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二章 アヴァランチェ編

48 入り組む先の見学場所 と 偶然の借り

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 ◇◆◇◆◇


 翌朝起きても、手の違和感はなかった。
 魔力操作の練習をし始めた頃は、翌日になると、手の痺れが残っていたりしたが、今はない。

 今日から久々に、遠出の依頼を受けようかと思い宿屋を出るが、ギルマスから依頼を受けずに、ギルドに居るようにと、言われていたことを思い出した。
 仕方がないので、のんびりとギルドに向かうとする。

 道中歩いていると、なんだか肌寒くなってきたように思える。
 雪が積もる山脈が近いこともあり、もともと朝方などは冷えたが、最近になって、昼間も少し気温が下がったと実感するようになった。

 ギルドに着いたが、受付のある一階は、依頼を受ける冒険者達で混雑しているので、こっちからギルマスの部屋に行くとする。
 人の合間を見計らって、受付嬢のスカレッタに、ギルマスが用があるらしいので、ギルマスの部屋に行かせてもらうと、言ってから部屋に向かう。
 忙しそうだったが、スカレッタは分かったと、軽く会釈をして通してくれた。

 ギルマスの部屋に着き、ノックをしてから部屋に入るが、居たのはサブマスのアレナリアだけだった。

「おはようアレナリア」

「おはようカズ。今日は朝からどうした? 私に会いに来てくれたの」

「ギルマスは居ないんだ。まだ来てないの?」

「相変わらずの反応だな。私は寂しいぞ。ロウカクスなら、もうすぐ来るでしょう」

「アレナリアは、いつも早いね」

「家に居ても一人だからね。雑務でも、ギルドに居る方がましなのよ。カズという話し相手も居るしね」

「朝から暗いこと言わないの」

「昨日までは、カズに色々と教えることがあって、毎日が楽しかったわ。でも、もう終わってしまったのね……」

 なんか、俺のせいみたいな言い方されてるよ。
 しかも憐れんでくれと言わんばかりに、チラチラとこちらを見てくるしさ。
 アレナリアって、親しくなると、図々しいと言うか、わがままなんだよな。

「ねぇカズ、誰か私と一緒に、住んでくれないかしら」

「ギルマスに頼んだら」

「パーティーを組んでいたとき分かったが、あいつは、イビキがうるさすぎる。それに既婚者よ」

「へぇ~既婚者……既婚者なの!」

「なんだ知らなかったのか?」

「初耳だよ! 驚いたな。本人はそんな話、一度も話さないからさ」

「ロウカスクは、家庭のこと等は、殆ど話さないからね。いっつも早く帰るから、さぞ幸せなんでしょうよ」

 アレナリアは、ずっと一人暮らしみたいだから、やっぱり寂しいのかなぁ?
 今までの人生が、人生だから余計にか。

 その時、部屋の扉が開き、ギルマスのロウカクスが入ってきた。

「やぁカズ君、来ていたのか」

「おはようございます。一階が混んでいたもんで、こっちに来させてもらいました」

「ああ、構わないとも」

「それで、今日の用事はなんですか?」

「アレナリアの教えを終えたから、ソーサリーカードの作る所を、見せる約束だったろ」

「ずっと言って来なかったので、忘れられてると思いましたよ」

「しっかり覚えていたさ」

「それなら良かったです」

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

「行ってくる間は、アレナリアにギルドの仕事を変わってもらうか」

「何を言っているのよ。いつものことでしょ」

「アハハハッ。これは耳が痛いな。じゃあ頼んだぞ」

「仕方ないわね。カズが頼んだことなんだし」

「ありがとうアレナリア。行ってくるよ」

「お礼は同居で良いわよ」

「考えておくよ」

「えぇ考えておいて」

 アレナリアと、たわいない言葉のやり取りを終えて部屋を出る。

 ギルマスに連れられて、ギルドを出て、入り組んだ裏路地を歩いて行くと、隠れるようにある扉を、入ることを数回、とある建物に着いた。
 ギルマスが合図をすると、隠し扉が開き中へ入る。
 中には数人の魔法師(魔術師)と呼ばれる人達が居て、幾つかの部屋で分担して作業している。

