人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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二章 アヴァランチェ編

75 寝ぼけ癖 と 昼食の時間

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 ◇◆◇◆◇


 あぁこの感じ、これは良い。
 この心地の良い抱き枕は、どこで買ったっけ?

「ん……んん」

 んっ? 喋る抱き枕なんか、持ってたっけか?

「……ズ……カズ」

 ……カズ? 誰? 俺のこと……あっ!
 
「もっと優しくして」

「わぁー! アレナリアっ!!」

「おはようカズ」

「お、おはよう」

「何にもしないって言っといて、寝ぼけて抱きついて来るなんて、カズの癖なの?」

「……ごめん」

「それに抱き枕って何?」

「それは……俺顔洗って、朝食の支度してくる」

 気まずくなり、バタバタと慌てて、アレナリアの部屋を出て行く。
 元居た世界では抱き枕を使ってたから、その癖がまだ残ってるのか、つい抱きついてしまった。

「慌ててどうしたの?」

「アレナリア、さっきはごめん」

「昨日から謝ってばっかりね。急に出て行こうとしちゃうし、なんだか昔の私自身を、見ているみたいだったわ」

 俺も昔の嫌な自分に、戻ったかのようだった。
 今でも少し、モヤモヤと残ってる感じがする。

「ちょっとカズ、大丈夫? 私が言うのもなんだけど、まだ昨日のこと引きずってるの? 私もう怒ってないわよ」

「分かってる。ちょっと昔のことを……いや何でもない」

「さぁ朝食にしよう。昨日と同じで悪いけど」

「あのベーコンエッグとか言う料理ね。美味しかったから、別に良いわよ!」

「同じのばかりでごめん。他の料理も作れるにするから」

「私なんかより、全然作れるんだから、そんなに気にしなくて良いわよ。それより、その程度のことで謝らないで、はたから見たら、私が悪いみたいじゃないの」

「ごめん。分かったよ」

「ほら」

「本当だ。アハハっ」

「ウフフッ。ねぇカズ、今日の昼食も四人で食べましょうね」

「アレナリアの機嫌が直ってなかったら、スカレッタさんに顔向け出来ないとこだったよ」

「昨日ギルドから帰える時に、スカレッタに聞いたわ。カズが、しょんぼりして帰ったもんだから、ちょっと言い過ぎたかもって」

「遅れた俺が悪いのは、事実だからさ」

「機嫌が悪かったとは言え、少し遅れたくらいで、あんな態度をとった私も悪かったわ。だからこの話は、もう終わり」

「分かった。それじゃあ俺は、昼食用に何か作って後から行くよ」

「今日は作らなくていいわ」

「えっ、どうして?」

「スカレッタとルグルが、昨日言い過ぎたお詫びに、私達の分も、昼食を作って来るって言ってたの。それに今回は、スカレッタ達から誘って来たのよ」

「へぇ~、二人からのお誘いなんだ。でも迷惑をかけたの俺なのに、昼食を作ってくれるなんて、逆に悪いなぁ」

「まあ良いじゃないの。そうだ! どうせなら今日は、ポピーも誘いましょうか! 午後からは、三人で特訓をするんだから」

「アレナリアが良いなら、俺は構わないよ」

「なんか大勢で食べる食事って、楽しいわ!」

「たった数日で成長したね」

 朝食を食べ終え、今日は一緒にギルドに行くことにした。
 ギルドに向かう間も、二人で雑談をするようになった。
 アレナリアも少しではあるが、人の多い所で、人目を気にせず、自然体でいるようになってきた。
 ギルドに着いて受付に居るスカレッタさんに、昼食にポピーを呼びたいと話をしたら、良いと言ってくれた。
 ポピーが来たら、スカレッタさんが、誘っておいてくれるらしいので、俺とアレナリアは、そのまま資料室に向かう。

「ねぇカズ、依頼を受けなくていいの? 最近まともに、依頼をやってないでしょ」

「まあそうだけど、金銭的に厳しい訳じゃないから、急いでやらなくても大丈夫。それに依頼に行って急に何か起きたら、昼食の時間に遅れるかも知れないでしょ。昨日の今日で、それは出来ないよ」

「それじゃあ、昼食の時間までどうするの?」

「ここ(資料室)に居るよ。それに見たい資料もあるし」

「見たい資料?」

「前にアレナリアから魔法を教えてもらってた時に、付与(エンチャント)のことも少し聞いたことあったでしょ」

「装備品やアイテム等に、エンチャント(付与)されてる魔法を説明した話ね」

「そうそれ。そのことをもう少し調べたくて、その資料見せてもらえるかな?」

「カズなら良いわよ。サブマス権限で許可するわ」

「職権乱用っぽいけど、本当に良いの?」

「別に良いわよ。書いてある内容だって難しいし、読めても意味を理解出来る人は、ここには殆どいないから。どうせ誰も読まないから、奥に突っ込んであるだけだしね。今持って来るわ」

「ありがとう」

 アレナリアから、付与(エンチャント)に関することが、書いてある本を受け取り、立ったまま数ページ見てみた。
 難しいと言っていたが、スキル【異世界言語】のおかげで、本が読めて理解できる。
 おそらく理解出来るように、翻訳されてるんだと思う。
 更に全魔法&スキル会得がある為に、何度が試せば、ほぼ使えてしまうと思う。
 まったくもって、スキル様々だ。
 ただ難点は、話をする時に異世界言語の翻訳が、されないことがたまにあることだ。
 この世界に無い言葉なのか、翻訳されない理由は分からない。

