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二章 アヴァランチェ編

94 クリスパの不満

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 ギルマスから伝言があると、ギルドから使いの者が来た。
 人が来たことにより、キッシュとアレナリアは、なんとか落ち着きを取り戻した。
 ギルマスからの伝言は、予想通り依頼の事だった。
 出掛ける支度をして、ギルドに向かうとする。

「ロウカスクさんから呼び出しがあったから、そろそろギルドに行かないと。アレナリアも行くでしょ」

「そうね。早く行って仕事を終わらせてしまうわ。でないと、今日の収穫祭に、行けなくなっちゃうから」

「キッシュとクリスパさんは、どうしする?」

「そうね……どうするキッシュ?」

「う~ん……あっ! そう言えば、カズ兄から言われたんだけど、ソースの試作品を作る手伝いをしてほしいって」

「試作品を作る手伝い? もしかして、カズさんが言っていた、シャルヴィネさんのこと?」

「確かそうだったよね。カズ兄ぃ?」

「そうそう。シャルヴィネさんに頼まれて、キッシュとアレナリアは了承してくれたけど、クリスパさんはどうかなって」

「キッシュが良いなら、私も構わないわ」

「良かった。手伝いの連絡は、ギルドの方に来てると思うから」

「それなら、私とキッシュもギルドに行こうかしら。ロウカスクさんが、しっかり仕事をしているか、確認しておかないとね」

「そう…ですね(ロウカスクさん、サボってなければいいが)」

 取りあえず四人で、ギルド向かうことにする。
 ギルドに着いて受付を見ると、ルグルは居たが、スカレッタの姿はなかった。

「クリスパさん、もしかしてスカレッタさんは」

「完全に二日酔いね、来れてもお昼頃からでしょう」

「昨夜はどれだけ飲ませたの? ルグルさんは平気そうだけど」

「大した量じゃないわよ。お酒はスカレッタより、ルグルの方が強いみたいね」

「次から一緒に飲む時は、加減してあげて」

「そうね。その分はルグルに飲ませようかしら」

「……」

「カズ話してないで、ロウカスクの所に行くんでしょ」

「ああそうだね」

「それと、シャルヴィネって人から、カズに伝言があったらしいわよ。頼んでいた事を、今日からお願いしたいって」

「分かったよ。それじゃあ、ロウカスクさんの話を聞いたら、キッシュとクリスパさんを連れて、シャルヴィネさんのお店に行くよ。アレナリアは仕事があるから、今日は無理かな?」

「どの程度仕事があるかによるわね」

 話ながらギルマスの部屋に向かった。
 部屋入ると、机の上に山積みになっている書類の間から、ロウカスクが顔を出した。

「待っていたぞカズ君」

「書類の量が凄いですね」

「昨日ちょっとやり残してな」

「あらあら。まさかサボってたんですか?」

「違うぞクリスパ。お前が俺に、受付をやらせたから、その時出来なかっただけだから!」

「あらそうですか。なら今日頑張れば、終わりますね。アレナリアに押し付けないように。うふふふっ」

「分かってるから、その笑顔をこっちに向けないでくれ」

 毎回あれだと、ロウカスクさんが、不憫ふびんに思えてくるな。
 まあでも、今回のことで、サボり癖が少しでも減れば、良いことだろうけど。

「ハァー。私のやることが終わったら、少し手伝ってあげるわよ」

「アレナリアそうやって甘やかすと、また押し付けて来るわよ」

「その時はクリスパに連絡するわ。それにソースを作る手伝いって言っても、私は味見くらいしか出来ないから」

「分かったわ。出来た試作品を持って来るわね」

「楽しみにしてるわ」

「オレのことは、もういいだろ。それよりカズ君にはこの依頼書を持って、もう一度ジルバさんの仕えている貴族の所に行ってくれ。本来はここ来て契約をしてもらいたいんだが、収穫祭でギルドも人が多いから、貴族の子供を連れて来るのは、やめてもらったんだ」

「分かりました。それに盗賊の件も、終わってないんですよね」

「ああ。ジルバさんが言うには、二人の子供らには、衛兵の護衛を付けているようだから、大丈夫だと思うけどな。取りあえずカズ君は、この依頼書を持って直ぐに行ってくれ。契約方法は、ジルバさんに話してある」

