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二章 アヴァランチェ編

55 帰路 と 宿屋の事情

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 倒れたスノーウルフを前に三人は、だんだんと正気を取り戻してきた。

「みんな大きな怪我はしてなくて良かった。どう動けそう?」
 
「オイラはもう大丈夫だ。動けるぞ」

「ボクも動けます。と言うか、ここから直ぐに離れたいです」

「私ちょっと無理……足に力が入んない」

 ポピーは腰が抜けて立てないか。
 仕方がないか、襲われる寸前だったんだからな。

「ボルタとワットは、なんとか歩けるようだな。ポピーは俺が背負って行くから、休める場所を探そう」

「そんな、大丈夫ですよカズさん。少しすれば動けるようになるから」

「こいつら(スノーウルフ)は気絶してるだけだから、早くここを離れないと目を覚ますよ」

「まだ生きてるのか!」

「早く行こう!」

「わ、分かったわ。カズさんお願い!」

 三人が倒した一匹を【アイテムボックス】に入れ、その後ポピーを背負い、山道を下って行く。
 疲れてるはずの二人だが、よほど怖かったのか、下り坂とはいえ休むことなく、どんどんと山道を下って行く。
 そしてようやく二人が足を止めたのは、川の上流付近にある、俺が鉄鉱石を採掘した辺りだった。

「ちょっと二人共、いい加減に休みましょうよ。追って来てないから大丈夫よ!」

「本当か? オイラもう戦闘は無理だぞ!」

「ボクもスノーウルフとは、もう戦いたく無いです!」

「まったくもう、二人共疲れて足がガクガクじゃないのよ」

「カズに背負ってもらってる、ポピーには言われたくないです」

「そうだぞ!」

「わ、悪かったわね! カズさんもう大丈夫だから下ろして」

 背負ってたポピーを下ろし、ここで休憩する。
 ボルタとワットは地面に横になり、ポピーは手頃な石の上に座って休み、三人は空を見上げている。

「私達……生きてるのよね」

「オイラ鍛えなおすぞ」

「ボクも知識をもっと増やさないと」

 三人共大怪我はしてないが、かすり傷は多いし、疲労もかなりあるな。
 疲れて食欲が無いと言ってるし……そうだ! これを飲ませよう。

「はい、三人共これ飲んで元気出して」

「回復薬? カズさん、これ高いんじゃないんですか?」

「自作だから大丈夫」

「自作! 回復薬まで作れるんですか? 凄いですね!」

「たいした物じゃないから。元気になれば、今日中にはアヴァランチェに戻るからさ」

「じゃあ遠慮なく」

「オイラも、疲れてをとりたいから飲む」

「ボクも早く都市に帰りたいので、いただきます」

 三人は回復薬が入った小ビンを受け取り、一気に飲み干した。

「これあんまり苦く無くて飲みやすいわ」

「そうですね、思ったより苦く無いですね」

「オイラ回復薬って苦手だったんだけど、これなら大丈夫だ」

 三人から空の小ビンを受け取り【アイテムボックス】にしまい、丁度人数分のパンが残っているので、それを出し三人に渡す。

「これを食べたら出発しようか。食欲無いかも知れないけど、何か食べないとアヴァランチェまで持たないから」
 
「そうですね」

「落ち着いたら、オイラ腹減ってきた!」

「は~い! いただきます」

 食欲が無いと言っていたが、一口食べたら三人は、一気に完食した。

「あれ? そう言えば、ボルタとワットの傷が無くなってるわ!」

「ポピーも顔にあった擦り傷が、消えてますよ!」

「本当だ! オイラの腕にあった爪痕が無いぞ!」

 回復薬が効いたんだな! 人に使うのは初めてだから、ちょっと心配だったんだけど効いて良かった。
 まあ、鑑定して回復薬って出たから、大丈夫だとは思ったけどさ。

「ねぇカズさん、さっきの回復薬って本当は、高価な物だったんじゃないですか? 私達が知ってる回復薬って、かすり傷程度なら治りますが、ボルタの爪痕までは治りませんよ! それに、体力もかなり戻りましたし」

 ……えっ? 回復薬って、そういう物じゃないの? 違うの!?
 たしか初めて調合した時に、しっかり鑑定して表示された内容を確認……
 あっ! あの時ノシャックさんに食事だと言われて、表示された内容を途中までしか読んでなかったんだ!
 その後も回復薬を作ったけど、毎回同じやり方で作ってたから、調べたりしなかったっけな。
  なんとか誤魔化さないと?

