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二章 アヴァランチェ編

58 頼み事 と 同居の覚悟

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 ロウカスクは時間だと言って、家族のもとへ帰って行き、今はギルマスの部屋にアレナリアと二人っきり。
 住む場所が無くなったので、他の宿屋が見付かるまで、せめて一晩だけでもとアレナリアに頼んもうと思うが……ずっと断ってた手前言いづらい。

「ねぇカズ、昼間言っていた私に頼みって何かしら?」

「あ、あぁそれなんだけど……今さらと言うか、勝手で申し訳ないと言うか……」

「カズがハッキリしないなんて珍しいわね。どうしたの? 悩み事?」

「まぁ悩み事と言えばそうなんだけど……」

「怒らないから言ってみてよ」

「う、うん……」

「フフッ」

「な、なに? 急に笑って?」

「なんだかいつもと逆ね」

「そ、そうだね……」

「さぁ早く言ってみて!」

 落ち着け俺、回りくどい言い方しないように分かりやすく……よし!

「アレナリア一緒に暮らさないか!」

「……えっ!? えぇぇぇー!!」

 んっ? 俺なんて言った……『一緒に暮らさないか』……あぁぁぁー!!
 何言ってんだ俺は! 

「……あれだけ言っても駄目だったから、私もう諦めようと思ってたのに……やっとその気になってくれたのね!」

「あ、いや、ちが、ごめん。言い方が悪かった! 間違えた!」

「えっ……間違い……また私をもてあそんだの」

「もてあそぶとか、言い方がおかしいから! それにまたって、一度も無いから。そうじゃなくて実は……」

 この後なんとかアレナリアの誤解を解き、事情を説明する。
 住む所が無く困っている時に、アレナリアが使ってない部屋があると言っていたことを思い出して、次の宿屋が見付かるまでの間だけでも、泊めてもらおうかと頼みに来たこと。
 しかしずっと断ってたので、言いづらく単刀直入に言おうとしたら、ああなってしまったと。

「まったく、紛らわしわね」

「ご、ごめん。それで、次の宿屋が見付かるまで……いや、やっぱり女性一人が住む所に泊めてもらうのは駄目だよね」

「何を言ってるのよ。良いに決ま……どうしようかなぁ」

「そうだよね。今さら勝手だよね」

「でももうすぐ収穫祭だから、宿なんてどこも空いて無いでしょうよ」

「やっぱそうなのか……」

「だからカズがどうしてもって言うなら、部屋を使っても良いのよ」

「でも悪いよ」

「何を言ってるのよ! 住む所が無くて困ってるんでしょ。どうしても私の所に来たいのよね! ねぇ! ねぇ!!」

 アレナリアはカズに近付いて顔を覗きこみ、自分が望む返事を要求してくる。(言葉には出さないが)

「あ、は、はい。どうしてもお願いします……」

「しょうがないわね……ウフフッ! 良いわ。そうと決まれば早速行くわよ!」

 なんだかんだと最終的には、言わされた感があり、アレナリアの所に住むことになった。
 若干……いや大分不安だ。やっぱりやめた方がよかったかな?

 ギルドから歩いて十分ぐらいの所に、アレナリアが住んでいる一軒家がある。
 一人で住むには随分と広い家だ。

「さぁカズ入って」

「お邪魔します」

「何を言ってるの、今日からここはカズの家でもあるのよ!」

「俺の家って、別に次の宿屋……」

「こっちがカズの部屋よ! 少し掃除をすれば使えるわ」

「お~い聞いて……」

「そしてこっちが台所で、こっちがお風呂場よ。使ってないけどね」

「だから話を聞い……お風呂場だって!」

 直ぐにアレナリアに言われた部屋の中を見ると、四畳ぐらいある部屋の一角に、大きめの湯船があった。

「珍しいでしょ。前に住んでいた人が、貴族が入っているお風呂に憧れて、作ったらしいわ」

  排水口もあるが、水道のような物は無いな……まあ、お湯は魔力変換で出せるから問題ない。
 あとは、使ってないって言ってたから掃除が必要だな!

「……ズ……カズ……カズ!」

「んっ? どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ。ボーッとしちゃって」

「ごめん。それでなんだっけ?」

「家の中を案内してるんでしょ」

「そうだったね」

「あとはここの部屋だけどね」

「ここは?」

「私の寝室よ! 鍵はかけてないから、何時でも来て良いわよ。ノックもいらないわ!」

「……俺が使う部屋は……良かった鍵は付いてるな」

「もぉ~カズったら! 半分は冗談よ」

「半分は?」

「いいの気にしないで」

「……」

「それより夕食はどうしましょうか? まだ食べてないでしょ」

「ああそれなら、台所を使わせてもらえれば、俺がなんか作るよ」

「カズがなんか作ってくれるの? それは楽しみだわ!」

 俺は夕食を作る為に、台所へ移動したら、殆ど使った形跡がない。

「ねぇアレナリア、ここも使ってないの?」

「以前は使っていたけど、今は飲み物を入れる時に、たまに使ってるぐらいよ」

 道具も殆ど無いし、どうしたもんか……仕方がない、野営で使ってる道具で作るか。

 【アイテムボックス】から食材と調理道具を出して、窯に火を入れて、簡単な食事を作る。
 三十分程して出来たのは、燻製肉(ベーコン)と野菜のスープと、焼き鳥を作った。
 両方とも塩でだけで、他は素材の味だけだ。
 今度買い出しに行ったら、色々な調味料も買っておこうと思った。

