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一章 リアーデ編

25 明かした決意

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 ギルドへと戻り、依頼書がまだ残っているか、貼ってある所へ見に行く。
 あれから時間がたったので、ギルド内に居る人は少ない。
 出発日が二日後ということもあり、シャルヴィネの依頼書は、二枚ともまだ残っていたので、それを持って受付に行く。

「あらカズさん、先程来ていたと思ったんですが、今着いたんですか? 随分と遅かったですね」

「外でブレンデッドさんに会ったので、少し話をしてたんです。それで、この依頼内容を聞きたいんですが」

「えーっと、長距離運搬の依頼ですか。『運搬』の方は、荷馬車持ちの方か、他に何か荷物を運ぶ方法がある方限定の依頼ですね」

 荷馬車はないが、俺にはアイテムボックスがあるから大丈夫だろう。

「『護衛』の方は実力しだいで、最大三人まで募集してる依頼です。護衛と言っても『大都市アヴァランチェ』までの街道は、比較的安全ですから、Dランクと低く設定されています」

 街道は安全で危険が少ないから、護衛依頼なのにDランクと低いのか。

「カズさんなら、どちらも大丈夫でしょう」

 クリスパさんの、お墨付きなら大丈夫だろう。

「それじゃあ、この依頼を受けます。俺一人で、両方受けるのは可能ですか?」

「う~ん。カズさんの場合は、アイテムボックスがあるので、大丈夫だと思いますが、依頼者の方と相談してもらった方がいいですね」

「分かりました。では、依頼者の元へ行ってきます」

「場所は分かりますか?」

「この依頼者の方とは、面識があるので大丈夫です。場所も分かります」

「そうですか。あと護衛の依頼書を渡しますので、依頼者の方に承諾されましたら、その証をもらって来てください」

「分かりました」

 俺は先程行ったシャルヴィネの服屋に、もう一度向かう。
 今度は依頼を受けて来たから、話を聞かせてもらえるだろう。
 店に到着して、シャルヴィネさんに依頼を受けて来たので、話を聞かせてもらった。
 荷物の量は、荷馬車2台分と聞いたので、アイテムボックスに全て入ると伝えたら、それならと一人で両方の依頼を受けることができた。
 ただEランクになったばかりの、俺一人での護衛が心配ないかと尋ねたら、荷物が減る分、荷馬車も速く走れるから問題ないと言われた。
 二日後の朝に店に来てくれと言われて、依頼内容を承諾すると、許可したことを護衛の依頼書に書いてもらい、ギルドへ戻った。

「カズさん、どうでしたか?」

「俺一人で、大丈夫だそうです」

「それは良かったですね。では、護衛の依頼書を確認します。大丈夫ですね。では、両方の依頼書をお渡しします」

「それでクリスパさん、ちょっとお話があるんですけど、時間ありますか?」

「ええ、構いませんよ。ではギルド裏の訓練場に行きましょうか。今なら、誰も使ってないですから」

 初めて魔法を習った、ギルド裏の狭い訓練場に行く。

「それで、話とはなんでしょうか?」

「単刀直入に言います。街を出ようと思いまして」

「え、街を出る? まだ、Eランクになったばかりなのに、せめてDランクになってからの方が、良いと思うけど」

「当初だとDランクになってから、ギルマスに俺の経緯を話すことになってましたが、既にギルマスと面識がある状態になってますし」

「それは、カズさんのやり過ぎが原因でしょ」

「否定はしません」

「でも、なんで急にそう思ったんですか?」

「一言で言うなら、居心地が良いからです」

「居心地が良いから? 居心地が良いなら、なんで今なんですか?」

「このままここに居ると、目的を忘れてしまいそうで」

「元の世界へ帰る方法を、探すことですか?」

「はい」

「そんなに急がなくても、もう少しここで依頼をこなして、ランクを上げてからでも遅くはないでしょう」

「先程も言いましたが、ここは居心地が良いんです。まだ多くの人と、知り合っている訳ではないんですが」

「だったら……」

 手を前に出し、クリスパの言葉を遮った。

「キッシュも女将さんも、ギルマスのブレンデッドさん、木材屋のリンドウさん、もちろんクリスパさんも、皆さん優しいので、甘えてしまってる自分が分かるんです」

「どうしてもっと早く、言ってくれなかったの!」

「昨日の夜クリスパさんとキッシュに、昇格のお祝をしてくれたときに決意したんです。そうしたら今日、大都市へと行く依頼があったので、これを受けれたら報告しようと。先に依頼を受けたのは、止められるかと思ってのことで」

