上 下
28 / 770
一章 リアーデ編

26 初手合わせ と 憂鬱(ゆううつ)な二人

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇


 今日は昼過ぎから、ギルマスのブレンデッドさんと約束があるので、それまでは、ココット亭の手伝いをしようと決めた。
 さっそく俺は、朝食の支度を手伝うために食堂へ行く。

「おはよう」

「おはよう、カズさん」

「ああ、おはよう」

「最近お店の手伝いをしていなかったので、何か手伝います」

「そうかい。なら洗い物を頼むよ。それがお終わったら、キッシュと買い出しに行って来てくれ。あと修理に出している椅子を、取りに行って来ておくれ」

「分かりました」

「えへへ。久し振りに、カズさんと買い物だ」

「キッシュ、余計な物を買うんじゃないよ!」

「分かってます!」

 洗い物を終えて朝食を食べたあと、キッシュと買い出しに広場の露店へと行く。
 今日は宿で出す食事の材料を仕入れて、修理に出している椅子を、荷車屋に取りに向かう。

「カズさんは、荷車屋さんの場所分かりますか?」

「依頼で何度か行ってるから、そこと同じ場所なら分かるけど、椅子だから家具屋かと思ったけど、違うんだね」

「荷車屋さんは、古くからの知り合いで、家具の修理なんかは、安く直してくれるから、いつも頼んでるの」

 依頼で行った荷車屋の場所を説明したら、どうやら同じらしいので、今回は案内されることなく一緒に向かった。
 荷車屋に着き、キッシュが店の人に、要件を話す。

「こんにちは。ココット亭の者ですけど、修理に出した椅子を取りに来ました」

「あいよ。ココット亭の椅子だな、出来てるよ」

 お店のおじさんが、椅子を3脚持ってきた。

「どうやって持って帰る? 小さな荷車貸すか?」

「あ、大丈夫です。俺が持って行きますから」

 カズは椅子を全て【アイテムボックス】に入れた。

「ああ、あんた先日木材を届けてくれた兄さんか。ココット亭の嬢ちゃんと、知り合いか」

「その節はどーも」

「あのときは、木材屋に配達の注文をしてくれて助かった。昨日木材屋の旦那が詫びに来たよ」

「構いませんよ。それに、このぐらいは、依頼の範囲内だと思いますから」

「これは礼も兼ねて、修理代を安くせにゃならんな」

「おじさん本当!」

「嬢ちゃん、今回は特別だぞ」

「やったー!」

「それと兄さん、街を離れるんだって。木材屋の旦那が、そんなこと言ってたからさ」

「! おじさん、ちょっとそれは……」

「え! カズさん、この街を出ていっちゃうの?」

「まだ話してなかったのか。一言余計だったな。すまん」

 荷車屋から椅子を回収したので、帰ることにしたが、ココット亭に戻る道中が、凄く気不味い雰囲気になっている。
 荷車屋を出てから、ずっと無言で下を向いたまま歩いているキッシュに、途中で鶏串を売ってる露店の前を通ったので、食べようかと尋ねたら、無言で首を横に振って断ってきた。

「キッシュ、言わなくごめん。今夜話そうと思ってたんだ」

「……クリ姉は……知ってたの?」

「昨日話した。大都市アヴァランチェに行く依頼があって、それを受けるときに……」

 ココット亭に帰ってきたら、キッシュは黙ったまま入って、自分の部屋に行ってしまった。
 女将さんが何か言おうとしたが、俺が止めて説明をした。

「そうかい、それであんなに……」

「黙ってるつもりはなかったんです。キッシュと女将さんには、今夜話すつもりだったんですけど」

「噂なんて広がるのは、早いもんだからね。それでいつ街を出発するんだい?」

「依頼が明日の朝なので、そのまま」

「急だね」

「すいません」

「宿屋なんて一日の人もいれば、二十日泊まる人も居るからね。今までだって親しくなったお客もいたし、別れが辛いのも少しはあったが、今回は相当だね」

「キッシュには今夜もう一度、しっかり話しておきたいです。聞いてくれたら良いんですが」

 女将さんと話したあと、ギルマスのブレンデッドと約束した時間になってきたので、買って来た食材と、受け取って来た椅子を出して、ココット亭を出た。
 ずっとモヤモヤした気分の中で建物に着き、ブレンデッドと水晶玉で訓練場に転移した。

「どうしたカズ君。上の空だが、しっかりしないと怪我をするぞ」

 確かにそうだ。
 相手はAランクのギルマス、今は目の前のことに集中しないと。

「じゃあ行くぞ!」

 ブレンデッドはいきなり懐に飛び込んで、腹を殴りに来た。
 俺はとっさの判断で、後ろに下がりながら右腕でガードしたが、腕に衝撃がはしり、ドンと鈍い音がして、後方に吹き飛んだ。

