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二章 アヴァランチェ編

95 貴族との契約 と 涙の別れ

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 シャルヴィネの店から暫く歩き、以前に来た貴族の屋敷に着いた。
 扉の前に居た衛兵に、約束した冒険者だと言って、屋敷の人を呼んでもらった。
 すると屋敷から、ジルバが出てきた。

「お待ちしてました。どうぞお入り下さい」

 ジルバに案内されて、一つの部屋に入ると前回と同じで、デイジーとダリアの姉弟と、屋敷の主であるジニアが居た。

「カズさんお待ちしてました」

「こんにちはデイジーさん、それにダリア君とジニアさん」

「すみませんが、堅苦しい挨拶は、抜きに致しますわ。早速ですが、依頼の契約に移らさせていただきます。ジルバ」

「はい。お嬢様」

「カズ殿、依頼書をお預かります」

 ジルバに依頼書を渡す。
 ジルバが依頼内容と約束事それに、依頼を故意に遂行しなかった時の罰則等を読み上げた。
 次に依頼主のデイジーが、依頼書にサインをして、契約印を押す。

「ではカズ殿はこちらにサインと、血判を」

「分かりました(ギルトで登録した時と同じか)」

 依頼書にサインと血判をすると、血判をした右手の甲に、契約の印が出てきた。

「カズ殿これで契約成立です。その印が貴族と契約をしている証になります。現れた契約印は、無事依頼が終われば消えますので」

「分かりました」

「それで、いつ王都に、出発していただけますの? 出来れば、今直ぐに向かってほしいですわ」

「お嬢様お気持ちは分かりますが、カズ殿も支度が御座いますから」

「分かってます! 分かってますが……一刻も早く出発して下さい。お願いします」

「ぼくからもお願いします」

「私からもお願いよ。あの花で娘の病気が治るなら」

 デイジーは頭を下げて頼んできた。
 それ見ていた、弟のダリアと、祖母ジニアの二人も、頭を下げて頼んできた。

「カズ殿、どうか私しからも、お願い致します。出来るだけ早く、王都の屋敷に届けて下さい」

「分かりました。ことあとギルトに戻り、ギルマスに依頼の報告をしましたら、支度をして、アヴァランチェを出ますから(直ぐに出発する事になっちゃったな)」

「ありがとうございます。デイジー様とダリア様のお二人は、旦那様と連絡が取れましたら、直ぐに王都のお屋敷に戻りますので、報酬はそれからで」

「その旦那様は、アヴァランチェに居ないんですよね。どうやって連絡を?」

「ロウカスク殿に頼んで、旦那様が向かった街の冒険者ギルドに、連絡をしてもらったんです。その返事が来ましたら、私し達は王都に急ぎ向かいます」

「そう言う事ですか。分かりました。王都で待っています」

「よろしくお願い致します」

 頭を下げた四人の気持ちを受け取り、急ぎギルドに戻る。
 ギルド着き、そのままギルマスの部屋に行き、依頼の話をした。

「なるほど。カズ君が一足先に、王都へ行く事になったか。場合によっては、ジルバさん方と、一緒に行くかと思ったが、頼まれた連絡の返事が、まだ来てないからな」

「それで、王都に行く道を、教えてください。近道があればそちらも」

「王都への道は、東門から続く街道を道なり行き、幾つかの街を経由すれば着くが、速い馬でも十日は掛かるからな」

「近道は無いんですか?」

「う~ん……近道とは言えないが、北の山脈を越えて行けば早いが、これかは雪が多く降るだろうし、街道を行った方が早く着くだろう」

「北の山脈ですか……」

「いくらカズ君でも、数日雪深い山の中は、危険過ぎるからやめた方がいい。道もあるか分からんし、強力なモンスターも出現する可能性もある」

「山頂に着けば、王都は見えますか?」

「晴れていれば見えるが、忠告はしたぞ!」

「ええ。でも出来るだけの事は、やってみます」

「ロウカスクさっきの書類は終わったか? 受付で必要だって。あっ! カズ戻ってきたの」

「アレナリア」

「今夜もみんなで、収穫祭に行くんでしょ。今度は、何を食べようかしら」

「ごめん。収穫祭には行けない」

「えっ! どうして?」

