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二章 アヴァランチェ編

69 アレナリアの覚悟 2 緊張の三人

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 アレナリアがギルドの仕事を始めたので、俺は依頼を探す為に、一階にある掲示板へと行くことにした。
 依頼で何か女性受けしそうな、料理のヒントでもあれば良いのにと思い、掲示板を見に行く。
 一階に来て、掲示板に貼ってある依頼書を見ると、収穫祭が近いからか、素材調達や店の改装修理が多く、あとは収穫祭の間に、常に護衛をする依頼が幾つかある。

 昼食前には、ギルドに戻って来ないとならないから、短時間終わる依頼がいいんだけど……んっ! これは。


ーーーーーーーーーー


 ・D 生産区 収穫と配達 甜菜根(てんさいこん)を収穫して、加工場所への配達。 五人 本日から三日間 収穫のみ又は、配達のみ 銀貨三枚 両方で銀貨八枚


ーーーーーーーーーー


 気になる依頼書を見つけたので、受付に行って聞いてみることにした。
 いつものように、依頼専用の受付に居たのはルグルだ。

「おはようルグルさん」

「カズさんおはようございます。依頼ですか」

「ええ。ちょっと気になる依頼があったので」

「Dランクの、野菜を収穫して配達する依頼ですね。何か珍しいですか?」

「その収穫する野菜に、興味がありまして」

「甜菜根のことですか? この都市では、珍しい野菜ではないと思いますが」

「『甜菜根』って『甘い砂糖』になる野菜じゃないですか?」

「ああなるほど! そう言うことですか。そうです、加工すると砂糖がとれる野菜ですよ」

「やっぱり!」

「確かに他の街では、見ない野菜ですね。出回っていても、砂糖に加工された物ですからね」

「砂糖が売ってるとは、気付きませんでした」

「売っている場合は、砂糖ではなく、甜菜粉として、売っているお店が殆どですから。砂糖と表示されてるお店は、大抵が貴族様相手で、不純物を取り除き、白くなった物を置いてる大きなお店です」

「へぇー、そうなんですか」

「この都市での話ですがね。他の街ではわかりませんが」

「はぁ」

「それで依頼は受けますか?」

「あ、はい。甜菜根を見てみたいので」

「それでは、依頼書にあるように、収穫か配達もしくは両方やるかは、現地で聞いてください。収穫量によって、配達する人数も、変わるかもしれないですから」

「分かりました。それじゃあ行ってきます。あっそうだ! サブマスが昼食の誘いに来るかもしれないので、開けておいてください」

「え、えぇ! ちょっとカズさん!」

「スカレッタさんにも、伝えておいてください。お願いします」

「ちょ、ちょっとぉ~」

 受付でルグルが叫んでいた様だが、気にせずにギルドを出て、目的地へと向かった。
 場所は生産区でも、東門側らしいので、目立たない程度の速度で走って向かう。

 走り続けることおよそ二時間、目的地の畑に着いたので、依頼者に依頼内容を確認した。
 すると収穫の人数は足りているが、加工場への配達が遅れていて、昨日の収穫物も残っているとのことだ。
 急いで運ばないと、昨日収穫した物が、全てダメになってしまうと言っている。
 加工場は、広場から南西の大通り沿いの、職人区側にある建物だと言う。

 俺も昼前には、ギルドに戻りたかったので、配達だけを受けることにして、配達場所を書いた、簡単な地図をもらう。
 配達する甜菜根の量が多く、困っていたので、俺が【アイテムボックス】に全部入れて運ぶことにした。
 依頼者は、倉庫にあった大量の甜菜根が、全て収納されてしまったのを見て、あっけに取られていた。
 なんと全部で600個以上もあって、重さにすると、800㎏以上はあったと言う。

 時間も気になるので、加工場へも走って向かった。
 やはり目立たないように走ると、加工場に着くまでには、二時間ほど掛かってしまった。
 急ぎ加工場に入り、案内された甜菜根置き場に【アイテムボックス】から全ての甜菜根を出した。
 加工場に居た人も同じく、あっけに取られていた。

 俺は直ぐに依頼完了の証をした依頼書を受け取り、そのまま『甜菜粉』の他に、食材を幾つか買い、あと空の小ビンが無かったので、それも買いに行った。
 一通り買い物を終えて、昼食を作る為に、一度アレナリアの家に戻った。

 先ずは甜菜粉をなめてみると、知っている砂糖よりは、甘味が少ない感じだった。
 女性受けする料理を、俺が分かる訳がないので、何となくで作ることにした。 
 時間は九十分程しかいので、メインは以前作ったフレンチトーストにした。
 あとはデザートに『あれ』を作りたいので【アイテムボックス】からスマホを取り出し、使えるかわからないが、料理アプリを入れていたことを思い出して起動した。
 どうやら使えるようだ!