 木の器に盛り付けてテーブルに運び、買っておいた出来立てのパンを【アイテムボックス】から出して食事にする。

「作った後でなんだけど、アレナリアって嫌いな物とかあるの?」 

「食事に対して興味が無かったから、食べたことの無い物の方が多いわ。だから好き嫌いは、よく分からないわ」

「そうなんだ。これは食べれそう? 調味料が無いもんで、塩でしか味付けしてないけど」

「大丈夫よ。食べれるわ」

「味の保証は出来ないけど、どうぞ」

「頂くわ」

 アレナリアはフード付きのマントを脱いで、椅子に座り二人で夕食を食べ始める。
 静かに黙々と食事をしている時に、アレナリアが思い出したことがあって、あとで話があると言われた。

 話っていったいなんだろう?

 そして食後に食器を片付け、アレナリアの話を聞くことにした。

「お待たせ。それで話って?」

「昼間ポピー達に聞いた、話のことなんだけど」

「聞いた話って?」

「カズかポピー達三人に使った、回復薬のことよ」

「あー、あれね。あれがどうかしたの?」

「自作ですってね」

「……ま、まあ」

「見せてくれる? あるんでしょ」

「あるけど……」

「カズ! 見・せ・て!」

「わ、分かったよ。……はい」

 俺は【アイテムボックス】から、回復薬が入った小ビンを、一つテーブルの上に出した。

「これが言っていた回復薬ね。鑑定するけど良いわよね」

「……どうぞ」

 アレナリアが小ビンを手に取り、スキ【鑑定】を発動させた。

「何よこれっ! 一級品の回復薬と同じ効果があるじゃないのよ! どういうこと!」

「どういうことって言われても……」

「自作って聞いてたけど、どうやって作ったの!」

「どうって、別に変わったことはしてないけど……」

「見せて」

「えっ?」

「作ってる所を見せてって言ってるの!」

「でも……」

「自作って嘘なの?」

「嘘じゃないけど……」

「じゃあ見せて!」

「ハァー。分かったよ」

 住まわせてもらう訳だから、ここはおとなしく、言うこと聞いておくことにする。
 【アイテムボックス】から調合道具と、薬草と小ビンを取り出し、アレナリアに作っている所を見せて説明する。

「こんな感じで作ってるんだけど、変なところないでしょ」

「そうね。特におかしなところはないわね。他は誰に使ったの?」

「ポピー、ボルタ、ワットの三人に使ったのが初めてで、他は誰にも使ってないよ」

「この件は、ロウカスクに言った方が良さそうね。まったく、カズと一緒だと飽きなくていいわ……」

 どうせギルマスにも知られることなら、いっそのことギルドで買い取ってもらおうかな。

「…………」

 何でアレナリアは黙ってるんだ? 呆れられたのか?

 ……沈黙が重い。

「……! そ、そうだ収穫祭ってどういうお祭りなの?」

「収穫祭? 大したことないわよ。生産区で採れた物を使って料理を振る舞ったり、安く販売したり、あとは……料理コンテストなんてあったかしら」

「料理コンテスト?」

「お題を出された食材で料理を作って、誰が一番人気があったかを決める大会よ」

「へぇー」

「それに出場する為だけに、アヴァランチェに来る人もいるぐらいだから」

「それは色んな料理が食べれて、楽しそうだ」

「私は興味無いから、いつも行かないけどね」

「お祭りなのに、なんか嫌そうだね?」

「人が多ければ、それだけ依頼も多くなるし、揉め事も増えるのよ」

「なるほど。アレナリアもサブマスとしての立場があるから大変なんだね」

「まぁそうね。だから今の内に、のんびりすることにしてるのよ」

「それでギルマスも早く帰ったのか!」

「ロウカスクは、いつものことよ」

「……そうなの。さてと、さすがに今から部屋の掃除は出来ないから、今日はこの部屋で寝かせてもらうよ」

「私の部屋で、一緒に寝ても良いのよ!」

「ハイハイそうですか。ここの椅子で寝かせてもらうよ」

「つれないわね」

 寝てる間に、アレナリアが襲ってこないことを警戒しつつ、寝ることにした……大丈夫だろうか?
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