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二章 アヴァランチェ編

74 お説教 と 仲直り と お願い

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 昼食を食べ終わっても、ふてくされたままでいるアレナリアをそっとしておき、スカレッタさんとルグルさんをにお詫びをする為に、資料室を出て二人を追いかけた。
 アレナリアと四人で食事をしていることを、人目のある所で話すのは、まだ早いと思った。
 変な噂でも立って、せっかく打ち解けてきたアレナリアが、また極度の人見知りに戻ってしまったら、元も子もないからだ。

「スカレッタさんルグルさん、今日は遅れてしまって、すいません。せっかくアレナリアと一緒に昼食を食べてくれたのに、あんな雰囲気にさせてしまって」

「私は気にしていません。でもどうしたんですか? カズさんが、むやみやたらに約束をすっぽかしたり、時間に遅れたりはしないと思いますが」

「私もそう思いますけど」

 二人にそう思ってくれてたのは、嬉しいけど、遅れたことは事実だから、弁解のしようがない。

「ただアレナリアさんが『カズは必ず約束を守って、時間には来る』って信じてましたから、それを考えると」

「そうです。サブマスが極度の人見知りだと、カズさんが言ったじゃないですか。 それなのに待たせるなんて」

「す、すいません」

「私達に謝ってどうするんですか! 人見知りのアレナリアさんが、私達をまた昼食に誘ってくれたことを考えると、少しとはいえ、時間に遅れたカズさんが悪いです!」

「は、はい。その通りです。すいません」

「私達はいいですから、アレナリアさんの所へ戻ってあげてください」

「分かりました。ありがとうございます。それで、またアレナリアと一緒に、食事をしてくれますか?」

「何を言ってるんですか、当然じゃないですか!」

「私も当たり前です」

「スカレッタさん、ありがとうございます。ルグルさん、ありがとうございます」

 二人と別れ、アレナリアの居る資料室に戻った。

「アレナリアまだ怒ってるの? 時間に遅れたのは、本当にごめん」

「……」

「アレナリア、そろそろ許してよ」

「……」

「スカレッタさん達には謝ってきたし、また一緒に食事もしてくれるって、言ってくれたからさぁ」

「……」

「分かった。先に家に戻ってるから、アレナリアが帰って来るまでに、機嫌が直ってると、俺嬉しいな」

 独り言のように喋り続けたが、アレナリアは返事をしてくれなかった。
 仕方がないので、時間を置くことにして、今日は家に戻り、アレナリアの帰りを待つとする。 
 ギルドを出る為に一階に下りると、受付からスカレッタが手招きしてきたので、そこへ行った。

「カズさん、サブマスの様子はどうでしたか?」

「何度も謝ってみたんですが、返事もしてもらえなくて」

「そうなんですか。でもサブマスがあんなになるなんて、私見るの初めてです」

「暫く一人の時間が必要かと思いまして、今はそっとしておきます」

「それが良いかも知れないですね。でも明日には、いつものサブマスに戻ってる様にしてくださいよ!」

「うッ……なんとかしてみます(だが何も策はない)」

「少しはサブマスを、甘えさせてあげたらどうですか?」

「そう……ですね(甘やかし過ぎてると思うんだけどな)」

「それでカズさんは、これから依頼ですか?」

「依頼に行って遅くなったら、機嫌が余計に悪くなりそうなので、今日は止めときます」

「そうですか。ならこれからは、女心を解るように、少しは考えてくださいね!」

「は、はい(女心……わ、解らん)」

 とぼとぼと帰路につくカズを見て、さっきは言い過ぎたかと、少し思ったスカレッタだった。

 アレナリアの家に戻ってきた俺は、そんなに怒らせるようなことを、してしまったんだろうかと考えていた。
  自分では気が付かない内に、アレナリアを傷つけるようなことを、してしまったんだろうか?
 こっちの世界に来て、ステータスやスキルの恩恵で強くなった為に、相手のことを考えないように、なってしまったんだろうか?
 人を見下すような、嫌っていた連中と、同じになってしまったんだろうか?
 俺は…………

 一人考え込んでいて、ふと気が付いた時には、既に夕方になっていた。

「ただいま」

「アレナリアおかえり」

「……」

 やっぱり怒ってるのかなぁ?