「ここでの見聞きは、他言無用で頼むぞ。カズ君」

「分かってます」

「それでだ、ここを見せる条件が、ここの者達に何も聞いてはならない。ってことになっていてな」

「説明なしですか」

「すまんな。本来は見せるどころか、この場所を案内するのも、ダメなんだがな」

「そんな大変な所だったんですか。それをわざわざ連れてきてもらって、ありがとうございます」

「時間も限られてるから、早く見ると良い」

「はい」

 作業をしている人達を、スキル【万物ノ眼】を使い、使用している素材や、使っている魔法にスキルなど、ありとあらゆることを、逃さないように、分析 鑑定していく。

 なんとか一通り見た頃に、ギルマスからそろそろ時間だと言われ、もう少し見たかったが、無理を言う訳にはいかないので、素直に見学を終えて、建物を出ることにする。

 帰りの道も何度か扉を通って、ようやく見覚えのある裏路地に出た。
 行きも帰りも幾つかの扉に、迷いの魔法が掛けれてたようで、何か特殊な方法じゃないと、あそこには行けないようだ。

 ギルトへの帰り道に、ロウカスクがアレナリアのことを話してきた。

「なぁカズ君」

「何ですかギルマス?」

「職員の前でもないんだから、ロウカスクで良い。それよりアレナリアなんだが」

「アレナリアが、どうかしましたか?」

「君は、どう思ってるんだ?」

「どうと言っても、親しい友人ですかね」

「そうか……異性としては、どうなんだ?」

「う~ん……そういう方向では、あまり考えないようにしてます」

「アレナリアに、何か不満でもあるのか?」 

「そうでは無くて……って、なんで急にそんな話に!」

「カズ君が来てから、アレナリアが明るくなったのは良いんだが、日が暮れてくると、以前よりも寂しそうでさ。帰ると一人になるからなぁ」

 『一人になるからなぁ』って、その言い方だと、アレナリアの差し金みたいなんですけど……

「……アレナリアは、もう長いこと一人暮しなんですか?」

「以前に、クリスパがこの都市にいた頃は、一緒に住んで居たが、それからはずっと一人だな」

「クリスパさんと住んでたんですか! そう言えば以前に、魔道具で通信していた時、何やら親しそうでしたね」

「気になるなら、本人にでも聞いてみたらどうだ」

「ロウカスクさんは、いつも話が急なんですから。そう言えば既婚者だと聞きましたが、お子さんは?」

「……」

「家庭のことは、話したくないですか?」

「まぁギルマスの地位に居ると、逆怨みなどで狙われることもあるからな。どこで誰に聞かれてる、かわからんしな。オレは良いが、家族に何かあったらと思うとな」

「なるほど。詮索してすいません」

「気にするな。よくあることだ」

「それよりも、ソーサリーカードを作ってる所が、あんなに厳重に警戒されているとは思ってませんでした。よく連れていって見せてくれましたね。かなり重要な場所だったんでしょ? 本当に見せて良かったんですか?」

「今回は特別だな。あちらさんもカズ君には、借りがあったからな」

「んっ? 借りを作った覚えは、ないんですが」

「ああ。カズ君は知らなかったか。前に住宅区で、盗賊の一団を倒したこと覚えてるか?」

「ええ覚えてますが、それが?」

「あの後に分かったことなんだが、そいつらが、暴発するような粗悪品の、ソーサリーカードを作ってる連中と繋がっていてな、ずっと探していたそうだが、中々見付からなくて、行き詰まってたところに」

「俺が倒した盗賊がってことですか」

「そうなんだ。お陰で、この都市で作ってる、ソーサリーカードの評判が、悪くならなくてすんだってことだ。しかも捕まっていた人達は、それを作る手伝いをさせられてたり、酷い場合には、カード使わせて、実験台にするとこだったらしい」

「酷い連中だったんですね」

「だからカズ君に、借りがあったってことさ」

「まったくの偶然だったんですがね。ロウカスクさんが上手く報告してくれたんしょ」

「オレは何もしてないさ」

「そういうことにしておきます。ありがとうございました」

「それとまだ言うことがあるんだが、それはギルトに戻ってからにしよう」

 ロウカスクと、たわいない話をしながらギルト戻り、そのまま朝に居たギルマスの部屋に行く。 
 ギルド内でも今となっては、俺がギルマスやサブマスのアレナリアと一緒に居ても、悪目立ちしなくなった。

 最初の頃は、毎回呼び出されてたから、他の冒険者や一部の職員からも、厄介者と思われたりして視線が痛かったが、他の人がやらなかった水路掃除の依頼をした以降、職員からの印象は良くなった。
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