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二章 アヴァランチェ編

93 急な告白 と 三人へのプレゼント

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 ◇◆◇◆◇


 収穫祭当日


「ふぁ~」

「ん……おはようキッシュ。早いわね」

「おはようアレナリアさん。いつも癖で目が覚めちゃった」

「……んにょむにょ」

「カズ兄寝言で、なんか言ってる」
 
「本当。カズの寝顔見てると、昨夜のことが夢のようだわ」

「私達カズ兄と……」

「ええ。カズと……」

「えへへ」

「うふふ」

 キッシュとアレナリアが、カズの寝顔を見ながら、昨夜のことを思い出して赤くなっていた。

「抱…き……」

「カズ兄?」

「カズ?」

「待…て……」

「えっ?」

「何?」

「このまま離さないぞ!」

「ちょ、カズ兄!」

「ぁ……カズったら!」

「んっ? むにゅ?」

「ほらねキッシュ。話してあった通り、カズは寝ぼけると、直ぐに抱き付くのよ」

「本当だ! でも嬉しい」

 夢の中で、管理神あいつにしがみついて、話を聞き出すまで、逃がさないようにしたと思ったら、現実では寝ぼけて、また抱き付いてしまったのか。
 しかも今度は、キッシュとアレナリア二人同時に。

「あの……寝ぼけて、抱き付いてごめん。もう離れるから、二人も離して」

「私はもう少し、このままでも良いよカズ兄ぃ」

「私もまだカズと、こうしていたいわ」

 俺は二人に回していた腕を離したが、キッシュとアレナリアは、離れようとしない。
 すると扉が開き、クリスパがアレナリアの寝室に入ってきた。

「ただいま。朝食を買ってきた……おっ!」

「クリスパさん!」

「あら~まだ続いての? それとも朝からまた? ムフフッ」

「ち、違いますよ! ほら二人とも、朝食だってさ」

「は~い(まだカズ兄と……)」

「分かったわ(もうちょっとカズと……)」

 残念そうにキッシュとアレナリアは、カズから離れた。
 起きた三人は、アレナリアの寝室を出て顔を洗い、いつもの場所に座り朝食を食べることにする。

「クリ姉昨日は、いつまで飲んでたの?」

「皆と別れた少し後に切り上げて、スカレッタの家に行ったわよ。二人とも酔い潰れちゃったから」

「相変わらずの酒豪ね」

「アレナリアは飲んでなかったけど、お酒は止めたの?」

「そんなことないわよ。前にカズと二人で、飲んだこともあるしね」

「ねぇカズさん、アレナリアは酒癖が悪かったんじゃないの?」

「う~ん……ちょっとだけ、わがままになったかな? でもすぐに寝ちゃったから」

「あらあら、そうなんですか。昔一緒に飲んだ時は、平然としてたのに。カズさんの前だから、そうなったんじゃないかしら。ねぇアレナリア」

「……そうよ。カズだからよ。悪い」

「あらあら。なんならカズさんもその時に、寝込みを襲っちゃえば良かったのに」

「寝ている時に、カズが私を……」

 アレナリアの顔が、みるみる赤くなってきた。

「ぶはっ…ゴホッゴホッ……クリスパさん、まだ酔ってるの?」

「昨日のお酒なんて、もう抜けてますよ」

「毎度毎度、朝っぱらから、勘弁してくださいよ(素でこれだもんな)」

「だってカズさんは、からかいがいがあって、見てると楽しいから」

「それはロウカスクさんと、同類に思えますよ」

「えー! それは酷いよカズさん」

「本当よクリスパ。ロウカスクと同じよ」

「アレナリアまで酷いわ」

「だったら、からかうのを止めることね」

「分かったわ。からかうのは、カズさんだけにする」

「いやいや。なんでやねん! キッシュもクリスパさんに、なんとか言って」

「ん~……やっぱりクリ姉も、カズ兄のことが好きなんだよ」

「えっ?」

「ちょ、ちょっとキッシュ!」

「……そうなんですか?」

「そうね。そうかもね! 私より強くて優しい人は、今のところカズさんだけだしね!」

 クリスパは、赤く高揚させた顔を横に向け、開きなおって言った。

「クリスパ貴女も、カズを狙ってたの」

「少しだけよ。でも二人に譲ったでしょ!」

「クリ姉もカズ兄としたいの?」

「んぐっ!(キッシュ何を言ってるのさ)」

「大丈夫よキッシュ。カズさんを取ったりしないから」

「本当に? クリ姉もカズ兄のこと好きなら、私は良いよ。カズ兄はもちろん好きだけど、クリ姉のことも好きだから」

「キッシュ……ありがとう」

「あ、でもアレナリアさんの気持ちもあるから……」

