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二章 アヴァランチェ編

72 長風呂 と 頼んだ品物

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 アレナリアがお風呂に入ってから、既に一時間は経っている。
 今だに出てくる様子はない。
 少し心配になってきたので、こっちから声をかけてみた。

「アレナリア! 大分長いこと入ってるけど、寝てないよね」

「……」

「アレナリア聞こえてる?」

「……ええ聞こえてるわ。今から出るところよ」

 アレナリアから返事があり、お風呂から着替えて出てきたが、少しフラついている。

「カズぅ~、クラクラする」

「長く入り過ぎて、のぼせたね。ベッドで横になりな」

 フラつきながら出て来たアレナリアは、床に座り込んでしまった。
 顔は赤く、一点を見ているように、ボケーっとしている。
 これは動けそうにないので、部屋に連れて行くことにした。
 アレナリアを部屋のベッドに抱えて行き、水を飲ませてから寝かせ、濡らしたタオルで頭を冷した。

「アレナリア大丈夫?」

「う~ん」

「無理に入らせてごめんよ。湯船にゆっくり浸かる気分を、味わってもらいたかったんだ」

「大丈夫よカズ。あのお湯いい香りがして、つい気持ち良くて、長く入っちゃったわ」

「今日買い物に行った時に、乾燥させた花を見つけてね、その花ビラを布袋に入れて、少しの間お湯につけておいたんだよ」

「それでいい香りがしたのね」

「アレナリア、さっきは匂いを嗅いでごめん」

「もう臭くないでしょ」

「さっきも臭くはなかったよ。今はいい匂いがする」

「恥ずかしいから、嗅がないでよ」

「ごめんごめん。それじゃあ、俺も入ってくるから、ゆっくり寝るといいよ」

「うん、そうする。おやすみ」

「おやすみ」

 さて、俺もお風呂に入ってから、寝るとするかな。
 明日は、シャルヴィネさんに頼んでいた物が、出来るはずたから、取りに行かないと。

 食事の後にお風呂入るなんて、この世界に来る前の、日常に戻ったようだ。
 そんなことを思いながら、湯船にのんびりと浸かる。
 香りの良いお風呂を堪能した俺は、自分の部屋に行き、翌日やることを確認してから寝た。


 ◇◆◇◆◇


  翌朝起きて部屋を出ると、既にアレナリアは起きていて、いつものお茶(紅茶似た物)を飲んでいた。

「おはようカズ。今日は私の方が早かったわね」

「おはようアレナリア。気分はどう?」

「気分? ああ、昨日長くお風呂に入り過ぎたから? もう平気! なんともないわ」

 そっちのことじゃなくて、スカレッタ達と話したことなんだけど、いつもと変わらないようだし、大丈夫そうだな。

「それは良かった。それで今日の昼食は一人?」

「う~ん、どうしよう」

「別に無理して、誘わなくてもいいさ」

「考えておくわ」

「そうか。一応何か用意しておくよ。昨日と同じ時間に資料室に行くから」

「ええ。それより朝食を作って、お腹空いたわ」

 ……昨日あれだけ食べたのに、一晩で消化したのか?
 部屋代払わなくていいって言っても、これじゃあ、宿屋に泊まるより高くつきそうだ。
 水晶の買い取りや、盗賊の討伐報酬がなかったら、厳しかったな。
 これからは作っても、アレナリアの前には、あまり出さないようにしよう。

「カズ早く」

「分かったよ」

 買っておいたイノボアの、薫製したバラ肉を薄切りにして、フライパンでカリッカリに焼いて、あとは目玉焼きで『ベーコンエッグ』を作り、食パンとポテサラを食べる分出して、朝食にする。