「そ、そんなことないよ。スノーウルフ倒して、みんなのレベルが上がったんじゃないのかな? それで回復の効果が上がったとかじゃないの……(さすがに苦しい言い訳か)」

「そうなのかな?」

「きっとそうですよ。ボク達だけで、スノーウルフを倒したんですから!」

「オイラもそう思う。きっとレベル上がってるはず」

 良し、話がいい感じになってきたから、ここで他にことに気を向けて、忘れてもらおう。

「みんな元気になったようだし、そろそろ行こうか! 急げば日が暮れる前には、西門に着くだろうから」

「行きましょう」

「行こうぜ!」

「そうね、行きましょうか。……でもあの回復薬はいったい……」

 四人はアヴァランチェに戻る為、急ぎ川沿いの道を下りて行く。
 元気になったようで、休むことなく歩き続け、暗くなる前には西門に着くことが出来た。
 あとは舗装された都市内の道を行くだけなのだが、冒険者ギルドまではまだ遠い。

 ギルドに向かい大通りを歩いていると、一台の荷馬車が同じ方向に向かっていたので、乗せてもらえないか交渉したら、四人で銀貨二枚払えば乗せてくれると言う。
 俺一人なら早く戻れるが、他の三人が疲れていて、歩きがゆっくりになってきているので、銀貨二枚を払い乗せてもらうことにした。

「さぁ三人共荷台に乗って」

「オイラもう駄目。疲れたから乗る」

「ボクも乗させてもらいます」

「良いんですかカズさん?」

「せっかく都市内に戻って来たんだから、早く帰りたいでしょ。本当は山でもう一晩過ごした方が、体力的にも時間的にも余裕が出来たんだけど、あの状況じゃあ無理そうだったから」

「あんな事があった場所で寝るなんて、今のボク達には無理です」

「オイラもそう思う! 絶対無理!」

「私も嫌だわ。カズさんがいなかったら、今のままじゃ、殺されるのが目に見えてるから」

「だからさ、無理してアヴァランチェに戻って来たんだし、最後ぐらいは楽して帰っても良いでしょう」

 このあと四人は荷馬車に揺られて、ゆっくりとギルド方面に進んで行く。
 ボルタ、ワット、ポピーの三人は、荷台で直ぐに寝てしまった。

 さてと三人共寝たから、今の内に回復薬を鑑定して、内容をしっかり見ておこう。

 【アイテムボックス】から回復薬が入った小ビンを取り出し、販売されている物との違いを調べる。


 《鑑定》

 回復薬 : 傷を治し体力を回復させる。
 飲んで良しかけて良しの代物ただし効果が強い為に、薄めて使うと良い。
 五倍に薄めるのとで、販売されている三級品の回復薬と同等の効果がある。
 薄めないと一級品


 ……またもやらかした! あれだけ確認しないとって思ってたのに……人に使っちゃったよ……どうしようかなぁ……

 悩んでいたら荷馬車が止まり、ここから方面が違うと言われ、三人をお越し荷馬車を降りることになった。
 眠い目を擦りながらも、三人は起きてくれた。
 冒険者ギルドまでは、歩いて二十分程の位置まで来ていたので、だいぶ休むことが出来た。
 辺りも暗くなって、人通りも少ないので、今日はここで解散し、明日の昼頃ギルドに集合して、報告と報酬の分配をすることにした。

 俺もノシャックの宿屋に、行くことにした。
 幸い荷馬車を降りた所から、ノシャックの宿屋までは近かったので助かった。
 宿屋には、まだ灯りが付いていたので良かった。
 さっそく中に入り、ノシャックに一言挨拶をして、借りている部屋に行く。
 昨夜は見張りで殆ど寝てないので、今日は直ぐに寝ることにした。


 ◇◆◇◆◇


 昨日は疲れていたのか、いつもより遅くに目が覚めた。

 とりあえず待ち合わせは、昼にギルドだから、どこかで食べ物を買ってから向かうことにする。
 そうすれば約束の時間には、丁度良い頃になるだろうと思う。

 身支度を整え宿屋を出ようとしたら、ノシャックが話し掛けてきた。

「カズちょっと良いか」

「何ですか?」

「実は部屋のことなんだが」

「前払いした料金の日数分、過ぎてましたか!? それなら……」

「そうじゃないんだ、代金は昨日の分までで足りてる。ただ……」

「ただ?」

「すまない。言ってなかったんだが、もう直ぐ祭りの時期になるもんで、観光に来る連中を、泊めることになってるんだ」

「……部屋が無いってことですか?」

「実はそうなんだ。言おうと思ってたんだが忘れていてな。すまん」

「他に空いてる部屋?」

「無い」

「じゃあどこか宿屋って、知りませんか?」

「この時期になると稼ぎ時だから、どこも観光に来る連中を泊めるのさ。だから冒険者なんかは、早めに住む場所を決めて移ったりするんだが……本当にすまん」

「そんな良いですよ。知らなかった俺も悪いんですし、稼ぎ時なら仕方ないですしね。なんとかします」

「祭りが終わって落ち着いたら、またいつでも来てくれ。あっ! スカレッタには内緒にしといてくれよ」

「……分かりました。俺は言いません」

 ハァ……住む所が無くなってしまったなぁ……どうしよう。
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