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二章 アヴァランチェ編

81 再会の喜び と 恐怖の笑顔

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 依頼を終えてギルドに戻った俺は、ギルマスの部屋に行くように言われた。
 ノックをしても気付かれてない様だったので、部屋の中に入ろうとしたら扉が開き、対応に出て来た人がなんと、リアーデの宿屋に居るはずの、キッシュだった。

「キッシュ! どうしてここに居るの?」

「カズ兄(にい)だ! わーい」

 キッシュが抱き付いてきた。

「今さっき依頼から戻って来たとこだから、抱き付くと汚れるよ」

「カズ兄だから良いんだもん」

「それで、どうしてここに?」

「クリ姉と来たの。中に居るから入ろう」

 キッシュに腕を引かれ、ギルマスの部屋に入って行く。

「あらカズさんお久しぶり」

「お久しぶりですクリスパさん。どうしてここに居るんですか? キッシュも一緒に」

「良い時に来てくれたなカズ君。アレナリアとクリスパに、なんとか言ってくれ。昼からずっと、書類仕事を押し付けてくるんだ!」

「こんなになるまで溜め込んでる、ロウカスクが悪いんだろ!」

「アレナリアの言う通り、仕事のサボり癖が直ってない、ロウカスクさんが悪いんですよ。うちのギルマス、ブレンデッド師匠の方が、まだしっかり仕事してますよ!(たまにサボるけど)」

「カズ君、なんとか行ってくれよ!」

「サボるギルマスが悪いと思います。先日もアレナリアに、押し付けてたじゃないですか。そのせいで俺にも、とばっちりがあったんですから、たまには反省して、仕事漬けも良いんじゃないですか」

「ここにオレの見方は居ないのか!」

「ロウカスク、口より手を動かせ!」

「そうですよ。あんまりアレナリアに迷惑を掛けてるようであれば、奥様に報告しますよ」

「そ、それだけは勘弁してくれ」

「あらあら、そうですか。それじゃあ一人になっても、お仕事をしっかりやってくださいね。私がこの都市に居る間は、ギルドの職員にサボってなかったか聞きますからね。少しでもサボっていたら、すぐに奥様へ報告しますから」

「ニコニコしながら、恐ろしいことをいうなよ。そんなんだから、今だに独り身なんだ……あ」

「ひ・と・り・み」

「今のは冗談……なんでもない」

「それだけ口が動くと言うことは、まだまだ、仕事量が少ないと言うことですね。すぐに追加を持って来るように、言っておきますから」

「追加って、もうこれ以上は……」

「あら今日はいい天気ですから、さんぽがてら、奥様に挨拶をして来ようかしら」

「あ、悪魔だ!」(ボソッ)

