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二章 アヴァランチェ編

84 貴族の館へ

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 ギルドに着いたらスカレッタがこちらに来て、ギルマスに昨日のことを、報告してほしいと言われた。
 アレナリアと一緒に、ギルマスの部屋へ向かった。

「おはようございます」

「おはよう」

「ん……あぁ、アレナリアとカズ君か」

 ロウカスクは、椅子に座ったまま寝ていた様で、酷く疲れた顔をしていた。

「お疲れの様ですが、徹夜てすか?」

「明け方に、昨日の書類を、何とか終わらせて、そのまま寝てたんだ」

「帰ってないんですか?」

「昨日の書類を残して帰ったら、クリスパが妻に、どんな報告をするかを考えたら、徹夜してでも終らせた方が、良いと思ったんだ」

「それはお疲れ様です(なんだか少し、気の毒に思えてきた)」

「いつもサボって、仕事を溜め込んだロウカスクが悪いのよ。カズも同情しなくていいから」

「アレナリアさぁ、もう少しオレに優しく…」

「そうして欲しいなら、これからは仕事を、サボらないことね!」

「正論を言うなよ! キツいな」

「ロウカスクさん、そろそろ要件を良いですか?」

「ああそうだったな。それでだ、現物を見せてもらえるか?」

「ええ良いですよ」

 【アイテムボックス】から、切り花にして、冷たい水の入った小ビンに、差してある状態の氷結花を取り出した。

「ねぇカズ。それって……氷結花?」

「そうだよ」

「これがそうか! 氷漬けじゃない氷結花は、初めてみた!」

「私も……綺麗な花」

 二人は、初めて見る花に、目を奪われていた。

「それで、この花を、どうしますか?」

「あ、ああすまん。取りあえず今は、アイテムボックスに入れておいてくれ。出したままだと、枯れてしまうだろ」

「分かりました」

 氷結花を、もう一度【アイテムボックス】に入れた。

「カズ君は、ジルバさんを覚えているか?」

「あの貴族に仕えて、子供の世話役をしていると、言っていた人ですよね」

「そう。その人だ」

「そのジルバさんと関係が?」

「正確には、ジルバさんが仕えてる貴族に、関係があるんだ」

「と言うと、あの二人え~と……デイジーとダリアに関わることですか?」

「まあそうとも言えるが、直接話しを聞いた方が良いだろうから。だから直接行ってくれ」

「俺一人でですか?」

「相手が貴族だから、本来は、オレかアレナリアが、付いて行った方が良いだろうが、今回の相手は、カズ君も面識があるから、大丈夫だろう」

「いきなり貴族の屋敷に行って、大丈夫なんですか?」

「一応、オレが紹介状を書くから、それを持って行ってくれ」

「分かりました(貴族か、気が進まないなぁ)」

 ロウカスクは、高級用紙を出して、紹介状を書き始めた。

「カズは、氷結花の価値を知ってるの?」

「珍しい花で、薬の材料になるとか。あとは、運が良ければ、見つかるって聞いたけど」

「ここのギルドでも、以前に見つかったのは、十年も前だと、記録されてるわ」

「十年も前なの! でも依頼は、Cランクだったけど?」

「今カズが言ったように、運任せの依頼だから、凄く希少な素材でも、ランクが低いのよ。それでも依頼が、Cランク以下にならないのは、前に見つかった場所も、スノーベアが生息する、北の山脈付近だったから」