「ズルいわね。一人で勝手に決めちゃって」

「ごめんなさい。朝ブレンデッドさんに会った時に、それとなく言ったら、自分決めたことならと」

「それじゃあ、キッシュにも言ってないんでしょ」

「はい。依頼は二日後の朝なので、前日の夕食後にでも言おうかと」

「そうね。黙って行ったら、キッシュも悲しむだろうし、早く言っても……か」

「良いわ。カズさんなら大丈夫でしょう。ただ力の使い方には気を付けるのよ。アヴァランチェは大都市だから、種族も多いし、国の兵も居るから、揉め事を起こさないように」

「できるだけ気を付けます」

「そこは心配なのよね。カズさん、世間知らずだし、だから人の多い所で生活した方が良いこともあるけど」

「考え過ぎても何も変わらないので、気楽に行きますよ」

「くれぐれも、ステータスがバレないように! あと何をするにしても、常に加減しなさいよ!」

「分かってます」

「心配だわ。私も行こうかしら」

「ちょっとクリスパさん、それじゃ意味がないでしょ」

「心配で心配で、おっきい子供をもった気分だわ」

「子供を産んだことあるんですか?」

「失礼ねないわよ!」

「話はそれだけです。時間もらってすいません。この後俺は、ブレンデッドさんに報告に行きます」

「師匠に? 今なら、二階のギルマスの部屋に居るわ。階段を上がって、一番奥がそうだから」

「ありがとうございます」

 俺は言われた階段を上がり、一番奥にある部屋へ向かった。
 部屋の扉には、とくに名札などもなく、ノックをしたら返事があったので入る。

「失礼します」

「おぉカズ君、良く来たな」

「お仕事中すいません」

「な~に、簡単な書類の確認だから、気にするな。少々数が多いがな」

 ブレンデッドの前にある机には、二つの山となった書類がある。

「少々? だいぶありますが、またにしますか?」

「構わんよ。君が来たってことは、さっきの話だろ。クリスパは理解してくれたのか?」

「渋々ですがなんとか。クリスパさんのことを、裏切ってしまったんですかね」

「そんなことはいだろ。カズ君に期待をしてたから、こんなに早く自分の手を離れるとは、思わなかったんだろ」

「そうだと良いんですか」

「ステータスが高いとはいえ、新人冒険者と言うよりも、この世界で初心者であるカズ君を、クリスパは心配してるんだ」

「クリスパさんにも、心配だと言われました」

「クリスパは、意外と面倒見が良いからな。キツいけど」

「キツいですね。本人には言えませんが」

 二人とも苦笑いをする。

「報告に来てくれと言ったのは、クリスパさんの対応を聞きたかったからですか?」

「それもあるが、カズ君が街を出る前に、一度手合わをと思ってな」

「手合わせですか! 俺一度も対人戦したことないんですけど」

「だからだ。少しでも慣れておかないとな!」

「わざわざ、ありがとうございます」

「今日はご覧の通りだから、明日の昼過ぎで良いかな?」

「はい。大丈夫です」

「では、先日の訓練場でやるから、明日の昼過ぎにあの建物に来てくれ」

「分かりました。お願いします」

 ブレンデッドと約束を交わし、ギルマスの部屋を出て一階に行き、この後できる依頼を探すことにした。

「カズさん、師匠と話は終わりましたか?」

「ええ。明日手合わせする約束をしました」

「いつもは、ギルドの仕事を溜め込む駄目なギルマスですけど、戦闘に関しては、良い経験になるでしょう。伊達にAランクの元冒険者じゃないですからね」

「初の対人戦が、Aランクのギルマスですか。明日無事にいられるかな」

「何を言ってるんですか、それは、師匠の台詞だと思いますよ。それでカズさんは、この後どうするんですか?」

「まだ日も高いですし、今からできる依頼でも探そうかと」

「それでしたら、木材屋さんに行ってください。街中での配達依頼がありますし、挨拶もできるでしょう」

「そうですね。木材屋さんにも、色々と仕事をさせてもらいましたし」

「相変わらず、変わってますね。自分で仕事を選ぶことの出来る冒険者が、させてもらってお礼を言うなんて」

「変わってますか。やっぱり冒険者は、もっと威張っていた方が良いんですかね」

「カズさんには、そのままで良いと思いますよ。威張ってるのなんて、似合わないです」

「俺もこの方が楽なのでそうします。じゃあ行ってきます」

 俺はギルドを出で、木材屋のリンドウさんを尋ね、幾つかの配達を終わらした。
 そのあと暫く街を離れることを伝えてた。
 夕方になり、今日はそのままココット亭に帰ることにした。
 いつもと変わらず『お帰りなさい』とキッシュの挨拶に女将さんの夕食、変わらない宿の部屋、ここで休むのもあと一晩だけかと思い就寝する。
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