上 下
74 / 770
二章 アヴァランチェ編

69 アレナリアの覚悟 2 緊張の三人

しおりを挟む
 アレナリアがギルドの仕事を始めたので、俺は依頼を探す為に、一階にある掲示板へと行くことにした。
 依頼で何か女性受けしそうな、料理のヒントでもあれば良いのにと思い、掲示板を見に行く。
 一階に来て、掲示板に貼ってある依頼書を見ると、収穫祭が近いからか、素材調達や店の改装修理が多く、あとは収穫祭の間に、常に護衛をする依頼が幾つかある。

 昼食前には、ギルドに戻って来ないとならないから、短時間終わる依頼がいいんだけど……んっ! これは。


ーーーーーーーーーー


 ・D 生産区 収穫と配達 甜菜根(てんさいこん)を収穫して、加工場所への配達。 五人 本日から三日間 収穫のみ又は、配達のみ 銀貨三枚 両方で銀貨八枚


ーーーーーーーーーー


 気になる依頼書を見つけたので、受付に行って聞いてみることにした。
 いつものように、依頼専用の受付に居たのはルグルだ。

「おはようルグルさん」

「カズさんおはようございます。依頼ですか」

「ええ。ちょっと気になる依頼があったので」

「Dランクの、野菜を収穫して配達する依頼ですね。何か珍しいですか?」

「その収穫する野菜に、興味がありまして」

「甜菜根のことですか? この都市では、珍しい野菜ではないと思いますが」

「『甜菜根』って『甘い砂糖』になる野菜じゃないですか?」

「ああなるほど! そう言うことですか。そうです、加工すると砂糖がとれる野菜ですよ」

「やっぱり!」

「確かに他の街では、見ない野菜ですね。出回っていても、砂糖に加工された物ですからね」

「砂糖が売ってるとは、気付きませんでした」

「売っている場合は、砂糖ではなく、甜菜粉として、売っているお店が殆どですから。砂糖と表示されてるお店は、大抵が貴族様相手で、不純物を取り除き、白くなった物を置いてる大きなお店です」

「へぇー、そうなんですか」

「この都市での話ですがね。他の街ではわかりませんが」

「はぁ」

「それで依頼は受けますか?」

「あ、はい。甜菜根を見てみたいので」

「それでは、依頼書にあるように、収穫か配達もしくは両方やるかは、現地で聞いてください。収穫量によって、配達する人数も、変わるかもしれないですから」

「分かりました。それじゃあ行ってきます。あっそうだ! サブマスが昼食の誘いに来るかもしれないので、開けておいてください」

「え、えぇ! ちょっとカズさん!」

「スカレッタさんにも、伝えておいてください。お願いします」

「ちょ、ちょっとぉ~」

 受付でルグルが叫んでいた様だが、気にせずにギルドを出て、目的地へと向かった。
 場所は生産区でも、東門側らしいので、目立たない程度の速度で走って向かう。

 走り続けることおよそ二時間、目的地の畑に着いたので、依頼者に依頼内容を確認した。
 すると収穫の人数は足りているが、加工場への配達が遅れていて、昨日の収穫物も残っているとのことだ。
 急いで運ばないと、昨日収穫した物が、全てダメになってしまうと言っている。
 加工場は、広場から南西の大通り沿いの、職人区側にある建物だと言う。

 俺も昼前には、ギルドに戻りたかったので、配達だけを受けることにして、配達場所を書いた、簡単な地図をもらう。
 配達する甜菜根の量が多く、困っていたので、俺が【アイテムボックス】に全部入れて運ぶことにした。
 依頼者は、倉庫にあった大量の甜菜根が、全て収納されてしまったのを見て、あっけに取られていた。
 なんと全部で600個以上もあって、重さにすると、800㎏以上はあったと言う。

 時間も気になるので、加工場へも走って向かった。
 やはり目立たないように走ると、加工場に着くまでには、二時間ほど掛かってしまった。
 急ぎ加工場に入り、案内された甜菜根置き場に【アイテムボックス】から全ての甜菜根を出した。
 加工場に居た人も同じく、あっけに取られていた。

 俺は直ぐに依頼完了の証をした依頼書を受け取り、そのまま『甜菜粉』の他に、食材を幾つか買い、あと空の小ビンが無かったので、それも買いに行った。
 一通り買い物を終えて、昼食を作る為に、一度アレナリアの家に戻った。

 先ずは甜菜粉をなめてみると、知っている砂糖よりは、甘味が少ない感じだった。
 女性受けする料理を、俺が分かる訳がないので、何となくで作ることにした。 
 時間は九十分程しかいので、メインは以前作ったフレンチトーストにした。
 あとはデザートに『あれ』を作りたいので【アイテムボックス】からスマホを取り出し、使えるかわからないが、料理アプリを入れていたことを思い出して起動した。
 どうやら使えるようだ!