「了解です。直ぐに行きます」

「じゃあ行こうか。先にシャルヴィネさんの店に寄って、二人を紹介してから、俺は行くよ」

「ねぇカズさん、盗賊が居るんですか?」

「その可能性があるんですよ。心配かけまいと、言ってませんでしたけど。だからクリスパさんは、常にキッシュと一緒に居て、守ってやってください」

「もちろんですよ。キッシュは大事な妹ですから!」

「いってらっしゃい。三人とも気を付けてね」

「アレナリアさん行ってきます」

「アレナリア、ロウカスクさんをしっかり見張っててね。仕事は手伝い過ぎないように」

「クリスパの鬼」(ボソッ)

「なんですって! アレナリア絶対に手伝っては駄目よ。いえ、アレナリアの分もやらせときなさい」

「なにっ! カズ君。クリスパがクリスパが……」

「ハイハイ。クリスパさん行きますよ。キッシュも行こう」

 クリスパをなだめながら、ギルマスの部屋を出て、シャルヴィネの店に向かう。
 出掛けに受付を見たが、スカレッタは、まだ来てないようだ。

「クリスパさん、ちょっとロウカスクさんにキツ過ぎませんか?」

「自業自得です。普段からしっかり働いていれば、少し休んだって、文句は出ないでしょう。でもアレナリアに迷惑を掛けてるんだから、今回は良い薬になります!」

「それはそうですが……」

「それに私の事を、鬼だ悪魔だと言うから悪いのよ!」(ボソッ)

「ま、まあ次からは、程々に(今のは、聞こえなかった事にしよう)」

「それにカズさんも、いつまで私の事を付けて呼ぶんですか! 私もスゴく不満よ!」

「いや、それは……(今度はこっちか! とばっちりだ!)」

「キッシュとアレナリアは呼び捨てなのに、私だけ他人行儀みたいで嫌よ。これからはクリスパでいから!」

「でも俺のことも」

「私が『カズさん』って呼ぶのは良いの!」

「でもクリスパさ…」

「ク・リ・ス・パよ!」

「ク、クリスパ」

「よろしい」

「クリスパさ…クリスパには、敵わないな」

「嬉しそうだね。クリ姉ぇ」

「そうかしら」

 まあクリスパ本人が、喜んでいるようだから、俺的には良いんだけど。
 そんな話をしている間に、シャルヴィネの店に着いた。
 前回と同じで、従業員が使う裏口から入った。
 中に居た従業員に話をして、シャルヴィネの部屋に案内してもらう。

「こんにちはシャルヴィネさん」

「よくお越しくださいました」

「先日話していた件で、二人を連れてきました。こちらがリアーデにある、ココット亭のキッシュと、リアーデの冒険者ギルドでサブマスターをしているクリスパです」

「こんにちは。キッシュです」

「お久し振りです。クリスパです」

「こんにちは。シャルヴィネ商会のオーナーをしている、シャルヴィネです。キッシュさんとは、三度目ぐらいですかね。クリスパさんは、リアーデの冒険者ギルドで、何度か会ってますね」

「実は、俺がリアーデの街で、宿を探してたとき、ココット亭を紹介してくれたのが、シャルヴィネさんなんだよ」

「そうなんですか!」

「じゃあカズ兄と会えたのは、シャルヴィネさんのお蔭なんだね」

「そう言うことだね。二人ともシャルヴィネさんに聞いて、ソース作りに協力してあげて」

「はぁ~い!」

「はい分かりました」

「キッシュさんクリスパさん、よろしくお願いいたします」

「それじゃあ俺は用事があるので、失礼します。二人のことを、よろしくお願いします」

「はい分かりました。ありがとうございます。カズさん」

 俺は、キッシュとクリスパに手伝いを頼んで、シャルヴィネに挨拶をし、店を出て行く。
 そのまま以前に行った、貴族の屋敷に向かう。
 収穫祭が始まって人が多くなってきたので、貴族の屋敷がある通りには、衛兵が多く歩き回っている。
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