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二章 アヴァランチェ編

35 感謝 と 誤解 と 褒め殺し?

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「待たせたな。昨日の盗賊騒ぎに、カズ君が関わっていたという事を、知っている証人を連れてきた」

 証人? あの騒ぎの時に、あそこに居た人以外で、誰かに見られてたか? まさか衛兵?

「どうぞ入ってください、彼で間違いないかな?」

 部屋に入ってきたのは、昨夜盗賊に利用されていた子供達と、捕まっていた二人の親だった。

「そうです。私達を、盗賊から解放してくれた方です」

「昨日のお兄さんだ!」

 あの時に助けた親子か。
 『証人を連れてきた』って、言うから驚いたよ。
 証拠を突き付けられてる、犯人の気分だ。
 まったく、紛らわしい言い方は、やめてほしいものだな。

「今朝ギルドに、人探しの依頼を出しに来た時に、丁度カズ君を見かけたと言ってな、受付の職員に聞いてみたら、今日中に戻るような、依頼を受けたようだったんでな。親子には待ってる間に、昨日の出来事を、話してもらっていたんだ。それで君に、お礼が言いたいと」

 立ち上り親子の方へ行くと、女の子は足にしがみつき、男の子は照れながら、二人共お礼を言ってきた。
 父親は手を握り、母親は涙ぐみながら、何度も『ありがとうございます』と、お礼を言ってきた。
 あのまま捕まっていたら、どこかに売り飛ばされて、子供達と二度と会えなくなってた、と。

 流れ的に助けることになっただけだから、名乗らずに、あの場を離れたんだけどなぁ。
 この都市に来たそうそう、目立つのも嫌だったし。
 こっちの世界に来るまでは、こんなこと絶対にしなかったから。
 チートなステータスがあったから出来たことだし、こんなにお礼をされることはいから、どう対応したらいいのやら?

 その後、助かった人達は怪我もなく、みんな無事に帰ることが出来て、喜んでいたと。
 少し話を聞いたあと、日が暮れてきたので、親子は念の為、ギルドに居た冒険者に、家まで送って行ってもらった。

 再び部屋には、ロウカスクとアレナリアと、俺の三人になり、再び話すことになった。

「カズ君、感謝されるのは、慣れていないのかな?」

「えぇ。あんなに涙ぐまれて、感謝されることなどないので、どんな顔したらいいか……」

「これから冒険者となって、ランクを上げていったら、人助けすることもあるから、慣れておいた方が良いぞ。ただし『感謝れることを、当たり前だと思わない』ことだな」

「そうですね。忘れないでおきます」

「ところで、ずっと黙ってるアレナリアはどうしたんだ?」

「……ロウカスク、ちょっと」

 アレナリアがロウカスクを連れて、部屋を出て行った。
 だが、ものの数分で戻って来て、元の場所に座った。

「カズ君、リアーデのギルドマスター達からの紹介状には、君のステータスに関しては書いてなかったが、それなりの実力はあるのは分かる。ただ、どうやってアレナリアのことを知ったのか、教えてもらえるかな?」

「……言わないと」

「Bランク未満の冒険者に、ステータス開示の必要はないが、ギルドの責任者として気になるんでな」

「……強制ですか?」

「そういう訳ではないんだが、アレナリアの種族をいい当てたのでな。ギルマス権限を使ってでも聞きたいんだが、どうする」

 あ~あ、なんでこう凡ミスをするのかなぁ。
 自分が嫌になる。

「他言無用で、お願いしたいんですけど」

「分かっている。オレもギルマスをやっている身だ、他人のステータスを勝手に言いふらしたりはしないさ。アレナリアもそれでいいな」

「えぇ」

「アレナリアさんを、分析して調べてみただけです。そちらも俺のことを、調べてたみたいですから」

「あー、それはオレが言って、やってもらったんだ」

「どういう?」

「Eランクになっばかりの冒険者が、盗賊の一団を一人で倒して、捕まっていた人達を、無傷で助け出したんだから、気になるのは当然だろ」

「まぁそうですね」

「それでだ、アレナリアのステータスを、どこまで見えているんだ?」

 俺はアレナリアを見る。

「盗聴防止はしてあるし、オレはアレナリアのステータスを知っているから、言ってもらって構わない。そうだろアレナリア」

「……えぇ構わないわ」

 う~ん……見えたのが、リアーデのギルマス、ブレンデットと同じような感じだから、何か情報を妨害する魔道具でも、持ってるんだろうな。
 控え目に言った方がいいか……いや、妨害している強さの基準が、どの程度なのか分からないから、素直に見たまんまを話すか。


 名前 : アレナリア
 称号 : アヴァランチェ冒険者ギルド サブ・ギルドマスター
 種族 : スノーエルフ
 年齢 : 157
 性別 : 女
 職業 : 精霊魔術士
 ランク: B
 レベル: 72
 力  : 390
 魔力 : 1740
 敏捷 : 720
 運  : 32