「アレナリア、今日は時間に遅れてごめん。何かアレナリアを、怒らせる様なことをしてしまったようでごめん」

「……ぁ」

「俺と居ると、また怒らせてしまうかも知れないから、俺出て行くよ。今まで泊めてくれて、ありがとう」

 俺は出て行こうと、家の出入口へと歩きだした。

「!! えっ! ちょっと」

 アレナリアの家を出て行こうと、出入口に向かって歩きだしたその時、俺の後ろから、アレナリアが思い切りしがみついてきた。

「アレナ……」

「何勝手に出て行こうとしてるのよ!」

「でも俺……」

「また私を一人にする気なの! カズが出てくなら私も付いてく! どこにも行っちゃ嫌っ!」

「アレナリア怒って口も聞いてくれなかったから、俺が居ない方がいいのかと」

「そんな訳ない! 絶対ない! 今日機嫌が悪かった理由を、説明するから戻って!  お願い一人にしないで」

 アレナリアは家から出て行かせまいと、目に涙を浮かべながら、強くしがみつきいた。

「分かった」

 その後お互い椅子に座り、アレナリアが落ち着くのを待ってから、理由を話してくれた。

「ごめんなさいカズ。確かにカズが時間に遅れたのは少し怒ってたけど、その前にギルドの仕事で、ロウカスクが大量に溜め込んでいた書類を、私がやることになって、かなり苛立っていたの」

「ギルドの書類仕事のことで、怒ってたの?」

「だって、今朝ギルドでスカレッタ達を昼食に誘った後に、ロウカスクが用事が出来たからって、書類を全部やっといてくれって書き置きを残して、居なくなってたの。しかも今日中に終わらせないと、いけない物ばかりで、昼食前にやっと半分終らせたと思ったら、約束の時間になっても、カズが来ないんですもの」

「そうだったんだ」

「だから少し怒ってるけど、カズが全部悪い訳じゃないのよ。私も八つ当りして、ごめんなさい。口を開いたら、愚痴ばかり出そうで黙ってたの」

「そんな、俺が悪いのは確かだから。それにそんなこととはつゆ知らず、気が利かなくてごめん。愚痴くらいなら、いつでも聞くから、溜め込まなくて良いよ」

「ありがとう。もう話してスッキリしたわ」

「それで俺は、もう少しここに泊めてもらっても、良いのかな?」

「もちろんよ! いつまででも居て良いのよ!」

「ありがとう。何かお詫びをしたいんだけど」

「そう……じゃあ、明日ポピーの特訓をするから、カズも手伝ってよ。前に魔法使うとこを、見せてくれるって言ってたしね」

「そう言えば、そうだったね。でもそんなことで良いの?」

「それと……あ、でも……」

「何? 俺に出来ることならやるけど」

「じ、じゃあ今夜は……一緒に寝て! 一日だけで良いから」

「えっ……そ、それは……」

「やっぱり駄目よね。以前寝ぼけて、カズのベッドに行ってしまったことがあったわよね。その時にここ(胸)が、温かい気持ちになったの。だからもう一度確かめたいの! 今まで誰かと一緒に、寝たことなかったから(男性とは)」

「アレナリア……今夜だけ、ただ一緒に寝るだけで、お互いに何もしないこと!」

「それで良いわ」

「分かったよ」

 時間に遅れたお詫びとは言え、アレナリアと添い寝することになるとは……
 何を考えてるんだ、ただ一緒に寝るだけだから……やましいことなんてしない大丈夫……たぶん。

「ねぇカズ、夕食は?」

「ごめん、今直ぐに用意するから」

「カズが準備してないなんて、珍しいわね。それなら私も手伝うわ」

「ありがとう」

「夕食後に、また良い香りのするお風呂に入りたいから、お願いね」

「アレナリアも、湯船に浸かる気持ち良さが、分かったの?」

「え、ええまあね(カズと一緒に寝るんだから、入らないとね)」

 アレナリアの機嫌が悪かった原因も分かって、いつも通りのアレナリアに戻ったので、良しとした。
 そのあと二人で夕食の支度をして、アレナリアが食べてる間に、湯船にお湯を溜め、香り付けに今度は違う花ビラを、布袋に入れてお湯に浸けておいた。

 夕食を済ませたアレナリアは、お風呂に入りに行こうとしたので、長湯しないように注意をしておいた。
 今回は三十分程で出て来たので、続いて俺も入った。
 アレナリアよりも短い時間で出てきて、自分の部屋に行こうとしたら。

「ねぇカズ、一緒に寝るのは、私の部屋で良いかしら?」

「別に良いけど、アレナリアのベット少し小さいよね」

「駄目……かしら?」

「今夜だけね。それとさっき言った通り、お互いに何もしないこと。良いね」

「分かってる。今日は何もしないから」(ボソッ)

「んっ?」

「な、なんでもない。さぁ寝ましょう」

 この前はともかく、今回は寝る前から一緒のベットに入るなんて……アレナリアの方を見ないで寝よう……変に緊張する。
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