「カズ」

「んっ! 何?」

「座って読んだら」

「ああそうだね」

 仕事をしているアレナリアの邪魔をしないように、部屋の隅に置いてある、一脚の椅子に座ろうとすると……

「ねぇカズ、そんなホコリが積もった椅子に座らないで、こっちに来て座りなさいよ」

「仕事をしてる、アレナリアの邪魔になるかと思ってさ」

「別に邪魔じゃないから、ほらここに来て座って」

「分かったよ」

 アレナリアが座っている、向かいの席に移動して、本の続きを読み始める。
 本を読み始めたが、最初の方は、アレナリアが教えてくれたことが書いてあったので、ならってないことが書いてある所から読み進めた。

 静かに本を読んでいると、チラチラと視線を感じて、アレナリアを見ると一瞬目があった。

「どうしたのアレナリア? さっきから見てくるけど、何?」

「……な、何でもない」

「何でもないって言っても、チラチラと何度も見られたら気になるよ」

「今朝のこと思い出してたの」

「今朝……(抱き枕と間違えて抱き付いたことか)」

「ギュとしてもらえると、なんだか安心して、幸せな気持ちになるのね」

「誰かに聞かれたら恥ずかしいから、その話は……」

「大丈夫よ。ここには私とカズだけだから」

「そろそろスカレッタさん達が、お昼の休憩で来る頃だからさ」

「そうね。聞かれたら、恥ずかしいものね(それで噂が広まってくれたら、カズも本気になってくれると思うから良いけど)フフっ」

 ニヤニヤして、なんか良からぬ妄想でもしてるのか。
 アレナリアは顔に出るから、何考えてるか分かりやすいからな。

 その時、部屋の扉をノックする音が聞こえ、三人の女性が資料室に入ってきた。

「昼食の時間になったので皆で来ました」

「ポピーも一緒に来たんだ」

「丁度依頼が終わって、ギルドに戻って来たところなんで、受付のお二人と一緒に来ました! 昼食のお誘い、ありがとうございます」

「午後の特訓は、いつもどうりだから、昼食をしっかり食べてるか、気になったのもあってね、それで呼んだのよ。毎回バテるのが早いから」

「しっかり食べてますよ! サブマスの特訓が、キツイんです!」

「ポピーの基礎体力が低いのよ」

「ぶぅ~。分かってますよ。それでカズさんと依頼に行った時に、私達が迷惑をかけたから、サブマスに頼んで特訓してもらってるんですから」

「それなら早く成長しなさい」

「私だって頑張ってるんです!」

 おいおい、これから皆で昼食を食べようってのに、二日続けて空気を悪くしてどうするのさ。

「二人共そのぐらいにして、昼食にしようよ! スカレッタさんとルグルさんが、作ってきてくれたんですよね」

「昨日はカズさんに言い過ぎたと思いまして、そのお詫びと、ご馳走になったお返しで、今日は私とルグルが作ってきました」

「それは楽しみです。それに昨日は、お二人に言われて、反省する点が自分にもあることに気付けましたから、感謝してますよ」

「わ、私も昨日は言い過ぎました。すいません」

「ルグルさんも、気にしないでください。今言ったように、自分の反省点に気付けましたから」

「そろそろ話はいいでしょ。お腹が空いたから、食事にしましょう」

 アレナリアにタマゴサンドを食べさせてから、食に目覚めたのか、食べることだけは、しっかりしてるんだから。
 これは既に、キッシュの食欲を越えたか?

「カズさんに教えてもらった、フレンチトーストを作ってみました」

「私は、パンに鶏の唐揚げを、挟んでみました。冒険者の方なら、お肉などガッツリした物を食べる方が、良いと思いまして」

 スカレッタさんがフレンチトーストで、ルグルさんが鶏からサンドか、確かにガッツリしてて良いかも。
 今日急にポピーを誘って、一人分増えたけど、多く作ってきてくれたようで、十分足りそうだな。
 問題はアレナリアが、食べ過ぎなければいいんだけど。

「アレナリアさん、どうですか?」

「美味しいわよスカレッタ。ただ冷めてしまってるのが残念ね」

「カズさんと違って、アイテムボックスを使えないんですもの」

「それもそうね。せっかく作ってきてくれたのに、ごめんなさい」

「とんでもないです。いつも温かい食事が食べられる、アレナリアさんが羨ましいです」

「ムフフっ! まぁね」

 何が『まぁね』だよ! 文句を言いながらも、手は止まらずに食べ続けてるじゃないか。

「ルグルのこれは、悪くはないけど、何かソースかけた方が良いわね」

「ソースですか……塩味が付いてるから、良いと思いましたけど」

「パンに挟んだから、薄く感じるわね」

「それなら、タルタルソースつけて食べる?」

「タルタルソース! 食べる早く出して!」

「……ハイハイ。付け過ぎると太るよ」

「わ、分かってるわよ! 少しにするわ」

「皆も付けて食べてみて」

「合います!」

「ちょっと酸っぱいのが良いです!」

「美味しい! ボルタとワットにも、食べさせてあげたい」

「あぁこれは『チキン南蛮』を思い出すな」(ボソッ)
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