上 下
31 / 794
一章 リアーデ編

29 余談

しおりを挟む
 カズがリアーデの街を出た三日後、冒険者ギルドでは、今日も木材屋のリンドウが依頼を出しに来ている。

 リンドウは、カズさんが街を出でから、依頼を頼みに来るたびに、カズと親しかった受付のクリスパに相談していた。

「こんにちは木材屋の方ですね。今日も依頼の発注ですか?」

「ええ、また依頼を頼みにたいのだか」

「いつもと同じて宜しいですね」

「そのことなんだが」

「どうかされましたか?」

「依頼を受ける人を、ギルドの方で確認してくれないか」

「どういうことでしょうか?」

「カズさんに依頼をやってもらっていた時、お客さんに対して丁寧に対応してくれて、こちらとしてもとても助かったのです。そこで相談なんですが、これから依頼を受ける人達が、以前の時みたいに、ギルドカード更新の為だけの人は、できるだけ回して欲しくないんだ。また雑に仕事をしかねないから」

「なるほど。確かにそうですね。そのことでギルドの方でも、これからは対処していこうと思ってます」

「そうなのか! それは良かった」

「カズさんとまではいかなくても、丁寧に依頼をするように注意していくつもりです。その為に依頼を出しに来る方にも、仕事に納得がいかなければ、依頼書に完了のサインをしなくていいと、話すようにしています」

「そうですか。だかそれで暴れられたら、こちらが危険で被害だって出るかも」

「その場合は、ギルドの者が直ぐに状況確認などをして、対処したいと思います」

「それは助かる。では依頼を頼みます」

「かしこまりました。では依頼を受理いたしましたので、さっそく依頼を貼り出します。依頼料は、後日まとめてのお支払で宜しいですか」

「ええ、いつもと同じて頼む」

「はい確かに。それでは、またよろしくお願いします」

 それからは、リアーデの冒険者ギルドでは、どんな小さな依頼でも誠意もってやるようにと、ランクに関係なく、依頼を受ける人達に、言われるようになった。



 その頃、宿屋ココット亭の看板娘キッシュは、上の空で、仕事の手が止まっていた。

 日付は変わり、カズが出ていった当日の夜は、クリスパがキッシュのことを思いココット亭に泊まりに来たが、キッシュ本人はカズの居た部屋で、一人その夜を過ごしていた。
 この日ばかりは女将のココットも大目に見て、客室で寝るのを許したと。

 翌日朝食を食べながら、クリスパがキッシュに、カズのことを聞いていた。

「ねぇキッシュ、カズさんのこと、どう思ってるの?」

「! クリ姉、急に何?」

「カズさんが出で行く時、無理してたのかなーって? それに昨夜は、カズさんが泊まってた部屋で寝てたみたいだし」

 キッシュの顔が耳まで真っ赤になって、頭から湯気でも出てきそうだ。

「べ、別に良いでしょ……」

「別に良いけど。それで、結局キッシュはカズさんのことどう思ってるの?」

「し、しつこいなぁクリ姉は」

「いーじゃない本人も居ないんだから」

「私はカズ兄のこと……お兄ちゃんのようでもあるけど、お父さんみたいな感じもして、優しくて一緒に居ると安心するから好き!」

「一緒にいて安心ね。お父さん見たいって、何でも買ってくれるからじゃないの」

「もぉー。クリ姉は、カズ兄のことどう思ってるのさ!」

「あ! もうギルドに行く時間だ! いってきまーす」

「クリ姉ズルいよ! 私ばっかりに言わせて!」

「キッシュ、食器の後片付けやんな」

「でもお母さん、クリ姉ばっかり何にも話さないで……」

「クリスパも照れてるんだろ。さぁ仕事しなよ」

「は~い(私がカズ兄のことを好きって、クリ姉相手に何話してるんだろう)」

 顔を赤くしながら、次こそは、クリスパにカズのことをどう思ってるか聞き出してやると、意気込むキッシュだった。


 キッシュの話を誤魔化しココット亭を後にしたクリスパは、ギルドで依頼を受ける人達に、雑な仕事をしないように、依頼者に対しても、誠意を持って欲しいと、教え広める為に動き始めていた。
 最初から上手く行くとは思ってないが、少しずつでも広まれば、ギルド評判もあがり、依頼を出す方も受ける方も、互いに利益になると言い、ギルドの職員に協力してもらい動き始める。