 スキル
 ・アナライズ(分析)

 魔法属性『火 水 土 風 光』


「以上が、いま確認出来たステータスです」

「……」

「君は一体何なんだ? 気付いてはいると思うが、情報を妨害する魔道具を、オレもアレナリアも持っている。それが、数値どころか、使える魔法属性まで分かるとは」

「そんなにおかしいですか? リアーデのギルマスにも、似たようなことを、言われました。名前と職業が見れれば、良い方だと」

「ブレンデットにも言われたか。余程強力な分析スキルなんだな。一体どこでそれほど強力なスキルを」

「強力と言われても、自分でもよく分からないです」

「本当か……いやこれ以上の詮索はよそう。盗賊を討伐して、一般人を助け出してくれたんだしな」

「……ロウカスク」

「あぁ分かってるが、自分で言ったらどうだ、一度フードを取って、顔を見せたんだろ」

「そう……だけど」

「なら別に良いじゃないか。悪い人でもないみたいだしな」

「なんのことですか?」

「あぁ。種族のことなんだが……」

「いい自分で言う」

 アレナリアが着ていたフード付きの服を脱ぎ、俺の隣まで来た。

「改めて、アヴァランチェの冒険者ギルドで、サブ・ギルドマスターしている『スノーエルフ』のアレナリアです。それで一つお願いがあるんだが、種族のことは、誰にも言わないでほしい」

「なんか事情が?」

「それはオレから言おう。その前に、カズ君は、アレナリアを見てどう思う?」

「どうって……歳のわりに小さいとかですか?」

「ムッ!」

「すいません。冗談です」

 アレナリアが、少し不機嫌になった。

 身長のことを、気にしてたのか。
 まずかったなぁ。
 とりあえず、褒めておいた方が、良いかな。

「いやそうじゃなくて、色と言うか肌のな」

「肌の色って……色白の肌が何か?」

「お前、私の肌が異様に白いのが、気持ち悪くないのか?」

 元居た世界では、住んでる地方や環境で、肌の色が違う人なんていたから、別に気にならないけど。(俺は)
 それになんか……

「新雪の透き通るような白い肌が、とても綺麗だと思いますが」

「なな、何を言ってるんだお前は! 私のこの肌が……き…綺麗だと……」

 アレナリアの顔が、うっすらピンク色になってきた。

 ちっこいからって、女性に向かって綺麗とか、何言ってるんだ俺は!
 落ち着け、なんとかフォローしなくっちゃ。

「いや、その。エルフって綺麗な人が多いと聞いたことがあったんで、その透き通るような、純白の肌がよりいっそう綺麗だなと……」

 ってだから、何ってるんだ俺は!

「他者に比べて……よりいっそう綺麗……な、ななななに、なな何を言ってるんだ。わ、わわわ私を、たぶらかそうとしているのか」

 アレナリアの顔が、ピンク色通り越して、長い耳まで真っ赤になっている。

 まずい、早く訂正しないと。

「たぶらかすなんてそんな、俺はただ、見て思ったまんまを、言っただけで」

「ほ、本心だと言うことか!!」

 なんかまたややこしく!

「わ、私は先に行く。ロウカスクあとは任せた……」

 アレナリアは服を着て、フードを深く被り、そそくさと部屋を出ていった。

「……怒らせたのかな?」

「な~に、ただ照れているだけだろ。あんなことを、言われたことないだろうし、『スノーエルフ』ってのは、一種の突然変異みたいなもので、昔は同種族のエルフからも、虐げられてきた歴史があるみたいでな」

 突然変異? いわゆる『アルビノ』みたいなものか。

「そうですか。大変だったんですね」

「だから種族のことは、内密にな。あと仲良くしてやってくれ。年上かもしれんが、人の寿命で換算すると、16歳ぐらいだからな」

 157歳で、人で換算すると16歳くらいなら、人の十倍寿命があるのか!

「わかりました。誰にも言いません」

「あぁ頼む。何か困ったことがあったら、いつでも協力はする。それと、盗賊の件なんだが、依頼ではないから、報酬は出ないが、冒険者としての評価は付けておこう」

「それはありがとうございます」

「これは楽しくなりそうだ!」

「えっ! 何か言いました?」

「いや何でもない、こっちのことだ」

 ロウカスクと話を終えて、一階に戻ると、スカレッタが受付から出て来て、近寄って来た。

「カズさん、お話は終わりました? いったいなんだったんですか? マスターとサブマスに呼び出されるなんて……はっ! まさかカズさんとんでもないことを……なんて冗談は、さておき」

 ……スカレッタさん、何を言ってるんだ?  妄想でもしてたのか? 面白い人だな。

「遅くなりましたが、宿屋をご案内しますよ」

「そんな、待たせたあげく、案内してもらっては、申し訳ないです」

「いえいえ。私も仕事は終わりましたし、これから帰るとこですから。方向も同じなので」

「そうですか。それじゃあ、お願いします」

「はい。任せてください」
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