 フレンチトーストは直ぐに出来るので、先にデザートを作る為に、材料を用意する。
 使うのは、牛乳 鶏卵 砂糖(甜菜粉)で作る。


 先ずは、フライパンに砂糖(甜菜粉)と水を入れて、ゆっくりと茶色くなるまで火をかける。
 出来たらそれを、一人用の小さな器に薄く入れておく。

 今度は、鶏卵をボール容器に入れて、泡立てないようにかき混ぜ、砂糖(甜菜粉)を加えて、更に混ぜる。
 次に牛乳を鍋に入れ、沸騰寸前まで火にかける。
 それを、ボールの器に入った溶いた卵に、鍋の牛乳を少しずつ加えながら混ぜる。
 泡立てないように注意する。
 丁度良い具合いになったら、細かい網の調理器具で濾して、それを最初に入れておいた、一人用の小さな器に入れる。
 最後に蒸して出来るので、簡易な蒸し器を用意して仕上げる。

 蒸してる間に、フレンチトースを作って、出来た物を【アイテムボックス】に入れておく。
 そして蒸し上がった物を、粗熱をとる為に、しばし置いておく。
 粗熱がとれたら、魔法で氷を出し、冷やして完成だか、時間が無い。
 なので仕方がないから、ギリギリまで冷やしたら、スマホと共に【アイテムボックス】にしまった。
 昼食のフレンチトーストを、食べてる間に、再度冷やすことにして、急ぎギルドへと向かった。

 ギルドに着くと、俺に気付いたスカレッタとルグルが、凄い勢いで寄ってきた。

「カズさん、さっきサブマスが、昼食を一緒に食べましょうと、言ってきたんですよ!」

「私達どうしたら?」

「二人共落ち着いて。返事はしたの?」

「それが『もし良ければ、昼の休憩時間になったら、資料室に来て』って言われたんですよ!」

「二人は、どうするつもり?」

「相手はサブマスですから、断れませんよ!」

「そうですよ!」

「二人の気持ちはどうなの?」

「私達は……カズさんにも言われましたし、歩み寄った方が良いと思いましたが、どうすれば……」

「試しに行ってみればいいですよ。俺も同席するので」

「そうなんですか!」

「良かった。サブマスと私達の三人だけかと」

「まあ互いにそれは、厳しいでしょうから」

「それなら行きます! いいわねルグル!」

「はい。私もスカレッタ先輩と行きます!」

「それじゃあ俺は、先にサブマスの所へ行ってますから後程」

 スカレッタとルグルの二人に、先に行くと伝えので、資料室に居る、アレナリア所に行く。
 資料室に、アレナリア一人しかいないことを、確認してから話しかける。

「お待たせアレナリア」

「……」

「アレナリア?」

「カズ……私二人を……昼食に誘ったわ」

「ああ、そのことは二人に聞いたよ」

「二人とも嫌がってなかった? 私なんかと」

「戸惑ってはいたけど、歩み寄ってみるって言ってた」

「本当?」

「ああ。二人共もう直ぐ来ると思う」

「カズもここに居るのよね」

「居るよ」

「アレナリア大丈夫? マントは? フードを被る?」

「大丈夫。昼食に誘っておいて、フードなんて被ってたら、せっかく来てくれる二人に悪いわ」

 その時、資料室の扉をノックして、スカレッタとルグルが入って来た。
 資料室に一つだけある、四人で座れる椅子とテーブルのセットに移動して、スカレッタとルグルを呼んだ。

「サ、サブマスター、お待たせして申し訳ありません」

「も、申し訳ありません。です」

「別に待ってないわ。良いから座んなさい」

 アレナリアが座った向かい側に、スカレッタとルグルが座り、アレナリアの横に俺が座るかたちになった。
 料理を出す前に、三人に打ち解けてもらえれるように、少し話をしようと思う。
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