 その為にココット亭へは、あまり行けなくなっていたが、カズのことを聞かれたくなかったのか、キッシュの居ない時に、こっそりと食事を食べに行っていた。

 そうクリスパが張り切っている最中、こそこそとギルドを抜け出そうとしている人物がいた。

「ギルドを良くする為にやってくれるのは良いんだが、張り切り過ぎてオレの仕事を、これ以上増やさないでほしいな」

 それに気付かないわけもなく、クリスパにガッシリと腕を捕まれギルドの奥へと連れてかれた。

「何を、こそこそと出で行こうとしてるんですか!」

「いやー、そのー。ちょっと街の見回り……」

「師匠、私をザブマスにしたのは、誰でしたか!」

「そ、それはオレだけど……」

「仕事を全て押し付けるためにですか!」

「そうじゃないが……たまには息抜きを……」

「そうですか、最近よく息抜きに行かれましたから、もう十分でしょう。とっとと部屋に戻って、溜まってる書類のをかたずけてください」

「あれを今日中にはちょっと……」

「言いたいことはそれだけですか? ……自分がサボってたから溜まったんでしょうが! 師匠なら弟子に迷惑をかけるな!」

「は、はい。分かった、やるからそんなに怒らなくても……(カズ君なんで行ってしまったんだ。戻って来て、クリスパを何とかしてくれ)」

「何を考えてるんですか! 余計なこと考えてないで、手を動かす! 今日は置いてある書類を、全部片付けるまで部屋から出てはいけませんから」

「さすがにそれは、厳しい過ぎるんじゃ……」

「仕事をサボってたんですから、自業自得です。ほら、手が止まってる!」

「カズ君が居なくて、寂しいからって、オレにあたらなくても……」

「ギルドマスターなんですから、この程度書類の量は余裕ですか。直ぐに追加をお持ちしますね!」

「い、いやこれ以上……」

「ギルドマスターなんですから、ギルドの為に、職員の手本にように、や・り・ま・しょ・う・ね!!」

 この後ギルドマスターのブレンデットは、二日間ギルドで、溜まりに溜まった書類を、片付けさせられていた。



 カズ達が、リアーデを出発して三日後の夕方、遠くに目的地の『大都市アヴァランチェ』が見えてきていた。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

『これも「ざまぁ」というのかな?』完結 - どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他

こうやさい
ファンタジー
 短い話を投稿するのが推奨されないということで、既存のものに足して投稿することにしました。  タイトルの固定部分は『どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他』となります。  タイトルやあらすじのみ更新されている場合がありますが、本文は近いうちに予約投稿されるはずです。  逆にタイトルの変更等が遅れる場合もあります。  こちらは現状 ・追放要素っぽいものは一応あり ・当人は満喫している  類いのシロモノを主に足していくつもりの短編集ですが次があるかは謎です。  各話タイトル横の[]内は投稿時に共通でない本来はタグに入れるのものや簡単な補足となります。主観ですし、必ず付けるとは限りません。些細な事に付いているかと思えば大きなことを付け忘れたりもします。どちらかといえば注意するため要素です。期待していると肩透かしを食う可能性が高いです。  あらすじやもう少し細かい注意書き等は公開30分後から『ぐだぐだ。(他称)』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/878859379)で投稿されている可能性があります。よろしければどうぞ。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/750518948

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界に召喚されたけど゛創造゛で無双します

suke
ファンタジー
「どこだよここ…」 俺は高橋一誠 金無し彼女無し絶賛ブラック企業に努めてる35歳 早朝から深夜までサービス残業 そんな俺はある日異世界に飛ばされた この世界には色々なものが流れてくるらしい… 神からもらったのは『創造』っていう スキルだけ… 金無し彼女無し…職まで失った俺はどうすればいいんですかぁぁ!? 異世界ファンタジーなのかよくわからん作品です

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

処理中です...