「はいお待たせ」

「薄いお肉と卵?」

「イノボアの薫製肉を薄切りにして、カリッカリに焼いたのと、目玉焼きだよ」

「目玉焼き? 変な名前ね。それより、ポテサラが少なくないかしら!」

「アレナリアの前に出すと、あるだけ食べちゃうから、一食分の量を決めて出したの」

「えぇー」

「えぇーじゃないの。朝からこれだけあれば十分でしょ!」

「……は~い」

 まったくどんどんと、食い意地が張ってきてるよ。
 丸くなったアレナリアなんか、見たくないぞ。
 そうなったら、完全に俺のせいだな。

「カズカズ! このカリッカリのお肉が、たまらなく美味しい!」

「そう。それは良かったね」

「味付けしなくても、このカリッカリのお肉に味が付いてるから、それだけで十分ね」

「朝食がすんだら、今日はアレナリア一人で、ギルドに行って」

「なんで? カズは行かないの?」

「俺は用事があるから。お昼までには行くようにするから」

「分かったわ。カズが来ないと、私の昼食が無いってことになっちゃうから、絶対来てよ!」

「分かってるって」

 別に俺が行かなくても、ギルドの食堂で買えばいいのにと思いながら、アレナリアが出掛けた後に、昼食用の料理を多く作って【アイテムボックス】入れておく。
 昼食も出来たので、そろそろシャルヴィネさんの店に行くことにする。

 アレナリアの家を出て、歩くこと数十分、七日前に来たシャルヴィネの店に着いた。
 前回と同じように店に入り、従業員に、シャルヴィネを訪ねた来たことを伝えると、聞いていたようで、シャルヴィネの居る部屋に案内してくれた。
 部屋に案内してくれた従業員さんは軽く会釈をして、仕事に戻って行った。
 俺はノックをして、返事を待ってから部屋の中に入る。

「失礼します」

「ようこそカズさん。そちらの椅子に、お座りください」

 シャルヴィネに言われ、テーブルを挟んだ位置にある椅子に、お互いに座った。

「こんにちはシャルヴィネさん。お忙しいとこ失礼します」

「何をおっしゃいますか。お約束をしてたんですから、一向に構いませんよ」

「こちらに来る時間の方を、決めてなかったので、お忙しい時間でしたら、また出直そうかと」

「そんなに、気を使ってもらわなくてもいいですよ。今回は頼まれていた、言わば商談の事なんですから。それに時間を決めてなかったのは、こちらの落ち度でもありますから」

「そんな、こちらが頼んでおきながら、来る時間の確認をしなかった、俺も悪いですから」

「カズさんは相変わらず謙虚ですね。気を付けませんと、付け込む者もいますので、冒険者ならば、少しは態度が大きい方が良いですよ」

「そうなんですよね。でも威張るようにするのは、どうも苦手で」

「アハハハッ。いや失礼、実にカズさんらしいですね」

「それはどうも」

「では本題に入りましょう。こちらがカズさんから預かった、水晶で作ったアクセサリー(装飾品)になります」

 シャルヴィネがテーブルの上に、三つのアクセサリーを出した。

「それでは少々、説明をさせていただきます」

「説明ですか?」

「はい。水晶に付与(エンチャント)出来る品物ですので、その状態を簡単にですが」

「なるほど。お願いします」

「先ずは、こちらの指輪ですが、加工した三つの水晶で、一番小さい物になります。装備したとしても邪魔にならず、しかも衝撃に強いようなので、剣士の方にあった付与(エンチャント)などに、向いていると思います」

「次にブレスレットですが、こちらに使われてる水晶は特殊で、ブレスレットの形に合わせて、湾曲した加工が施されています。魔法を良く使われる方向きの付与(エンチャント)が、よろしいかと思われます」

「最後にネックレスです。これは使った水晶は、研磨して表面の傷を取り除いただけで、ほぼ原型の六角柱水晶になります三つ中では一番大きいので、ネックレスに使用しました。他の二つより込められる魔力量が多いので、身を守るような付与(エンチャント)などに最適かと思われます。貴族の方などが好まれる物ですね」

「なるほど。それぞれ用途が違うわけですか!」

「加工した職人と、私の個人的な意見ですが、お役に立てれば宜しいのですが」

「とても参考になります」

「それではこちらをお持ちください」

「ありがとうございます」

 シャルヴィネから、三つのアクセサリー(装飾品)を受け取り【アイテムボックス】に入れた。

「それでカズさん、この後ご予定は?」
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