「クリスパとの付き合いは長いから、どんな人物なのかは分かってるつもりだけど……クリスパは本当に、カズのこと好きなの?」

「二人の気持ちには及ばないけど、カズさんのことは好きよ」

「んっ! (朝っぱらから、いきなりの告白!)」

「だそうよカズ!」

「カズ兄はどうなの!」

 クリスパさんに、からかうのを止めてくれって話をしてただけなのに、なんでこんな話になってるんだ。

「そりゃあクリスパさんみたいな、綺麗な女性から好かれるのは嬉しいけど……俺一人で三人なんて」

「カズさんありがとう。まだ私の気持ちは、キッシュやアレナリアみたくハッキリしてないけど、二人のように、カズさんへの気持ちが強くなったら、私も抱いてくれますか?」

 俺はチラッと、キッシュとアレナリアを見る。
 二人真っ直ぐカズを見ては頷く。

「俺なんかで良かったら(これがモテ期ってことか! 俺このあと、不幸になるのかなぁ?)」

「ありがとうカズさん!」

「良かったねクリ姉!」

「でもカズの一番は、私とキッシュの二人だからね!」

 そうだちょうど良いから、三人に装飾品アクセサリーを渡そう。

「ちょっといいかな。三人に渡す物があるんだ」

「なにカズ兄?」

「急にどうしたのカズ?」

「なんですカズさん? 私は素敵な気持ちを、今頂きましたよ」

 三人の前に、それぞれアクセサリーを置いた。

「三人へのプレゼントです。キッシュには首飾りネックレスで、アレナリアには腕輪ブレスレットを、クリスパさんには指輪リングです」

 三人は手に取り、それぞれのアクセサリーを見ていた。

「キッシュは宿の仕事がら、ネックレスが邪魔にならなくて良いと思って。少しの魔力で、回復出来る魔法『ヒーリング』と、汚れをキレイに出来る『クリーン』の魔法を使える付与がしてあるから。一日三回ぐらいなら、キッシュの魔力でも、負担にはならないよ」

「スゴーイ! ありがとうカズ兄」

「どういたしまして」

「アレナリアは魔法主体で、魔力をよく使うだろうから、ブレスレットにしたんだ。『魔力補助』と『魔力回復』を付与しておいた」

「ありがとうカズ」

「クリスパさんは魔法剣士だから、揉め事があったり等して戦闘になったとき、役立つように『速度上昇』と『身体強化』を付与しておきました。どちらも出来ると思いますが、二重がけすれば、より安全に戦えると思います。それに付与した方が、魔力をあまり使わないと思うので」

「内容を聞いてしまうと、色気がないですが、私のことを思ってくれたんですから、嬉しいです。ありがとうカズさん」

「ねぇカズ、これに使ってる水晶って」

「ああ。以前に水晶採掘に行った時の水晶だよ。それをシャルヴィネさんに頼んで、アクセサリーに加工してもらったんだ。付与は俺がやったんだけどね」

「カズは凄いわね。一つの水晶に、二つも魔法を付与するなんて」

「水晶が良い物だったんだよ。だから出来たんだ」

「それで付与に関する本を、読んでたのね。これを作るために」

「三人に贈るから、自分でやりたくてね。一応効果は、この紙に書いておいたから。キッシュは分からなかったら、クリスパさんに聞くと良いよ」

「ありがとうカズ。大事にするわ」

「カズさんありがとう」

「カズ兄ありがとう。それで、私があげた……」

「大事に持ってるよ。キッシュがくれたから」

 【アイテムボックス】から、リアーデを出発する前に、キッシュが作ってくれたプロミスリングミサンガを出して見せた。

「まだ大事に持っててくれたんだ! 着けてなかったから、もう切れて無くなっちゃったと思ってた」

「依頼をする時に汚したくないから、しまっておいたんだ。依頼を受けてない時は、着けたりしてるよ」

「ありがとうカズ兄ぃ! お礼」チュ!

 横に座っていたキッシュが、カズの頬にキスをした。

「ちょっとキッシュ何やってるのよ! 私もお礼」チュ!

 アレナリアがテーブルを回り込んで、反対の頬にキスをしてきた。

「ちょ、ちょっと二人とも、分かったから(ビックリした)」

「カズさん」

「なんです……ん!」ちゅ

 クリスパが身を乗り出してきて、口にキスをしてきた。

「わたしからも、お礼よ!」

「クリ姉ぇ何やってるの!」

「ちょっとクリスパ!」

「良いじゃないのよ。カズさんも私の気持ちを、分かってくれたんだし」

「それなら私も、もう一回!」

「あっ! ズルいわよキッシュ! それなら私も!」

 さすがに朝から刺激が強いので、なんとか二人を落ち着かせようとする。
 その時入口の扉が叩かれ、ギルドから夜勤明けの職員が、伝言を持って来た。
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