て、本物だと納得してくれた。

「なぁモルト。アタシにも見せてくれ」

「それは駄目です」

「なんでだよ」

「これが本物の、貴族の方からの依頼書だからです」

「ケチ! 少しくらい良いじゃんかよ!」

「まったく、あなたは子供ですか」

「フンッ!」

「やれやれ。カズ君ありがとう。依頼書はお返しします」

 モルトが依頼書を返してきた。

「それじゃあ、お屋敷の場所を教えてもらって、いいですか?」

「そうですね。急ぎの依頼ですし、今から行くとしましょう」

「モルトさんが、案内してくれるんですか?」

「ええ。儂が担当してる貴族の方ですから、案内も儂がします。それにギルドと貴族の方々をつなぐ、責任者でもありますから」

「そうなんですね。では、よろしくお願いします」

「はい。儂はカズ君と出掛けてきますから」

「ああ分かったよ。アタシはまだ、そいつの事を信用してないからな。でも、Cランク程度なら、モルトに護衛はいらないだろうけど」

 カズとモルトはギルドを出て、王城が見える都市の中心部に向かって、大通りを歩いて行く。

「ここから少し行くと、貴族の方々が住む区画と、儂らが住む場所を隔てた門があります」

「門ですか?」

「ええ。王都は人が多いので、王族と貴族の方々が暮らす場所は、高台になっていて、その区画に行くには、衛兵が警備している門を、通って行くんですよ」

「へぇ~高台に。だから遠くからでも、お城が良く見えたんですね」

「王都の中心にあるシンボルになりますね。もう王城が建造されてから、かれこれ三百年以上経ちますか」

「そんなになるんですか!」

「それでも何度か、修復してると聞きます」

「ところでモルトさんは、いつもそういう丁寧な話し方なんですか?」

「貴族の方々を相手にしているので、他の方相手でも、ついこの口調になってしまうんですよ。自分自身では、気楽に話してるつもりなんですけど」

「そうなんですか。貴族の方を相手にするのも、大変なんですね。俺はそういったの、ちょっと苦手です」

「なんでも慣れですよ。それにカズ君も冒険者なのに、口調が穏やかですよ」

「そうですかね」

「ええ。さっきのネメシアと比べましても」

「彼女と比べれたら……ですか(あの乱暴なしゃべり方を基準にされてもなぁ)」

「さて、門が見えて来ました」

「あれですか?」

 視線の先には、10m程の高さがある壁が見え、見えている壁の一部には、大きな門があった。
 門が閉ざされている為に、先が見えないので、高台に上がる道がどうなっているかは分からない。

「カズ君は、儂の後に付いて来てください」

「はい」

 するとモルトは、門番をしている、衛兵の所に向かっていった。

「ここから先は、貴族の方々が住む区画になるので、一般の者は入れない。通りたくば、それに至る証を見せよ」

 モルトは特別な通行書を見せた。

「毎回面倒ですいません。モルトさん。一応決まりなもので」

「何を言いますか。仕事ですからね。当然ですよ」

「そちらは、お連れの方ですか?」

「ええ。貴族の方から、依頼を受けた冒険者です。カズ君も、ここを通る為の、証を見せてください」

「証ですか?」

「手の甲にある印で大丈夫ですよ」

 カズは門番の衛兵に、右手の甲にある貴族印を見せた。

「貴族印ですか。調べますので、少々お待ちを」

 すると衛兵が、小さい水晶が埋め込まれたカードを取り出し、右手の甲に近付けた。
 すると青く光り、直ぐに消えた。

「本物の貴族印ですね。大丈夫です。お通りください」

「どーも」

 モルトと二人で道を塞いでる門を通って行くと思ったら、そうではなく、門のすぐ横にある扉から、貴族の住む区画へと入って行くようだった。
 道を塞いでる門は、馬車や大きな物などが、通る時に開けるだけのようだ。
 人の行き来は、大抵は横にある扉から、出入りするらしい。

 門の横にある扉を抜けると、坂になっており、300m程進むと平地へとかわっていた。
 高台に上がると、貴族が住む大きな屋敷が何軒も見えた。
 庶民が暮らす街からは、5m程しか高くなってないようだ。
 10m程高台にあると思った貴族の区画は、内側に入って分かった事だが、半分の5m程が壁だった。
 貴族の区画に入って、二十分程歩いた所で一軒の屋敷に着いた。

「カズ君、ここが目的のお屋敷ですよ」

「ここですか……(デカイな。建物の入口まで100mはあるし、建物自体も、ショッピングモールくらいは、あるんじゃないか?)」

「では、入口まで行きましょうか」

「は、はい(緊張する)」

「そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ」

「そ、そうですか……(無理)」

 建物の入口まで着くと、モルトが扉をノックした。
 すると扉が開き、中から一人のメイドが出てきた。

「これはモルトさん。お久しぶりです。今日はどういったご用件で?」

「どうもお久しぶりです。アキレアさん。本日は、こちらのお嬢様から、ご依頼を受けてきた冒険者の方を、お連れしました」

「お嬢様からですか?」

「はい。こちらがアヴァランチェの都市から、お嬢様のご依頼を受けてきた、冒険者の方です」

「こ、こんちには。初めまして。冒険者のヤマギク カズです」

「そんなに緊張しなくても、いいですよ。彼女は、こちらのお屋敷でメイドをしている、アキレアさんです」

「初めまして『アキレア』と申します。それて、お嬢様のご依頼とは?」

「カズ君、依頼書を彼女に。それと右手の印を見せて」

「あ、はい」

 カズは依頼書をアキレアに渡し、右手の甲にある貴族印を見せた。

「確認しますので、少々お待ちください」

 閉まった扉の外で、モルトと待つ。
 五分程して扉が開き、アキレアが出てきた。

「お待たせしました。依頼書が本物と確認がとれましたので、中にお入りください」

 アキレアに付いて、屋敷の中に入って行き、客室と思われる部屋に案内された。
 部屋にある高価そうな椅子に座り、モルトと暫く待つと、アキレアが飲み物を用意して出してくれた。
 テーブルを挟んで向かい側に、アキレアが座り、先ほど渡した依頼書を見えるように開き、依頼に関して内容を聞いてきた。

「依頼書には、デイジーお嬢様から、奥様に必要なお薬の材料を、届けるとありますが、どういった物をお持ちで?」

「依頼書に書いてありませんでしたか?」

「依頼書には『お薬なる素材を届ける』としかありませんでした」

「儂も依頼書を確認しましたが、素材の名前は書いてなかったですよ」

「ロウカスクさんが、気を使ってくれたのかな? それとも書き忘れか?」

「ロウカスクなら、どちらもありそうですね」

「それで何をお持ちなのか、見せていただけますか?」

「カズ君。依頼の素材を」

「はい。分かりました。その前にお聞きしますが、薬を調合する方は、こちらに居ませんか? 長く出しておける物ではないので、直接渡したいのですが?」

「それならご安心を。私が薬の調合をしていますので」

「アキレアさんがですか?」

「アキレアさんは、メイドでもありますが、治療薬を調合する専門家でもあるんですよ」

「モルトさんの言う通り、調合は私がしますので、素材を見せてください」

「そういう事なら」

 カズは水と採取した場所の雪を入れた小ビンに、切り花にして挿してある『氷結花』を【アイテムボックス】から出した。 
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