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二章 アヴァランチェ編

76 ポピーの特訓 1 基礎訓練 と 助言

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 しかしアレナリアは、相変わらずよく食べるし、ポピーはこの後にやる特訓の為なのか、負けじと食べている。
 昼食を食べ終わった後は、何気ない雑談をして過ごした。
 休憩時間が終わると、スカレッタとルグルは、受付に戻って行った。
 ポピーはこの後に、アレナリアと訓練場で特訓があるので、まだ資料室に居る。

「さぁポピー、そろそろ訓練場に行って、特訓しましょうか」

「はい」

「じゃあ行こうか」

「カズさんも行くんですか?」

「今日の特訓は、カズにも手伝ってもらうの」

「それじゃあ、またカズさんの魔法が見れるんだ!」

「ポピー」

「なんですかサブマス?」

「今日は一人で帰れるかしら」

「アワワ! カズさん加減してよ」

「俺をなんだと思ってるのさ」

 若干ポピーの顔が蒼ざめてるけど、いつもどんな特訓をしてるんだ?

 アレナリアと、足取りが重いポピーと一緒に、ギルドから少し離れた訓練場に向かった。
 訓練場に着いたら、前に一度来たことを思い出した。

 直ぐに揉め事を起こす、問題視されていた冒険者のパーティーに、わざとボコされて、ストレスが溜まったことを。
 当時は目立たないようにする為に、耐えてやり過ごしたからな。

「特訓を始める前に、体力が足りないポピーは、いつもどうり、訓練場内を5周走ること。最初の3周は軽く慣らして、残り2周は全力で」

「……は…い」

「やる気が出ないなら、10周にしようかしら?」

「やります!」

 元気よく返事をしたポピーは、訓練場の内側を壁に沿って走っていった。

「アレナリアも走ったら」

「疲れるから嫌よ」

「太らないように、体を動かすんじゃなかったの?」

「……」

「ポピー一人じゃかわいそうだから、俺も付き添って走ってくるよ」

「別に甘やかさなくていいわよ」

「俺も最近依頼を受けてないから、運動不足でね。表向きはアレナリアに、やるように言われたからってことでね」

「カズは甘いわね。そう言うことにしとくわ」

「それじゃあよろしく『サブマス』」

「今カズに言われると、変な感じね」

 ポピーにはまだ、アレナリアと親しいことを教えてないので、特訓の間はサブマスと呼ぶことして、走っているポピーを追いかけた。
 ポピーに追い付き、横に並んで一緒に5周を走った。
 走り終ると、ポピーは少し息をきらしていた。

「まったく、相変わらず体力が無いわね。カズを見なさい、息ひとつきらしてないでしょ」

「ハァ…ハァ…カズさんと一緒にしないでください。少しはましになったと思いますけど」

「まだまだよ!」

「そんな……」

「まぁまぁ、体力は依頼を受けながら、少しずつでもつければ良いよ。それに依頼を一緒受けた時は、ここから西門まで走って行ったんだから、今のランクを考えれば十分だと思うけど」

「そうですかねぇ?」

「ポピーは魔法使いでしょ。サポートしながら戦うタイプだから、強化魔法でおぎないながら戦えばいいさ」

「でも私、魔力がそんなに多い訳じゃないから」

「レベルが上がれば、基礎魔力値も増えるよ」

「レベルが簡単に上がるような強いモンスターと遭遇したら、私達じゃあ、返り討ちにあっちゃうよ」

「だからそうならないように、魔法の使い所と、無駄に魔力を使わない為に、魔力操作の特訓をするんでしょ!」

「カズさんみたいに、そんな上手くいかないよ」

「始める前から弱音? それが出来るように、私が特訓をしてあげてるんでしょ。それに強いモンスターを一体相手にしなくても、三人で倒すことの出来る獣やモンスターを、数多くこなせば良いじゃないの」

「そうでした。エヘヘ」

「じゃあ始めるわよ」

「はい」

「カズにはポピーの様子を見て、何か気付いたら、遠慮なく言って」

「分かった」

「先ずは魔力操作よ。ポピーは水属性が得意だったわね?」

「はい。水属性の次に得意なのは、風属性です」

「それなら先ずは、魔力に水属性を加えて、水の玉を出してみなさい。 魔法適性を調べる時にやった魔力変換よ」

「やってみます!」

 ポピーは両手を軽く前に出し、ボールを手で持っているな形にした。
 そこに得意な水属性の魔法を使うイメージで、魔力を放出した。
 一分程すると、直径3㎝程ある水の玉が現れた。