「王都に向けて、直ぐ出発しないと」

「そんな直ぐだなんて! せめて今日ぐらいは、明日の朝に出発すれば!」

「ごめんね。王都で『氷結花』待ってるんだ。依頼の話を聞いてから、既に二日経ってるから、急いであげないと」

「……分かったから、せめて昼食だけでも、一緒に食べましょうよ。キッシュとクリスパにも、まだ言ってないんでしょ。もう直ぐ二人も来る頃だから」

「分かったよ。そんなにゆっくりは、してられないけど」

 アレナリアに説得されて、キッシュとクリスパにもお別れを言う為に、出発は昼食後にする。
 アレナリアと資料室に行って、二人が戻って来るのを待つことにした。
 資料室に入ると、アレナリアが引っ付いて来て、離れようとしない。

「アレナリアどう…」

「キッシュとクリスパが来るまで、このままで居させて」

「急に行く事になって、ごめんアレナリア」

「この依頼は、カズにしか出来ない事だから、分かってる。分かってるけど……カズと離れたくない」

「また会えるから、泣かないでアレナリア」

「う、うん……」

 アレナリアの気持ちが、少し落ち着いてきた頃、キッシュとクリスパが、シャルヴィネのお店から戻って来た。

「ソース出来たから味見してね! ってどうしたのアレナリアさん? カズ兄が何かしたの?」

「カズさんまさか! アレナリアを無理矢理……」

「クリスパのそういう冗談はいいから」

「じゃあどうしたの?」

「実は……」

 この後キッシュとクリスパにも、直ぐにアヴァランチェを出発と伝えた。

「そんな……今日から収穫祭の本番なのに。また皆で行こうって……」

 キッシュはアレナリアと同じ様に、カズに抱き付いた。

「急でごめん」

「カズ兄は、いつも直ぐ、どっか行っちゃうんだから」

「それでカズさん。いつ出発するの?」

「本当は、ロウカスクさんに依頼の報告をしたので、直ぐに行こうかと」

「もうお昼ですし、昼食を一緒に食べてから行くんでしょ」

「ええ。最後に皆で、一緒に食べてから出発します。だからキッシュ、そろそろ離れて食事にしよう」

「……うん」

 楽しく四人で、話しながら昼食を食べいるが、キッシュとアレナリアが、から元気でいるのが、分かってしまう。
 さすがにクリスパも、今回はからかう様なことは、言わなかった。
 昼食を食べ終わったので、出発する事にした。

「それじゃあ、もう行くね」

「あ……」

「ねぇカズ兄ぃ、また直ぐに会えるよね」

「……こっちの方に来たら、キッシュ会いに行くから」

「カズさん気を付けて。王都の冒険者は、乱暴連中も多いですから。そのお人好しで、くれぐれも揉め事に、巻き込まれないように!」

「は、はい。気を付けます」

「あ……カズ……」

「んっ?」

「私これから、皆に隠さずに、過ごせるように頑張るわ! カズと一緒に腕を組ながら、街中を歩けるように」

「アレナリアなら出来よ。でも無理はしないでいいから」

「うん。ありがとうカズ。どんなに離れていても……あ、愛してるわ」

「私もカズ兄のこと、愛してる!」

「まぁ! 二人とも、言う様になったわね」

「ありがとう。俺も……あ、愛してる(恥ずかしい)」

「カズさん、私は?」

「もちろんクリスパも」

「なんか、おまけみたいですね。まあ良いわ。次に会ったときは、私からカズさんを襲ってあげるから」

「それは、お手柔らかに(最後には、いつもみたいに、からかってきたな。雰囲気を和ませる為に、言ってくれたんだろうな)」

「カズ気を付けて、いってらっしゃい」

「カズ兄ぃ。いってらっしゃい」

「王都の変な女に、騙されないでね」

「クリスパは最後まで、それか。でもありがとう。いってきます」

 三人と別れギルドを出発し、途中食料等を買い込み、アヴァランチェを出る為に、東門へと向かう。
 ギルドを出てから走って来たので、二時間半程で東門を出た。
 東門から街道を暫く進み、人が居なくなったのを確認して、氷結花を採取した場所まで〈ゲート〉で移動する。
 ギルドからも直接来れたが、東門を通り抜けないと、おかしく思われるからだ。
 あとはこの山脈を越えて行けば、近道になるはずだ。  
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