「とうしたカズ君。こんなんじゃあ、護衛の依頼は果たせないぞ」

「そうですね。今度はこっちから行きます」

 腕の痛みは大したことはないので、起き上がり、足に力を入れて一気に距離をつめて、同じく腹を殴りにいった。
 ブレンデッドに軽く避けられて、即座に右足の蹴りがきた。
 今度は見えているので、左腕でガードし、そのまま右足を掴んだら、体をねじり、左足で右顔面を目掛けた蹴りがやってきた。
 これも受け止めて、両足を掴んだまま、ブレンデッドを投げた飛ばした。
 ブレンデッドは受け身をとり、大してダメージはないようだ。

「初めてにしては、なかなかやるじゃないか。次はもっと強く行くぞ!」

 何かスキルかを使った感じがしたので、【万物ノ眼】を《ON》にして、常に状態を確認することにした。

「身体強化ですか!」

「ほう。分かるか!」

 【万物ノ眼】で【分析】してみると、魔力を体全体に纏わせるやり方で、強化しているようだ!
 魔力操作の訓練は、だいぶやったから同じようにこちらも、魔力を纏わせ肉体強度を上げることを想像した。
 思い浮かべ身体強化するが、まだモヤモヤした気分が晴れない。

「カズ君も身体強化したか。面白い。どれ程のものか試してやろう。真っ向勝負だ!」

 ブレンデッドが先程よりも動きが速くなって、攻撃してきた。
 真っ正面からおもいっきり、強化した拳で殴ってきた。
 踏み込んだ地面は、大きな衝撃とともに凹み、その威力が突き出した拳へ伝わる。

 自分の身体強化が上手くいっているか確かめる為に、更に強化することを想像して、こちらも真っ正面からから拳を受け止める。

「なに! これを受け止めるのか!」

「……」

「こんなときに、また考え事か」

「あ、いえ……今度はこっちの番です」

 ブレンデッドの胸目掛けて、身体強化に、更に強化したままの拳を突きだし、殴りにいった。
 ブレンデッドは両腕を前に出し、拳をカードしたが、その腕を弾き飛ばして、体に攻撃が当たった。
 後方へ大きく吹っ飛び壁に激突した。
 そのとき、ドカァァァーンと大きな音と衝撃が訓練場内を走った。

 あんなに闘いのことに集中しないといけないのに、考えごとしてたら力が入ってしまった。
 カズは急いで、ブレンデッドの所に駆け寄り声をかける。

「ブレンデッドさん、大丈夫ですか!」

 ブレンデッド生きてはいるが、怪我をして呼吸が荒い。
 上体を起こし返事をしてきた。

「ああ、なんとか生きてはいるが、身体中がガタガタだ」

「すいません。ごめんなさい」

 そのとき訓練場の入口から、声が聞こえてきた。

「今の音と衝撃はなんですか!?」

「クリスパさん!」

「カズさん、いったいこれは? 師匠どうしたんですか?」

「クリスパすまないが、回復薬を持ってないか」

「怪我をした時の為に、持ってきてます。早く飲んでください」

 ブレンデッドはクリスパに、回復薬をゆっくり飲まされた。
 すると、顔色は良くなり、荒かった息遣いは元へと戻った。

「師匠、どういうことですか?」

「うん、ちょっとな」

「ちょっとって……カズさん、説明してくれますか!」

「俺が力を……」

「カズ君、オレから説明するよ」

 ブレンデッドが話を遮り、自らクリスパに説明し出した。

「なるほど。師匠がカズさんを試す為に、身体強化をして、それをカズさんが真似て身体強化をしたら、力を出し過ぎて師匠を吹き飛ばしたと」

「すいません。考えごとしてたら、強化し過ぎたらしく……本当にごめんなさい」

「別にカズ君がそんなに謝ることはない。この通り無事だからな」

「私が回復薬を持って来なかったら、どうなっていたんでしょうかね。それに、カズさんのステータス教えたでしょ」

「実戦で確かめたくてな。武器を使わなくて良かったよ。それでも、こんなことなら、しっかり装備を付けとくべきだったな。しかしカズ君、戦いの最中いったい何を考えていたんだ?」

 クリスパが来ていたので、一緒に話を聞いてもらうことにした。
 俺が街を出て行くことを話す前に、キッシュに知られてしまったことを。
 そして、キッシュの元気がなくなってしまったこと。

「そういうことだったの。まったく、私もキッシュに話を聞くように言っておくから、今夜しっかり説明しなさい」

「はい。お願いします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

逆ハーレムエンドは凡人には無理なので、主人公の座は喜んで、お渡しします

猿喰 森繁
ファンタジー
青柳千智は、神様が趣味で作った乙女ゲームの主人公として、無理やり転生させられてしまう。 元の生活に戻るには、逆ハーレムエンドを迎えなくてはいけないと言われる。 そして、何度もループを繰り返すうちに、ついに千智の心は完全に折れてしまい、廃人一歩手前までいってしまった。 そこで、神様は今までループのたびにリセットしていたレベルの経験値を渡し、最強状態にするが、もうすでに心が折れている千智は、やる気がなかった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...