「な・に・か、言いましたか!」

「なんでもない、なんでもない。ただの独り言だから、気にするなっ……しないでください。お願いします」

「あらそうですか。じゃあ頑張って下さいね。私達はもう行きますので」

 カズとキッシュ、アレナリアとクリスパの四人は、ギルマスの部屋を出ていった。


 依頼で採取した『氷結花』のことを、報告しに行ったんだけど、今は無理そうだから、受付のスカレッタさんかルグルさんにでも言っておこう。

「あ、そう言えばクリスパさん、どうして二人が居るのか、聞いてないんですけど」

「その話なら、アレナリアの家に行ってから話しましょう。カズさんも依頼で疲れたでしょ」

「そうですか分かりました。それじゃあ俺はちょっと、受付に行って、伝言を頼んできますから」

「私達は、ギルドの外で待ってますから」

 ずっと俺の左腕に、引っ付いていたキッシュが、今の話を聞いて放してくれた。
 俺は受付のスカレッタさんの所に、言伝を頼みに行った。

「スカレッタさん、ちょっと良いですか?」

「なんですか?」

「ギルマス宛に、ちょっと伝言をお願いします」

「ギルマスの部屋に行ったんでは?」

「それが仕事中(無理やり)で、ちょっと話せる雰囲気じゃあ、なかったんですよ」

「ああそう言えば、そうでした」

「知ってたんですか?」

「サブマスとクリスパさんが、ギルマスに仕事をさせるって言ってましたから」

「クリスパさんが居ることも、知ってたんですか?」

「さっきカズさんに、リアーデから知り合いの方が来てると言おうとしたら、その前に行ってしまうから」

「それはすいません」

「まあ先程は、他のお客様が来てしまいましたから、しょうがないですけど」

「それで伝言なんですけど、氷結花がある、とだけ言ってもらえれば、連絡がいっていれば分かると思いますので」

「氷結花ですね分かり……氷結花! 見つけたんですか?」

「え、ええ運良く」

「分かりました。ギルマスの仕事が一段落したら、伝えておきます」

「お願いします(ギルマスの仕事は、一段落はしないと思うけど)」

 スカレッタさんに伝言を頼んだ後、ギルドの外で待っている三人に合流する。

「三人共お待たせ」

「それじゃあ、行きましょうか」

「カズ兄行こう」

「ぁ……(腕んで良いなぁ)」

 またキッシュが引っ付いて、腕を組んできたので、少し柔らかいのが当たる。
 クリスパさんと先に歩くアレナリアが、チラチラと見てくるのが分かる。

「ねぇカズ兄、昨日はどこに行ってたの?」

「二日前から依頼で、北の山脈付近に、行ってたんだ。それでさっきギルドに、戻って来たとこなんだよ」

「じゃあ疲れてるんだね。私が後で、マッサージしてあげるよ」

「ありがとう。キッシュ」

「えへへっ」

 キッシュと話しているうちに、アレナリアの家に着いた。

「ねぇキッシュ。家に着いたんだし、そろそろカズから離れたら」

「久しぶりに、カズ兄に会えたんだから、良いじゃないてすか!」

「カズも、何嬉しそうにしてるのよ!」

「あ、いやそれは、久しぶりにキッシュに会えたから」

「カズさん、私も居るんですけど」

「もちろん、クリスパさんに会えたのも、嬉しいですよ」

「お世辞でも、嬉しいわ」

 キッシュとクリスパさん相手に、話をしていると、アレナリアがキッシュと同じ様に、腕に引っ付いてきた。

「アレナリア、俺汚れてるから」

「いいの!」

「カズさんモテモテですね。アレナリアと一緒に住んでるとは聞きましたが、こんなに親しくなってるとは、思ってませんでした。しかしあのアレナリアが……」

「と、取りあえず、椅子に座って話ししようか。クリスパさんとキッシュが来た理由も、聞いてないですし」

「そうね。そうしましょ」

「キッシュもアレナリアも、座れないからから、そろそろ離れて」

「は~い」

「アレナリアも」

「私まだちょっとしか……」

 キッシュの後に、渋々ながらアレナリアも離れた。
 テーブルを挟んで2脚ずつ、4脚の椅子があり、俺はいつもの席に座り、キッシュが隣に、そして俺の正面にはアレナリアが座り、その隣がクリスパさん。

「それで、二人はどうしてアヴァランチェに? クリスパさんは、リアーデにある冒険者ギルドのサブマスですよね。離れて大丈夫なんですか?」

「師匠に押しつ……任せてきたから、大丈夫です」

 今確かに、押し付けてって言おうとしたよこの人。

「キッシュも宿屋の仕事が、ココットさん一人になっちゃって、大変なんじゃないの?」

「お母さんが、アヴァランチェでやる収穫祭の時は、いつもお客さんが少ないから、一人でも大丈夫だって。それで今年はクリ姉が居るから、収穫祭を観に行って良いって、言ってくれたの」

「そうなんだ。それでクリスパさんと、一緒に来たんだ」

「私達は昨日の夕方くらいに、アレナリアの家に着いたんですよ」

「アレナリアは知ってたの?」

「私も昨日ギルドで知ったのよ。ロウカスクが押し付けてきた書類の中に、私宛の手紙が挟まってたの。届いてから数日経ってたのよ。中を見ると、クリスパが妹を連れて来るから、収穫祭の間は泊まるからって」

「私がアヴァランチェにいた頃は、一緒に住んでたんだから、二人ぐらい増えたって、平気な広さがあるのは、分かってたからね」

「相変わらずクリスパの、そう言った所は変わらないわね」

「そう言うアレナリアは、変わったわね。もの凄い人見知りだったの貴女が、人と一緒に住んでるなんて。それも男性、しかもカズさんだったなんてね」

「もうその話はいいでしょ。カズと一緒に住んでることは、昨日説明したんだから」

「ねぇカズ兄」

「んっ? 何キッシュ」

「アレナリアさんと一緒に寝てるって本当? しかも毎日、ギュって抱きしめてるって」

「んぐっ! キッシュ何を……」

 アレナリアを見ると、目を背けた。
 クリスパさんを見ると、ニコニコと笑顔でいるが……

「あらあら、私もその話を、詳しく聞きたいわ! カズさんの! 口から! 直接! 今! 直ぐに!」

 ヒィィィ! 会って早々に、あの笑顔を向けられるなんて……ロウカスクさんの気持ちが、痛いほど分かる。
 雰囲気と見た目が合わないから、よけいに怖い!
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