 フレンチトーストは直ぐに出来るので、先にデザートを作る為に、材料を用意する。
 使うのは、牛乳 鶏卵 砂糖(甜菜粉)で作る。


 先ずは、フライパンに砂糖(甜菜粉)と水を入れて、ゆっくりと茶色くなるまで火をかける。
 出来たらそれを、一人用の小さな器に薄く入れておく。

 今度は、鶏卵をボール容器に入れて、泡立てないようにかき混ぜ、砂糖(甜菜粉)を加えて、更に混ぜる。
 次に牛乳を鍋に入れ、沸騰寸前まで火にかける。
 それを、ボールの器に入った溶いた卵に、鍋の牛乳を少しずつ加えながら混ぜる。
 泡立てないように注意する。
 丁度良い具合いになったら、細かい網の調理器具で濾して、それを最初に入れておいた、一人用の小さな器に入れる。
 最後に蒸して出来るので、簡易な蒸し器を用意して仕上げる。

 蒸してる間に、フレンチトースを作って、出来た物を【アイテムボックス】に入れておく。
 そして蒸し上がった物を、粗熱をとる為に、しばし置いておく。
 粗熱がとれたら、魔法で氷を出し、冷やして完成だか、時間が無い。
 なので仕方がないから、ギリギリまで冷やしたら、スマホと共に【アイテムボックス】にしまった。
 昼食のフレンチトーストを、食べてる間に、再度冷やすことにして、急ぎギルドへと向かった。

 ギルドに着くと、俺に気付いたスカレッタとルグルが、凄い勢いで寄ってきた。

「カズさん、さっきサブマスが、昼食を一緒に食べましょうと、言ってきたんですよ!」

「私達どうしたら?」

「二人共落ち着いて。返事はしたの?」

「それが『もし良ければ、昼の休憩時間になったら、資料室に来て』って言われたんですよ!」

「二人は、どうするつもり?」

「相手はサブマスですから、断れませんよ!」

「そうですよ!」

「二人の気持ちはどうなの?」

「私達は……カズさんにも言われましたし、歩み寄った方が良いと思いましたが、どうすれば……」

「試しに行ってみればいいですよ。俺も同席するので」

「そうなんですか!」

「良かった。サブマスと私達の三人だけかと」

「まあ互いにそれは、厳しいでしょうから」

「それなら行きます! いいわねルグル!」

「はい。私もスカレッタ先輩と行きます!」

「それじゃあ俺は、先にサブマスの所へ行ってますから後程」

 スカレッタとルグルの二人に、先に行くと伝えので、資料室に居る、アレナリア所に行く。
 資料室に、アレナリア一人しかいないことを、確認してから話しかける。

「お待たせアレナリア」

「……」

「アレナリア?」

「カズ……私二人を……昼食に誘ったわ」

「ああ、そのことは二人に聞いたよ」

「二人とも嫌がってなかった? 私なんかと」

「戸惑ってはいたけど、歩み寄ってみるって言ってた」

「本当?」

「ああ。二人共もう直ぐ来ると思う」

「カズもここに居るのよね」

「居るよ」

「アレナリア大丈夫? マントは? フードを被る?」

「大丈夫。昼食に誘っておいて、フードなんて被ってたら、せっかく来てくれる二人に悪いわ」

 その時、資料室の扉をノックして、スカレッタとルグルが入って来た。
 資料室に一つだけある、四人で座れる椅子とテーブルのセットに移動して、スカレッタとルグルを呼んだ。

「サ、サブマスター、お待たせして申し訳ありません」

「も、申し訳ありません。です」

「別に待ってないわ。良いから座んなさい」

 アレナリアが座った向かい側に、スカレッタとルグルが座り、アレナリアの横に俺が座るかたちになった。
 料理を出す前に、三人に打ち解けてもらえれるように、少し話をしようと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

万能すぎる創造スキルで異世界を強かに生きる!

緋緋色兼人
ファンタジー
戦闘(バトル)も製造(クラフト)も探索(クエスト)も何でもこい! 超オールマイティスキルファンタジー、開幕! ――幼馴染の女の子をかばって死んでしまい、異世界に転生した青年・ルイ。彼はその際に得た謎の万能スキル<創造>を生かして自らを強化しつつ、優しく強い冒険者の両親の下で幸せにすくすくと成長していく。だがある日、魔物が大群で暴走するという百数十年ぶりの異常事態が発生。それに便乗した利己的な貴族の謀略のせいで街を守るべく出陣した両親が命を散らし、ルイは天涯孤独の身となってしまうのだった。そんな理不尽な異世界を、全力を尽くして強かに生き抜いていくことを強く誓い、自らの居場所を創るルイの旅が始まる――

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...