「サブマス出来ました」

「そのまま良いと言うまで、維持し続けなさい」

「これを、このまま……あ!」

 ポピーが気を抜いたその時、水玉が形を崩して、地面に落ちて来た。

「集中が途切れたわね。もう一回」

「は、はい」

  再度魔力変換で、水玉を作り出すポピーだが、やはり水玉が現れるまで、一分は掛かっている。
 先程と同じ失敗をしないように集中して、水玉を維持し続けている。

「今度はその水玉を、自分より高く上昇させなさい」

 アレナリアの言葉に従い、ポピーは返事をする余裕もなく、水玉をゆっくりと上昇させていく。

「良いわ。今度はそのまま地面スレスレまで下降!」

 ポピーは険しい表情をしながら、水玉操り、ゆっくりと下降させる。
 そして地面スレスレまでまで下降させた水玉は、そのまま落ちて、地面に丸く濡れた後がついた。

「サブマス、これ凄くキツイです」

「大変じゃなかったら、特訓にならないでしょ。今の水玉を、上下に3往復させること! これが最初の特訓よ」

「3往復だなんて……」

 魔力操作の基礎練習みたいなものだけど、ポピーにはかなりキツそうだな。
 こういった練習は、あんまりしてこなかったんだろうな。
 どれ【万物ノ眼】で分析して、ポピーの魔力数値を確認してみる。

 ポピー魔力《259/336》

 お! 初めて会った時の魔力値は、確か300くらいだったから、やっぱりスノーウルフを倒したのもあって、レベルが上がり、魔力の最大値も増えたんだな。
 でも今ので、魔力が77も減ってるとも思えないし、午前中の依頼か何かで、魔力を消費したのかな?
 次の魔力変換と魔力操作で、どの程度消費するのか、確認してみるか。

「ポピーはそのまま続けてて。私は次にやる、魔法の特訓で使う、的を用意するから」

「この後に魔法の特訓……今日は、一人じゃ帰れないかも」(ボソッ)

「何を言っているの? 早くやりなさい!」

「は、はい!」

 ポピーは先程と同じように、水玉を出して、上下に移動させる特訓を続けた。
 しかし上手くいかず、水玉はいつも地面に落ちてしまい、地面スレスレから上に、上昇させることが出来なかった。

 ポピー魔力《102/336》

 3回やって魔力消費が157……だいたい魔力変換で20、魔力操作で30ぐらいって所か。
 これじゃ魔法を使った時の方が、魔力消費が少ないよな。
 魔法と違って、イメージが上手く出来ないんじゃないかな? 魔力を流しても、その一部しか使用されてないとか?
 教えるの苦手だけど、言ってみるかな。

「ねぇポピー、水玉を作り出す時、どんな風にイメージしてる?」

「イメージ? なんとなくここに、水玉があるって思ってるけど」

「そうだな……放出してる魔力が、川の水だと思ってみたら?」

「魔力が川の水?」

「そう。水路に流れてる水でも、いいんだけど、自分から出てる魔力が水だと思って、出してみたらどうかな? 自分の魔力は感じられるでしょ」

「ええ」

「それを流れる水をイメージして、放出してみたら?」

「やってみる。……流れる川の水……えい」

 前出した手のひらから、少しずつ水が湧き出してきた。

「カズさん出た! しかもこんなに早く」

「いい感じだよ! 今度はそれを、丸く留めて見ようか」

「丸くするのが結構大変なんだ!」

「ポピー、丸いガラスのランプを見たことある?」

「あるよ。裏路地にある食堂で、使ってる所があるから。そう言えば前に、魚屋の店先に置いてあった! その中に生きた魚を入れていたのを、見たことあるわ」

「それはちょうど良い。その丸いガラスに入った水をイメージしたら? さっきまで出してた、大きさの水玉でいいから」

「丸いガラス入った水……」

 ポピーの手のひらから湧き出ていた水が、先程より少し大きい水玉になった。
 湧き出ていた水は、止まっている。

「カズさん、さっきより大きいのが出来た」

 ここで俺は、もう一度ポピー魔力を確認してみた。

 ポピー魔力《92/336》

 消費魔力が10になってるぞ! こんな助言でも、少しは役にたったか。

「ねぇカズさん、魔力操作も教えてよ」

「魔力操作か……この位置から上昇させるのは、大丈夫なんだよね?」

「うん。水玉の下から、魔力で押し上げるイメージでやってる。下降させる時は、それを弱める感じで」

「今度の水は、ガラスの入れ物に入ってるから丸いままだとイメージして、上下させる時は、ガラスの入れ物を、両手で持っているイメージで、やってみたらどう?」

「水は、丸いガラス入れ物に入ってる……」

「そうそう」

「そのガラスを両手で持って、上げ下げするだけ……」

「そういい感じだよ」

「1……2……これで3往復。出来た! やったよカズさん!」

「分かりにくい説明だったのに、良く出来たよ」

「そんなことないよ。私一人で考えるより、全然良かった!」

 魔力は、どんな感じかな? 

 ポピー魔力《85/336》

 魔力操作での消費が17か、半分とまではいかなくても、最初に比べれば凄い進歩だ。
 ちょっとのことで、これだけ変わったんだがら、このままアレナリアに特訓を受けてれば、直ぐに強い魔法を、使えるようになるだろう。
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