「それでも、依頼書が貼り出されてるってことは、受ける冒険者が、いるからでしょ。十年も、見つからなかったの?」

「依頼を受ける冒険者って言っても、北の山脈方向に行く依頼を受けてたら、そのついでに、受けておく程度の、依頼になってるのよ」

「そういえば、俺も行く方向が同じだから、受けた依頼だったっけ」

「今は、その程度の依頼に、なってるのよ。だから依頼を解約しても、評価も下がらないし、解約金も発生しないの」

「へぇー。そうなんだ」

「ただ、希少な物は確かだから、この時期になると、依頼書は常に、貼り出されてるのよ。運良く見つかれば、貴重な薬を作れるからね」

「だからスカレッタさんと、ルグルさんも驚いてたのか」

「まあ、氷結花を、見たことある人なんて、殆どいないはずよ。見たとしても、氷漬けになった物だろうしね」

「そんなにも希少なんだ(分析した限りでは、そこまでの説明は、なかったけどな)」

「どうやったら、切り花にして、持って帰って、来ようと思ったのよ! まあ、カズは、アイテムボックスが使えるから、出来ることだろうけど」

「待たせたなカズ君。紹介状が書けたから、これを持って、さっそく行ってきてくれないか」

 ロウカスクが、紹介状を書き終え、それをカズに渡した。

「それを渡せば、いいんですね」

「ああ。もし分からなければ、オレから、ジルバさん宛の手紙だと、言えばいい」

「分かりました。それじゃあ、行ってきます」

「よろしく頼む。これは屋敷までの地図だ」

 紹介状と地図を持って、ジルバが世話役をしている、デイジーとダリアの屋敷に向かう為に、ギルドを出て、先ずは中央広場へと向かった。
 中央に着き、そこから北へ続く大通りを、進んでいった。
 北へ続く大通りを歩いていると、衛兵と頻繁にすれ違う。
 どうやら、貴族が住む屋敷が多いこの辺りは、見回りする衛兵が多いようだ。
 衛兵に少し、警戒されているが、目的の屋敷が見えたので、入口に向かう。

 貴族の屋敷など来たことがないので、どう言って入ったら……?

「あのう、何か御用ですか?」

 一人の年配女性が、話しかけてきた。
 この屋敷の使用人だろうか?

「冒険者ギルドの、ギルドマスターから紹介を受けて来たのですが、こちらにジルバさんは居ますでしょうか?」

「ギルドマスターからですか!? 何か証明するものは、お持ちですか?」

「失礼しました。紹介状を持っているのですが」

 年配の女性に、ギルマスから預かった、紹介状を渡した。

「確認しますので、暫く御待ちください」

 外で五分程待っていると、屋敷の扉が開き、中からジルバが出てきた。

「御待たせしました。カズ殿でしたな」

「こんにちは。ジルバさん。それで…」

「ここで話も、なんですから、中にお入り下さい」

「そうですか。それでは、お邪魔します」

 ジルバに言われ、話は屋敷の中ですることになった。
 階段を上がり、一つの部屋に案内された。
 部屋に入ると、以前に助けたデイジーとダリアが居て、それに先程会った、年配の女性も居た。
 三人共ソファーのような、フカフカの長椅子に座っている

「先に紹介といこう。こちらがカズ殿で、以前に、デイジー様とダリア様を助けて下さった、冒険者の方です」

「どうもカズです」

「お久しぶりです。カズさん」

「こんにちは」

 デイジーとダリアが、挨拶をしてきた。

「こんにちは」

「そしてこちらが、御二人の祖母で、この屋敷の主でもある『ジニア』様です」

「初めまして。デイジーとダリアの祖母で、ジニアです」

「初めまして。カズと申します」

「貴方が二人を、助けて下さった方だったのね。御礼を申し上げなければと、思っていたのだけれど、遅くなってしまってごめんなさい。デイジーとダリアを助けてくれて、本当にありがとう」

「とんでもないです」

「それで、今日はどういった御用件で?」

「ジニア様。それは私しから、申し上げます。実は以前から、冒険者ギルドのギルドマスターに、ある物を頼んでいまして」

「ある物? 何かしら?」

「奥様のご病気に、効果があるかも知れない物でして」

「娘の『マーガレット』に? 本当なの!?」

「ジニア様、落ち着いて下さい」

「お母様のご病気に、効くお薬が見つかったの?」

「本当なのジルバ?」

「皆様、少し落ち着いて下さい。そのことで、カズ殿に来てもらったのです」

「えっ? ジルバさん、なんのことですか?」

「カズ殿が、ある花を採取したと、ロウカスク殿からきた、先程の手紙に、書いてありましたが、本当ですか?」

「『氷結花』のことですか? 俺もそのことで、こちらに伺ったのですが」

「ジルバ、今カズさんは、氷結花って言ったの?」

「はいそうです。お嬢様が探していた花です」

 デイジーが椅子から立ち上り、カズに近寄っていく。
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